NCCLと知覚過敏、歯肉退縮の関連性
ちょっと視点を変えてみる
ずっとNCCLと咬合は相関するかについて読んできましたが、まあ飽きてきたので別の論文を読んでみたいと思います。NCCLのリスクファクターとして他に何が考えられるのかについて
Daniela Navarro Ribeiro Teixeira et al. Relationship between noncarious cervical lesions, cervical dentin hypersensitivity, gingival recession, and associated risk factors: A cross-sectional study. J Dent. 2018 Sep;76:93-97. doi:10.1016/j.jdent.2018.06.017. Epub 2018 Jun 22.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29940290/
Abstract
Objectives: The aim of this study was to evaluate the risk factors associated with noncarious cervical lesions (NCCLs), cervical dentin hypersensitivity (CDH), and gingival recession (GR), besides the relationship among these conditions in a specific Brazilian sample population.
Methods: 185 patients who attended the “Ambulatory Program for Rehabilitation of Patients with Noncarious Cervical Lesions and Cervical Dentin Hypersensitivity” were evaluated, and 5180 teeth were analyzed. The subjects filled out a form and a calibrated examiner performed the clinical exams to determine the presence of NCCLs, CDH, and GR. NCCLs were classified according to their morphology and depth, CDH levels were evaluated according to air stimuli response, and GRs were categorized according to Miller’s classification. The association of the risk factors with NCCLs, CDH, and GR was determined with the Mann-Whitney U test and multiple linear regression. For the correlations, the Spearman test was used with a 95%-confidence level.
Results: The NCCLs, CDH, and GR distributions within the study were 88.1%, 89.1%, and 59.4%, respectively. Maxillary premolars were the most affected by all three conditions. A positive correlation was found between age, NCCLs, and GR; between NCCLs and CDH; CDH and GR; GR and NCCLs. Age, gender, oral hygiene, gastroesophageal diseases, and occlusal trauma were significantly associated with the presence of all three conditions.
Conclusions: The NCCLs and GR distributions increased with age; NCCLs, CDH, and GR had positive correlation; the lesions’ depth and morphology contributed to high levels of sensitivity and severity of recessions; age, gender, gastric disease, and occlusal trauma were relevant factors for the occurrence of NCCLs, CDH, and GR.
Clinical significance: The increasing distribution of NCCLs, CDH, and GR is closely associated with people’s lifestyles. Thus, it is important for the clinicians to recognize the etiological factors and their most relevant associations to prevent and control such alterations, in order to improve the population’s quality of life.
目的:NCCL、知覚過敏(CDH)、歯肉退縮(GR)のリスクファクターに関して評価し、ブラジル人の被験者におけるこの3つの関係性について明らかにすることです。
方法:NCCLと知覚過敏に関する特別なプログラムに参加した185名の患者が対象で5180本の歯が分析されました。被験者は質問表に回答し、訓練された評価者によってNCCL、CDH、GRの存在に関して口腔内を診査されました。NCCLに関しては形態と深さについて、CDHについては痛みのレベル、GRにおいてはMillerの分類による評価を行いました。各項目とリスクファクターの関連についてはMann-Whitney U検定と重回帰分析を用いました。相関に関してはSpearmanの順位相関係数を用い95%信頼区間として統計解析しました。
結果:NCCL、CDH、GRの所有率はそれぞれ88.1%、89.1%、59.4%でした。上顎小臼歯において最も認められました。年齢とNCCL、GR間、NCCLとCDH、CDHとGR、GRとNCCL間に正の相関が認められました。年齢、性別、口腔衛生、胃食道逆流、咬合性外傷がこの3つのコンディション全ての存在と有意に関連していました。
結論:NCCLとGRは年齢により増加しました。NCCL、CDH、GRは正の相関関係があります。NCCLの深さと形態は知覚過敏とGRの重症度と関連しています。年齢、性別、胃食道逆流、咬合性外傷はNCCL、CDH、GRの発生のリスクファクターでした。
臨床的重要性:NCCL、CDH、GRの増加は人のライフスタイルに密接に関連しています。そのため、QOLの改善のために、臨床家は病因、予防と状態のコントロールに関連する因子を認識することは非常に重要です。
ここからは適当に抽出して要約しますので、気になった方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。
緒言
NCCLの所有率は5~85%と報告によって様々です。NCCLの発生や発達は現在では酸蝕、咬耗、摩耗、他に咬合要因などが関連する多因子性と考えられています。しかし楔状または凹面状のようなNCCL形態の違いは主な原因の違いに関連しています。
加齢に伴いNCCLは増加しますが、それは多分NCCLは時間依存性の疾患である事を意味しています。全ての発生要因の与える効果を考えると、NCCLの存在は象牙質の露出とバイオフィルムの集積によるのかもしれません。NCCLは他の要因である知覚過敏、歯肉退縮などとも相関しています。
NCCL、知覚過敏、歯肉退縮などの関連についての疫学研究は一般的ではなく、異なった人種間で比較することは困難です。そこで今回はブラジル人に関して検討することにしました。
実験方法
被験者
被験者は2013~2016にAmbulatory programに参加した患者です。全員18歳以上で最低でもNCCL、知覚過敏、歯肉退縮のうち1つを有するものです。第3大臼歯以外で歯の欠損がある、鎮痛薬を読んでいる、知覚過敏をマスクするような何かがある者は除外されています。またエンド中、矯正中、診査を邪魔する歯頸部への修復あり、破折、虫歯がある、といった者も除外されています。
アセスメント
名前、出生地、既往歴、衛生状態、歯磨きのタイプなどを記入する質問用紙がデザインされました。また1週間の食生活について記載され、週に2回以上酸性食品や飲料を摂取する週間がある場合には酸性傾向があると判断しました。さらに習癖や胃食道逆流の有無について聴取しました。胃食道逆流についてコントロール下にあるか、専門家によって胃食道逆流ではないと除外された患者のみを採用しました。
咬合性外傷の有無を判断するために咬合紙を用いた臨床的な診査を行いました。中心位と偏心位において早期接触の有無を判定しました。
NCCLについては形態的に凹面形態と楔状形態の2つに分類を行いました。またNCCLの深さについて歯列の印象を計測し、浅い(0.9mm以内)、中間(1~1.9mm)、深い(2mm以上)の3段階に分類しました。
知覚過敏を報告した患者については知覚過敏についての診査を行いました。エアーブローによる知覚過敏の程度をVASに記載させ、痛み無し、マイルド、中間、深刻な痛みの4段階に分類しました。
歯肉退縮についてはMillerの分類を用いてI~IV級に分類しています。
結果
年齢
185人(平均年齢41.9歳)が今回の研究に参加しました。そのうち163人がNCCLを有していました。また165人が知覚過敏を、110人が歯肉退縮を有していました。NCCLを有する163人中、161名が知覚過敏であり、106人は知覚過敏も歯肉退縮も有していました。トータルで5180本の歯を診査しましたが1308本にNCCLを、1613本に知覚過敏を、1334本に歯肉退縮を認めました。NCCLがある歯のうち、61.9%にあたる810本に知覚過敏を、36.6%にあたる479本に歯肉退縮と知覚過敏両方を認めました。
年齢分布による保有率の変化は以下の通りです。
全ての項目において50代以上が最も保有率が高く、一方で19~30歳群では保有率は最も低く結果となりました。またNCCLの保有率は他の2つと比較して年齢の上昇に伴い増加スピードが速い結果となりました。
19~30歳群では、知覚過敏と歯肉退縮の組み合わせが最も多かったのに対して31~40歳ではNCCLと知覚過敏がトップになりました。50歳以上では知覚過敏が減少し、NCCLと歯肉退縮の組み合わせが最も多くなりました。
歯種
上顎の歯の方が下顎よりも多く認められました。最も多く認められたのは小臼歯部で次いで第1大臼歯と犬歯でした。第2大臼歯は最も罹患率が低い結果となりました。
相関
弱い、または中間程度の相関がNCCLと知覚過敏、NCCLと歯肉退縮、知覚過敏と歯肉退職に認められました。それぞれ相関係数は0.19、0.49、0.26でした。
NCCLの深さと知覚過敏のレベルは正の相関を示し相関係数は0.47でした。楔状形態と知覚過敏のレベルも相関を認めましたがかなり弱い結果でした。同様に知覚過敏のレベルと歯肉退縮に関しても相関係数0.47とある程度の相関が認められました。歯肉退縮とNCCLの深さに関してもある程度の相関が認められました。
リスクファクター
Mann-Whitney U検定による結果が表1になりますが、NCCLに関しては性別、口腔衛生状態、早期接触、CDHに関しては性別と胃食道逆流、GRに関しては口腔衛生状態と早期接触が有意に関連性を認めました。
重回帰分析の結果NCCLのリスクファクターとして年齢、性別、咬合性外傷、知覚過敏のリスクファクターとして性別と胃食道逆流、歯肉退縮のリスクファクターとして年齢と咬合性外傷が有意差を認めました。口腔衛生状態や酸性食品の摂取は今回有意差を認めませんでした。
考察
今回、NCCL、知覚過敏、歯肉退縮の保有率は以前の報告よりも高くなっていますが、それは今回の被験者がこれらを治療するプログラムに参加している患者だからと考えられます。
以前の研究と共通する所はNCCLと歯肉退縮は年齢によって増加するということです、これは年齢が高い方が発症要因に長期間暴露しているからと考えられます。知覚過敏は高齢者になると減少しますが、象牙質の添加と歯髄の退縮によると考えられます。
NCCLと知覚過敏が最も発生したのは上顎小臼歯でした。歯冠が小さく、頬側骨が薄く側方滑走時に大きな力を受けるためと考えられます。過去の研究でも不意の咬合接触の存在とNCCLの保有率は相関すると報告されています。しかし、このデータは不十分でありしっかりしたエビデンスがあるとは言えません。対照的に咬合とNCCLの関係を検討した多くの論文で咬合面のファセットの存在を使用しています。これらは1人でブラインドされていない状況で行われており、これに関してもしっかりしたエビデンスがあるとはいえない状況です。
中国の報告では、NCCLの存在と知覚過敏は強く相関していました。にもかかわらず、NCCLの深さと知覚過敏のレベルに関しては文献的に乏しい状況でした。今回の研究では楔状形態と知覚過敏のレベルにおいて正の相関が認められました。NCCLの底の部分が歯髄に近接し、象牙細管が露出していることから痛みが強くなると考えられました。
バイオフィルムの酸性度がリスクファクターになるという報告がありますが、今回の実験ではバイオフィルムとNCCLにおいて相関が認められませんでした。
摩耗を引き起こすと考えられる歯磨きはNCCLに関与すると考えられます。適切な歯磨きであれば大きな影響はないという報告もあれば、頬側のNCCL形成に深く関与するという論文もあります。歯磨きの強さが主にNCCLの余地因子であるという報告もあります。一方で最近のシステマティックレビューはNCCL、GRと歯磨きの相関性を支持するデータはまだ不足していると指摘しています。歯磨きをしない人でNCCLを有するという報告もあり(文献39,40)、歯磨きがNCCLのトリガーではなく、むしろ増強加速因子ではないかと示唆されています。しかし標準化された評価をしておらず、これらの研究には限界があります。
酸性食品の摂取がNCCLと関連するという報告がありますが、今回の研究では有意差は認められませんでした。しかし、著者はNCCLとCDHと酸性食品摂取の関連性はあると考えています。
まとめ
アブフラクションという咬合主体のNCCL発生理論はすでに終わったと思いますが、では咬合は関与しないのか?と言われると複数の論文で咬合の関連性は示唆されており、早期接触などによる応力の集中が数多くある因子の1つであると言うことは言えると思います。ただし、画一化された実験系ではないためオッズ比がどれぐらいなのか、などということは今の段階で明確にはわからないです。
「歯磨きをしない人でNCCLを有するという報告もあり(文献39,40)、歯磨きがNCCLのトリガーではなく、むしろ増強加速因子ではないかと示唆されています。」という新しい知見が出てきました。これはチェックしないといけないのかなという所です。よく見てみると同一グループによるもので、1つはクイントなので実際の論文は1つだけといってよいでしょう。文献40、結構マイナーな雑誌ですが、入手できるかな???
文献39 B. Faye, A.W. Kane, M. Sarr, C. Lo, A.V. Ritter, J.O. Grippo, Noncarious cervical lesions among a non-toothbrushing population with hansen’s disease (leprosy):initial findings, Quintessence Int. 37 (8) (2006) 613–619.
文献40 A.V. Ritter, J.O. Grippo, T.A. Coleman, M.E. Morgan, Prevalence of carious and non-carious cervical lesions in archaeological populations from North America and Europe, J. Esthet Restor. Dent. 21 (5) (2009) 324–334.
楔状の深いNCCLは知覚過敏を起こしやすい、というのは臨床的な感覚と一致します。また、歯肉退縮すれば弱い象牙質が露出するのでNCCLが多くなる、高齢のNCCLは知覚過敏が少ない、というのも一致する結果です。
NCCLはあまりCRとかしたくはないのですが、知覚過敏がかなり強い場合はやむを得ずしてしまいます。NCCLの治療に関してどのようにアプローチすれば良いかと言うことをしっかり調べる必要がありそうです。