普通の歯科医師なのか違うのか

喫煙により根尖性歯周炎の治癒が阻害される(2024)

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回読んだ糖尿病と根尖性歯周炎の関連性についての論文中に、喫煙と根尖性歯周炎の関連について記載があったので、今度はそれを読んでみることにしました。喫煙は歯周病など口腔内疾患のリスクファクターと言われていますし、インプラント治療の失敗原因になると言われています。ただし、根尖性歯周炎は主に骨内に発生するものであり、口腔内に多くが露出しているわけではありません。喫煙の影響がどれぐらいあるというのでしょうか?

Impact of Smoking on the Healing of Apical Periodontitis after Nonsurgical Endodontic Treatment
Ema Paljevic , Ivana Brekalo Prso , Jelena Vidas Hrstic , Sonja Pezelj-Ribaric , Romana Persic Bukmir
Eur J Dent. 2024 Feb;18(1):124-130. doi: 10.1055/s-0043-1761451. Epub 2023 Mar 28.
PMID: 36977477

Abstract

Objectives: The aim of this prospective study was to compare the healing of periapical bone between smokers and nonsmokers after root canal therapy. The effects of duration and intensity of smoking on the healing rate of apical periodontitis were analyzed.

Materials and methods: Fifty-five smokers were included in this study. The control group consisted of healthy nonsmokers who matched the smoker group in age and sex. Only teeth with a favorable periodontal prognosis and adequate coronal restoration were included in the study. The periapical status of treated teeth was assessed using the periapical index system at follow-ups after 6 and 12 months.

Statistical analysis: The chi-squared test and Mann-Whitney U test were used to assess the changes in periapical index score at baseline and in subsequent time intervals between the two groups examining dichotomized and ordinal data, respectively. Multivariate logistic regression analysis was used to test the association of independent variables age, gender, tooth type, arch type, and smoking index with the outcome variable. The outcome variable was set as the presence versus absence of apical periodontitis.

Results: The analysis at 12-month follow-up revealed a significantly higher healing rate in control group than in smokers (90.9 vs. 58.2; χ2 = 13.846; p < 0.001). Smokers had significantly higher periapical index scores than the control group (p = 0.024). The multivariate logistic regression analysis demonstrated that an increase in the value of the smoking index significantly increases the risk of apical periodontitis persistence (odds ratio [OR] =7.66; 95% confidence interval [CI]: 2.51-23.28; p < 0.001) for smoking index < 400 and (OR = 9.65; 95% CI: 1.45-64.14; p = 0.019) for smoking index 400 to 799.

Conclusion: The results from this study show a lower rate of apical periodontitis healing in a group of smokers at 1-year follow-up. Delayed periapical healing seems to be associated with the cigarette smoking exposure.

目的:本前向き研究は、根管治療後の歯根周囲骨の治癒を喫煙者、非喫煙者で比較する事が目的です。喫煙期間と強度が根尖性歯周炎の治癒率に与える影響を解析しました。

実験方法:55人の喫煙者を本研究に採用しました。コントロール群は健康な非喫煙者で構成され、喫煙群と年齢、性別を適合させました。歯周病予後が良好で、歯冠修復が適切である歯のみを対象としました。periapical index systemを用いて、根尖周囲の状態を根管治療後6か月、12か月に評価しました。

統計処理:χ2検定とMann-Whitney U検定を用いて2群間の比較を行いました。多変量ロジスティック回帰分析を用いて、年齢、性別、歯種、アーチ、smoking indexを独立変数としたアウトカムとの関連性を検討しました。アウトカムは根尖性歯周炎のありなしとしました。

結果:12か月のフォローアップでは、コントロール群の方が喫煙群よりも有意に治癒率が高い結果でした。喫煙群は、コントロール群よりも有意にperiapical indexが高い結果でした。多変量ロジスティック回帰分析では、smoking indexが増加すると、根尖性歯周炎が残存するリスクが有意に上昇しました。smoking indexが400未満の場合、オッズ比7.66、95%信頼区間2.51-23.28、p<0.001、400~799の場合、オッズ比9.65、95%信頼区間1.45-64.14、p=0.019。

結論:本研究の結果から、1年間のフォローアップでは、喫煙群における根尖性歯周炎の治癒率が低いことがわかりました。根尖部の治癒遅延は喫煙への暴露と相関しているようです。

ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください

緒言

根尖性歯周炎は、根尖周囲の急性または慢性炎症であり、根管の細菌感染が原因で起こります。診断は、主に根尖部のX線透過性に基づきますが、時に臨床症状により行われます。根尖性歯周炎は慢性、無症状で存在することがあるため、有病率や負担を過小評価する可能性があります。

根尖部の骨の治癒には臨床所見でもレントゲン所見でも時間がかかり、局所的、全身的な素因により影響されます。喫煙は、全身的、口腔の健康にマイナスの影響を与える世界的な公衆衛生の問題として認識されています。喫煙習慣は、様々なメカニズムを通し、根尖の骨の治癒にマイナスの影響を与えるかもしれない修飾因子として示唆されてきました。栄養素と酸素レベルの減少により微小血管に影響を与え、歯髄の防御機構を制限し、壊死に至るかもしれません。喫煙は、線維芽細胞の機能不全とコラーゲン合成低下により組織修復を阻害します。また、免疫細胞機能を抑制し、全身的な免疫応答が強くなることで、感染への免疫応答を変化させるかもしれません。

2015年のクロアチア公衆衛生研究所の研究によると、クロアチアの喫煙率は高く、質問表では31.1%(弾性35.3%、女性27.1%)が煙草を消費し、27.5%が毎日消費しています。同様に、世界的にも喫煙は一般的な習慣であり、2020年時点で男性成人では32.6%、女性では6.5%が喫煙者であると推定されています。

喫煙が根管治療に与える影響について検討した過去の研究は横断研究で、異なる結論となっています。これらの研究では、歯に影響する歯周病や治癒に影響する糖尿病、社会経済因子などといった交絡因子の存在が考慮されていません。根尖病変の治癒には4年かかる事があり、病変が治癒しているかどうかが不明確であるため、横断的研究デザインでは治療成績の評価ができません。病変が持続しているのか治癒期にあるのか不明であるためです。

本研究の目的は、非外科的な根管治療後の根尖周囲の骨の治癒を喫煙群、非喫煙群で比較し、1年間のフォローアップにおいて、喫煙期間と喫煙ペースが治癒率に影響するかを調査することです。喫煙習慣は、根尖性歯周炎の治癒の延長、または治癒不良と関連すると仮説を立てました。

実験方法

本前向き研究は、クロアチアのリエカ臨床病院センターの歯内療法・保存科で実施されました。本研究の趣旨に同意した成人患者を被験者としました。

被験者

図1に被験者のリクルート、治療についてのフローチャートを示します。レントゲン的に根尖性歯周炎と診断された被験者のみが本研究に参加しており、厳密な採用、除外基準を適用しました。各々の被験者において、過去に治療されたことがない1本の歯の治療を行いました。FDIの健康質問表を使用して、混交状態のデータを収集しました。また、喫煙習慣、社会経済因子についても質問表を使用して収集しました。生涯で100本以上煙草を吸ったことがありますか?、現在喫煙していますか?という質問に、肯定的な回答した場合、その被験者を喫煙者として分類しました。smoking indexは、喫煙期間(年)と1日平均喫煙本数を使用して、長期間でのたばこの消費量を測定、計算するものです。非喫煙者、400未満、400~799、800以上でたばこの暴露量を分類しました。喫煙ペースは1日平均喫煙本数を用いて評価しまし、1日20本以上がヘビースモーカーとし、20本以未満は中等度と分類しました。2酸化炭素、コチニン(注:タバコの煙に含まれるニコチンが体内で代謝されて生成される物質)、ニコチンレベルが1日20本以上か未満かで違いが認められるため、カットオフ値を20本としました。全身疾患、または免疫応答、骨代謝に影響のある薬剤を服用している被験者は除外しました。元喫煙者、時々喫煙する者、妊娠中の患者、参加を拒否した者は研究から除外されました。コントロール群は、喫煙者群と年齢、性別がマッチする健康な非喫煙者で構成されました。年齢や性別は交絡因子として同定されませんでしたが、これまでの研究では、根尖性歯周炎の有病率は年齢とともに増加し、男性の方が高いことが観察されています。社会経済因子については、教育レベル、月収、自己評価、都会レベルの情報を得ました。

交絡因子を最小化するために、歯周病の予後が良好(5mm未満のアタッチメントロス、1/3未満の辺縁骨吸収)な歯のみが研究に採用されました。

方法

根尖性歯周炎は、臨床的、レントゲン写真の診査に基づいて診断されました。歯内療法専門医が、局所麻酔とラバーダム防湿を含むスタンダードな歯内療法のプロトコルに沿って根管治療を行いました。本研究に採用された歯には、レントゲン的な根尖から1mm以内で均一に根管充填された良好な根管治療、臨床的、レントゲン的に良好な適合の直接的、間接的修復が行われました。

辺縁骨吸収の解析には、ベースライン時、フォローアップ時のレントゲン写真を用いました。歯根長の1/3未満の骨吸収か、それ以上かで分類しました。

フォローアップ時の診査は根管治療後6か月、12か月に行いました。臨床的な歯の評価は、打診、触診、プロービング検査、修復物の検査を行いました。根管治療後、フォローアップ時に、標準化された根尖部のレントゲン写真を撮影しました。

根管治療歯の根尖部の評価は、the periapical index system(PAI)を用いて行いました。1人の標準化された評価者が、見本を元にPAIスコアを5段階に決定しました。複根歯の場合、最も高い値を採用しました。評価者間および評価者内一致のカッパ値は、それぞれ0.75および0.81でした。根尖性歯周炎が認められない場合、PAIスコアは1、2で、根尖性歯周炎が存在する場合、PAIスコアは3~5になります。臨床的に、無症状で、打診、触診に反応がないものを治癒と判定しました。

サンプルサイズの決定

Medcalcソフトウェアを使用し、過去に報告された喫煙者と非喫煙者の根尖性歯周炎有病率に基づいてサンプルサイズを決定しました。各群51名が最少サイズでした。ドロップアウト率を考慮して各群70名をリクルートしました。

統計処理はSPSS 26とMedcalc統計ソフトを使用し、有意水準は5%としました。正規性の検討にはKolmogorov–Smirnov検定を用い、正規分布ではない場合、ノンパラメトリックの検定を用いました。

χ2検定とMann Whitney U検定を用い、ベースライン、フォローアップ時のPAIスコアの変化を2群間で比較しました。多変量ロジスティック回帰分析を用い、独立変数を年齢、性別、歯種、アーチ(上顎か下顎か)、smoking indexとし、アウトカムとの関連性を検討しました。

結果

110名の患者が本研究に参加しました。女性78名、男性32名で18~66歳(中央値35.0、四分位範囲29-46)でした。各群の特徴について表1に示します。喫煙群、非喫煙群の比較で、ベースライン時の年齢、性別、歯種、社会経済因子、PAIスコアには有意差を認めませんでした。

平均では、喫煙群は1日12.22本(中央値12.0、四分位範囲5-20)の煙草を消費しており、彼らの多く(72.7%)は中等度の喫煙者に分類されました。喫煙期間は1~40年(中央値15.0、四分位範囲8-22)でした。

1日あたりの煙草の消費量は、女性と比較して男性の方が有意に多い結果でした。1日20本以上煙草を吸うヘビースモーカーも女性より有意に男性の方が多い結果でした。しかし、喫煙者群において、性別により根尖性歯周炎の治癒に有意差を認めませんでした。

χ2検定を用いて、6か月、12か月のフォローアップ時における喫煙群、非喫煙群の治癒率の差を検討しました(表2)。6か月後のフォローアップ時点では2群間に有意差を認めませんでした。逆に、12か月後のフォローアップ時点では喫煙群より、非喫煙群の方が有意に治癒率が高い結果となりました。

PAIスコアの比較においても、この点でのみ違いが見られました。12か月後の喫煙群は非喫煙群より有意にPAIスコアが高い結果となりました(表3)。

多変量ロジスティック回帰分析を用いて、年齢、性別、歯種、アーチ(上顎か下顎か)、smoking indexとアウトカムの関連性について検討しました。アウトカムは12か月後のフォローアップで根尖性歯周炎が治癒か、治癒していないかとしました(表4)。アウトカムと有意に相関したのはsmoking indexのみでした。smoking indexが上昇すると、有意に根尖性歯周炎の維持リスクの増大が認められました。smoking indexが400未満の場合、オッズ比7.66、95%信頼区間2.51-23.28、p<0.001、400~799の場合、オッズ比9.65、95%信頼区間1.45-64.14、p=0.019。

考察

我々の知る限り、本研究結果と比較が可能な喫煙と根尖性歯周炎の治癒の関連性を検討した過去の前向き研究はありません。しかし、過去に喫煙者における根尖性歯周炎の高い有病率を報告した横断研究(文献番号14、25-27)の知見と一致しています。本研究では、喫煙群と非喫煙群で治癒率に有意な差を認めました。喫煙のネガティブな効果は、喫煙習慣と歯周病治療後の治癒の関連性を検討した研究でも認められています。喫煙群における根尖性歯周炎の低い治癒率は、煙草の摂取が微少血管にあたえる悪影響、歯髄、根尖組織の防御機構低下、組織修復機能低下によるかもしれません。

いくつかの過去の研究では、喫煙強度と歯の喪失について検討しています。中年フィンランド人を用いた研究では、喫煙強度と歯の喪失に間に関連がある事が報告されています。この研究はコホートに基づき、喫煙の暴露量を1日に数煙草の箱数×年数で計測しました。歯の喪失の理由は特定していません。歯の喪失理由を考慮すると、喫煙強度と期間と、歯周病による歯の喪失は有意に相関しました。デンマークにおいて行われた研究において、煙草の本数と期間は、歯の喪失と正の相関を示しました。1日15本以上の喫煙を27年間以上続けている喫煙者は、一度も喫煙した事がない群と比較して、喪失歯数とオッズ比が増加しました。本研究ではsmoking indexを用いました。smoking indexが大きいと、非喫煙群より9.65倍根尖性歯周炎の残存リスクが高くなりました。根尖性歯周炎の残存は、最終的には歯の喪失に至るため、本研究の結果は、喫煙強度と期間が歯の喪失リスクになることを確認した過去の研究と一致します。

6か月後フォローアップ時のトータルの治癒率は40%で、12か月後は75%でした。臨床的、レントゲン写真的に根尖性歯周炎の徴候が認められない場合、治癒と判断しました。本研究のlimitationは、フォローアップ期間がやや短いということです。ヨーロッパの歯内療法学会は4年以上のフォローアップを推奨しています。Huumonenと Ørstavikは、非外科的な根管治療後2年までは統計的有意な治癒を示し、3、4年目はリコール率が低いが治癒傾向が確認された、と報告しています。

社会経済的な因子は全身、口腔の健康と関連し、健康関連変数を通じてその影響力を主張します。社会経済因子が低い人は、歯の喪失リスクが高いと報告されています。社会経済因子変数の交絡効果を避けるために、両群をテストし、社会経済因子に関して有意差がないことを確認しました。

治癒のアウトカムは、年齢や性別により影響を受けなかったので、本研究の結果は、非外科的な根管治療のアウトカムをに影響を与える因子を検討した他の研究と一致しています。

慢性的な歯内、歯周の炎症には、いくつかの共通の特徴があります。歯周病が根尖性歯周炎に与える影響を除外するために、歯周病の予後が良好な歯のみを対象としました。根尖と辺縁部の歯周病の関連性と喫煙が辺縁骨レベルに与える影響について検討した過去の研究があります。喫煙者と非喫煙者では辺縁骨レベルに有意差が認められ、喫煙者は辺縁骨がより吸収されていました。

本研究では、二次歯科医療で歯内療法を受けるのは、女性の方が多い結果でした。男性(29.1%)、女性(70.9%)はイーブンとはいえないため、交絡因子である可能性があります。これは、デンタルケアや定期検診への参加傾向が高い女性参加者の健康意識によるものかもしれません。

結論

著者が知る限り、本研究が厳密な採用除外基準を適用し、喫煙習慣と根尖性歯周炎の治癒の関連性について検討した前向き研究として初めてのものです。本研究の結果は喫煙習慣と根尖性歯周炎の治癒遅延には有意な関連が認められました。さらに、喫煙暴露が増加するほど、根尖性歯周炎の残存についてのオッズ比は上昇しました。喫煙は、根尖周囲の治癒を抑制または遅延し、喫煙者に関する臨床的な決断やガイドラインに影響を与える修飾因子かもしれません。

まとめ

喫煙と根尖性歯周炎については、糖尿病と根尖性歯周炎ほど論文の数が多いわけではなさそうですし、この論文を読む限り横断研究や後ろ向きのものが多いようです。本研究のような前向きの研究はまだ少ないようなので、今後の研究に期待するしかないですね。

根尖病変の大きさなども治癒に関係しそうなのですが、今回は検討事項には入っていないようです。

無症状の根尖病変がレントゲンで確認された場合に介入するかどうかは結構迷う所ですが、喫煙者か否かで介入するのを決める可能性もあるんだなあ、と思いました。まだこの論文だけではこういった事をいうのは尚早という感じですけどね。あえて治癒が悪いから介入しないという選択肢もありますかね?喫煙者の方が根尖病変が進行するリスクが高い、とかそういう論文があるかどうかでもまた変わりそうです。


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東京医科歯科大学卒業(47期)
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