普通の歯科医師なのか違うのか

セラミック冠の対合歯のwearに関するシステマティックレビュー(2024)

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

根尖性歯周炎と糖尿病、喫煙などの関連性について論文を読んできましたが、いちおう前回で一段落したということで、次は何を読もうかな?ということで、補綴学会の英語論文であるJPRのリストを読んでいたら気になる論文を見つけたので読んでみることにします。2024年のシステマティックレビューで、セラミック冠の対合歯のwearに関するものです。フリーアクセスです。

Dental human enamel wear caused by ceramic antagonists: A systematic review and network meta-analysis
Blanca I Flores-Ferreyra , Liliana Argueta-Figueroa , Rafael Torres-Rosas , Rosendo G Carrasco-Gutiérrez , Miguel A Casillas-Santana , Maria de Los Angeles Moyaho-Bernal
J Prosthodont Res. 2024 Jun 26. doi: 10.2186/jpr.JPR_D_23_00263. Online ahead of print.
PMID: 38925985

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38925985/

Abstract

Purpose: Fixed restorations and dental enamel have different structures that produce different wear on opposing teeth, resulting in clinical problems. Therefore, it is necessary to determine the type of restoration that causes less wear on naturally opposing teeth to make recommendations. The objective of this study was to systematically analyze the evidence from observational studies and clinical trials on enamel wear in different ceramic restorations.

Study selection: The designs of the included studies were randomized clinical trials (RTCs), non-randomized clinical trials (non-RTCs), and observational studies (OS). The studies must answer the research question, be available in full text, be written in English or Spanish, and have had at least six months of follow-up. Protocol number: CRD42023397759.

Results: After screening 499 records, 20 RTCs were subjected to data extraction, 10 were excluded, 10 were included in the systematic review, and only 5 were included in the network meta-analysis. The risk of bias assessment reported moderate to high risk of bias, quality, and certainty of evidence was evaluated and rated as moderate. Network meta-analysis showed higher enamel wear was observed in natural dental enamel against metal-ceramic antagonists.

Conclusions: Enamel wear occurs in all teeth, even when the antagonist is a natural tooth. The wear is larger on surfaces with the ceramic crown antagonists studied (metal-ceramic, glazed zirconia, and polished zirconia). It is necessary to conduct additional clinical trials with larger follow-up periods and sample sizes.

目的:固定性修復物とエナメル質は異なる構造であり、対合歯に異なるwearを起こし、結果的に臨床的な問題となります。そのため、天然歯の対合歯をあまりwearさせない修復物の種類を決定する必要があります。本研究の目的は、異なるセラミック修復でのエナメル質のwearについての観察研究、臨床試験からのエビデンスをシステマティックに解析することです。

研究の選択:研究デザインとしてランダム化臨床試験(RTCs)、非ランダム化臨床試験(non-RTCs)、観察研究(OS)を選択しました。研究課題に答えるものである、全文が入手可能である、英語またはスペイン語で書かれたものである、少なくとも6ヶ月の追跡期間があるものとしました。

結果:499の研究をスクリーニングした後に、20RTCsがデータ抽出の対象となりましたが、10が除外され、残り10をシステマティックレビューに採用しました。そのなかの5つのみをネットワークメタ解析に採用しました。バイアスリスクは中等度から高度であり、エビデンスの質、確実性は中等度と評価されました。ネットワークメタ解析では、天然歯のエナメル質と対合する陶材焼付鋳造冠により高度なwearが認められました。

結論:エナメル質のwearは、対合が天然歯であったとしても、全ての歯に起こります。セラミック冠(陶材焼付鋳造冠、グレージングしたジルコニア、研磨したジルコニア)が対合であった場合、よりwearが起こります。より長期のフォローアップと大きなサンプルサイズの臨床試験が今後必要です。

ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください

緒言

セラミックは、望ましい特性、良好な審美性、生体親和性、化学的安定性、機械的物性、耐久性などから、修復材料として広く使用されてきました。しかし、構造、硬さ、表面粗さの違いにより、対合の天然歯の咬耗に関していくつかの懸念があります。エナメル質はは高度に組織化され、プリズム状に配列しています。一方セラミックは、長石、リューサイト、二ケイ酸リチウムなどの異なる構造を有する材料です。これらは、ガラスマトリックス(非結晶質)と、マトリックスから外れやすく第3のボディとして機能し、表面完全性に影響を与える結晶性の詰め物から構成されます。他のセラミック材料、例えばアルミナ、ジルコニアは、結晶構造を有しており、結果的に、機械的、表面的な物性は異なります。異なる2つの構造物の接触、摩擦は特有の相互作用を起こし、結果的にwearが起こります。Wearは摩擦、pH、咀嚼頻度、咬合力、食習慣、修復に使用された歯科材料などの複合要因により起こります。エナメル質のwearは、臨床問題のトリガーになるかもしれません。例えば、咬合面の歯質組織のダメージと口腔内の垂直的な高さの減少は、咀嚼筋に影響を与えます。また、重度なwearにおいては審美性と知覚過敏に影響を与えます。

過去の研究では、in vitroの研究で異なる評価方法が用いられました。しかし、この種の研究では、口腔内の状態や歯の解剖学的構造を再現することは困難です。いくつかの要因が、対合歯により起こるエナメル質のwearに影響を与えるかもしれないことを報告しています。例えば、材料の性質、表面粗さ、表面処理などです。同様に、in vitroの研究では、研磨面は長石系ポーセレンよりもエナメル質のwearが少ないことが報告されています。in vitroの条件では、研磨したジルコニアはエナメルそのものよりも対合歯のwearが少ないと仮定すれば、患者においても起こるのかという疑問が出てきます。しかし、システマティックレビューでは、異なる研究デザインの結果を比較する事は適切ではありません。観察研究と臨床試験の結果の解析は、全ての研究がヒトで行われているため可能です。全ての研究デザインと妥当ではない比較基準によるシステマティックレビューでは、不正確な結論に至るかもしれません。これを防ぐため、コントロール群と介入群でのエナメル質のwearの計測を比較基準とし、介入群間でのメタアナリシスが必要です。臨床家の材料選択と患者に天然歯の対合をwearしにくい材料についての情報提示に、本解析は有用かもしれません。そのため、本研究の目的は、異なるセラミック修復でのエナメル質のwearについての観察研究、臨床試験からのエビデンスをシステマティックに解析することです。

実験方法

プロトコルの登録と報告

システマティックレビューは、the International Prospective Register of Systematic Reviews databaseに登録されました(登録番号 CRD42023397759)。報告には、PRISMAとCochraneハンドブックに従いました。

採用基準

採用基準はPICOにより定義しました。ランダム化臨床試験(RTCs)、非ランダム化臨床試験(non-RTCs)、観察研究(OS)から採用しました。研究課題に答えるものである、全文が入手可能である、英語またはスペイン語で書かれたものである、少なくとも6ヶ月の追跡期間があるものとしました。採用基準は18歳より上の成人で、上顎または下顎の小臼歯、大臼歯に全部被覆冠を必要としており、ジルコニア、二ケイ酸リチウム、陶材焼付鋳造冠の全部被覆冠の最低でもどれかを含むものとしました。加えて、修復歯の対合歯である天然歯のエナメル質wearと、コントロール群であるエナメル質ーエナメル質のwearを決定する必要があります。インプラント支持の全部被覆冠、ケースレポート、レター、短報、in vitroの研究、動物実験、スコーピングレビュー、システマティックレビューは除外しました。

検索方法

2023年の2月と3月にオンライン上で文献検索をしました。パブリッシュされた時期に制限は設けませんでした。Google Scholar、PubMed、ClinicalTrials.gov、Scopus、Web of Scienceの5つのデータベースに使用した検索キーワード等を表1に示します。

選択過程

タイトルと抄録を読んで採用文献を決定しました。次に、採用基準に適合した文献の全文を2人の研究者が査読し、2人に不一致があった場合、3人目の研究者がそれを解決しました。採用基準に該当しないものは理由付きで除外しました。

データ収集

標準化したワークシートを採用した文献からのデータ登録用に作製しました。データの抽出は2人が独立して行いました。発行年、著者、デザイン、母集団、サンプルサイズ、介入方法、比較対象(コントロール群)、主アウトカム(エナメル質のwear)、副アウトカム(修復物のwear)情報を抽出しました。データが欠損している場合、文献の責任著者に連絡を取りました。

リスクバイアスと正確性の評価

2名の研究者がバイアスリスクの評価を行いました。非ランダム化臨床試験にはROBINS-Iツールを、ランダム化臨床試験にはRoB 2.0を用いて評価を行いました。研究の質の評価は、the Confidence in Network
Meta-Analysis (CINeMA)を用いました。見解の不一致は、話し合いによる同意で解決しました。

効果測定と合成法

主アウトカムの効果測定は平均差としました。2名の研究者が、採用した文献のそれぞれの主アウトカムについての定量的な知見を要約するための表を作成しました。

データを、全部被覆冠の材料、ジルコニア、二ケイ酸リチウム、陶材焼付鋳造冠によりグループ化しました。定量的合成を行うために、フォローアップ期間を考慮しました。主アウトカムは、エナメル質のwearであり単位はミクロンとしました。ミクロン以外の単位で計測している文献はミクロンに変換しました。垂直方向の高さのロス(μmとSD)である主アウトカムの平均値を用いてネットワークメタ解析を行い、異質性はƮ2で計算しました。直接推定と間接推定との間の矛盾を推定しました。各研究で異なるバイアスリスクが存在する場合、同期した結果の頑健性を検討するために、感度解析を行いました。直接推定値と混合推定値(ネットワークメタ解析)を示す比較一覧表を作成しました。さらに、Bayesianランダム効果モデルのフォレストプロットと順位確率グラフを累積順位曲線下曲面(SUCRA)で表しました。RとCINeMAを統計処理とネットワークメタ解析の図の生成に用いました。

報告バイアスの評価

出版バイアスの評価のために、もし充分な文献数が揃えば、ファンネルプロットの非対称性と尤度比検定を行う事を計画しました。

結果

文献選択

オンラインの文献検索で最初に527の文献を抽出しました。また、ハンドサーチで2つの文献も発見しました。それらの中で28が重複していました。残った499のタイトルと抄録を検討した結果、479を除外しました。20の文献について全文を検討しましたが、10を以下の理由で除外しました。3つがデータの重複、6つが比較対象がない、1つが基準に該当した適切な比較対象ではなかったため、除外となりました。最終的に10の文献が定量的な同期に採用されました。そのなかの3つがランダム化臨床試験、2つが部位別のランダム化臨床試験(おそらく左右で片方が修復歯、片方がコントロール)、3つが非ランダム化臨床試験、2つが部位別の非ランダム化臨床試験でした。5つの結果のみが定量的同期(ネットワークメタ解析)に使用されました。PRISMAのフローチャートを図1に示します。

研究の特性と各研究の結果

本システマティックレビューに含まれる研究は最低でも6か月のフォローアップ期間で最長は36か月でした。全ての研究で、比較対象としてのコントロール群を有していました。コントロール群は、対側または対側の対合歯のエナメル質/エナメル質咬合の天然歯から構成されています。2つの研究では、天然歯の対合歯に小さい修復物は認められていましたが、咬合接触はエナメル質のみに限定されていました。

サンプルサイズは10~43人で、修復した全部被覆冠の数は13~60でした。年齢分布は18~73歳で、男女両方が含まれていました。

採用した研究は、以下の様なとてもよく似た被験者の特性を有していました。健康であり、進行性の歯周病やカリエスがない、良好な衛生状態、正常な唾液量、医学的、精神的、睡眠などの障害がない、顎関節症ではない、パラファンクション(ブラキシズム、グラインディング、クレンチング)がない。2つの研究のみ、咬耗スコア>2という特殊な採用基準が設定されていました。ある研究は筋痛とEMGによる筋活動を測定し、重度な筋活動の被験者は除外していました。3つの研究では、エナメル質形成不全、フッ素症、カルシウム代謝異常、骨粗鬆症の患者は除外していました。ある研究のみ、根管治療後の大臼歯、小臼歯を採用し、咬合力測定器でクレンチング能力を測定していました。2つの研究では歯冠歯根比が最低でも1:1であり、両側性のナソダイナモメーターを使用して咬合力を測定していました。

本レビューに含まれる修復物は、モノリシックの二ケイ酸リチウム冠、二ケイ酸リチウムにセラミック前装、陶材焼付鋳造冠、最も多かったのが研磨、ガラス化されたモノリシックジルコニア冠でした。トータルで309の全部被覆冠が本システマティックレビューに採用されました。

殆どの研究では、wearは垂直的な高さの減少(μm)で計測されていました。2つの研究のみがwearの体積(mm3)でした。ベースライン時の石膏模型とリコール時の石膏模型を比較する事で行われました。シリコーンゴム印象材で印象した後に、タイプ3,4の石膏、またはエポキシレジンを注入、3Dスキャナー、白色光、レーザーなどを使用してwearの情報を収集しました。2つの研究のみIOSを用いて情報を収集していました。他の2つの研究では、代表的なサンプルをSEMで解析していました。各研究の結果などについて表2に示します。

バイアスリスク

バイアスリスクに関して、ランダム化臨床試験の60%がいくつかの懸念があるに分類され、40%がデータ報告なしとSD値の点でハイリスクに分類されました。非ランダム化臨床試験では80%が中等度リスク、20%が深刻なリスクとなりました。バイアスリスクについて図2に示します。

エビデンスの確実性

上記したように、研究の質をCINeMAツールを用いて評価し、信頼度は中程度でした(表3)。

統合結果

5つの研究がメタアナリシスの採用基準に適合しました。ネットワーク構成を図3Aに示します。治療交互作用モデルを用いたランダム効果デザインに基づくグローバル検定はX2=0.731、P値:0.948であり、研究間の直接・間接エビデンスは一致しました。すべての直接および間接推定値間の矛盾のP値は有意ではありませんでした(表S1)。異質性はƮ2=33.36%で低い結果でした。

エナメル質のwearの平均値の差についての完全な結果と、介入のランキングを表4、図3B,Cに示します。感度解析は、全ての研究が同様なバイアスリスクだったため、行いませんでした。そのため、バイアスによって結果が変わるかどうかを判断することはできませんでした。

報告バイアス

研究の数が少ないため、Cochrane recommdationによる解析を行うことはできませんでした。

考察

エナメル質のwearは、食事のpHによって起こる酸蝕、歯と歯の間に存在する第3の物体(食事など)で起こる摩耗、咬合面の歯と歯の直接接触によって起こる咬耗など、様々なメカニズムが関与する自然な生理的プロセスであり、咬合高径、審美性、咀嚼機能、知覚過敏、顎関節症などを変化させます。天然歯のエナメル質は1年で29-38μm小臼歯部と大臼歯部ではwearすると報告されており、これは本ネットワークメタ解析の結果と一致します。

本研究で採用した文献のバイアスリスクは中等度から高度でした。研究デザインの長所は、測定がデジタルスキャニングとソフトウェアで行われた事、口腔内を分割したデザイン(一側が実験群、反対側がコントロール群)により、これらのデータをプールすることができました。

エビデンスの確実性をCINeMaツールを用いて評価しました。これはGRADEに基づいた評価法です。しかし、GRADE評価では、項目は直接エビデンスの適用にある程度基づいて構築されています。介入のネットワークに対するエビデンスの信頼性を評価することは、ペアワイズメタ解析よりも困難です。結果として、CINeMaツールは、利用可能なすべての直接比較の加重合計としてネットワークメタ解析から介入効果を推定するために使用されました。CINeMAの確実性が中程度であったのは、主にバイアスのリスクに起因しています。さらに、サンプルサイズの小ささや追跡期間の短さなど、他の要因もエビデンスの確実性を低下させる一因となった可能性があります。

エナメル質のwearに関して、硬い材料はより対合歯のwearをもたらすでしょう。しかし、構造安定性や表面粗さのように、より重要な要素があります。

陶材焼付鋳造冠によるエナメル質のwearについて有意差はなかったという報告があります。しかし、今回のネットワークメタ解析では、陶材焼付鋳造冠は対合歯の天然歯のエナメル質に大きなwearを生じる結果となりました。考えられる説明として、ベニアセラミックの構造であるガラス質マトリックスに結晶粒子が埋め込まれており、咬合荷重によって微小破壊が起こりやすいと考えられます。その結果、一部のガラス質構造の剥離が第3のボディとして機能し、結晶の露出が粗さを増大させ、表面のwearを促進するのかもしれません。

2番目にエナメル質のwearを起こしたのは、グレージングされたジルコニアでした。グレージング材料は不規則な表面を埋める非常に薄い層で、ガラス状でスムースな表面を付与します。しかし、急速に剥がれ、ジルコニアのラフな表面が露出しやすいです。

一般的に、二ケイ酸リチウム冠では結果について見解が統一されていません。ある研究では、大臼歯のセラミック冠の咬合面のwear体積平均値は、対合歯である天然歯より有意に小さかったが、反対側(コントロール群?)のwearと有意差はなかったと報告しています。対照的に、二ケイ酸リチウム冠の対合歯である天然歯のwearを対照群と比較した場合、統計的に有意な差が報告されています。

他にもシステマティックレビューがパブリッシュされています。しかし、それらの解析は本研究とは異なります。あるレビューでは、in vitroと臨床研究が混在しており、メタアナリシスを行う事ができませんでした。陶材焼付鋳造冠、グレージングされたジルコニア冠、研磨されたジルコニア冠に関するin vitroの研究を採用したメタアナリシスでは、研磨されたジルコニア冠が天然歯のエナメル質と同等のwearを示したと結論づけています。他のレビューでは、研磨されたジルコニア冠は天然歯のエナメル質と同等のwearであり、陶材焼付鋳造冠より小さかったと報告しており、本研究結果と一致します。

各文献で異なる結果となったもっともらしい理由は、フォローアップ期間かもしれません。修復物装着後12ヵ月間で初期のwearが起こり、2年後にはwearはあまり起こらなくなる事(Steady-State:定常状態)が示唆されています。修復物装着後、咬合が動的平衡に達するまでのエナメル質のwearは、1~2年の間に、より速いスピードで発生します。本レビューでは、データの欠落により、統計的に二ケイ酸リチウム冠によるエネ編める質のwearを比較する事ができませんでした。著者に問い合わせしましたが、回答はありませんでした。そのため、今後さらなる臨床試験が結論を導き出すのに必要です。

本研究のlimitationとして、メタルと対向したエナメル質のwearについての論文が含まれていません。セラミックは第1選択の修復材料ですが、陶材焼付鋳造冠はある状況下で強く推奨されることもあります。

エナメル質のwearは複合的なメカニズムであると考える必要があります。これは、個人特有の生理学的メカニズム、歯牙組織の特性、修復材料の構造に依存します。本レビューで採用した文献中にジルコニアの構造や組成などに関する情報はありませんでした。ジルコニアの結晶構造は世代によって変化します。臨床研究では、wearの結果とメカニズムをよく理解するために、修復材料の特性を記載することは重要です。加えて、エナメル質のwearに関するエビデンスを求めて、適切なサンプルサイズ、長いフォローアップ期間を設定したさらなる臨床試験が必要です。

結論

本レビューの結果に限定した結論は以下の通りです。全ての歯でエナメル質のwearは起こります。対合歯が天然歯であっても起こります。セラミック冠(今回扱ったのは陶材焼付鋳造冠、グレージングされたジルコニア、研磨されたジルコニア)の対合歯の方が、天然歯よりもwearが大きい事が示唆されました。wearは大きいものから陶材焼付鋳造冠、グレージングされたジルコニア冠、研磨されたジルコニア冠の順でした。臨床家は、患者の特徴に合わせた適切な材料を決定する選択基準として用いるべきです。そして、グレージングされたジルコニアよりも研磨されたジルコニアの方が好ましいです。エナメル質のwearメカニズムに関するエビデンスをより提供するために、適切なサンプルサイズとフォローアップ期間が設定された臨床試験が今後必要です。

まとめ

メタルーセラミックという英語を陶材焼付鋳造冠と訳してよいのか、という疑問は残りますが、今回の論文訳ではメタルーセラミックは全て陶材焼付鋳造冠と訳しております。

新しい統計手法である、ネットワークメタ解析というのが出てきましたが、今までのメタアナリシスだと2群間の比較しかできませんでしたが、3群以上の比較ができるものみたいです。ネットワークメタ解析について総説がネット上にありました。前提となるメタアナリシスの事もかなり簡潔に書いてくれていてありがたいです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hct/9/3/9_20-002/_pdf

今回ネットワークメタ解析を行った理由は、セラミック冠vs天然歯のwearを研究している論文の統合データから、各セラミック冠の比較を間接的に行うというものです。なるほど、確かにそれは普通のメタアナリシスでは無理です。

しかし、総説にも書いてあるとおり、今回の解析は以下の図2Bのような感じになっており、間接比較に完全に依存しており、間接比較が適切か検証することができない感じになってしまっていると考えられます。

なかなか解釈が難しい解析方法であること、5つの文献のみで行われている事などから、今回の結果が完全にコンセンサスが得られたものになるかはわかりませんが、今回の結果からすると、以前から言われているようにモノリシックジルコニアは徹底的に研磨しないといけませんね。

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