MRONJの知見は今どうなってるのか?
2016のポジションペーパー以降はどうなってるのか
MRONJに関しては2016年にポジションペーパーが出てからそれ以降の状況に関して特に調べてきませんでした。
今回ちょっと気になったので、調べてみることにしました。
今回の文献は日本語
医中誌で検索していたら、該当しそうな総説が見つかりましたので読んでみることにしました。
J-stageですのでフリーでダウンロードできると思います。
今年の口腔外科学会誌です。
薬剤関連顎骨壊死の治療と予防に関する最新の知見:多施設共同臨床研究の結果より
梅田 正博
日本口腔外科学会雑誌 2020 年 66 巻 2 号 p. 52-60
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjoms/66/2/66_52/_article/-char/ja
MRONJの治療
MRONJになってしまったら、正直開業医としてはお手上げと言わざるを得ません。口腔外科にお願いするしかないと思います。
2016年のポジションペーパーではステージ2のMRONJでは抗菌薬と洗口剤併用が推奨され、難治性に対しては抗菌薬併用療法、長期抗菌薬併用療法、連続静注抗菌薬療法と並んで腐骨除去、壊死骨掻爬、顎骨切除との記載があります。
しかし、この総説では外科療法の優位性が強調されています。
図1に外科療法と保存療法の治癒率が比較されていますが、期間的にも治癒率的にも外科有利という結果になっています。
保存療法をまずやってみて駄目なら外科という考えは駄目なのか、と言う事に関しては以下の様に記載されています。
これに対して, まずfirst line として保存療法を一定期間行い, 難治例にのみsecond line として外科療法を適応すればよいという考えもある.また, 骨吸収抑制薬を6 か月程度休薬しながら保存療法を行うと腐骨分離が促進されるので, 腐骨分離をまってから外科療法を施行するほうがよいという意見もある.しかし実際には保存療法を行っている間に骨壊死が急速に進行し, 最終的により大きな手術が必要となったケースも時に経験される。
われわれは保存療法を6 か月以上施行し, 初診時および6 〜18 か月後にCT を撮影したMRONJ 患者46 例において, 保存療法施行前後のCT 所見を比較検討したところ, 臨床的には症状が改善または不変であった患者でも, 約半数ではCT で骨病変が進行していることがわかった.また, MRONJ 患者180 例において治療前の休薬期間と腐骨分離像との関連を調べたところ, 両者の関連性はみられなかった
つまり、MRONJの疑いが認められた場合、開業医側で経過を観察して引っ張るような事はせずに口腔外科に紹介した方がよい、という事になるかと思います。ステージ0から半分は進まないとしても半分は進むという解釈も出来ます。開業医にできるのは口腔外科紹介以外ないわけですから。
MRONJ手術の実際
これに関しては実際の症例のCTや写真が載っていますので、原文を見て頂ければと思います。詳しい事は開業医向けではないので省略します。
上顎のMRONJでは上顎洞炎を併発する頻度が高いというのを初めて知りました。
かなり進行しており区域切除になってしまっているものや下歯槽神経と血管を温存しながらその周りの骨溶解部を掻爬したりとシビアなケースが紹介されています。当然開業医では無理ですし、この外科手術に同意しない、全身状態などで適応外となってしまう患者さんも多そうな気がしました。そういう場合は延々と保存療法になってしまうのでしょう。実際口腔外科の先生から、治らないMRONJの患者さんばかり診ていると聞いた事があります。
MRONJの予防法
MRONJを起こさないためにはどうすればよいのか、と言う事ですが、高用量骨吸収抑制薬投与時に無理に抜歯対象の歯を残す事でMRONJが発症するが多いと記載されており、MRONJを避けるために過度に歯を保存する事の危険性も示唆されています。
また、低用量の場合、抜歯後のMRONJ発症リスクは低く抜歯前に休薬する意味はないようです。当院も整形外科医に問い合わせてから休薬せずに抜歯しています。
侵襲的歯科処置がMRONJ 発症に関与していることが報告され, 低用量骨吸収抑制薬が投与されている骨粗鬆症患者で抜歯を行う場合は骨吸収抑制薬の休薬を考慮すること, および高用量骨吸収抑制薬が投与されているがん患者では休薬は困難であるため抜歯をできるだけ避けることが推奨された.そのため低用量, 高用量とも本来抜歯されるべき感染源になりうる歯が温存された結果, 逆にMRONJ の発症が増加したのではないかという意見もある.
低用量骨吸収役投与患者では抜歯後MRONJ 発症のリスクは1.7%と高くなく, 3 か月程度の休薬は発症率を低下させないことがわれわれの多施設共同研究で明らかとなった。2018 年11 月に開催された第63 回 日本口腔外科学会総会・学術大 のなかで日本口腔外科学会と日本骨粗鬆症学会の合同シンポジウムが企画されたが, 同シンポジウムの1 つの方向として低用量骨吸収抑制薬投与患者に抜歯を行う際には骨吸収抑制薬は休薬しないことが確認された
一方, 高用量骨吸収抑制薬投与患者では抜歯を行うと高率にMRONJ が発症する.しかし感染源になる歯を温存しても経過中にMRONJ を発症することも多いことや, 骨吸収抑制薬の投与期間が6 か月未満の場合は抜歯を行ってもMRONJ 発症率は比較的低いことを考慮すると,MRONJ 発症予防のためには抜歯を避けるのではなく, むしろ感染源になりうる歯は骨吸収抑制薬投与中であっても早期に抜歯を行うことも1つの方法と考えられる.
しかしMRONJ の発症予防についてはこれまで後ろ向きコホート研究の報告しかなく, 不明な点も多い.
何が高用量で何が低用量なのか?
これがネットで結構調べたのですが、明確な回答が見つかりませんでした。色々統合した結果、骨粗鬆症用の投薬は低用量、癌治療用は高用量と考えて良さそうです。
同じ注射薬でも骨粗鬆症用と癌治療用では投与量が全く異なります。癌治療用は何倍も多くなります。そのため、ゾメタやランマークなどを癌の治療として注射されている患者さんは高用量のため注意が必要かと思われます。
かなり前ですが、とある歯科医院にバイトでいったときに抜歯後SPを頼まれて拝見したところ、抜歯窩治癒不全で腐骨的なものが触れました。特に投薬されているものにBPが入っておらず、よくよく聞いたら癌治療後の骨メタ用にゾメタが注射されていたということがあります。
既往歴などをしっかり把握していればこういったミスはなかったと思うのですが、服薬を聞いただけでは答えてくれない患者さんがいる可能性をそれ以降強く意識するようになりました。
まとめ
結局の所、まだガイドラインになるまでの所までエビデンスが構築されているわけではないようです。
適当にネットで検索していたら、研究のオプトアウトが出てきたのですが、口腔衛生状態とMRONJ発症なんかもエビデンスはないということみたいです。それを今から検索しようと思っていました(笑)。
BPやRANKLといったMRONJの可能性がある薬を投薬されている人、または近未来に投薬される可能性がある人は総じて年齢が高く、他の基礎疾患もあるのが普通です。
こういった患者さんに対して抜くべき時に抜かなければ、体調は下がっていくしかないですし、いつ何が投薬され始めるかもわからないわけですから、今抜かなければ後で後悔することにもなりかねません。
「そのため低用量, 高用量とも本来抜歯されるべき感染源になりうる歯が温存された結果, 逆にMRONJ の発症が増加したのではないかという意見もある.」
勿論、リスク評価は大事ですが、この言葉を肝に銘じていきたいと思います。
今後はMRONJに関する論文を少し読んでいきたいと思っています。