普通の歯科医師なのか違うのか

アルカリ過酸化物の義歯洗浄剤で義歯の表面が荒くなる。システマティックレビュー+メタアナリシス

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

義歯の表面が傷つけば細菌が付着しやすくなるので、ブラシで擦るときに歯磨剤をつけないようにしてください、というのは、おそらく日本では一般的な指導方法ではないかと思います。では、化学的清掃法ではどうなのか?ということで文献を検索したらメタアナリシスした論文が引っかかってきましたので読む事にしました。

Surface roughness of acrylic resins used for denture base after chemical disinfection: A systematic review and meta-analysis
Rayanna Thayse Florêncio Costa , Eduardo Piza Pellizzer , Belmiro Cavalcanti do Egito Vasconcelos , Jéssica Marcela Luna Gomes , Cleidiel Aparecido Araújo Lemos , Sandra Lúcia Dantas de Moraes 
Gerodontology. 2021 Sep;38(3):242-251. doi: 10.1111/ger.12529. Epub 2021 Jan 6.
PMID: 33410217

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33410217/

Abstract

Objective: This study aimed to systematically review the literature regarding the surface roughness of polymethylmethacrylate (PMMA) for denture bases, disinfected with different chemical agents and analyse the outcomes of the included studies.

Background: Various chemical disinfection protocols to clean the removable dental prosthesis are reported in the literature, however systematic reviews analysing the outcomes in the surface roughness of the PMMA are lacking.

Methods: The Preferred Reporting Items for Systematic Review and Meta-Analyses (PRISMA) checklist was used to structure this systematic review. The inclusion criteria were as follows: clinical trials, in vitro studies, studies in English and studies comparing the effects of chemical disinfection products on the surface roughness of PMMA. An electronic search was performed in the following databases: PubMed/MEDLINE, Scopus and Web of Science.; we also conducted a manual search for articles published in specific journals of dental prostheses and dental materials.

Results: Thirteen in vitro studies in this systematic review and meta-analysis. According to the meta-analysis, the effects of 0.5% (P = .32; MD: 0.06; CI: -0.05 to 0.17; heterogeneity: P < .00001; I2 = 92%) and 1% NaOCl solutions (P = .27; MD: 0.01; CI: -0.01. to 0.03; heterogeneity: P = .03; I2 = 55%) did not statistically differ between the groups studied. Effects of alkaline peroxide were statistically significant (P = .0009; MD: 0.01; CI: 0.01-0.02; heterogeneity: P = .004; I2 = 65%), suggesting that it promotes deterioration of the PMMA surface.

Conclusion: The alkaline peroxide, when used as a disinfectant, generated changes on the surface roughness of PMMA and should be used with caution; however, NaOCl, even at different concentrations, caused fewer changes on the surface of the denture base.

目的:本研究の目的は、複数の化学的洗浄方法にて消毒を行ったPMMAの義歯床の表面粗さに関する論文のシステマティックレビューを行い、そのアウトカムを解析することです。

背景:可撤式の義歯を清掃するための化学的消毒法は様々な物が論文で報告されていますが、PMMAの表面粗さについてのアウトカムを解析したシステマティックレビューはありません。

方法:PRISMAチェックリストが本システマティックレビューを構成するために使用されました。採用基準はin vitro、英語、化学的消毒がPMMAの表面粗さに与える影響を比較した論文です。PubMed/MEDLINE、Scopus、Web of Scienceの3つのデータベースを検索しました。さらに補綴、材料についての雑誌に記載された論文をマニュアルで検索しました。

結果:13のin vitroの研究が、今回のシステマティックレビューとメタアナリシスに採用されました。メタアナリシスによると0.5%、1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液間では有意差は認められませんでした。アルカリ過酸化物は統計的有意差を認め、PMMA表面の劣化を促進することが示唆されました。

結論:消毒薬として使用されるアルカリ過酸化物は、PMMAの表面粗さを変化させるので、使用には注意が必要です。しかし、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は異なる濃度であっても義歯床表面にあまり変化を起こしませんでした。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

PMMAは全部床義歯の製作時に最も一般的に使用されます。この材料は、審美性がよい、コストが安い、加工がしやすい、という特性があるため好まれています。補綴治療の成功は、機械的または化学的、その両方の併用により除去が可能であるバイオフィルムの操作に基づく衛生状態に依存しています。

主な化学的方法は、抗菌と洗剤成分の入った溶液に義歯を浸漬するものです。以前の研究では、次亜塩素酸ナトリウム、アルカリ過酸化物、クロルヘキシジンジグルコン酸塩は、微生物の量を減少するのに効果的であると報告されています。しかし、化学製品は義歯床表面に凹凸や穴を形成する可能性があり、バイオフィルムの除去が困難になるかもしれません。

より重要なのは、口腔衛生状態の悪化によって、義歯表面の凹凸は義歯性口内炎の原因となるCandida Albicansの集積を招くかもしれないことです。口腔衛生状態の悪化は、いくつかの論文で報告されているように、主に寝たきり、施設入所、免疫抑制などの患者において、誤嚥性肺炎、感染性心内膜炎、上部消化管への細菌のコロニー化、慢性閉塞性肺疾患のリスクを含む、全身状態の低下も起こします。

そのため、本研究の目的は、複数の化学的洗浄方法にて消毒を行ったPMMAの義歯床の表面粗さに関する論文のシステマティックレビューを行い、そのアウトカムを解析することです。化学的洗浄後にPMMAの表面粗さは変化しない、というのが仮説です。

方法

プロトコル:PRISMAチェックリストを使用

採用基準

論文の選択はPICOに従いデザイン
Population(P):PMMAを試験材料とする
Intervention(I):PMMAで出来た試験材料を異なる化学薬品で消毒する
Comparison(C):水道水に浸漬したPMMA試験材料と比較する
Outcome(O):表面粗さを測定する
本レビューのクエスチョンは、「化学的消毒は義歯床用材料であるPMMAレジンの表面粗さを変えるかどうか?」です。

採用基準
(a):臨床試験(ランダム化、前方、後方)
(b):in vitro
(c):英語論文
(d):化学的消毒製品(次亜塩素酸ナトリウム水溶液、アルカリ過酸化発泡義歯洗浄剤、グルタールアルデヒド溶液、クロルヘキシジン、酸、石けん、オイル)がPMMAの表面粗さに与える効果を比較

除外基準
(a):水道水を用いたコントロール群がない
(b):軟質裏装材への影響を評価した論文
(c):機械的、化学的方法を併用した論文
(d):リライン用レジンへの効果を比較した論文

論文収集

2人の著者が独立して、PubMed/MEDLINE、Scopus、Web of Scienceを検索
発表時期の縛りはなし
タイトルと要約から採用基準に該当するか判断し、2人の著者がリストアップしたものを3人目の著者が解析し、議論してコンセンサスを得る。
補綴、材料についての特定のジャーナル(the International Journal of Prosthodontics、Journal of Dental
Research、Journal of Oral Rehabilitation, Journal of Prosthodontics、 TheJournal of Prosthetic Dentistry、Dental Materials、Materials Science& Engineering)をハンドサーチ

データの収集

変数:著者、研究の種類、レジンの種類、重合過程、試験材料の数、化学消毒、消毒方法、消毒前後の表面粗さ、表面粗さに与える効果

バイアス

the JBI Critical Appraisal Checklist for Quasi-Experimental Studiesを使用してバイアスリスクを評価。

メタアナリシス

メタアナリシスをthe Mantel-Haenszel and inverse variance methodsに基づいて行いました。論文の表面粗さのデータは連続変数で平均差とそれに対応する95%信頼区間(CI)を用いて評価されました。MDの有意水準を5%としました。メタアナリシスは高い異質性を示し、ランダム効果モデルが採用されました。しかし、異質性に統計的有意差がなかった場合は、固定効果モデルが使用されました。

追加評価

審査者間の一致を評価するため、最初のデータベース検索で特定された研究の中から、Kappaスコアを用いて対象研究を選択し、議論を通じて同じ内容のコンセンサスを得ました。

結果

検索結果

データベースの検索から510の論文(PubMed/MEDLINE 156、Web of Scinece 208、Scopus 129)がピックアップされました。重複を除外した結果285の論文が残りました。タイトルと要約を読んだ結果、採用基準に該当したのは76でした。本文を読んだ後で63の論文が除外され、13のiv vitroの論文が今回のシステマティックレビューとメタアナリシスに使用されました。
審査者間のKappaスコアは、PubMed/MEDLINEが0.81、Scopusが0.85、Web of Scienceが0.85であり、審査者間の一致を示唆しています。カッパテストの結果から、審査員間の一致は「ほぼ完璧」という結果でした。

研究内容

全ての研究はin vitroでした。最も多く使用されていた加熱重合アクリルレジンはClássicoでした。重合方法は様々でしたが、水中浸漬などのコンベンショナルな方法が、多くの研究で最も使用されていました。477サンプルが次亜塩素酸ナトリウム、過酸化アルカリ水溶液浸漬されました。浸漬時間は60分から183日まででした。全ての研究でコントロール群として水道水を使用していました。表面粗さは全ての研究でマイクロメーター単位で計測されました。論文から集めたデータを表1、2、3に示します。

質の評価

殆どの評価項目がyesとなったため、リスクバイアスは低い、つまり研究の質は高い結果となりました。注目すべきは、選択されたすべての研究がin vitroであったため、追跡調査期間に関する質問が「該当なし」となったことです。

メタアナリシス

0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液

図2に示す通り、3つの研究が0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液がPMMAの表面粗さに与える影響を評価しています。全ての研究で、水道水と次亜塩素酸ナトリウム溶液間でのランダム効果に有意差を認めませんでした。

1.0%次亜塩素酸ナトリウム溶液

4つの研究が1.0%次亜塩素酸ナトリウム溶液がPMMAの表面粗さに与える影響を評価しています。メタアナリシスでは、統計的な有意差を認めませんでした。

アルカリ過酸化物溶液

5つの研究が、発泡アルカリ過酸化物がPMMAの表面粗さに与える影響を評価しています。統計的に有意さを認め、アルカリ過酸化物はPMMA表面の劣化を促進することが示唆されました。

考察

仮説である、化学物質による消毒後もPMMAの表面粗さは変化しない、は本レビューで否定されました。メタアナリシスの結果は、発泡アルカリ溶液への浸漬によりPMMAの表面粗さが変化する事を示しました。

2つの異なる濃度(0.5%、1.0%)の次亜塩素酸ナトリウム溶液は、細菌の付着量の減少とその結果として義歯性口内炎の臨床徴候の減少により、消毒効果のポテンシャルが示唆されました。次亜塩素酸ナトリウム溶液は溶媒として作用することで、脂肪酸の脂肪酸塩とアルコールへの変換を促進し、PMMAの表面を平滑化することができます。しかし、コストが安く簡単な方法でも、アクリルレジンの漂白の可能性を強調する必要があります。

対照的に、アルカリ過酸化溶液は、水道水のみ使用した群と比較して有害な効果を示しました。しかし、図4に示す通り、Al-Thobityらの研究がこの結果の大きな割合を占めていることは強調しなければなりません。この溶液ではバイオフィルムを除去することができず、表面粗さが大きくなったためとする著者もいます。この表面粗さの増加は、アルカリ過酸化物を作用させている間の酸素の放出に関連しているかもしれません。この化学的洗浄法は、機械的清掃とステイン除去の効果を促進します。

化学的消毒の目的は、義歯の機械的な物性を損なうことなく、義歯表面にコロニー化する細菌を非活性化することです。さらに、さらに、バイオフィルムの滞留が少なく、審美性が高いため、補綴物の寿命が延び、口腔内の健康に直接影響します。理想的には、義歯床のPMMAは、義歯として使用されている期間はコンスタントな化学的消毒に耐えることが出来るべきです。しかし、過去の文献に示されている微生物の蓄積を最小限に抑えるために臨床的に許容できるPMMAの表面粗さは<0.20μmです。この数値は、今回採用した研究の中ではHaghiらとOzilmazらの研究を除く、多くの論文で達成されていました。

加えて、機械的清掃も行われるべきです。機械的清掃は、ブラシと特定の石けんまたは歯磨剤を併用してバイオフィルムの除去を行うもので、義歯装着者にはいまだに最も一般的に行われている方法です。しかし、義歯はイレギュラーな形態をしているため、バイオフィルム除去という観点からこれらは疑わしいです。加えて、義歯装着の多くは高齢者で、しっかりと機械的清掃をすることができないような身体的な制約があるかもしれません。

表3に示す通り、消毒を謳った化学的な溶液には様々な種類があります。この種類の多さのせいで、他の溶液のメタアナリシスができない、または結論を得ることができませんでした。

消毒薬の構成、温度、浸漬時間など、様々な要因が化学消毒後の表面粗さに変化をもたらすことを考慮すると、このシステマティックレビューとメタアナリシスに含まれる研究のばらつきが強調されるべきです。今回採用した研究は、in vitro、異なる実験方法、多くの研究は同じ研究グループ、であり、これが結果に影響し、この研究の知見を限定するかもしれません。このことは、アプリケーションのプロトコルが類似している研究の必要性を強調しています。本研究にはいくつかのlimitationがあります。本研究はシステマティックレビューとメタアナリシスのプラットフォームであるPROSPEROに登録できませんでした。全ての研究がin vitroであり、口腔内の状況、pHとバイオフィルムが再現できないというのが理由です。したがって、PMMAで製作された義歯床が、化学消毒薬の使用と関連して、患者の口腔内環境や全身状態に基づいた完全な臨床反応を得るために、より多くのランダム化比較試験を実施する必要があります。

結論として、本システマティックレビューで得られた知見として、アルカリ過酸化物はPMMAの表面粗さの変化を起こすので、使用には注意が必要です。しかし、次亜塩素酸ナトリウムは異なる濃度でも義歯床表面にあまり変化を起こしません。そのため、著者は、日常診療で義歯を洗浄する際、機械的清掃法と併用して化学的消毒薬として次亜塩素酸ナトリウムを推奨しています。

まとめ

アルカリ過酸化物がPMMAの表面を劣化させる、これだけ聞けばかなり問題ですが、表2の結果をみてみると、浸漬時間もバラバラで結果もそこまで揃っている感じもないので、今後より統一化されたプロトコルでの研究が必要ではないでしょうか。この結果をメタアナリシスしたのが適切だったのか?という気もします。

次亜塩素酸ナトリウムでの義歯洗浄は、今回の結果から義歯の表面粗さに与える影響はあまりなさそうです。しかし金属腐食と漂白が起こりますので、パーシャルは不適ですし、毎日次亜塩素酸ナトリウムで洗浄し続けるのも問題がありそうです。ただし、リラインした義歯に0.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に1日3分90日間浸漬した場合、有意な色調変化は認めらなかった、という論文もあるので、漂白については0.5%程度なら問題ないのかもしれません。一方で、軟質裏装材などのケースでは、NaOClはリライン表面に凹凸を形成し、Candida Albicansの付着やバイオフィルムの形成量の増加などを起こすという報告があります。

今まで読んできた論文から、「機械的清掃だけでは義歯の洗浄は足りないので、化学的洗浄が必要。化学的洗浄で、義歯のバイオフィルム、総細菌数を減らすことができる。Candida Albicansに関しては減る、減らないという両方の結果がある。洗浄剤で最もメジャーなアルカリ過酸化物は義歯の表面を荒くする可能性がある。夜間の義歯装着は超高齢者の肺炎リスクを上昇させる。」という感じになるでしょうか。

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東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
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