アブフラクションは終わった
NCCL編へ
今週の日曜日に去年クイントでNCCLの連載をされていた黒江先生のウェビナーを受講しました。クイントを読んだだけではよく理解出来ていなかった事の整理ができました。
来月には有料で第2回があるようですが、一体お幾らなのか・・・あまり高いと受講できないので、リーズナブルな値段だといいな、と思っています。
追記:1人2000円で7/19開催です。講演会と重なっており私は出席できません。
さて、自分がNCCLとしっかりと向き合っていないことがわかったので、NCCLに関してのエビデンスを求めて旅をしないといけないと思いました。ということでNCCLの論文を何本か集めてきました。まずはレビューあたりから読めばよいでしょうか?。後はそのリファレンス頼みという感じです。
Sejal Bhundia , David Bartlett, Saoirse O’Toole
Non-carious Cervical Lesions – Can Terminology Influence Our Clinical Assessment?
Br Dent J. 2019 Dec;227(11):985-988. doi: 10.1038/s41415-019-1004-1.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31844228/
Abstract
Introduction: Abfraction is a theoretical term used that has been classified as a type of non-carious cervical lesion (NCCL) and characterised by the microstructural loss of hard dental tissue in areas of high stress concentration. There is a lack of consensus among researchers and clinicians as to whether occlusal loading, particularly interferences or eccentric loading, generates sufficient tensile stress to be an aetiological factor in the loss of hard dental tissue at the cemento-enamel junction (CEJ).
Aim:This narrative review article assesses the evidence behind the theory of abfraction.
Results: It is difficult to control all influencing factors in a clinical trial making it challenging to generate sufficient evidence to conclusively support the theory of abfraction. There is limited evidence occlusal forces are an aetiological agent in noncarious cervical lesion development. However, if occlusal forces do play a role, the term non-carious cervical lesion is more reflective of the limited role it may play and a multifactorial aetiology.
Conclusion:The term ‘abfraction lesion’ remains misleading and could be removed from our diagnostic vocabulary.
緒言:アブフラクションはNCCLの1タイプとして分類される理論的な用語で、応力が集中する硬組織における微細構造の欠損によって特徴づけられます。咬合力による負荷、特に干渉や予期せぬ負荷でCEJの硬組織が欠損する原因となり得るだけの引っ張り応力が発生するかどうかは、研究者や臨床家の中でコンセンサスが得られていません。
目的:アブフラクション理論の背景となるエビデンスを調査することです。
結果:アブフラクション理論を最終的に支持するに十分なエビデンスを生むために行われる臨床的な試行の中で全ての影響する因子をコントロールすることは難しいです。咬合力がNCCLの進行に寄与する限られたエビデンスがあります。しかし、もし咬合力が主原因であるなら、NCCLという用語は、咬合力は限局的な役割で多因子的な病因である事ををより反映するでしょう。(上手く訳せていませんが、おそらく咬合力は主原因ではないという事を強調したい文章だと思います)
結論:アブフラクションという言葉はミスリーディングであり、診断に用いるボキャブラリーから削除した方がよいかもしれません。
レビューなのでほぼ全訳しています。かなり英訳が難しい部位があり文脈等から意訳しています。それが合ってるかはわかりませんので、疑問に思われた方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。仮定法や関係代名詞が多い文章は難しいです。
緒言
NCCLは酸蝕を伴う、または伴わない歯磨きと歯磨剤による摩耗により生じると考えられてきました。1984年にLeeとEakleが歯頸部の欠損に関して、後にアブフラクションと言われる仮説を提唱しました。彼らは、咀嚼や不正咬合による引っ張り応力の結果、歯頸部に欠損が起こると主張しました(文献4)。摩耗と酸蝕による円滑で丸い欠損は、楔状で歯頸部に起こる欠損と区別されました。図1に示すような歯の破折がマイクロクラックを助長すると推測されました。
歯頸部は歯の弱い部位として長い間指摘されてきました。エナメルが薄く、無機質が少なくタンパク質が多く、Lynchらは歯頸部はハンターシュレーゲル条の密度が低いと報告しています。歯頸部固有の弱さは、咬合力の支点となり、形態的な明確な領域の出現に寄与する因子として認識されました。McCoyも歯磨きによる摩耗に疑問を呈し、ブラキシズムがCEJの欠損の主な病因であると提案しました。
LeeとEakleは3症例のケースレポートを根拠として咬合力とエナメル破折がNCCL形成の主原因であると述べました。症例の選択バイアスやデータの欠如、サンプルサイズの少なさ等問題があるにも関わらず、現在まで妥当であるかという根本的な議論が存在しています。彼らは歯頸部に作用する咬合力は限局的であり、鋭角的な形態は咬合力の方向と一致すると主張しました。摩耗が主原因であるなら、単一領域での発生はおかしいでしょう。また歯ブラシの毛が届かないような歯肉縁下の領域にも認められました。
Grippoはこの部位をラテン語でabとfractioという両方とも離脱を表す言葉を用いてアブフラクション領域と名付けました。また、周期的な歯軸方向ではない力によってCEJに特化して起こる硬組織の欠損であると定義しました。この理論は時流を得て、本当にこれが正しい病因なのかどうかを決定するだけのデータが無いままに、さらなる臨床的な特徴付けが行われました。Sarodeらはこの理論が証明されたわけでもないのに、アブフラクションは浅い溝から大きく楔状の形態まで起こると報告しています。
アブフラクションの研究室におけるエビデンス
有限要素により色々な方向での咬合力による応力分布の解析が行われてきました。例えばReesらは小臼歯部モデルにおいて7つの異なるポイントで検討しています。Reesらは最も歯頸部に応力が集中するのは咬頭頂の傾斜を滑走している時に発生すること、単純に垂直的な咬合力では最少の応力であることを報告しています。歯軸方向ではない咬合力の負荷は歯頸部エナメル質への応力を増加することは他の有限要素における研究でも確認されています(文献10,11)
しかし、有限要素を用いた研究ではいくつかの限界があります。1番はデジタルのモデルであり、完全に口腔内の歯と一致するわけではないということです。咬合力のデータ入力なども口腔内の状況と一致していないと考えられます。第2に多くの有限要素モデルは二次元です。当然3次元モデルのほうがねじれ応力を解析するには適しています。第3に研究者達は様々な大きさの咬合力を使い、有限要素モデルの要素に色々な特性を割り当ててきました。例えば、ある研究者達はエナメルを等方性の物質だと考えました。一方でエナメル質は異方性と主張する研究者達もいました。エナメル質を異方性であると認識したとき、引っ張り応力や咬合力に対する高い耐久性を説明することができます。
デジタルモデルを使って物理的な機能を代行させようとすると普遍的な問題があります。エナメル質は歯頸部ではかなり薄いにも関わらず、エナメル質に焦点を当てる傾向があります。象牙質において有機物が多いということはエナメル質よりも効率的に咬合力に耐えられるということを示唆しているでしょう。しかし、ある有限要素の研究ではNCCLの深さが増すと、象牙質との接合部位の可能性がある最深部で応力が増加すると報告しています。
興味深いことに、NCCLは頬側メインで発生するという臨床的なエビデンスと矛盾して、有限要素の複数の研究において頬舌側同じ応力が発生するという報告があります(文献8,15)。
エナメル質、象牙質または全部の歯のサンプルにおいて研究室で咬合力を与えてものアブフラクションのような領域は再現できなかったということも価値ある発見です。
対照的に複数の研究者はin vitroにおいて鋭角的なNCCLを酸蝕と摩耗により再現しています。Dzakovichは咬合力を使用せずに歯磨剤による摩耗と水平的な歯磨きの繰り返しにより図2のような鋭角的なNCCLを再現しています(文献16)。
最近の研究では、歯質の欠損は歯磨剤の摩耗性と歯ブラシの硬さに依存すると報告しています(文献17,18)。歯周病学的に歯ブラシの毛先は歯肉縁下に到達しプラークを除去するということも確立されてきました。
そのため、歯肉縁下におけるNCCLの形成は予期できるものです。特に酸による要因が関与する場合はそうです。1本の歯のみに時々起こる限局したNCCLは興味深い現象です。歯の元々の弱さによるものですが、予期しない咬合力の役割に関する議論もあります。摩耗と酸蝕による相互作用を調べる方が咬合力と摩耗の相互作用を調べるよりも簡単であるという事実によって、研究室でのエビデンスはバイアスがかかっています。
咬合力と摩耗の相互作用について調べた唯一の論文では、摩耗に加えて45kgの歯軸方向の持続荷重または小臼歯頬側咬頭への45kgの断続的な非歯軸方向の荷重を用いて検討しています。歯軸方向への荷重は歯頸部欠損の現象と相関しましたが、微少破折に関するエビデンスは認められませんでした。しかし、この研究はかなりサンプルサイズが少なく、咬合力負荷と歯ブラシによる摩耗が同時に行われており、現実的ではないシチュエーションであると言えます(文献20)。さらなる研究が必要です。
最後に、顕微鏡で診査した場合、微少破折に関して非常に限定されたエビデンスが存在します。WalterらはSEMと共焦点レーザー顕微鏡を用いて42本の歯で19箇所の楔状欠損と23の皿状欠損を観察しました。微少破折単独は観察されず、楔状欠損を有するものは摩耗による欠損の傾向が認められました。摩耗の徴候とは硬化象牙質と中空の象牙細管が観察されることです(文献21)。
アブフラクションの臨床的エビデンス
理論的にはブラキサーであること、それにより起こる咬合干渉はアブフラクションを引き起こすはずです。しかし、疫学研究においてそういった一貫性は認められません。ブラキシズムとNCCLとの関連性を調べた研究の多くは摩耗と酸蝕因子がコントロールされていません。
280人の歯学部学生を用いてブラキシズム、側方干渉、非作業側の干渉等がNCCL発生と関連するかを調べてコントロールスタディが最近報告されています。この研究ではNCCLの発生は咬合だけでは説明できないと結論づけています(文献24)。一方で歯磨きと食生活に関してのデータも収集していましたが、彼らは不幸にも回帰分析のためにデータをコントロールしていませんでした。
ある14年間歯の欠損を分析してきたケースレポートでは咬合面と歯頸部の欠損が強い相関を示す事を報告しています。しかし相関は因果関係ではなく、同じリスクファクターが関与していることを示唆しています(文献25)。
全ての因子を検討した研究では、過度の歯磨き習慣と咬合要因は同じ様なオッズ比であり、同程度のリスクであると報告しています(文献26,27)。264名が参加したものでは1日3回歯磨きをする場合のオッズ比は8.79、ブラキシズムを自覚している場合のオッズ比は4.23でした。
ブラキシズムと咬合は相関しないという論文もあります(文献28)、しかし、咬合接触領域のような咬合の関与を示唆する論文もあります(文献29)。対照的に3000人以上の被験者を用いた研究では頬舌側のNCCL発生は歯磨き習慣は相関せず、酸性食品摂取が相関しました(文献30)。この研究では咬合要因の寄与は調査されていません。
2つのシステマティックレビューにおいて、咬合とNCCLの発生の関連を支持するエビデンスはないと結論づけています(文献31,32)。しかし、両研究ともにバイアスの存在と交絡のコントロール不足を指摘しています。
おそらく、最も興味深い臨床的な事実は、発掘された頭蓋骨の歯列を調べている人類学の研究者達が、NCCLを現代病であると考えている事です。現代のような歯磨きや歯磨剤使用がなかった時代の頭蓋骨には重度の咬合面摩耗は存在していましたがNCCLは認められませんでした。この結果から人類学者達はNCCLの原因としての咬合要因に疑問を呈するようになりました。
結論
NCCLは多因子性であるというのは疑いようがありません。臨床的なNCCLの出現は研究室による実験で摩耗と酸蝕の複合により再現されています。咬合力、特に予期せぬ咬合負荷はNCCLの進展に影響を与えるかもしれません。しかし、NCCL発生の実質的な役割を支持するに充分なエビデンスは存在せず、アブフラクションという言葉は誤解を招く用語です。もし、摩耗の定義が歯と歯が接触する結果起こる全ての歯の欠損であると拡大されるならば、酸蝕による歯の欠損の用語の中にアブフラクションは必要無いかもしれません。理想的には咬合やブラッシング、食事などのデータを詳細に診査したより多施設で大きな規模の研究がこの関連性を決定するために必要でしょう。
まとめ
正直、ここまでアブフラクションを肯定する論文がなく、否定する論文ばかりでアブフラクションを信じるわけにはいかないと思います。
私も大学院生ぐらいの時にアブフラクション理論に遭遇してそのまま20年近く知識をアップデートせずにそのまま使っていました。
多数歯のWSDをみると、噛み合わせが原因かもしれません、なんて説明して側方滑走みてみたりしていました。
しかしよく考えてみればそんな多数歯に同時発生するような咬合が簡単に存在するわけがないと思います。歯並びが悪いのに一切起こらない人も数多くいるわけですから。
黒江先生のクイントの連載を読んで、アブフラクションはないな、と思いながらもやはり自分で読んで再度確認しました。
アブフラクションは幻想だった
そう結論づけるに充分なレビューでしたが、これだけでは気が収まらないので、以下の文献リストから適当につまんだりして何本か読んでいきたいなと思っています。システマティックレビュー2本は読むべきでしょうね。
文献リスト
文献4 Lee W C, Eakle W S. Possible role of tensile stress in the aetiology of cervical erosive lesions of teeth. J Prosthet Dent 1984; 52: 374–380. DOI: 10.1016/00223913(84)90448-7.
文献8 Sarode G, Sarode S. Abfraction: A review. J Oral Maxillofac Pathol 2013; 17: 222–227. DOI:10.4103/0973-0029X.119788.
文献10 Palamara D, Palamara J E A, Tyas M J, Messer H H. Strain patterns in cervical enamel of teeth subjected to occlusal loading. Dent Mater 2000; 16: 412-419.
文献11 Guimarães J C, Guimarães Soella G, Brandão Durand L, Horn F, Narciso Baratieri L, Monteiro S, Belli R. Stress amplifications in dental non-carious cervical lesions. J Biomech 2014; 47: 410–416. DOI: 10.1016/j. jbiomech.2013.11.012.
文献15 Bartlett D W, Shah P. A critical review of non-carious cervical (wear) lesions and the role of abfraction,erosion, and abrasion. J Dent Res 2006; 85: 306–312.
文献16 Dzakovich J J, Oslak R R, In vitro reproduction of noncarious cervical lesions. J Prosthet Dent 2008; 100:1–10.
文献17 Sabrah A H, Turssi C P, Lippert F, Eckert G J, Kelly A B, Hara A T. 3D-Image analysis of the impact of toothpaste abrasivity on the progression of simulated non-carious cervical lesions. J Dent 2018; 73: 14–18. DOI: 10.1016/J.JDENT.2018.03.012.
文献18 Turssi C P, Binsaleh F, Lippert F et al. Interplay between toothbrush stiffness and dentifrice abrasivity on the development of non-carious cervical lesions. Clin Oral Investig 2019; 23: 3551–3556.
文献20 Litonjua L A, Bush P J, Andreana S, Tobias T S, Cohen R E. Effects of occlusal load on cervical lesions. J Oral Rehabil 2004; 31: 225–232.
文献21 Walter C, Kress E, Gotz H, Taylor K, Willershausen I,Zampelis A. The anatomy of non-carious cervical lesions. Clin Oral Investig 2014; 18: 139–146. doi: 10.1007/s00784-013-0960-0960.
文献24 Alvarez-Arenal A, Alvarez-Menendez L, Gonzalez-Gonzalez I, Alvarez-Riesgo J A, Brizuela-Velasco A, deLlanos-Lanchares H. Non-carious cervical lesions and risk factors: a case-control study. J Oral Rehabil 2019;46: 65–75. DOI: 10.1111/joor.12721.
文献25 Pintado M, DeLong R, Ko C, Sakaguchi R, Douglas W. Correlation of noncarious cervical lesion size and occlusal wear in a single adult over a 14-year time span. J Prosthet Dent 2000; 84: 436–443.
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文献27 Bader J, Mcclure F, Scurria M, Shugars D, Heymann H. Case-control study of non-carious cervical lesions,Community Dent Oral Epidemiol 1996; 28: 286–291.
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