CADCAM冠セット時の光照射は各ステップでしっかりと行う
前回の論文からの引用文献
前回はCADCAM冠の表面処理と維持力に関する論文を読みましたが、引用されている文献に興味が出たので読んでみることにしました。
前回の論文は以下のリンクとなります。
今回の論文はDental Material の2014年、ベルギーの大学からのようです。
Curing mode affects bond strength of adhesively luted composite CAD/CAM restorations to dentin
Anne-Katrin Lührs, Pong Pongprueksa, Jan De Munck, Werner Geurtsen, Bart Van Meerbeek
Dent Mater. 2014 Mar;30(3):281-91. doi: 10.1016/j.dental.2013.11.016. Epub 2014 Jan 11.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24424092/
Abstract
Objectives: To determine the effect of curing mode and restoration-surface pre-treatment on the micro-tensile bond strength (μTBS) to dentin.
Methods: Sandblasted CAD/CAM composite blocks (LAVA Ultimate, 3M ESPE) were cemented to bur-cut dentin using either the etch & rinse composite cement Nexus 3 (‘NX3’, Kerr) with Optibond XTR (‘XTR’, Kerr), or the self-etch composite cement RelyX Ultimate (‘RXU’, 3M ESPE) with Scotchbond Universal (‘SBU’, 3M ESPE). All experimental groups included different ‘curing modes’ (light-curing of adhesive and cement (‘LL’), light-curing of adhesive and auto-cure of cement (‘LA’), co-cure of adhesive through light-curing of cement (‘AL’), or complete auto-cure (‘AA’)) and different ‘restoration-surface pre-treatments’ of the composite block (NX3: either a silane primer (Kerr), or the XTR adhesive; RXU: either silane primer (RelyX Ceramic Primer, 3M ESPE) and SBU, or solely SBU). After water-storage (7 days, 37°C), the μTBS was measured. Additionally, the degree of conversion (DC) of both cements was measured after 10min and after 1 week, either auto-cured (21°C/37°C) or light-cured (directly/through 3-mm CAD/CAM composite).
Results: The linear mixed-effects model (α=0.05) revealed a significant influence of the factors ‘curing mode’ and ‘composite cement’, and a less significant effect of the factor ‘restoration-surface pre-treatment’. Light-curing ‘LL’ revealed the highest μTBS, which decreased significantly for all other curing modes. For curing modes ‘AA’ and ‘AL’, the lowest μTBS and a high percentage of pre-testing failures were reported. Overall, DC increased with light-curing and incubation time.
Significance: The curing mode is decisive for the bonding effectiveness of adhesively luted composite CAD/CAM restorations to dentin.
目的:重合方法による効果と処置前の修復物表面の象牙質への微少引っ張り強さを決定する事です。
実験方法:CADCAMレジンブロック(LAVA ultimate)をサンドブラストし、象牙質にセメンティングしました。セメンティング方法は、Optibond XTRによる表面処理+Nexus 3セメント、またはスコッチボンドユニバーサル+リライエックスアルティメットの組み合わせで行いました。全ての試料は以下の重合方法に分類されます。LL:ボンディング剤とセメント両者に光照射、LA:ボンディングのみ光照射でセメントは化学重合、AL:セメントに光照射することで透過してボンディング剤も重合、AA:全て化学重合。表面処理方法に関しては、NX3:シラン処置またはOptibond XTR、RXU:シラン処置とスコッチボンド、またはスコッチボンド単独としました。37度、7日間に水中浸漬した後、微少引っ張り強さを測定しました。加えて、両方のセメントに関して、化学重合(21度/37度)または光照射10分、1週間後における重合率も計測しました。
結果:一般化線形混合モデルでは、重合方法とセメントによる有意な影響がありましたが、表面処理に関しては有意差はありませんでした。LLがもっとも高い微少引張り強さを示し、他の群とは全て有意差を認めました。AAとALは最も低い微少引っ張り強さを示し、高い失敗率も報告されました。変換率は光重合と水中浸漬時間の延長により増加しました。
結論:重合方法はCADCAMレジン修復の象牙質への接着効率の決定因子です。
ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言の一部
CADCAMによる修復は審美性や1日での修復などから多く使われるようになってきています。CADCAMレジンブロックである3MのZ100は微粒子フィラーのハイブリッドレジンであり、10年生存率は79.4%と報告されています(文献3)。最近ではシリカの混合フィラーとジルコニアが配合されたLAVA ultimateが代替品として台頭してきました。
表面処理に関しては、ユニバーサルを謳うスコッチボンドが登場しました。シランカップリング剤が含まれており、スコッチボンドのみで対応可能です。一方で、サンドブラストやフッ化水素酸など他の様々な表面処理方法が推奨されています。
歯の前処理を必要としない、いわゆる「セルフアドヒーシブセメント」のコンポジットレジンは、一般的に接着強度の点でマルチステップコンポジットレジンよりも優れています。加えて化学重合型の殆どのセメントは光重合タイプよりも接着強度が弱いという報告があります。修復物の厚みが3mm以上の場合、セメントの重合率が低下します。また、温度により重合率へ影響を受けます。高温の方が早く重合し、重合率も高くなります。これはデュアルキュアのレジンでも同様です。
本研究の目的は重合方法と表面処理が与える影響を検討する事です。
実験方法
試料
48本のヒト智歯を用意し、ランダムに12の群(1群4本)に割り当てをしました。
象牙質試料を作製するためタービンで削っています。形態は規格化されるように装置を使っています。
形成後にインキュベーターで37度15分あたためた後、速やかにセメンティングし、再びにインキュベーターに戻しています。
表面処理と重合方法
LAVA ultimateブロックを厚さ3mmのブロックに3分割
1つのブロックの真ん中に溝を掘り、さらに2分割
全てをアルミナサンドブラスト→エタノール洗浄
NX3群:表面をシラン処理またはOptibond処理
RXU群:表面をRelayX Ceramic Primerとスコッチボンドユニバーサル またはスコッチボンドユニバーサル単独
歯質:ボンディング操作
セメンティング:NX3またはリライエックスアルティメットで1kg荷重1分
重合方法は以下の表1のように4つに分類されます。
LL:ボンディング剤とセメント両者に別々に光照射
LA:ボンディングのみ光照射でセメントは化学重合(37度10分)
AL:セメントに光照射することで透過させてボンディング剤も重合
AA:全て化学重合(37度10分)
使用した材料は以下の表となります。
NX3は以下のリンクからご参照ください
https://www.kavo.co.jp/product/kerrproduct/cements/nx3
添付文章
https://www.kavo.co.jp/wp-content/uploads/2019/12/K340-02_Ver.6%20エヌ・エックス・スリー%20.pdf
3Mの商品はモデルチェンジしています。
https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/dental-jp/products/cement/relyx-universal/
引張り強さ
試料の切断面が1mm2になるように切断。切断した端の部分の試料は除去して中央部を使用
クロスヘッドスピード毎分1.0mmで引張り試験を行っています。
表面観察
引っ張り試験にて破壊された表面をステレオマイクロスコープにて25~50倍程度で観察して以下の5つに分類します。
象牙質での凝集
象牙質ーセメント間での接着
セメントでの凝集
セメントーCADCAMレジン間での接着
CADCAMレジンでの凝集
また、特徴的な破断パターンを示した試料に関してはSEMにて観察も行っています。
重合度
引っ張り強さのデータを補足する目的で、同条件下のセメントの重合度についても計測しています。4群に分類し1群のnは5となります。
グループ1:光を遮断して21度10分放置した化学重合の1.5mm厚のセメント
グループ2:グループ1と温度のみ(37度)変化させたもの
グループ3:セメント練和1分後に20秒光照射、後はグループ2と同じ条件
グループ4:グループ3とほぼ同じだが、3mmのCADCAMレジンを透過させて重合
重合度はセメント混和後10分で測定、さらに37度で暗所保管1週間で測定しています。
今回の論文では細かい統計手法の提示がありませんでした。おそらく分散分析と多重比較等は行っていると思われます。
結果
引っ張り強さ
引張り強さは、重合方法とレジンセメントの種類に有意な影響を受けました。また、上記2つほどではありませんでしたが表面処理方法によっても有意な影響がありました。
NX3とRXUでのセメントの比較ではLLモードでもLAモードでもNX3の方が引張り強さが有意に大きくなっています。
重合方法の比較ではLLがどちらのセメントでも最も大きい引張り強さを示しました。LLではテスト前の脱離はありませんでした。
セメントの比較ではNX3はテスト前に脱離した物を除けば平均引張り強さが25MPaを越えましたが、RXUは5MPa以下の引張り強さのものに関してテスト前の脱離がある程度認められました。両方のセメントにおいてAL、AAの条件下では引張り強さは7MPa以下と非常に低い値でした。
表面観察
NX3において重合方法がLL、LAの場合、殆どの破壊はセメントとCADCAMレジン間において起こりました。対してAA、ALの場合は主に象牙質とセメントの界面上で破壊が起こりました。
NX3と対照的にRXUではLLの場合、象牙質とセメント間において破壊が起こりました。LAではNX3と同様にセメントとCADCAMレジン間において破壊が起こりました。ALでは象牙質ーセメント間、AAではセメントーCADCAMレジン間にて破壊が起こりました。
NX3とRXUの2つのレジンセメント間で異なる挙動が認められました。
重合度
重合度は
①セメントの種類(NX3 vs RXU):NX3の方が有意に重合度が高い
②時間(10分 vs 1週間):1週間後の方が有意に重合度が高い
③重合方法:光重合の方が化学重合より重合度が高い
の3つにおいて統計的に有意差を認めました。
ただし、光重合をしっかりした場合にはNX3では時間の影響はそこまでないように見えます。RXUではやや影響あり、といった所でしょうか。
考察の一部
NX3の方がRXUと比較して引張り強さが有意に大きかったのは、重合度がNX3の方が有意に高いため機械的物性に影響したと考えられます。
また象牙質へのボンディングには光照射を行い、セメンティングは化学重合で行ったLAにおいてもNX3がRXUよりも有意に大きい引張り強さを示しました。これはスコッチボンドユニバーサルの2.7というpHが重合を阻害した可能性が考えられます。対してNX3のXTR処理では酸性のプライマーが含まれていないため重合阻害がなかったと考えられます。
ALとAAにおける両セメントの引張り強さは殆ど差がなく、光照射を行った群より遙かに小さい結果となりました。これは象牙質とレジンセメントへの光照射はそれぞれ個別に行った方が良いことを示唆しています。今回は化学重合型のボンディング剤は使用していませんが、他の研究からボンディング剤への化学重合開始材の追加は重合阻害を起こすことが報告されています。
表面処理の違いは、セメントや重合方法が与える影響よりも遙かに小さいものでした。NX3においてシラン処理を行った場合、RXUにおいて単体でシラン処理可能なスコッチボンドユニバーサルにさらに他のシラン処理を行った場合、引張り強さは有意に上昇しましたが、その効果は大きくはありませんでした。そのためボンディング剤にシラン処理剤を混ぜた商品を使えば臨床ステップを減らす事が可能です。
サンドブラストはそれ自体が接着に与える効果が大きく、他の効果の影響がマスクされてしまう可能性があるので今回は行っていません。
今回はCADCAMレジンの厚みは3mmに設定しており、それがALの結果に影響しましたが、2mm厚であれば光が充分透過するため重合度に影響しないという報告もあります。
まとめ
添付文章をちゃんと読んで、それをしっかり守りましょう、という感想がまず第一です。
光重合型のボンディング剤に光当てない、を実行する人はいないとは思います。
前回の論文でもありましたが、CADCAM冠内面にセット前にボンディング剤塗布→直前に光照射した方が接着強さが向上します(添付文章に記載あり、シラン処理またはオプチボンドという記載でどちらかでよい書き方になっています)。
https://www.kavo.co.jp/wp-content/uploads/2019/12/K340-02_Ver.6%20エヌ・エックス・スリー%20.pdf
LLとLAで引張り強さに差が結構ありますので、デュアルキュアの場合でもしっかりCADCAMレジン冠上から光照射を行う事が重要です。デュアルキュアという言葉に誤魔化されない事が重要ということでしょう。
また、今回の実験においてもボンディング剤とセメントの相性があることがわかります。できれば同一の会社の製品で統一して使用した方がよいと考えられます。他の会社の材料との組み合わせは当然ですがわざわざチェックする義務は会社にはありません。どちらにしても材料の添付文章をしっかり読むことが大切と感じました。
3Mは最近セメントもスコッチボンド自体もリニューアルされましたので、この結果と異なる可能性があります。