無歯顎の概形印象をうまくとるコツ?下顎編
上顎より下顎の方が難しい
下顎は一般的に上顎より難しいと言われています。上顎はなんとなく顎堤が全部入れば印象が取れちゃう感じですが、下顎はそうはいきません。
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下顎も必ず旧義歯をチェックする
何かトラブルがあって義歯を新製するわけですから、現在使用している義歯の診査は必ず必要です。
私の経験上、大体は義歯外形が小さすぎる場合が殆どですが、たまに大きすぎる場合があります。
小さすぎる下顎義歯
小さすぎる義歯の典型例は以下のような感じです。
流石にここまで小さいとおかしいなとわかりますよね。
今でもたまに見るんですが、どう作ったらこうなるのかが意味がわかりません。こう作る方が難しくないです?排列とかめっちゃ難しそうですよね。
大きすぎる下顎義歯
逆に凄くたまにですが、大きすぎる場合もあります。
大は小を兼ねると言いますが、口の中の容積には限界がありますし、義歯は所詮異物です。しっかり機能する形態でできるだけ小さいものがいいに決まっています。
正直これよく口の中に入れてたな、というレベルです。
頬側がかなり長く見えますが、舌側も長い割に舌下腺部は足りないみたいな。
アルジ一杯いれると際限なく舌側の後ろの方が伸びて印象が取れちゃう人はたまにいます。
適切な大きさを知ろう
義歯の適切な大きさは以下の様な形になります。
これが模型上でスラスラ書けるようになればOKです。
後縁から頬側
下顎でもまず基準にするのは後縁です。
つまりレトロモラーパッドとなります。
レトロモラーパッドの1/2~2/3を被覆するのが一般的です。
下顎後方の解剖学的ランドマークは以下のような感じになります。
直視してレトロモラーパッドがよくわからない場合、指で押してみて下さい。
レトロモラーパッドは柔らかくぷよぷよしている組織ですからすぐにわかります。
下顎の大きな義歯はレトロモラーパッドを被覆する必要があります。つまり概形印象で必ずレトロモラーパッドまで取れていないといけません。
外斜線も触ってみると下顎骨がやや外側に出っ張っている所なのでわかります。
外斜線を少し超えて概形印象がとれている必要があります。
頬棚は下顎義歯の数少ない咬合圧負担域ですので、ここは義歯に含まれる必要があります。外斜線を超えるかどうかは流派によっても違いますが、私は外斜線付近に床縁を設定します。
咬筋切痕部は人によって出る人と出ない人がいます。明確にでないなら出ないでいいですし、完成時に強く当たるようなら、あ?咬筋のせいかな?と思いながら削ればいいだけです。
下顎舌側後方
下顎舌側後方部に関しては顎舌骨筋線がポイントになります。これも骨の出っ張ったところですから触診すればわかります。
顎舌骨筋線を少し越える感じに床縁は設定されます。顎舌骨筋線直上に置くと当たって痛い可能性が高いです。で結局削るか盛るかの2択になりますが、削ると舌下腺部からの床縁移行がいびつになりますし、舌が常に床縁を触って逆に違和感を訴える可能性もありますので、下顎舌側後縁後方は顎舌骨筋線を越えて設定しておいた方がいいです。
前歯部
安静にした時の見える範囲で頬側は歯肉頬移行部、舌側は口腔底の深さまで取るイメージでいいと思います。
この安静にした、というのがポイントで、
頬側はあまり口唇を動かすとオトガイ筋により深さが浅くなります。
舌側も舌の動きで口腔底自体が変化します。
舌小帯部のサイドにある舌下腺部は下顎義歯の維持にかなり重要です。ここを上手く印象することができればある程度の確率で吸着します。
私はあまり吸着に固執しておりませんが、口腔乾燥が著しい場合、唾液の漿液性成分が少なく粘液質な場合、舌ジスキネジアなど自分としてあまり吸着しないだろうと思うような症例に吸着マニアの大先生達がどうアプローチしているかは興味がありますね。私は最初から白旗をあげて義歯安定剤の使用を考慮に入れますけど。
概形印象
1)トレーの選び方
上顎と同じくトレーは少し小さめを選択します。上顎と同じくユーティリティワックスで辺縁を作るためです。
トレーを曲げたり削ったりするのは正直時間の無駄です。いや、自分も大学時代はそうやってましたけどね。
イマイチな義歯ですが、後縁はギリギリレトロモラーパッドに届いていたので、大体同じぐらいのサイズを選択しました。残りのレトロモラーパッドの部分はユーティリティーワックスで延長して採得する形です。
これは別の症例ですが、下顎のトレーなんて上顎以上に全然合いません。
後ろのレトロモラーパッド部をラフに合わせてから、その他の部分はユーティリティでなんとかするぐらいのイメージがいいと思います。この場合も私は頬側前歯部に左右別々にユーティリティを設置することでトレーをいれる位置の基準にしています。
2)アルジネートはかなり硬め
上顎よりも下顎の方がトレーが合わないこと、ある程度頬舌に抵抗して押し広げるような形になるので、アルジネートは上顎よりも硬めでモリモリでいきます。
粉すり切り2杯ぐらいで水は2割ぐらいは確実に減らしてください。
下顎はモリモリでトレーを回転しながら入れようとすると口角にひっかかって印象材を口角に持って行かれる事がありますので、ミラー等で引っ張っておく場合もあります。
3)トレーを押すタイミングは注意
トレーを口腔内に入れて押すタイミングですが、必ず
「少し閉口させて舌もリラックスさせてから」
にしてください。
口腔底や顎舌骨筋線、頬側前庭などは上顎と違い簡単に変動します。入れてすぐトレーを押すのではなく、ワンテンポ置いて、はい少し閉じてベロもリラックスしてください、という指示をしてから押した方が良いです。
義歯床縁形態全部以下のように書き込めるような印象が概形印象として適当なものです。もしアルジ1発で義歯を完成するような場合でもこのスキルがあれば適切な義歯の形態を指定することは可能です。
外斜線は骨の突起なので、印象では凹んで印記されます。
舌側は顎舌骨筋線を越えて青線のように前方から後方へほぼ同じ深さで取れる事が殆どです。
同じ深さで取れていない場合、どこかが短いか長いかということになります。
長い場合はまあいいんですが、短い場合は足りないので再印象の可能性が出てきます。
まとめ
下顎は上顎よりも遙かに難しいとされています。それは
1)義歯の形態イメージが出来ていないのでどこを取れば良いか分からない
2)下顎のトレーは全然合わない事が多い
ことに起因するのではないかと思います。
義歯の形態イメージが大事というのは、概形印象が義歯の外形よりも大きくとれないといけないからです。義歯のイメージがないのに概形印象を取っても適切かどうかを判断できません。
最終形がイメージできているから概形印象が取れるのです。
私は必ず個人トレーを使って筋形成をしますが、しない方こそ概形印象時の義歯外形のイメージングは重要なのではないでしょうか。