NCCLは食事の影響が大きいかも?
歯ブラシがなくてもNCCLはできる
前回読んだ文献の考察に歯ブラシがなかったであろう時代の人にもNCCLがあるから、歯ブラシがNCCL発生の主要因ではないのでは?という下りがあり、その引用文献を読まざるを得ない状況になりました。なんとか入手できましたので読む事にします。
A.V. Ritter, J.O. Grippo, T.A. Coleman, M.E. Morgan, Prevalence of carious and non-carious cervical lesions in archaeological populations from North America and Europe, J. Esthet Restor. Dent. 21 (5) (2009) 324–334.
Abstract
Purpose: The purpose of this study was to report the prevalence of carious and non-carious cervical lesions in the teeth of five archaeological populations. A secondary purpose was to report the association between age, gender, diet, tooth wear, carious cervical lesions, and non-carious cervical lesions.
Materials and Methods: One hundred and four archaeological specimens from subjects originating from five distinct geographical areas were examined to detect the presence of carious cervical lesions, non-carious cervical lesions, and tooth wear. Data were tabulated and statistics used to describe prevalence and non-causal associations.
Results: Carious cervical lesions were prevalent in all populations except among Labradoreans, while non-carious cervical lesions were found predominantly in Mexicans. The authors found no association between non-carious cervical lesions and age, gender, and diet in any of the populations. Tooth wear was noted in all populations, but the highest rates of severe wear were noted among the Labradoreans and New Mexicans. Age was associated with tooth wear in all populations except Ohioans. There was no association between tooth wear and non-carious cervical lesions.
Conclusions: The prevalence of carious cervical lesions among the five archaeological populations studied ranged from 0 to 65%. Non-carious cervical lesions were not prevalent among these populations, being found predominantly in Mexicans (26%).
CLINICAL SIGNIFICANCE
Historically, carious and non-carious cervical lesions can be found in individuals with no access to modern oral hygiene tools. The findings of this study are not conclusive, however, as the associations described are not causal.
目的:主たる目的は5つの考古学的な民族の歯における歯頸部う蝕、NCCLの有病率を報告する事です。2番目の目的は年齢、性別、食事、tooth wear、歯頸部う蝕、NCCLとの関連性について検討する事です。
実験方法:5つの異なった地域における104体の考古学的な標本について歯頸部う蝕、NCCL、tooth wearについて調査を行い解析しました。
結果:歯頸部う蝕はラブラドリアン(カナダ北東部)以外の全ての民族に認められましたが、NCCLはメキシカンのみに認められました。著者はNCCLと年齢、性別、食事とNCCLは関連しない事を発見しました。Tooth wearは全ての民族で認められましたが、特に顕著だったのはラブラドリアンとニューメキシカンでした。Tooth wearと年齢はオハイアン以外では関連が認められました。
結論:5つの民族における歯頸部う蝕の有病率は0~65%でした。NCCLはメキシカンのみに認められ有病率は26%でした。
臨床的重要性:歴史的に歯頸部う蝕もNCCLも口腔清掃器具を有しない人にも認められます。ただしこの発見は結論的なものではなく、口腔清掃との関連性は一般的とはいえない、というものです。
ここからは適当に抽出して要約しますので、気になった方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。
緒言
古代人の調査において歯頸部う蝕とNCCLに関して有病率を報告した論文は殆どありません。歯頸部う蝕に関しての発生要因は多因子性であると確立されていますが、NCCLに関しては議論の対象です。多因子性であるという報告が多いですが、多くの臨床家は歯ブラシと歯磨剤による摩耗単独により起こると信じています。他には酸蝕による影響が含まれます。
現在、咬合接触によりNCCLが発生するというアブフラクションが信じられています。歯磨剤や歯ブラシ、酸蝕によりNCCLが発達ていくという報告があります。
今回の研究の目的は、AD650から19世紀後半までの人種の歯において歯頸部う蝕とNCCLの有病率を報告する事です。また年齢、性別、食事、tooth wear、歯頸部う蝕、NCCLの関連性について報告する事です。
実験方法
被験者
104組の頭蓋骨と下顎骨
カナダのラブラドール 23
メキシコのメリダ 23
ニューメキシコのミンブリス 13
オハイオのマジソンビル 23
モンテネグロのミスティハルジ 22
年齢判定
年齢については骨の成長、頭蓋骨の閉鎖、歯の萌出、咬合面のwearなどから総合的に判定され、(1)20歳未満、(2)20~35歳、(3)35歳より上という3つの階層に分類しています。
時代判定
生きていた時代の解析ですが、遺体があった地層などから判断しています。
ラブラドール ネイディブアメリカン 500年以上前
メキシカン 19世紀後半
ニューメキシカン ネイティブアメリカン AD650~950
オハイオ ネイティブアメリカン AD 1275-1640
ミスティハルジ ヨーロピアン 15世紀または16世紀
食事判定
食事については文献を徹底的に収集して、(1)狩猟民族、(2)農耕民族、(3)家畜消費民族の3つに分類しています。
コーン:メキシコ、ニューメキシコ、オハイオ
冷凍肉:ラブラドール
コーンをすりつぶす:メキシコ、ニューメキシコ(石が混じりやすく摩耗が起こりやすい)
Tooth wear
Brocaの分類に基づき、(1)早期、(2)マイルド、(3)進行、(4)深刻の4段階にプラスして(5)所見なしの5段階に分類しています。
根面う蝕、NCCLの分類
省略します
統計手法に関しては各因子の相関についてχ2検定とフィッシャーの正確確率検定を用いて解析しています。
結果
民族間で年齢に有意差は認められませんでした。最も多かったのは20~35歳でした。
歯頸部う蝕の有病率はメキシコ、ニューメキシコ、オハイオあたりは有病率が高く52~65%でした。ミスティハルジ(モンテネグロ)で18%でラブラドールは0でした。メキシコ、ニューメキシコ、オハイオの高有病率群とラブラドール、ミスティハルジの低有病率群では有意差が認められました。
結果として、根面う蝕はラブラドールを除く民族において多数認められたものの、NCCLに関してはメキシコ6例、ニューメキシコ1例に認められ、他の民族においては認められませんでした。
歯頸部う蝕と年齢、性別間で全ての民族において関連性は認められませんでした。また、NCCLと年齢または性別間にも同様に関連性は認められませんでした。
tooth wearと性別に関しては全ての民族で有意差を認めませんでしたが、年齢はオハイオを除く全ての種族で有意差を認めました。
NCCLとtooth wearに関してNCCLが認められたメキシコ、ニューメキシコ両群ともに相関が認められませんでした。
NCCLがあった古代人
AD650~950のニューメキシカンにおいてNCCLが認められます。
また、19世紀後半のメキシカンにおいてもNCCLが認められました。
考察
5つの民族のうち2つの民族のみにNCCLが少数のみ認められたということで、これは決定的なものとは言えません。
最も古代のニューメキシカンでTooth wearの進行例が92%にも達し、最も近代的なメキシカンで43%だったのは食事の作り方の進歩によると考えられます。石などの混入がなくなり摩耗要素が減少したことが影響しています。
歯ブラシや歯磨剤がなかった頃にNCCLが認められたということは他には咬合や食事などが考えられます。メキシカンとニューメキシカンと類似性が認められる食事と食事の用意の仕方が重要であると考えられます。
メキシカンはかんきつ類や発酵穀物などを摂取していたことからNCCLが他の群よりもはるかに認められたという可能性があります。
他の群で歯頚部う蝕の発生が高くNCCLはあまり多くなかったのは酸性食品の摂取が欠如していたためかもしれません。
まとめ
19世紀後半のメキシカンにはNCCLが26%認められましたが、それ以外の民族ではニューメキシカンの1例を除いてNCCLは0でした。それからするとNCCLの発生は酸性食品摂取+他の因子(この場合咬合?)がメインで歯ブラシや歯磨剤などの摩耗要素はNCCLの増悪因子であると考えた方がスムーズなのかもしれません。
19世紀後半の人はこの中ではかなり近代的な部類でしょうから、こっち側ではないかと思います。食生活の変化によりNCCLが増加したというならNCCLの発生要因としてやはり酸蝕の要因は無視できない、と考えた方がよいのかなと思った次第です。
NCCLが多い人に最近酸性食品の摂取の有無を問診するのですが、お酢健康法やってるとか答える事も多いので、1度食生活聞いてみると良いですよ。