下顎半埋伏智歯抜歯のフラップデザインの違いは第2大臼歯の歯周組織治癒に影響するか?
今回は趣向を変えて抜歯
色々とPubmedを検索していたらちょっと気になる論文を見つけたので読む事にしました。
自分もそれほど難しくない智歯の水平埋伏は抜歯してますが、抜歯の際のフラップの開き方によって7の歯周組織に影響があるかどうかを検討した2008年のブラジルからの論文となります。
Effects of surgical removal of mandibular third molar on the periodontium of the second molar
A J P Chaves , L R Nascimento, M E G Costa, M Franz-Montan, P A Oliveira-Júnior, F C Groppo
Int J Dent Hyg. 2008 May;6(2):123-8.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18412725/
Abstract
Objective: The effects on periodontal tissues of adjacent second molars after semi-impacted mandibular third molar surgery were evaluated. The influence of flap design was studied.
Methods: Twenty volunteers randomly underwent the three-cornered flap technique (group A) or the distal wedge flap technique (group B). The periodontal probing depth was measured by using a ‘Williams’-type probe just prior to surgery and three months post-operatively. Six sites, mesio-buccal, buccal, disto-buccal, disto-lingual, lingual and mesio-lingual, around the second molar were selected for measurement. Kruskal-Wallis test and Dunn test (post hoc) were used. Significance level was set at 5%.
Results: There were no complications (oedema, alveolitis, etc.) in any of the patients of the study. The results showed that both methods caused shallow pocket depth (P > 0.05) and there were no statistically significant differences between the flap techniques (P > 0.05). Flap design was not an important factor affecting the periodontal status of the second molar.
Conclusion: The decision to use any of the various flap designs for access to mandibular third molars should be based on operator preference rather than on the assumption that periodontal health of the adjacent second molar will be improved.
目的:下顎半埋伏智歯の抜歯が第2大臼歯の歯周組織に与える影響を評価しました。フラップデザインの違いによる影響を検討しました。
方法:20人のボランティアをランダムに2つのフラップデザイン群に割り付けました。グループAは三角弁によるテクニック、グループBはディスタルウェッジフラップテクニックとしました。抜歯前と抜歯後3か月の第2大臼歯のポケット深さをWilliamタイプのプローブで6点法で計測しました。Kruskcal-Wallis検定とDunnによる多重比較を行いました。有意水準は5%としました。
結果:今回の研究に参加した被験者では浮腫や歯槽骨炎などの合併症は認められませんでした。両方の手技においてポケット深さは有意に浅くなり、手技による有意差は認めませんでした。隣接第2大臼歯の歯周状態に影響を与えるものとしてフラップデザインは重要な要因ではないということが示唆されました。
結論:智歯にアクセスするためのフラップデザインは、第2大臼歯の歯周組織の改善を想定するよりも術者の好みで決定するべきです。
ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
実験方法
被験者
ブラジルの大学病院で下顎埋伏智歯を抜歯する20名(男性7名、女性13名 平均年齢 21.75±2.5)
レントゲン診査(パノラマX線写真+デンタルX線写真)と臨床的な診査
選択基準:全身的な所見がない、喫煙者ではない、口腔状態良好、歯肉に炎症所見なし、両側性に下顎の半埋伏智歯がある
埋伏の程度はPell and Gregoryの分類で、最も智歯の高さが高く咬合平面と一致、またはそれより高いレベルとしました。
Pell and Gregoryの分類(参考)
実験デザイン
被験者をランダムに2群に割り付け
グループA:三角弁テクニック
グループB:ディスタルウェッジテクニック
臨在する第2大臼歯のポケット測定:6点法で術前、術後3か月の2回測定
抜歯:同一口腔外科医、ポケット測定:同一歯周病専門医で実施
抜歯
術前1時間前にアモキシシリン2gを単回投与さらにジクロフェナクNa50mgも投与
ジクロフェナクNaは術後3日間連用
クロルヘキシジンなどで口腔内を消毒後に2%メピバカイン10万分の1エピネフリン3.6mlで浸潤麻酔
歯肉剥離後に通法通り骨を除去、注水下で歯を切断。抜歯後に掻爬を行い、フラップを元の位置に戻します。4-0で縫合。
術直後に口腔衛生管理の指導を行い、1週間後に治癒の観察を行っています。
フラップデザイン
グループAとグループBの違いは図に示す通りです。
結果
歯周ポケットの変化を示したのが表2になりますが、フラップの違いによる有意差は認められませんでした。
箱ひげ図による比較も行っています。術後には両群ともポケット深さが有意に浅くなりました。
術前のポケット深さは群間で有意差はありませんでした。
フラップ手技の違いによる違いは認めませんでした。
考察の一部
口腔衛生状態が術後のポケット深さの改善に強く影響するという報告があります(文献9)。
Dodsonらは、智歯抜歯部位に骨補填材またはGTRを行いましたが、期待されたほどの効果はありませんでした。今回の研究結果のように、抜歯それ自体がアタッチメントレベル、ポケット深さを改善すると結論づけています。
しかし、他の研究ではアタッチメントレベルの喪失や歯肉炎などが認められた、という報告もあります。
この相反する2つの意見に対する最もよい回答の1つが年齢による治癒力の影響でしょう。若い人の方が治癒が速く、プラークに対する免疫も活発です。そのため若いうちに智歯を抜歯した方が利益が大きいかもしれません。
4年間智歯の治癒を観察した縦断研究では、若い人では骨内の欠損は殆どなかったのに対して年齢が高い層の2/3で治癒の反応が悪かったと報告しています。
Pengらは、智歯抜歯後に第2大臼歯の歯周組織の破壊が起こったと報告しています。しかし、被験者は中等度~重度の歯周病罹患者でした。
研究の疑問点
1 フラップの起こし方で歯肉退縮が起こる可能性が考えられるが、アタッチメントレベルの測定ではないためよくわからないです。第2大臼歯のポケットが多くの部位で浅くなっており、近心すらおそらく有意差はないものの浅くなっているのは歯肉が下がったのでは?という気がしてしまいます。
2 遠心のポケット深さは智歯の歯冠に当たってしまい正確ではないのでは?それを抜歯前後で比較する意味はあるでしょうか?
まとめ
とりあえず言える事は、しっかりやればフラップデザインが7に与える影響は少ないということでしょうか(ただし、アタッチメントレベルで計ってないので確実ではないかもしれません)。
また、考察からは若いうちに抜歯した方が抜歯窩も第2大臼歯部も治りがいい可能性が示唆されています。あまり年取ってからの智歯抜歯は抜きづらい事がよくあります。加えて治癒も悪いなら若いうちに抜歯した方がいいに決まっています。
自分はディスタルウェッジはやったことがありませんが、やらなくても良さそうなのでちょっとホッとしています。