CADCAM冠を義歯の鉤歯にするのは危険?
補綴の知識も更新していかないと
COVID-19の影響は大きい
新型コロナウイルスの影響で色々と大変でブログの更新をすっかり忘れておりました。色々な物が品薄になり確保に奔走したりと大変でしたが、ある程度備蓄することはできました。
今週からは知事の外出自粛要請をうけて予約をゴールデンウィーク以降に取り直したり、治療の必要がある患者さんも待合室が一杯にならないように少なく時間をずらして取ったりしておりまして、以前に比べて1日の患者数は相当減っております。そう、つまり暇になってきました。
当然収入も大幅ダウンで将来に対する不安が常にあるわけですが、私がやれることと言えばこの時間に勉強するか技工するかしかないわけで、また論文を読んでいこうと思った次第です。
CADCAM冠の治療が多くなっています
当院においてもCADCAM冠の治療頻度が多くなってきています。要因としてはやはり金銀パラジウム合金の高騰が一番です。1g2500円を超え、しかもさらに高騰するリスクがあるレアメタルを保険で使うのはもう限界ではないかと内心思っています。金銀パラジウムが使えないとなると銀合金かCADCAMの選択肢となりますが、銀合金の黒色化や点数の安さを考えるとCADCAMの比率が高くなるのは当然といえるでしょう。
CADCAM冠はまだそこまで長期の予後報告はないですし、自分も経験したことがないですから、患者さんに長く持ちますか?と聞かれてもそれはわかりませんとしか答えようがないです。というわけで少しでも論文を読んで勉強しようということです。
東北大学の論文
今回の論文は東北大学からの2019年の論文です。日本補綴歯科学会の英語誌であるJPR掲載です。
A possible risk of CAD/CAM-produced composite resin premolar crowns on a removable partial denture abutment tooth: a 3-year retrospective cohort study
J Prosthodont Res. 2019 Jan;63(1):78-84. doi: 10.1016/j.jpor.2018.08.005. Epub 2018 Dec 21.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30584052
Abstract
Purpose: To evaluate the early performance of computer-aided design/computer-aided manufacturing(CAD/CAM)-produced composite resin crown (CAD/CAM composite crown) treatment on premolars,specifically, placement on a removable partial denture (RPD) abutment tooth, and the distalmost tooth inthe dental arch, as possible clinical risk factors.
Methods: A retrospective cohort study (April 2014 to July 2017) was performed utilizing the clinicalrecords of patients who received a premolar CAD/CAM composite crown treatment. The variables of time of treatment for (1) successful crowns (complication event-free) and (2) surviving crowns (clinicallyfunctional including re-luted) were estimated using Kaplan–Meier analysis. Survival distributionsregarding “RPD abutment tooth” and “distalmost tooth” were analyzed with the log-rank test. Multilevelsurvival analyses were used to identify hazard ratios and associated risk factors.
Results: Five hundred and forty-seven crowns were evaluated (mean follow-up time 1.3±0.9 years) in327 patients. A total of 87 crowns had at least one complication, with loss of crown retention being themost common (70 crowns). Estimated success and survival rates at 3 years were 71.7% and 96.4%,respectively. The risk of complications was significantly higher for an RPD abutment tooth than for a non-RPD abutment tooth. There was no significant difference between the distalmost tooth and nondistalmosttooth in the dental arch.
Conclusions: The demonstrated complication rate for CAD/CAM composite crowns placed on premolarswas 15.9% over a period of up to 3 years. There was a substantial risk of complications with placement of such a crown on an RPD abutment tooth.
目的:小臼歯にCADCAM冠による補綴を行った際の早期のパフォーマンスについて評価することです。特に歯列最遠心の歯と義歯の鉤歯にした時に関しても評価しました。
方法:2014~2017年までの間に小臼歯にコンポジットレジンCADCAM冠の治療を受けた患者の診療録を調査する後ろ向きコホート研究が行われました。成功と生存についてKaplan-Meierの生存曲線による解析を行いました。。「部分床義歯の鉤歯」と「最遠心の歯」に関する生存分布に関してlong-rank testを用いて解析しました。さらにハザード比とリスク因子についての解析も行いました。
結果:327名の患者に行った547本の冠(平均フォローアップ期間1.3±0.9年)を評価しました。87本のクラウンに1回以上のトラブルを認めました。そのうち70本が脱離でした。推定される3年間の成功率は71.7%、生存率は96.4%となりました。部分床義歯の鉤歯の方が、鉤歯ではないCADCAM冠と比較して有意にトラブルになるリスクが高くなりましたが、最遠心か否かでは有意差は認めませんでした。
結論:小臼歯のCADCAM冠におけるセット後3年までにトラブルになる確率は15.9%以上となりました。CADCAM冠を部分床義歯の鉤歯とするのはトラブルになるリスクがあることがわかりました。
ここからはいつものように適当に抽出して訳していきますので、疑問に思われた方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。
緒言の一部
2014年に日本ではコンポジットレジンによるCADCAM冠が保険に導入されました。補綴学会が推奨するガイドラインでは小臼歯単冠に限定するべきということで、部分床義歯の支台歯や最遠心の歯への使用に関してはエビデンスはありません。
今回の研究の目的は、小臼歯におけるコンポジットレジンCADCAM冠の3年までの比較的短期予後に関して後ろ向き評価を行うことが第1です。第2の目的は部分床義歯の支台歯と歯列最遠心への使用と臨床的トラブルのリスク要因との関連を評価することです。
実験方法
東北大学歯学部のクラウンブリッジ部門で小臼歯単冠をコンポジットレジンCADCAM冠で補綴した患者の後ろ向きコホート研究をを行いました。3年以上の臨床経験を有する19名の歯科医師達が参加しました。技工指示書と診療録がデータの集積に使用されました。
CADCAM冠の作製
製作法はある程度画一的に行われています。
松風の形成用のバーを使用し、形成にはシリコンまたはワックスガイドを使用しています。さらにワックスまたはシリコンバイトで咬合面のクリアランスを確認しています。印象はGC社製のシリコーンゴム印象材をしています。
CADCAM冠の製作は東北大学の院内ラボと5つの院外ラボで行われています。
CADCAMのシステムは統一されておらず、Dental CAD/CAMGN-1: GC Corp., GC Aadva CAD/CAM system: GC Corp., S-WaveCAD/CAM system: Shofu Inc., 3Shape Scanner CAD D810, 3Shape,Copenhagen, Denmark, DWX-50 Dental Mill: Roland DG Corp.,Hamamatsu, Shizuokaと色々なシステムが使用されているようです。
使われた材料も複数種類あります。
支台歯に付着した仮着材を超音波スケーラーで除去。その後50μmのアルミナサンドブラストをCADCAM冠内面に散布後に適切な歯面処理+CADCAM冠内面処理を行っています。セメントはグラスアイオノマーセメント、レジン複合型グラスアイオノマーセメント、接着性レジンセメントが用いられました。
変数
性別
クラウンセット時の年齢(65歳以下、66歳以上)
修復歯の位置
最遠心の歯か中間歯か
義歯の鉤歯か否か
神経処置の既往
レジンブロック材料
CADCAM冠内面のシラン処理の有無
セメント材料
対合歯の状態(天然歯、修復し、義歯の人工歯)
術者の経験年数(10年以上かそれ未満か)
セット後の期間
成功:期間中特に何のトラブルもなく経過
生存:脱離再セットまたは研磨で対応できるぐらいのチッピングがあった場合
結果
414名の患者に679本のCADCAM冠をセットしましたが、フォローできない等の理由で離脱があり、最終的に327名の患者にセットした547本が対象となりました。
セット後のフォローアップ期間は1.3±0.9年で最大3.1年でした。
547本中部分床義歯の鉤歯が30本、最遠心の歯が28本でした。
87本のトラブルのうち脱離が最も多く70本、クラウンの破折が9本、他には歯の喪失や歯の破折等が認められました。
表2を見ると半年以内にトラブルの多くが起こっており、これはトラブルが発生するのが早すぎる気がします。セットしたクラウンの10%ぐらいが半年でトラブルですから、これは自分の臨床経験と一致しません。
上顎か下顎か、義歯の鉤歯か否か、セメントの種類がトラブル発生に有意に影響していることが分かりました。
Kaplan-Meier分析による3年後の成功率は71.7%、生存率は96.4%と推定されました。部分床義歯の鉤歯ではない場合の成功率は77.3%、生存率は97.9%でしたが、部分床義歯の鉤歯の場合は成功率が26.4%、生存率は77.3%でした。
部分床義歯の鉤歯か否かで生存率、成功率に有意差が認められました。
生存曲線をみると最初の半年で義歯の鉤歯の場合は20%程度も失敗となっており、さらに経時的にどんどん成功率が下がってしまいます。
ただし、生存率自体は80%程度あるので、脱離して再セット可能なことが多いと考えられます。
最遠心ではない場合の成功率は71.7%、生存率は96.5%でした。最遠心の場合は69.2%、生存率は95.2%であり、この場合は有意差が認められませんでした。
CADCAM冠の失敗リスクに関する因子についてですが、有意差が認められましたのは、上顎と比較した下顎、部分床義歯の支台歯でした。
考察
今回の研究ではCADCAM冠を部分床義歯の鉤歯にするとトラブルリスクが3.22倍という結果になりました。部分床義歯の鉤歯のトラブル確率は5.8~8.6%で5年間の成功率は88.0%、10年では80.7%という報告が有り、今回の研究では3年間で成功率が26.4%、生存率は77.3%はかなりトラブル確率が高いといえます。
生活歯か失活歯かで予後に有意差がなかったという報告は他にも同様な報告があるようです。以下の引用文献となります。
Wegner PK, Freitag S, Kern M. Survival rate of endodontically treated teeth
with posts after prosthetic restoration. J Endod 2006;32:928–31.
トラブルとしては脱離が最も多く、殆どのケースで再装着可能だったので成功率は低いものの生存率自体は高くなりました。冠の維持力に影響するのは接着操作、唾液のコンタミ、支台歯形態、適合度という報告があります。
セメントに関する考察は以下のような文章になっていますが、CADCAM冠が保険適応になったときには明確なガイドラインがなく、ある程度経ってから補綴学会からガイドラインが出てレジンセメントでセットするように推薦されたため今回の研究では複数のセメントが用いられたというちょっとした言い訳が書いてあります。
At a time when the CAD/CAM composite crown was approvedby the Japanese medical insurance system (April, 2014), a solidguideline regarding the cementation was not yet available;therefore, several types of luting agents, including a glass ionomercement, were used in this study. In another study, neither the typeof cement (glass ionomer cement versus self-adhesive resincement) nor the location of the crown (premolar versus molar)influenced the survival rate of the monolithic lithium disilicate ceramic crowns [28]. Kern et al. [29] also reported that glassionomer cement used in all-ceramic FPDs exhibited clinicallysatisfactory outcomes after 10 years of clinical use. In our study, themultilevel survival analysis showed no statistically significantdifference between the cement groups with regard to complications.This result was similar to that of the previous report [27,28].The use of glass ionomer cement and resin-modified glass ionomercement is less technique-sensitive as compared to the use of a multiple-step adhesive resin cementation system, and therefore would be easier for the clinician. In December 2014, the JapanProsthodontic Society released a guideline for the CAD/CAMcomposite crown treatment, which recommends to use resincement in thefinal cementation [11]. Resin cement has beenreported to produce reinforcement and reduce microleakage andcement dissolution [8,30]. Microleakage in crowns is also considered to be one of the factors that most influence the clinical longevity of indirect restorations [30]. Not surprisingly, for longterm clinical use of conventional metal-fabricated and conven-tionally-cemented crowns, secondary caries is the most frequentlyreported complication according to long-term clinical evaluations[31,32]. Based on the foregoing discussion, to achieve a good longtermprognosis, the use of resin cement may decrease theincidence of associated complications such as crown debonding,crown fracture, and secondary caries. Because our follow-upperiod is still 40 months in the present study, it is important to perform ongoing clinical observations at regular and appropriate
intervals.
疑問点
疑問点がいくつかあります。
全てレジンセメントなら結果が変わったのではないか?
よくみるとセメンティングの65%はレジン複合型グラスアイオノマーセメントでセットされています。レジンセメントは全体での25%程度に過ぎません。レジンセメントの方が失敗確率が他のセメントよりも若干高くなっていますので、支台歯の条件が悪い場合にレジンセメントが選択された可能性は否定できないと思います。
またセメントの種類に関係なく冠内面のシランカップリングは95%以上に行われており、手技の統一性に疑問があります。
レジンセメントのみを用いて全症例を行っていれば結果に影響した可能性はあると思います。
義歯の欠損様式や設計は考慮されていない
小臼歯で義歯の鉤歯といえば、普通に考えると遊離端かな?と思うわけですが、6欠損で5にCADCAM冠、反対側に欠損ありの中間欠損等も考えられます。今回はそういった事は考慮されていません。
また義歯の設計等に関しても考慮されていません。
普通に考えれば遊離端欠損の鉤歯の方が力がかかると思うので脱離のリスクは高くなると思いますし、どういう風に直接維持装置をかけたのかということも重要ではないかと思います。義歯が入る事を考慮したサベイラインがCADCAM冠に設定されたのか?などという事も今回の論文ではよくわかりません。
最遠心の歯が小臼歯で義歯の鉤歯にならないシチュエーション?
これは短縮歯列ということなんでしょうか?5-5までで短縮歯列にするというのはあまり私としてはやらない方法なので、ちょっと疑問に思いました。義歯を作ったけど入れてないとか?
もしかして文章を読み間違えてますかね?
まとめ
CADCAM冠を義歯の鉤歯にすると成功率は下がる、というのは硬質レジンと歯質のセメンティングなどの関係上充分考えられますが、この文献の通り3倍以上リスクがあるかどうかに関してはやや疑問です。
それをクリアにするためにはもっと条件を揃えて研究する必要がありそうです。
今月からCADCAM冠は上下第1大臼歯まで適応が拡大されました。全ての第2大臼歯が揃っていることが条件ですが、今回の最遠心でもあまり予後に影響がないということが大臼歯でもはっきりすればもっと適応が広がる可能性もありそうです。
ただし、第2大臼歯の遠心はやはり力は相当かかりますよね。ポーセレンの破折なども起こりやすい部位ですから自分としてはすすんでCADCAMをやろうとは思わない部位ですが、文献的な裏打ちがあればまた気が変わるかもしれません。