歯磨きで歯ぐきが下がるのは本当? 2007年のシステマティックレビュー
前回、歯磨き頻度と虫歯が関連するかどうかについてのメタアナリシスを読みました。普段読んでいるメタアナリシスとは異なり、異質性があまりない結果で面白かったです。
さて、その引用文献に歯磨きと歯肉退縮の文献がありました。大変興味があるところなので読んでみたいと思います。ただし、論文が2007年でかなり古いのがネックだな、と思いながらpubmedを検索していたらもっと新しいレビューも見つけたので両方読んでみることとしました。
まずはJounal of Clinical Periodontologyの2007年のレビューです。
Does tooth brushing influence the development and progression of non-inflammatory gingival recession? A systematic review
P Sunethra Rajapakse , Giles I McCracken, Erika Gwynnett, Nick D Steen, Arndt Guentsch, Peter A Heasman
J Clin Periodontol. 2007 Dec;34(12):1046-61. doi: 10.1111/j.1600-051X.2007.01149.x.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17953693/
Abstract
Aim: The aim of this systematic review was to produce the best available evidence and pool appropriate data to evaluate the effect of tooth brushing on the initiation and progression of non-inflammatory gingival recession.
Material and methods: A protocol was developed a priori for the question: “Do factors associated with tooth brushing predict the development and progression of non-inflammatory gingival recession in adults?” The search covered six electronic databases between January 1966 and July 2005. Hand searching included searches of the Journal of Clinical Periodontology, Journal of Periodontal Research and the Journal of Periodontology. Bibliographies of narrative reviews, conference proceedings and relevant texts known to the authors were also searched. Inclusion of titles, abstracts and ultimately full texts was based on consensus between three reviewers.
Results: The full texts of 29 papers were read and 18 texts were eligible for inclusion. One abstract from EuroPerio 5 reported a randomized-controlled clinical trial [Level I evidence] in which the authors concluded that the toothbrushes significantly reduced recessions on buccal tooth surfaces over 18 months. Of the remaining 17 observational studies, two concluded that there appeared to be no relationship between tooth brushing frequency and gingival recession. Eight studies reported a positive association between tooth brushing frequency and recession. Other potential risk factors were duration of tooth brushing, brushing force, frequency of changing the toothbrush, brush (bristle) hardness and tooth brushing technique. None of the observational studies satisfied all the specified criteria for quality appraisal and a valid appraisal of the quality of the randomized-controlled trial was not possible.
Conclusion: The data to support or refute the association between tooth brushing and gingival recession are inconclusive.
目的:このシステマティックレビューの目的は、歯磨きの効果が非炎症性の歯肉退縮の発生や進行にどう影響するのかを評価するための適切なデータ収集とエビデンス構築です。
実験方法:成人において歯磨きに関連する因子が歯肉退縮の発生や進行を予知するか、というQに基づいてプロコールを作成しました。6つのデータベースにおいて1966~2005年の研究を検索しました。歯周病系の雑誌に関してはハンドサーチを行いました。3人のレビュアーの総意により研究を採用しました。
結果:29の研究が読まれ、18の研究が採用されました。1つの抄録はEuroPerio5のもので、18ヶ月以上の経過で歯磨きは有意に頬側歯肉を退縮させるという結論のRCTでした。残り17は観察研究であり、2つは歯磨きと歯肉退縮には関連性がなかったと結論づけています。8つの研究では歯磨き頻度と歯肉退縮に正の相関が認めれました。他の潜在的なリスク因子として歯磨き時間、歯磨きの強さ、歯ブラシ交換の頻度、歯ブラシの毛の硬さ、歯磨きテクニックなどがありました。観察研究は論文の質を満たすものはありませんでした。
結論:歯磨きと歯肉退縮の関連を支持、または否定するためのデータはまだ決定的ではありません。
ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
歯肉退縮は多くの成人に認められ、口腔衛生状態がよい人に認められる事から、解剖学的、医原的な因子に加えて歯肉炎、歯周炎のような病理に関連した因子が原因かもしれません。色々な要因の中で、不適切な歯磨きや歯磨き傷による可能性は、かなり前から認識されていました。しかし、この時代のクラシカルなペリオの教科書には歯列不正や歯槽骨の厚みが歯肉退縮に繋がる追加因子として認識していました(Glickman 1964)。歯肉退縮と加齢、口腔衛生状態良好には正の相関が報告されています。歯磨きが歯肉退縮の病因において重要かつ主要な役割を果たしていることを示唆している一方で、歯磨き自体が、圧力、時間、毛の種類、使用する歯磨剤など、可能性のある交絡と関連していると認識しています。
歯磨きに関する変数と歯肉の摩耗、浸食の関連性は短期間の臨床研究や、手動および電動歯ブラシの縦断的な研究で探究されてきましたが、やはり短期的なものでした。しかし、歯肉の軽微な擦過傷の発生がどの程度意味を持ち、率直な歯肉退縮の発生に関連するのかは、依然として不明であり、議論の的となっています。このように、歯磨きに関連する因子は、一般的に歯肉退縮の危険因子であると考えられていますが、これらの因子や、実際に個人の歯磨き様式が、歯肉退縮の発生を確信を持って予測できる範囲は不明です。
このシステマティックレビューの目的は、局所的な歯肉退縮の発生と進行における歯磨きの潜在的な役割を評価するために、入手可能な最良のエビデンスを探すことです。
実験方法
論文の採用除外基準
症例報告/専門家の意見[レベルIV]は除外され、レベルI~IIIのエビデンスレベルでの論文検索。
被験者が人であり、歯肉退縮の範囲を決定するための臨床的な診査が行われている。さらに歯磨き方法、歯肉退縮の評価、歯肉退縮の発生や進行に関連しそうな因子に関する評価が行われている研究をピックアップしています。
動物実験、歯肉退縮よりも歯肉の摩耗や浸食を見た研究、歯ブラシの比較研究、子供が含まれる、歯周病患者が含まれる、スポンサーがついたプラーク除去、歯肉炎解消に関する歯ブラシ効果に関する調査、電子顕微鏡を用いたものを含む組織学的な研究は除外されています。
論文の検索
1966~2005年の6つのデータベースを検索+歯周病系の特定の雑誌についてはハンドサーチしています。
論文の評価に関してはエビデンスレベルに応じて2つの基準を用いて評価しています。
結果
論文検索
最終的に18本の研究が該当しています。最も古いものが1976年、最近が2006年です。全ての研究で被験者、患者数が記載されていましたが、1つの論文は年齢の欠落がありました。17の研究はレベルIII観察研究です。3つの研究は臨床的な観察研究ですが、観察時間が異なっています。2つの研究は歯学部生の1年時と最終学年を観察しています。1つは歯肉退縮に関連する歯磨きのパラメーターを直接調査したものです。EuroPerio 5のみが縦断RCT(レベルI)でした。
各研究がバラバラのためメタアナリシスはできていません。
各研究の評価については省略します。
唯一のRCTであるEuroPerio 5の研究は109名の健康な被験者が参加しており、1日2分2回歯磨きをしますが、手動なのか電動なのかでランダムに2群に分類されます。被験者の条件は頬側に1箇所以上の明確な歯肉退縮がある人です。18ヶ月以上のフォローアップを経て、電動では歯肉退縮量の平均が0.68mm(標準誤差0.76mm)~1.58mm(標準誤差0.65mm)、手動での歯肉退縮量の平均減少値は0.54mm(標準誤差0.62mm)~1.28mm(標準誤差0.43mm)であったと報告しています。最終的に筆者は18ヶ月以上の歯磨きで有意に頬側の歯肉退縮が減少したと結論づけています。
他の17研究の主な検討事項は以下のようになります。
17のうち2つは歯磨き頻度と歯肉退縮には関連性がなかったと結論づけています。また、Kallsetal and Uhlinは歯磨きに関する全ての要因は歯肉退縮と関連しなかったと報告しています。この結論は妥当性が低い被験者へのインタビューと日頃の歯磨き習慣が分からないかもしれないクリニックでの観察に基づいています。
8つの研究では歯磨き頻度と歯肉退縮に関連を認めました。Vehkalahtiらは歯を1日1回以上磨く人はそれ以下の人と比べて歯肉退縮が進行するリスクがオッズ比2.1で有意であったと報告しています。1つしか研究がありませんが、3分以上歯磨きをする人は1分未満の人と比較して歯肉退縮の深刻度が約2倍でったと報告しています。歯磨きの強さとの関連性を示唆した2つの研究では、1つは歯磨きの強さを定量的に測定していました。Kozlowskaらは歯磨きの強さと歯肉退縮との関連性を指摘しましたが、質問形式での強い、中等度、弱いの3段階を採用していました。口腔衛生の高さと歯肉退縮との関連性を示唆した報告は3つありましたが、このアウトカムは歯磨きパラメーターのあくまで間接的にものに過ぎません。他には歯ブラシの硬さと歯ブラシ交換の頻度が歯肉退縮の進行に関わっているという報告がありました。
Serinoらによる論文では歯磨きは歯肉退縮の間接的な原因であるという示唆で全体的に結論が出ていません。口腔衛生状態が良好で、歯周炎の既往がない若年者において、頬側の付着物の減少が確認され、歯ブラシによる外傷が可能な要因としてのみ特定されました。
考察
検索の結果、主に観察研究が見つかりましたが、これでは危険因子と転帰の間の因果関係を決定することができません。今回集められたエビデンスは、低品質または中程度の品質としか評価されず、残念ながら、1件のRCTから得られる情報が限られていたため、品質を確信を持って評価することはできませんでした。
この1件のRCTも最初はアブストラクトとして発表されましたが、個人的なコミュニケーションとディスカッションを通じて著者からさらなる情報を得ることができました。この研究の目的は、電動歯ブラシ(D17U、Oral B Laboratories社)または手動歯ブラシ(ADA基準歯ブラシ)のいずれかを使用して、健康な被験者の頬側の歯肉退縮の重症度の変化を12ヶ月間にわたって観察することでした。本研究はOral B Laboratories社の支援と資金提供を受けて行われました。18 ヵ月後の追跡調査のデータが抄録に記載されており、どちらの歯ブラシも頬側のアタッチメントロスを有意に減少させ、この効果は比較的顕著な歯肉退縮のある部位でも明らかでした。これらの観察結果は、17 件の観察研究から得られた一般的な証拠と結論に相反するものでした。これは色々な要素によりクリーピングした可能性が考えられます。しかし、これは仮説であり、介入を受けていない対照群が存在しない研究では、測定バイアスの要素があった可能性も同様に考えられます。
我々は、17件の観察/横断研究から構築されたデータベースの質が、結論と勧告を行うための信頼性を著しく損なうことを認めます。これらの観察研究は、結果(歯肉退縮)と介入のある特性(歯磨き)の変化との間の関連性を示すものではなく、年齢、組織のバイオタイプ、過去の歯科矯正治療などの潜在的な交絡因子を標準化する試みがほとんど、あるいはまったくなされていない個人や集団の観察でした。
ポイント
今回集めた研究から、歯磨きと歯肉退縮の関連性を支持、または否定することは出来ない。
歯肉退縮に関連する歯磨き因子としては歯磨き頻度、テクニック、歯磨きの強さ、歯ブラシの硬さ、歯ブラシ交換頻度などが考えられた。
まとめ
正直、2007年の段階で殆どパワーのある論文がない、ということに驚きました。正直この論文でわかったのはこれだけです。確かに実験方法は難しいと思います。歯磨き全くするなでは炎症性の歯肉変化が起こるでしょうし、歯磨きは一般的に生活習慣ですから、介入するのもなかなか難しい所です。
次の論文は2015年なので8年間でどう変わったのかを見てみることにしようと思います。