CEJ下の象牙質は歯磨きで削れる
NCCL第2弾
前回読んだレビューからまあこれは読んだ方がいいでしょう、という要点的な文献を抜き出して読む事にしました。
前回のブログはこちら
今回読む論文は以下の通りで2018年の論文となります。歯磨きによる摩耗でNCCLが再現できるかどうか、という論文です。
Sabrah A H, Turssi C P, Lippert F, Eckert G J, Kelly A B, Hara A T.
3D-Image analysis of the impact of toothpaste abrasivity on the progression of simulated non-carious cervical lesions.
J Dent 2018; 73: 14–18. DOI: 10.1016/J.JDENT.2018.03.012.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29597039/
Abstract
Objectives: To investigate the effect of toothpaste abrasive level on the progression of non-carious cervical lesions (NCCLs) using 3D-image subtraction.
Methods: Upper first premolars were allocated into seven groups (n=16) of toothpaste/abrasive slurries: AZeodent113/ 5%, B-Zeodent124/10%, C-Zeodent103/15%, D-Sensodyne Pronamel, E-Crest Cavity-Protection, FCrest
Pro-Health-Whitening, and G-Deionized water (DIW). Teeth were mounted on acrylic blocks, and their root surfaces covered with acrylic resin, except for 2-mm near the cemento-enamel junction that was exposed to toothbrushing. Specimens were brushed with the slurries for 5000-, 15,000-, 35,000- and 65,000-strokes. Impressions were taken at baseline and after each brushing time, and then scanned by a 3D optical profilometer. Dentine volume loss was calculated by image subtraction software and subjected to mixed-model ANOVA and multiple comparison tests (α=0.05).
Results: No significant differences among slurries were observed at 5000 and 15,000. At 35,000, F showed higher loss than all other groups except C, which did not differ from the others. At 65,000, F (4.19 ± 3.29mm3) showed the highest loss, followed by C (2.33 ± 1.47mm3), which differed from all the other groups except B (1.85 ± 0.91mm3). Groups B, A (1.35 ± 0.65mm3), D (1.17 ± 0.48mm3), E (1.40 ± 0.68mm3) and G (1.12 ± 0.73mm3) did not differ from each other. Groups F and C showed significant increase of volume loss starting at 35,000, while B, A, D and E only at 65,000; no increase loss was observed for G.
Conclusions: 3D-image subtraction was able to quantify and differentiate tooth loss, but only at advanced stages. The progression of NCCLs was more evident and faster for highly abrasive slurries.
目的:3次元イメージ減法を用いて、NCCLの進展において歯磨剤による摩耗レベルの影響を調べることです。
方法:上顎第1小臼歯を使用する歯磨剤、研磨剤により7つの群(n=16)に分けました。それぞれの群はA群:Zeodent113/5%、B群:Zeodent124/10%、C群:Zeodent103/15%、D群:Sensodyne Pronamel、E群:Crest Cavity-Protection、F群:Crest Pro-Health-Whitening、G群:脱イオン水(DIW)です。
歯の歯根部分をCEJから根尖側2mmまでアクリル包埋しました。それぞれ歯磨剤または研磨剤を用いて、5000、15000、35000、65000ストロークブラッシングしました。歯磨き前と歯磨き後の印象採得を行い、それを3次元形状測定器で測定し、象牙質の摩耗具合を算出し、分散分析と多重比較を行いました。
結果:5000、15000ストロークでは各群間で有意差はありませんでした。35000ストロークではF群はC群を除く群と比較して有意に象牙質が摩耗していました。C群は他群と有意さはありませんでした。65000ストロークではF群は4.19 ± 3.29mm3と最も著明な摩耗を示しました。次がC群で2.33 ± 1.47mm3で、B群(1.85± 0.91mm3)を除く全ての群と有意差を認めました。A群、D群、E群、G群は互いに有意差を認めませんでした。F群とC群は35000ストロークで有意な象牙質の減少を認めました。B,A,D,E群は65000ストロークで有意な象牙質の減少を認め、G群では65000ストロークでも有意差を認めませんでした。
結論:3次元イメージ減法は歯質の欠損を定量化して識別することが出来ますが、ある程度進行している必要があります。
ここからは適当に抽出して要約しますので、気になった方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。
緒言
NCCLの発生や進展は異なるwearのメカニズムの相互作用で起こります。摩耗、酸蝕、アブフラクションです。ただし、アブフラクションの存在は未だに議論の対象で有り、システマティックレビューでは咬合力とNCCLとの関係性について肯定も否定もしていません。
歯磨きは歯頸部の摩耗と最も関連すると考えられます。研究室でのシミュレーションでは歯磨きは多因子の影響なしで楔状の欠損を引き起こすと報告されています。歯磨きに関する因子としては、歯磨剤、歯ブラシの毛の質、歯磨きの仕方があります。メタアナリシスでは、歯磨き頻度と歯磨き方法、歯ブラシの毛の硬さがNCCLと関連すると報告されています(文献9)。
研磨性の高い歯磨剤は、特に歯肉退縮して露出した歯頸部の象牙質に対して摩耗を加速する可能性があるという報告がありますが、NCCLの発生や進展における歯磨剤の影響力をクリアに決定した報告はありません。
本研究の目的は、NCCL進展を3次元形状測定器により測定解析する適性を調べ、またこの方法を用いて歯磨剤の影響を明らかにすることです。
実験方法
デザイン
歯磨き粉は6種類用意しました。Zeodentの研磨性が高い、中程度、低いもの3種類に市販されているもので、研磨性が低い、中程度、高いものを3種類用意しました。最後にネガティブコントロールとして脱イオン水を使用しました。
歯磨き回数は5000,15000,35000,65000回試行しました。
象牙質がどれぐらい摩耗したかをmm3で算出しました。また摩耗形状とその角度に関しても計測しました。
実験試料
200本の上顎第1小臼歯から状態の良いものを112本選択しました。スケーラーにて歯を綺麗にした後に1群16本ずつにわけました。2本ずつアクリル包埋し、1群で8セットを製作しました。CEJから2mm根尖側までを歯磨きするために露出しました。ブラッシング部位以外が摩耗の影響を受けないようにプラスチックのカスタムトレイをバキュームフォーマーで製作しています。
印象採得
歯磨き前のベースラインと歯磨き後の印象をシリコーンゴム印象材で採得しています。日本未発売のGCのエグザミックス NDS インジェクションという印象材です。
歯磨き
オーラルB40を歯磨きマシーンにセットして歯磨きをさせています。荷重は200gで歯磨剤を60ml使用しています。5000回というのは5000ダブルストロークという事みたいなので行って帰ってきて1回という計算になるようです。他の部分が摩耗しないようにプラスチックでカバーされているので、カバーされていないCEJよりの象牙質を磨く感じです。
計測方法
計測方法についても詳しく書かれていますが、今回は省略します。
結果
分散分析では歯磨剤の種類とブラッシング回数間の相互作用は有意に象牙質の体積減少に相関しました。
5000ストローク、15000ストロークでは全群間で有意差は認めませんでした。35000ストロークでは有意差を認めました。F群はA、D、E、G群と比較して有意に象牙質が減少しました。
65000ストロークにおいてもF群は最も象牙質が減少し、他の全ての群と比較して有意差を認めました。C群はA、D、E、G群と比較して有意に象牙質が減少しました。A、B、D、E、G群はそれぞれの群間で有意差を認めませんでした。
ストローク回数による象牙質の減少に関しては、A群の65000ストロークは5000ストロークよりも有意に象牙質が減少しました。
B群では65000ストロークは他のストロークよりも有意に象牙質が減少しました。C群とF群では65000ストロークは他のストロークよりも、35000ストロークは5000,15000ストロークと比較して有意差を認めました。D群は65000ストロークと15000ストロークで有意差が、E群は65000ストロークが5000,15000と比較して有意差を認めました。G群のみ有意差を認めませんでした。
摩耗形態と角度についてですが、高摩耗性の歯磨剤を使用した場合、角度が急で強い楔状の形態になっています。
歯磨き粉の研磨性(RDA)と体積減少、欠損角度に関してピアソンの相関係数を求めています。RDAは表1に記載されています。35000、65000ストロークではRDAと象牙質の体積減少は強い正の相関を示しています。角度とRDAは負の相関が認められます。(と文章には書いてありますが、表4をみるとRDAと体積減少は強い負の相関となっており、おそらく表が間違っているのではないか疑惑があります。volume lossとlesion angleの値が逆なのではないでしょうか?)
まとめ
今回のストロークは一体何年分になるのかな?と思いながら、読んでいましたが、考察中にはプラークをしっかり落とすためには歯面に1日15ストロークは必要であり、5000ストロークは1年分、65000ストロークは13年分という計算になっています。1日3回磨くとすると1回で5ストロークは指導としてはちょっと少なくないででしょうか?つまり65000ストロークは13年ではなくもっと早く達成される可能性が高い気がします。
研磨性が高い歯磨剤を使った場合には鋭角的な楔状欠損になりやすいという結果になっています。つまり楔状の欠損が多い人は研磨性の高い歯磨剤を使っていないかのチェックがまず必要かと思います。勿論それ以外の要素である、ストローク回数やブラッシング圧、毛の硬さなども考慮する必要があるかもしれませんが、今回の実験結果からはそこまでは言及できません。
研磨剤抜きでも65000ストロークも磨けばCEJより根尖側の象牙質は、1.12mm± 0.73mm3減っています。1mm3と考えれば2mm幅で磨いていてフラットな減り方がメインと考えると2×2×0.25mm程度は減っているイメージになります。これぐらいなら許容範囲でしょうか。研磨性の低い材料であればほぼ研磨材と同じぐらいの減り方を示しています。
ただし5000ストロークと15000ストロークで平均値が逆転している商品もあるので、この計測方法が本当に信頼できるものかどうかは少し?という感じもしないこともないですが、65000までいけば流石に数字がかなり違ってきます。
根面がかなり露出しているような歯周病の管理をしている場合には研磨性の高い歯磨剤は避けた方がよいと考えられます。
当然と言えば当然ですが、これはNCCL発生装置になりかねません。
また、鋭角的な楔状のNCCLが多い場合は研磨性の高い歯磨剤を使っているかもしれないので問診等でブラッシングの状態をよく把握する必要がありそうです。
咬合の影響がなくても歯磨剤+歯磨きだけでこの部位は十分削れるということがわかりました。
CEJ根尖側の象牙質は磨けば多少なりとも減ってしまうわけでこれはまず露出させない歯磨きの仕方を若い時から教えて行く必要があると感じました。硬いブラシでラフにゴシゴシ、研磨剤入りの歯磨剤を使用などというのは歯肉退縮させる+NCCL発生、悪化の可能性があるでしょうから、若いうちから行動変容させておくべきでしょう。
文献倉庫
文献9 P.A. Heasman, R. Holliday, A. Bryant, P.M. Preshaw, Evidence for the occurrence of gingival recession and non-carious cervical lesions as a consequence of traumatic toothbrushing, J. Clin. Periodontol. 42 (2015) S237–255.