機能歯数は超高齢者の死亡率に関与する
宮古島での15年間の縦断研究
今回は機能歯(上下で咬み合う所がある歯の数)の本数と死亡率に関する研究です。宮古島で15年にわたり行われたものです。
なぜかpubmedを検索してもうまくひっかかりません。
Functional tooth number and 15‐year mortality in a cohort of community‐residing older people
Kakuhiro Fukai, Toru Takiguchi, Yuichi Ando, Hitoshi Aoyama,
Youko Miyakawa, Gakuji Ito, Masakazu Inoue and Hidetada Sasaki
Geriatr Gerontol Int 2007; 7: 341–347
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1447-0594.2007.00422.x
Abstract
Background: To study how dental status can become a predictor of overall mortality risk.
Methods: Community residents (n = 5730) over 40 years old in the Miyako Islands, Okinawa Prefecture, Japan were followed up for 15 years, 1987–2002. Functional tooth numbers were examined by dentists and overall mortalities of subjects with functional tooth numbers of <10 and ≧10 were compared in the age groups 40–49, 50–59, 60–69, 70–79 and 80 years or more in both males and females.
Results: Groups of 80 years or more showed a significantly higher rate of overall mortality in subjects with functional tooth numbers of less than 10 than 10 or more, and there was no significant difference in the other age groups.
Conclusion: The present study suggests that systemic attention to dental status should be recommended in older males.
背景:歯の状態が死亡リスクの予知因子となり得るかどうかを検討する事です。
方法:沖縄県の宮古島で40歳以上の5730名を対象として1987年~2002年の15年間追跡調査しました。歯科医師によって機能歯数が調べられました。さらに40代、50代、60代、70代、80代以上の各年齢層における機能歯数が10本未満と10本以上の群の全死亡率を比較しました。
結果:80代以上の群では10本未満の群は10本以上の群よりも有意に死亡率が高い結果となりました。その他の年齢群では有意差を認めませんでした。
結論:本研究の結果から、高齢男性の歯の状態に体系的に注意するべきである事が示唆されました。
ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
口腔内の状態が死亡リスクの予知因子となるという報告は数多くありますが、殆どは西洋での報告であり、アジアとは死亡原因や死亡率が異なります。
Abnetらは中国人におけるコホート研究から、歯の喪失が全死亡リスク、また上部消化管がん、心疾患、脳卒中による死亡リスクの上昇と関連したと報告しています。中国の死亡率は先進国よりは高い状態です。
咀嚼機能不全が日本の高齢者の死亡の予知因子であるという報告があります。しかし、主観的な咀嚼機能に関する不満は口腔内の状態と相関していないかもしれません。施設の高齢者では歯列状態と全身状態の低下は相関するという報告があります(文献10)。認知機能低下、活動性低下の認められる施設高齢者では不適切な歯の状態は高い死亡リスクと相関するという報告もあります(文献11)。
本研究は日本の宮古島で40歳以上の住民5730名を対象として歯の喪失と死亡率とがどのように関連するかを15年間縦断研究を行いました。歯列の状態は1987年に歯科医師による調査がおこなれました。15年後の2002年に死亡に関しての調査が行われました。
実験方法
1987年に口腔内の調査を行っています。調査を行ったのは合計で5730名です。そこから全身的に急性疾患の既往や自己免疫疾患の既往がなく、半年間全身状態が安定しているものを選択しています。
機能的に適切に咀嚼している歯は機能歯と定義されました。天然歯のほかに充填されている歯、C2までであまり歯質が崩壊していない歯が含まれますが、C3、C4は除外されています。機能歯が10本以上か未満かで被験者を2群に分類しています。
40代、50代、60代、70代、80代以上にわけて15年後の死亡に関して調査しました。男女は分けていません。
死因と死亡年時をチェックしました。生存率に関してはKaplan-Meier法を用いて解析しました。Mantel–Haenztel法とフィッシャーの正確確率検定を用いて2群間の割合について検定しました。COX比例ハザード検定により多変量解析を行いました。目的変数は年数です。説明変数は4つで、3つが交絡因子、1つが歯の喪失です。交絡因子の3つは年代、基礎疾患、寝たきり状態です。
結果
5730名の被験者の内15年後に生存していたのは4710名で1020名はすでに死亡していました。死者のうち52名は不慮の事故または自殺で、研究結果から除外しました。そのため死亡者は968名を対象としています。
調査時の機能歯数は以下の通りです。同性代で比較すると男性の方が機能歯数が多いと感じます。
各世代別の機能歯数が10本未満群と10本以上群の平均値とSDは以下の通りですが、2群の差はかなりです。残っている人はとことん残っているが、喪失している人は全然残ってない、という感じに見えます。
生存率に関しては以下の図の通りです。80代以上については機能歯数10本以上と10本未満で有意差が認められました。男性では機能歯数10本以上の場合の生存率は54%だったのに対して機能歯数10本未満では25%でした。女性では機能歯数10本以上の場合は66%、10本未満で42%の生存率でした。男性の場合60代、70代においても少し差が認められましたが統計的有意差は認められませんでした。
調査時の基礎疾患は以下の通りで、機能歯数の2群間で有意差は認められませんでした。
死因については以下の通りで、機能歯数10本未満の方が全ての項目で多い傾向を示しましたが、特に男性の心疾患で有意差を認めました。
COX比例ハザードモデルによる結果では、男女共に年齢群は統計的に有意差が認められています。歳を取れば死にやすくなるのは明確ですから当たり前です。男性においては機能歯数10本未満であればハザード比1.33で死亡するリスク。女性は機能歯数での有意差はなく、むしろ全身疾患を有するかどうかでハザード比1.32で有意差があります。寝たきりは男女共に有意差がありハザード比も1.72~1.97とかなり高い死亡リスクと考えられます。
考察
今回の実験では各年齢層で男性の方が機能歯が多くなっています。機能歯が多さが生存を決定するというなら男性の方が長生きのはずですが、実際は男性77歳、女性84歳が日本の平均寿命です。男性は女性よりも死にやすく、女性はハンディキャップがある状態でも生きる事ができます。
歯の健康は栄養状態と密接に関係し、歯列の状態は栄養的なカウンセリングやアセスメントにおいても考慮されるべきと示唆されています。栄養状態が悪いとフレイルの高齢者は感染症に罹患しやすいと考えられます。機能歯10本以上は咀嚼能力を維持する最低限の閾値です(論文20)。機能歯10本未満の人達は栄養状態を保つのが難しくなります。
まとめ
今回の研究では機能歯の定義が問題となります。
All teeth with functionally adequate mastication were defined as functional teeth. These included natural sound teeth, filled teeth and teeth with early stage decay or enamel and dentin decay. Severe decay, pulpal decay and stump teeth are not useful for mastication and were therefore omitted from the definition of functional teeth.
80歳以上で20本ぐらい機能歯があるカウントになっているので、歯冠形態があればクラウンなども機能歯と判断しているのではないでしょうか?義歯やブリッジのポンティック部は除外されている?と考えればよいのでしょうか。この定義はかなり重要なのでもっと詳細に記載して貰いたかったです。
例えば栄養状態やフレイルの基準である握力や歩行速度なんかも充分関係しそうなので、それを取っていればさらに良かったなあと思いましたが、1987年に開始された研究ですから、フレイルという概念がまだなかったと考えられますので、難しい所です。
しかし調査時80歳以上で15年後も生存と考えると最低でも95歳以上です。そこまで高齢なレベルで初めて機能歯数が問題になり、それより下の年代ではあまり関係なかったというのは、70代までは歯が結構ボロボロでもそれは生存に影響しないという解釈も出来ます。
まあそこまでに実際の状態差というのはかなり差がひらいてはいて、それが80歳以上の生存の差に出てくると考えるべきなのかもしれません。その状態差というのが何のパラメーターで表現されるのか、というのが関心事です。
前回読んだ論文では義歯をいれる意味はあるという結果になっていました。今回はおそらく義歯が入っていても機能歯としてカウントされていません。治療する意味は今回の論文ではそこまで深く考えられていない、と思った方が良さそうです。
機能歯数、というのは80歳以上のかなり高齢になってから生存に影響する可能性がありますが男性は60代以降の少し若い世代から影響している可能性があります。