歯周病の定期検診にしっかり通うことで歯の喪失リスクを下げる(5年間の縦断研究)
歯周病メンテナンス論文第2段
前回は2008年の論文を読み、SPT間隔が不定期で空いてしまと歯を喪失するリスクが高くなるという結論を得ました。今回はJournal of Periodontal Researchの2014年の論文を読んでみたいと思います。
Tooth loss in individuals under periodontal maintenance therapy: 5-year prospective study
F O Costa , E J P Lages, L O M Cota, T C M Lorentz, R V Soares, J R Cortelli
J Periodontal Res. 2014 Feb;49(1):121-8. doi: 10.1111/jre.12087.
PMID:23647520
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23647520/
Abstract
Background and objective: Tooth loss (TL), one of the most visible results of the evolution of periodontitis, causes physiological and psychological impacts on a patient’s life. This prospective study aimed to evaluate the incidence, underlying reasons and influence of risk predictors for the occurrence of TL in a program of periodontal maintenance therapy (PMT) over 5 years.
Methods: The sample comprised 212 individuals diagnosed with chronic moderate-severe periodontitis, who had finished active periodontal treatment, were incorporated in a PMT program. Individuals were divided in to two groups: 96 regular compliers (RC) and 116 irregular compliers (IC). Full-mouth periodontal examination was performed. Social, demographic, behavioral and biological variables of interest were collected at all PMT visits. The effect of risk predictors and confounders for TL, as well as the underlying reasons of TL, were assessed by univariate and multivariate analysis.
Results: TL was significantly lower among RC (0.12 teeth lost/year) in comparison to IC (0.36 teeth lost/year; p < 0.01). Individuals that were > 55 years old, males and smokers lost significantly more teeth in both groups (with IC > RC). The number of teeth lost due to periodontal reasons was significantly higher than TL for other reasons in both groups (p < 0.01). The final linear and logistic model for TL included: male gender, smoking, probing depth 4-6 mm in up to 10% of sites and irregular compliance.
Conclusion: IC individuals undergoing PMT presented higher rates of TL when compared to RC individuals. Findings demonstrated the influence of irregular compliance and the importance of monitoring other risk predictors for TL such as smoking, male gender and severity of probing depth during PMT.
目的:歯の喪失は歯周病の進行の結果として最も可視化しやすいものの1つで、患者の人生に身体的、心理的な影響を及ぼします。本研究の目的は5年間以上の歯周病メンテナンスにおいて歯の喪失の発生、その理由、予知因子の影響などを評価する事です。
方法:中等度~重症の慢性歯周病と診断された診断された212名が被験者で動的治療終了後にメンテナンス(PMT)に組み込まれました。PMTを2群にわけ、96名は定期的群で、116名は不定期群です。口腔内の歯周病診査を行いました。社会、人口的、行動、生物学的な変数を収集しました。リスク予知因子と歯喪失の交絡因子の影響を単変量、多変量解析により調べました。
結果:定期的なメンテナンスの方が不定期なメンテナンスより歯の喪失が有意に少ない結果となりました。55歳より高齢、男性、喫煙者は有意に歯を喪失しました。歯周病的な理由による歯の喪失数は他の理由による歯の喪失よりも有意に多い結果でした。ロジスティック回帰分析の結果、男性、喫煙、4-6mmのプロービングデプスが10%、不定期なメンテナンスが関連しました。
結論:不定期なメンテナンスは定期的なメンテナンスと比較すると歯を失う可能性が高くなりました。不定期なメンテナンスの影響や喫煙、性別、PMT時のプロービングデプスの重症度などの他のリスク予知因子をモニターする重要性が示唆されました。
ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
いくつかの論文では、歯周治療による喪失歯数の減少効果と同様にメインテナンスへの理解と適切な口腔衛生管理も喪失歯の減少に寄与すると報告しています(文献7,8,14-17)。
縦断研究にて動的歯周治療とメインテナンスを通じての歯の喪失に関しては報告されていますが、いくつかの研究はメインテナンス期間のみの歯の喪失を報告しています。しかし、メインテナンス期間の歯の喪失に関する論文の多くは後ろ向き研究であり、バイアスが存在します。
メインテナンスプログラムは歯周組織の安定させ、さらなる歯の喪失を最小化するはずです。加えてメインテナンスチュの歯の喪失に関するリスク因子の解明は臨床家がメインテナンスに来る頻度を確立したり、プログラム遵守を改善することに役に立つかもしれません。
本研究の目的は、メインテナンス5年間の歯の喪失の発生とその原因、リスク因子などについて前向きコホート検討として検討する事です。
実験方法
被験者
歯周病のメインテナンスに入った265名が参加して5年以上リコールしました。
18~66歳
全身状態に異常が無い(糖尿病の診断と既往は除く)
動的歯周治療終了(歯周外科の有無は問わない) 14本以上の残存歯
動的歯周治療開始前に最低でも4カ所のプロービングデプスが5mm以上でアタッチメントレベルが3mm以上、BOP、レントゲン上の骨吸収を認め、中程度から進行した歯周病を有していた
除外基準:妊娠、免疫系に異常をもたらす疾患(HIV/AIDS、癌、自己免疫疾患)、薬剤性の歯肉増殖、タイプ1のDM、14本未満の残存歯
定期検診
定期検診に100%規則正しく来た人 96名(最大6か月間隔)RC群
規則正しく来なかった人 116名(最大18か月間隔)IC群
定期検診時の診査:プラークインデックス(PI)、プロービングデプス、CAL、BOP、排膿、ファーケーション、歯の喪失
ポケット診査系は4点法
ベースラインデータは最初の定期検診時のデータ
他のデータ
性別、年齢、同居独居、BMI、教育、喫煙歴、DM
歯の喪失理由
メインテナンス期間中に抜歯をした場合、その原因を以下の5つに分類
1)歯周病
2)カリエス
3)不適切な修復、補綴
4)エンド
5)歯根破折
統計
RCとIC群での比較
ロジスティック回帰分析
アウトカム:メインテナンス期間中に1本以上歯を喪失
説明変数:性別、年齢、独居同居、禁煙歴、BMI、DM、メインテナンス受診の規則性、BOP(30%)、プロービングデプス(4mm以上が30%以上、4~6mmが10%でCALが3mmが30%まで)
結果
最終的に被験者は212名となっています。
RC群とIC群では性別と定期検診に来た受診回数に有意差が認められます。
やはり規則的に定期検診にしっかりきているのは女性、サボりがちなのは男性です。
歯周病のデータのRC群とIC群との比較です。ベースライン時のRCとIC群の各項目は有意差を認めませんでした。
終了時のデータにおいては、ICはRCと比較して有意にプラークインデックス、BOP、プロービングデプス、CAL、喪失歯数の増悪を認めました。
歯の喪失と年齢、性別、喫煙歴に関するデータですが、よくみたら喫煙者がもの凄く多いです。ブラジルは喫煙率がかなり高いみたいですね。IC群は終了時診査で歯の喪失を招いた人が多く、残存歯数が少ない傾向を認めました。歯の喪失を認めた人はRCでは25%、ICでは40%、喪失歯数はRC57本、IC177本で有意差を認めました。RC群は平均で0.6本、IC群は1.8本を5年間で失った事になります。
RC群での喪失ペースはある程度直線的なのに対して、IC群では最後の3年間での歯の喪失ペースの有意な上昇が認められました。
55歳より高齢、男性、喫煙者は両群で有意に喪失歯数が多い結果でした。喪失部位、喪失理由ですが、やはり歯周病的な理由が他の理由より有意に多い結果でした。また、歯周病が理由での歯の喪失は男女間で有意差が認められ、男性の方が有意に多い結果でした。
ロジスティック回帰分析の結果、不定期な受診、男性、喫煙、DM、プロービングデプス4~6mmが10%が歯の喪失と有意に関連しました。
線形分析の結果、不定期な受診、男性、喫煙、 プロービングデプス4~6mmが10%が歯の喪失と有意に関連しました。この4要素で歯の喪失リスクの83.3%が説明できる結果となりました。
考察
RC群では25%、IC群では34.5%の歯の喪失が観察されました。また最終検査では、IC群の方がプラークインデックス、BOP、プロービングデプス、CALが有意に高い結果でした。これらは、メインテナンスプログラムにおける定期的な受診の重要性を補強するものであり、後ろ向きな研究でも多く報告されています。メインテナンス中の問題は規則正しい受診であり、多くの研究で受診率の低さが報告されています。
過去の研究と同様に、少数の人が喪失歯の殆どを担っていました。
メインテナンス中の歯の喪失は動的歯周治療中にどれだけ積極的に抜歯するかで結果が変わります。動的歯周治療時に抜歯の割合が多ければ、その後のメインテナンス期間中のTLはおそらく少なくなり、その逆もまた然りです。
最終的なロジスティック回帰の調整モデルでは、男性が歯を喪失する確率は、女性の約2倍であることが明らかになりました。この結果は、Fardalらの報告と一致しています。男性は女性よりも多くの歯を失うことが多いという研究結果がありますが、歯科治療を受ける頻度が低いことやメインテナンスプログラムへの参加率が低いことと関係していると考えられます。さらに、喫煙のようなTLの行動的危険因子は、男性に多く見られます。歯周炎の重症度や程度が高い人ほど、歯科疾患による死亡率が高いことが報告されています。本研究の多変量モデルでも、プロービングデプスが4~6mmの部位が10%ある人は、歯の喪失が3倍になることが明らかになった。また、本研究では、喫煙(OR = 4.22)と糖尿病(OR = 2.73)が歯の喪失に強く関連する危険因子であることが明らかになりました。この結果は、過去の研究と一致しています。多変量モデルでは、ICの人は歯の喪失が3倍になることが示された。同様に、Checchiらは、コンプライアンスの程度が低い人は、コンプライアンスの程度が高い人に比べて約6倍の歯を失うと報告しています。
ポイント
定期検診をサボりがちな人は歯を喪失するリスクが定期的に受診する人の3倍以上
喫煙に関してはリスクが4倍
まとめ
今回の被験者は喫煙率がかなり高く、動的歯周治療終了時18歳~66歳とかなり年齢に幅があります。そのためこの数字が日本人の中年、高齢者に完全に適合するとは思えません。
また、前回の論文と異なり、支台歯として使用しているかどうかは診査、検討されていません。前回の論文よりも歯周病の状態が軽そうです。そこら辺が結果に影響を与えたと考えられます。
しかし、前回の論文でも定期検診をサボりがちな人が歯を喪失するリスクは4倍以上であり、やはり定期検診にしっかり通ってもらうということが重要であることは間違いないでしょう。