水酸化カルシウム、MTA長期使用で歯根破折のリスクは高まる?
MTAは?
前回と前々回のブログで根未完成歯に水酸化カルシウムを長期調薬した場合に歯頸部破折のリスクが上がるかどうかに関する文献を2本読みました。この2本は全く違う結論となっており、興味深い所です。
気になる所と言えば、アルカリ性である水酸化カルシウムが象牙質を脆弱化するリスクがあるというなら同じくアルカリ性のMTAはどうなのか、という所です。
それに関して検討した論文を検索してみたら引っかかったのですが、イラン国内のEndoのジャーナルでして、どこまで信用できるかわからない所です。そこら辺を踏まえて読んでいきたいと思います。
一応20ほど引用されています。
The Long-Term Effect of Calcium Hydroxide, Calcium-Enriched Mixture Cement and Mineral Trioxide Aggregate on Dentin Strength
Iran Endod J. Summer 2014;9(3):185-9. Epub 2014 Jul 5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25031591/
PMID: 25031591
Abstract
Introduction: Many of highly-alkaline dental materials have some adverse effects on physical properties of dentin. As basic substances, mineral trioxide aggregate (MTA), calcium hydroxide (CH) and the new endodontic material, calcium-enriched mixture (CEM) cement, may adversely affect dentin. The purpose of this in vitro study was to evaluate the effect of long-term application of CEM cement, MTA and CH on flexural strength of bovine dentin.
Materials and Methods: Three hundred and twenty bovine dentin samples were divided into 4 groups, which were either exposed to CEM cement, CH, MTA or normal saline (control group). Samples of each group were divided into 4 subgroups which were tested by means of Instron Universal Testing Machine for periods of 7, 30, 180 and 365 days after exposure to the test materials. The required force for sample breakage was recorded. The data were analyzed by the two-way ANOVA and Tukey tests.
Results: The mean value of forces to break the samples in CEM cement and CH groups was significantly lower than the control group after 1 month (P<0.05). After 180 days, the samples of CEM cement group retrieved their strength but in MTA and CH groups the time interval weakened the samples. After one year of exposure to CH and MTA, flexural strength of the dentin reduced to 72% and 38.7%, respectively (P<0.05). Yet the flexural strength of samples in CEM cement group did not change significantly compared to control group.
Conclusion: Following 365 days of application of experimental materials to bovine dentin, the CEM cement showed an interesting result and the samples in this group reached their initial strength during the first week of the study but the other materials caused a reduction in dentin strength at the end of the study.
緒言:高アルカリ性の歯科材料は象牙質の物性にマイナスの影響があります。MTAや水酸化カルシウム、そして新しいエンド材料であるCEMセメントも象牙質にマイナスの影響があるかもしれません。本研究の目的はウシの象牙質の破折強度に各材料の長期使用が与える影響を検討する事です。
実験方法:320のウシの象牙質試料をCEMセメント、水酸化カルシウム、MTA群とコントロールとして生理食塩水群の4つのグループに分けました。材料に暴露させた後7、30、180、365日後にインストロンにて破折強度を測定しました。統計処理は2元配置分散分析とTukeyの方法を用いて行わいました。
結果:30日後の結果においてCEM群と水酸化カルシウム群はコントロール群と比較して有意に破折強度が低い結果となりました。180日後では、水酸化カルシウム群とMTA群では破折強度が低下しましたが、CEM群は強度が上昇しています。1年後では水酸化カルシウム群では72%、MTA群では38.7%破折強度が低下しました。しかしCEM群はコントロー群と比較して有意差を認めませんでした。
結論:1年間の実験結果からCEMセメントは興味深い結果を示しました。CEMセメントの破折強度は1年後も1週間後とほぼ同等レベルでしたが、水酸化カルシウム、MTA群は経時的に低下しました。
ここからはいつものように適当に抽出して要約しますので、気になった方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。
緒言
水酸化カルシウムはpHが12台で歯質を脆弱するという報告が複数あります。MTAはpHが最初は10.2でその後3時間のうちに12.5まで上昇します。MTAもそのアルカリ性により象牙質の蛋白構造を破壊する可能性が示唆されています。
新しい根管治療用のセメント、calcium-enriched mixture (CEM) cementは内因性、外因性のイオンからハイドロキシアパタイト結晶を産生する可能性があります。MTAと同等の生体親和性を有し、操作のしやすさ、硬化時間の短さ、着色がない事などの特徴があります。CEMセメントはMTAと比較して許容できる被膜厚さ、流れ、封鎖性を有しています。そして細胞毒性も低いという報告があります。CEMセメントは根管充填材、または直接覆髄剤として好ましい結果を示しています。また根未完成永久歯の断髄などにも使用できる可能性があります。
実験方法
象牙質試料の作り方はHaapasaloらの方法に準じています。ウシの切歯を使用しています。根尖5mmと歯冠2/3をダイヤモンドバーで除去後に常温重合レジンにて包埋されます。根管を歯根長径に合わせて3.5mm径のドリルで拡大し、外径が6mm~、内径が3.5mm~の対照的なシリンダー形状で長さが15mm~になるように調整しています。その後ダイヤモンドディスクで縦に4つの対照的なパーツになるように切断しています。さらに10mm長になるように横にも切断しています。
320個のサンプルをランダムに20個ずつ16に分割し、象牙質面に各薬剤が接触するように調整しています。
1 2mm厚の精製水で練和した水酸化カルシウム
2 2mm厚のCEMセメント(BioniqueDent)
3 2mm厚のMTA(アンジェラス)
4 生理食塩水
これらは適宜交換され、37度、100%湿度下で保管されます。
それぞれ20個ずつを処理後7、30、180,365日後に破折強度を測定しています。
ぞのように3点曲げ試験を行ったかは図がないので明確ではないですが、おそらく歯の長軸に対して垂直に押したのでないかと思いますが、歯の1/4周なんで部位によって当たり方が違う気がします。
結果
1週間後はどの材料においても有意差はありませんでした。
30日後にはCEMと水酸化カルシウム群はコントロール群と比較して有意に破折強度の低下を認めました。
180日後では、水酸化カルシウム群とMTA群の破折強度には有意差を認めました。CEM群は30日後と比較すると破折強度がわずかに上昇しました。
365日後では、水酸化カルシウム群とMTA群の破折強度は有意に低下しましたが、CEM群ではコントロール群との有意差は認めませんでした。CEM群とMTA群の比較においても有意差が認められました。
まとめ
とりあえず、アルカリ性の薬剤を使う以上歯質の脆弱化は避けることはできないということはこの実験からもわかります。
ただし、これが実際の歯根破折の主原因になりうるか?というのはまた別問題ではないかと考えます。永久歯の歯根破折は縦破折が多いと思いますが、それは今回の実験での3点曲げの試験のシチュエーションと一致していないのでは?と考えられます。
あくまでこれはin vitroの実験ですから、この結果=即臨床に繋がるわけではありません。無髄歯の破折に最も関与するのは残存歯質の厚みや咬合力の方が要素としては大きいのではないかと私は考えていますが、真実はどうでしょうか。
しかし、長期間水酸化カルシウム貼薬を放置してしまうと多少の象牙質の脆弱化は避けられないというのは確かでしょう。根治途中の中断はこういった面からも避けるべきです。
また前回の研究では歯質の厚みという指摘がありました。そういう意味でも過度な根管の拡大はさけるべきでしょう。
水酸化カルシウムを根充剤として半永久に放置する事は根完成歯ではあまりないと思いますが、MTAは根充する可能性があるわけで、そこら辺はどうなんでしょうか?MTA根充による歯根破折の報告があるかないか調べてみる必要性を感じました。
CEMセメントですが、BioniqueDentで検索すると画像は見ることができましたが、字が読めません。CEMと書いてある以上おそらく工業用セメントの流用と考えられます。
ポルトランドセメントを含むセメントは全てCEM分類されているので、これがどれに当たる物なのかは別の文献を見てみないとわからないですね。
昔エンドの専門家の先生が新しい材料輸入して使ってると言ってましたが、コレ系だったかなあ・・・?記憶が曖昧です。