ミリングデンチャーの方が3Dプリントデンチャーよりも適合がよい
前回のブログでミリングデンチャーは従来型よりもin vitroでは適合がよいと言う論文を読みました。では、次はプリント義歯とミリングならどうなのか、と言うことが気になります。そこで、システマティックレビューのリファレンスから重要そうな論文を読んでみることにしました。
CAD-CAM milled versus rapidly prototyped (3D-printed) complete dentures: An in vitro evaluation of trueness
Nicole Kalberer , Albert Mehl , Martin Schimmel , Frauke Müller, Murali Srinivasan
J Prosthet Dent. 2019 Apr;121(4):637-643. doi: 10.1016/j.prosdent.2018.09.001. Epub 2019 Jan 31.
PMID: 30711292
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30711292/
Abstract
Statement of problem: Complete dentures fabricated by computer-aided design and computer-aided manufacturing (CAD-CAM) techniques have become popular. The 2 principal CAD-CAM techniques, milling and rapid prototyping (3D printing), used in the fabrication of complete dentures have been reported to yield clinically acceptable results. However, clinical trials or in vitro studies that evaluated the accuracy of the 2 manufacturing techniques are lacking.
Purpose: The purpose of this in vitro study was to compare the differences in trueness between the CAD-CAM milled and 3D-printed complete dentures.
Material and methods: Two groups of identical maxillary complete dentures were fabricated. A 3D-printed denture group (3DPD) (n=10) and a milled denture group (MDG) (n=10) from a reference maxillary edentulous model. The intaglio surfaces of the fabricated complete dentures were scanned at baseline using a laboratory scanner. The complete dentures were then immersed in an artificial saliva solution for a period of 21 days, followed by a second scan (after immersion in saliva). A third scan (after the wet-dry cycle) was then made after 21 days, during which the complete dentures were maintained in the artificial saliva solution during the day and stored dry at night. A purpose-built 3D comparison software program was used to analyze the differences in the trueness of the complete dentures. The analyses were performed for the entire intaglio surface and specific regions of interest: posterior crest, palatal vault, posterior palatal seal area, tuberosity, anterior ridge, vestibular flange, and mid-palatal raphae. Independent t tests, ANOVA, and post hoc tests were used for statistical analyses (α=.05).
Results: The trueness of the milled prostheses was significantly better than that of the rapid prototyping group with regard to the entire intaglio surface (P<.001), posterior crest (P<.001), palatal vault (P<.001), posterior palatal seal area (P<.001), tuberosity (P<.001), anterior ridge (baseline: P<.001; after immersion in saliva: P=.001; after the wet-dry cycle: P=.011), vestibular flange (P<.001), and mid-palatal raphae (P<.001).
Conclusions: The CAD-CAM, milled complete dentures, under the present manufacturing standards, were superior to the rapidly prototyped complete dentures in terms of trueness of the intaglio surfaces. However, further research is needed on the biomechanical, clinical, and patient-centered outcome measures to determine the true superiority of one technique over the other with regard to fabricating complete dentures by CAD-CAM techniques.
問題点:CAD/CAMを用いて全部床義歯を製作する方法はポピュラーになってきています。全部床義歯製作の主なCAD/CAMテクニックとして、ミリングと3Dプリントの2つがありますが、どちらも臨床的に許容できる結果であると報告されています。しかし、臨床試験またはin vitroでこの2つの精度を比較した研究はありません。
目的:本研究の目的はミリングと3Dプリントによる全部床義歯の真度の比較を行う事です。
実験方法:同じ上顎義歯を2群にわけて製作しました。3Dプリント群10個、ミリング群10個を上顎のマスター模型から製作しました。技工用のスキャナーを使用して義歯粘膜面をスキャンし、これをベースラインとしました。その後、義歯を人工唾液に21日間浸漬後に2回目のスキャンを行いました。さらに21日間、日中は人工唾液に浸漬、夜間は乾燥させた後に3回目のスキャンを行いました。3D比較用ソフトウェアにて義歯の真度を解析しました。解析は全体と以下の特定部位、臼歯部顎堤、口蓋部、後縁封鎖部、上顎結節部、前歯部顎堤、前庭床縁部、正中口蓋縫線部、を対象に行いました。t検定、ANOVAと多重比較にて統計処理を行いました。
結果:ミリングデンチャーの真度は、粘膜面全体、臼歯部顎堤、口蓋部、後縁封鎖部、上顎結節部、前歯部顎堤、前庭床縁部、正中口蓋縫線部において、有意に3Dプリントよりも優れた結果となりました。
結論:ミリングデンチャーは、粘膜面の真度という点で、3Dプリント義歯よりも優れていました。しかし、CAD/CAMによる全部床義歯の製作に関して、1つのテクニックが他よりも優れているかどうかを決定するためには、生体力学的、臨床的、患者主導型アウトカムなどの更なる研究が必要です。
ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
CAD/CAMによる全部床義歯製作は近年臨床面でも技工面でも一般的になってきています。これは、CAD/CAM技術の向上と歯科医師、歯科技工士の意識の高まりに加え、デジタルワークフローの一部を従来の臨床、ラボのプロトコルと組み合わせる柔軟性の向上が要因であると考えられます。全部床義歯に用いる事ができるCAD/CAMテクニックは2つあります。1つは切削加工としてのミリング、もう1つはラピットプロトタイピングシステムで、一般的に積層加工である3Dプリントとして知られています。殆どのプロバイダーはミリングを使用しています。ラピッドプロトタイピングの用途は主に暫間義歯または試適義歯で、希に最終義歯に用いられています。しかし、ミリングでは義歯床用材料を多量に浪費してしまい、最近の3Dプリントではより少量のレジンでの積層加工が期待できます。
CAD/CAMテクニックのどちらかで作られた全部床義歯は評価されてきました。従来型の義歯と比較した際、ミリングデンチャーの方が、粘膜面の適合はほぼ同等か優れており、生体力学的には同等、機械的物性は向上と報告されています。患者と歯科医の高い満足度もミリングデンチャーで報告されています。臨床的なプロトコルによりチェアタイムが減少します。一方で、製作プロセスの減少によりラボの賃金がいくつかの国で減少するかもしれません。
ラピッドプロトタイピングにより全部床義歯は、従来型よりも患者満足度が高いと報告されています。ラピッドプロトタイピングは正確な義歯床の再製、ワックスパターンのプリントなどに使用されてきました。臨床的に許容できる全部床義歯製作において、2つのテクニックは満足できるものです。しかし著者らは、ミリングと3Dプリントで製作された全部床義歯粘膜面の精度を比較した論文の存在を知りません。
ISOは測定方法の精度を記述するために、trueness(真度)とPricision(正確性)という用語を使用しています。真度は、多数の検査結果の算術平均値と真の基準値または受入基準値との一致度の近さと定義されます。正確性とは試験結果間の一致度の近さのことです。今回のin vitroの研究の目的は、ミリングと3Dプリントで製作した全部床義歯の粘膜面の真度を比較する事です。
実験方法
過去の研究結果をもとにサンプルサイズを計算しました。効果量(dz=1.5004)と必要なサンプルサイズは、正規分布を仮定し、α=0.05、検出力0.95(1-βの誤差確率)で計算されたものです。この研究では、サンプルサイズを9とし、その後、過去に発表された同様の研究との整合性を保ち、誤差を最小にするために、1グループあたり10に増やしました。
以前の実験において、上顎完全無歯顎コバルトクロム模型をマスター模型としました。全ての全部床義歯はこの模型をスキャンデータを利用して製作しました。模型のスキャンはラボスキャナー(IScan D103i、Imetric3D SA)で行いました。高解像度スキャナーは、メーカー指定ポイント間隔6~8μm、再現性10μm、精度20μmで、6μmの正確性で校正されます。バンドルされているソフトウェアにより自動的に調整され、STLフォーマット化されます。
マスタースキャンのSTLファイルは、ソフトウェア(AvaDent Connect software)を通してCAD/CAMデンチャー製造メーカーに送られました。バーチャルモデルにて解剖学的ランドマークを確認し、周辺限界をマークし、最終的なコンプリートデンチャーの設計に役立てました。義歯設計のプレビューが完成し、製作前の承認のために私達に返ってきました。ミリングと3Dプリントは同じ義歯デザインを使用しました。
ミリング10、3Dプリント10で、全部で20個の義歯を製作しました(図1)。
3Dプリント群(n=10)は、110×62 mmの造形プラットフォームを持つ3Dプリンタで、ネイティブピクセル29 mmの405 LED光源(RapidShape D30、Rapid Shape GmbH, Generative Production Systems)を用いてRP法により製作しました。液体材料としてアクリルレジンエステルベースのモノマーを使用し、義歯床(NextDent Denture 3+、NextDent B.V.)を製作しました。義歯床は、1層100μmで縦方向にプリントされました。位置やサポートの数は自動的にソフトウェアがデザインしました。プリント後に義歯をプラットフォームからナイフで分離し、サポートを除去しました。その後、余剰材料を除去するために、96%アルコールで2回超音波洗浄しました。1回目は3分で2回目は約2分としました。過剰な洗浄は表面荒れの原因になるため、メーカー指示ではアルコール洗浄は最大5分となっています。
清掃、乾燥後に紫外線照射装置(LC-3DPrint Box、NextDent B.V.)にて10分間追加の重合を行いました。Dulux Blue UV-Aランプ4本と18W/71ランプ(Dulux L blue)4本を使用し、波長315~400 nmの青色UV-A、出力43.2 kJを照射しました。
ミリング群は、義歯の全てのパーツを重合済みレジンディスクからミリングして完成しました。このシステムは義歯床をミリングし、人工歯を接着する方法とは異なります。
義歯機能の臨床的な知見から、粘膜面全体と興味がある特定部位、臼歯部顎堤、口蓋部、後縁封鎖部、前歯部顎堤、上顎結節部、前庭床縁部、正中口蓋縫線部を解析部位として選択しました。
マスター模型を最初にスキャンしたSTLデータは、義歯製作に使用され、さらにデータの解析と比較にも利用されました。義歯完成後、全ての義歯に欠陥がないか確認しました。20個の義歯内面をスキャン(BL)しました。その後、義歯を人工唾液に21日間室温で浸漬しました。浸漬後に2回目のスキャン(IS)を行いました。さらに21日間義歯を昼間は浸漬し、夜間は乾燥しました(湿潤乾燥サイクル)。その後3回目のスキャン(WDC)を行いました。
1人の研究者が、全ての粘膜面をメーカー指示に従ってスキャン(IScan D103i、Imetric3D SA)しました。比較の解析のために、3D比較ソフト(OraCheck 2.10、Cyfex AG)を使用しました。マスターモデルのスキャンファイルを反転し、義歯粘膜面のスキャンデータを最適な適合になるように重ね合わせました。ソフトウェアが重ね合わせた両者の距離を算出しました。真度の計測として、距離の分布の中央値と、その半分の分位数80%分位数20%を算出しました。その後、各群で、これらの平均値と標準偏差を粘膜面全体、特定部位7箇所において算出しました。
正規分布の確認としてKolmogorov-Smirnov検定を、均一性の検定としてLevene検定を行い、その後、t検定と1元配置分散分析を行いました。Bonferroniのポストホックテストにて、部位別に多重比較を行いました。
結果
1回目、2回目、3回目スキャン時の製作テクニック間における粘膜面全体の真度はミリングの方がプリントよりも有意に優れた結果となりました。
各製作テクニック内での解析では、プリント義歯における粘膜面全体の真度は、ベースラインと人工唾液浸漬後、ベースラインと湿潤乾燥サイクル後で有意差を認めましたが、人工唾液浸漬後と湿潤乾燥サイクル後では有意差を認めませんでした。
ミリング義歯では3回のスキャンポイントにおいて、粘膜面全体の真度に有意差を認めませんでした。
ミリングによる全部床義歯の真度は、3つのスキャンポイントにおいて、臼歯部顎堤、口蓋部、後縁封鎖部、前歯部顎堤、上顎結節部、前庭床縁部、正中口蓋縫線部で、3Dプリント義歯よりも有意に優れている結果となりました。3Dプリント義歯の後縁封鎖部は、ベースラインと唾液浸漬後、ベースラインと湿潤乾燥サイクル後の真度に有意差を認めましたが、唾液浸漬後と湿潤乾燥サイクル後には有意差を認めませんでした。後縁封鎖部の真度は唾液浸漬により有意に改善しました。3Dプリント義歯の他の部位では、真度に有意差を認めませんでした。ミリングデンチャーでは、臼歯部顎堤(ベースラインと湿潤乾燥サイクル後)、後縁封鎖部(ベースラインと湿潤乾燥サイクル後、唾液浸漬後と湿潤乾燥サイクル後)、前歯部顎堤(ベースラインと湿潤乾燥サイクル後)、正中口外縫線部(ベースラインと唾液浸漬後、ベースラインと湿潤乾燥サイクル後)において真度に有意差を認めました。
考察
切削加工としてのミリング、積層加工としてのラピッドプロトタイピングによる全部床義歯の製作は近年発達してきています。両者は同じCADソフトウェアでデザインされた3Dのデジタルイメージから義歯を製作しますが、製作方法は全くの別物です。ミリングでは、高圧下で重合されたPMMAディスクをミリングマシーンで削って全部床義歯を製作します。ラピッドプロトタイピングは、光重合型レジンをサポート構造上に積層し、紫外線または可視光線により重合します。この2つの方法には利点と欠点が存在します。重合済みのPMMAディスクを用いる全部床義歯の製作は、収縮と気泡を回避できるかもしれません。また、残留モノマーが少ないはずですし、機械的物性も優れています。しかし、ミリングデンチャーの残留モノマー量は、従来法による加熱重合レジンと比較して顕著に少ないわけではなく、常温重合型レジンよりは有意に少なかったという報告があります。
ラピッドプロトタイピングは未重合のレジンを使用するので、必ず光重合のステップが必要となります。ラピッドプロトタイピングでは、重合収縮は理論的にあり得ます。ビルドプラットフォームから部分的に重合した義歯を取り外す時にも変形は起こり得ます。さらに未重合レジンの層が必ず完成義歯に残ります。これは義歯を溶媒で洗浄することにより除去しなければなりません。積層加工の利点としては、高い精度、使用材料の減少、コストの低下などがありますが、全部床義歯の製作という点では、まだ科学的に保証されていません。
理論的に、全部床義歯製作の精度は、違う製作工程であれば異なるはずです。しかし、両方のテクニックは臨床的に許容範囲であり、従来型の義歯よりも優れていると報告されています。著者らは、2つのテクニックの精度を比較した過去の論文を知りません。本研究の結果から、ミリングによる全部床義歯の真度は、ラピッドプロトタイピングよりも、粘膜面全体および各部位で有意に優れていることが実証されました。これまで、ラピッドプロトタイピングで製作された全部床義歯の精度は臨床的に許容できるレベルであり、患者や臨床医の満足度も高いことが報告されているため、この真度の差が臨床的に重要かどうかは不明です。
さらに、ラピッドプロトタイピングによる義歯は、光重合レジンで製作されているため、長期間、寸法安定性が保たれるのかどうかという疑問があります。本研究では真度が劣ることが判明しましたが、ラピッドプロトタイピングはミリング技術よりも優れているため、完成度を高める必要があります。ミリング装置は高価で、大規模なセンターが適しており、個人診療所や小さい技工所には適していません。さらに、この装置は電力消費が大きいですし、ミリングは材料の無駄が多いです。2020年にアメリカ単独で6100万個の義歯が製作されたと推定されます。もし、賢明な製作テクニックが採用されれば、プラスチックの環境汚染の持続的な減少が達成できるかもしれません。
3Dプリンタはミリングセンターよりも安価で、個人歯科医院や技工所、または無歯顎率が高い、スキルのある技工士が不足しているような発展途上国でも購入できる可能性があります。業者は遅配を避け、運送コストを抑える事ができます。真度の技術的な向上は近い将来期待できるかもしれません。しかし、ラピッドプロトタイピングを全部床義歯の第1選択の製作法と推薦する前に、より多くの研究が必要です。この進化した技術を検証する前に、患者主体型アウトカム指標を検討する必要があります。
結論
1 ミリングで製作した全部床義歯の方が、ラピッドプロトタイピングで製作した義歯よりも粘膜面の真度が優れています。
2 CAD-CAM技術による全部床義歯の製作に関して。バイオメカニクス的。臨床的,および患者修道型アウトカムについて、1つの技術の優劣を判断するためのさらなる研究が必要です。
まとめ
ミリングの方が精度がよい、というのは重合過程があるなしの差で大体予想がついていたわけですが、その通りの結果となりました。ただし、考察に記載されている通り、3Dプリンタの方が、装置自体の値段、材料の使用量、コストなどの点で優れており、将来的に3Dプリントの物性が改良されていけば、3Dプリンタによる義歯製作が主流になっていく可能性もありそうです。