直接覆髄におけるMTA vs 水酸化カルシウムの1年後の成功率
前回のブログ
前回のブログは2010年の文献の紹介でした。
深い虫歯(カリエス)がある場合には露髄しないようにカリエスを一層残して水酸化カルシウムを裏装してリエントリーしてカリエスを全て削る方が、一気にカリエスを全て除去するよりも1年後に歯髄が生きている可能性が高いという論文でした。ランダム化比較試験(RCT)という実験モデルを組んでいるのが特徴でした。
この論文を読んで、例えば直接覆髄がMTAだったなら予後は変わったのではないか?という事を書きました。
折角なので2019年の論文を読んでみることとしました。
pubmed で MTA calcium hydroxide pulp で検索すると結構ズラズラでてくるんですが、その中から4本ほどピックアップしましたけど、4本も読めないのでまずは信頼度が高いジャーナルから・・・
注意:かなりの長文です。
今回の論文
Suhag et al. Success of Direct Pulp Capping Using Mineral Trioxide Aggregate and Calcium Hydroxide in Mature Permanent Molars with Pulps Exposed during Carious Tissue Removal: 1-year Follow-up. J Endod,45:840-847,2019.
Journal of Endodonticsの今年のジャーナルなら文句ない感じでしょう。
実はこれもオープンな論文じゃないのでおおっぴらに載せることはできません。
Abstract
Introduction: This randomized clinical trial aimed to compare the success rate and postoperative pain of direct pulp capping (DPC) using calcium hydroxide (CH) and mineral trioxide aggregate (MTA) in teeth with carious pulp exposures and reversible pulpitis.
Methods: Sixty-four permanent teeth were randomly divided after caries excavation into 2 groups: CH and MTA (n=32 in each group). Exposed pulps were capped using standardized protocols. The treated teeth were restored with glass ionomer cement and composite restoration. The primary outcome was success rate at the 12-month follow-up, and the secondary outcome was postoperative pain after 7 days. Clinical and radiographic evaluations were performed at 3, 6, and 12 months. Pain was recorded using the visual analog scale every 24 hours for 7 days after intervention.
Results: Fifty-six patients were analyzed at the 12-month follow-up, 29 treated with CH and 27 with ProRoot MTA (Dentsply Tulsa Dental, Tulsa, OK). The success rate was 69% for CH and 93% for ProRoot MTA (P, .05). The kappa value of interrater agreement was 0.773.No significant difference in pain incidence was found between the 2 groups (P..05) although a significant pain reduction was found 6 hours after the procedure in both the groups. Significantly lower pain scores were reported in the MTA group (6.3 6 9.5) compared with the CH group (18.5 6 20.8) after 18 hours.
Conclusions: Teeth with carious pulp exposures and reversible pulpitis can be treated successfully with DPC. MTA proved better than CH in terms of both success rate and pain intensity. (J Endod 2019;45:840–847.)
カリエスによる露髄がある可逆性歯髄炎の歯に対し、MTAまたは水酸化カルシウムを用いた直接覆髄をランダムに割り付け、その成功率と術後疼痛に関して比較を行いました。
64本の永久歯が32ずつMTAまたは水酸化カルシウムに割り当てられました。露髄下神経は標準的なプロトコールにてキャップされました。グラスアイオノマーセメントとCRにて修復されました。主な評価項目は1年後の成功率で、二次的な評価項目は7日後の術後疼痛としました。臨床的、またはX線的な評価を3,6,12か月後に行いました。疼痛に関してはVASを用いて24時間ごとに記録し7日後まで記録しました。
56名の患者が1年後のフォローアップまでたどり着きました。29名が水酸化カルシウムによる治療、27名がProRoot MTAによる治療でした。成功率は水酸化カルシウムの69%に対して ProRoot MTA は93%であり有意差を認めました。κ係数は0.773でした。 術後6時間で 両群ともに疼痛の著しい減少が認められましたが両群間で有意差を認めませんでした。18時間後からMTAの方が水酸化カルシウムよりも有意に痛みが弱い値を示しました。
虫歯による露髄と可逆性の歯髄炎がある歯は直接覆髄で満足いく結果が残せます。MTAの方が成功率と痛みの両面で水酸化カルシウムより優れていました。
ここからが本文ですが適当に訳していきます。意訳も結構していますし、訳していない部分もあります。間違っている可能性もありますので、お?と思ったら原文を確認して頂くようお願いします。
Introduction
永久歯の虫歯(カリエス)による露髄に対する直接覆髄(DPC)には論争があります。AAEによるとDPCは外傷や機械的な露髄によるものに対する処置と規定されてきました。しかし、Aguilar and Linsuwanontのレビューや費用対効果研究などからカリエスによる露髄を伴う生活歯はDPCにより満足いく結果が得られるというエビデンスが明らかになりました。
DPC材料は色々な要件を満たす必要があります。水酸化カルシウムはDPC材料のゴールドスタンダードだと今まで考えられてきました。水酸化カルシウムによるDPCの成功率に関する報告によると13%~97.8%とかなり隔たりがあります。水酸化カルシウムには封鎖姓、親和性、非接着性、分解、多孔性などの問題があります。
1990年に Torabinejad と Chivian によって 紹介されたMTAは DPC材料として徹底的に調査されてきました。成功率は3年で67.4%から9年で97.96%でした。MTAは転写因子の発現を向上させ、デンティンブリッジの形成を誘発し、生体親和性を有しています。また、高pHを長期間維持し、 象牙質と緊密な封鎖により微少漏洩を防ぐ不溶性のバリアを形成します。
数々の報告がありますが、ランダム化比較試験にて水酸化カルシウムとMTAのDPCによる比較を行っているのは2つしかありません。Hiltonらの研究では術後2年でのMTAが80.3%の成功率に対して水酸化カルシウムは68.5%でした。Kundzinaらによる多施設ランダム化比較試験での3年後の生存解析ではMTA群の歯髄生存率は85%であったのに対して水酸化カルシウムでは52%で有意にMTAの方が生存率が高いと報告されています。
今回は、成功率に加えて、術後疼痛に関しても比較を行う事としました。
MATERIALS AND METHODS
被験者は15~40歳の 下顎第1、第2大臼歯に象牙質の1/2を超えるカリエスを有し、根尖が完成しており可逆性歯髄炎と診断された患者64名です。歯髄の生活反応は冷刺激と電気刺激、また露髄時の出血により確認しました。
カリエス完全除去時に露髄せず、不可逆性歯髄炎や歯髄壊死、 根尖部 にX線透過像、歯周病罹患歯、クラックの存在、吸収歯、歯髄腔の石灰化、保存できない、次亜塩素酸10分間で歯髄からの出血をコントロールできない、全身疾患、アレルギーなどの場合、実験から除外されました。
Treatment Prtocol
治療は大学院生によって行われました。浸潤麻酔後にラバーダム防湿を行いました。患歯を2%クロルヘキシジンと75%アルコールにて消毒しました。まず注水下で低速のラウンドカーバイドバーにて、その後エキスカにて慎重にカリエスを除去しました。エキスカ終了後に2.5%次亜塩素酸をシリンジと綿球を用いて露髄面を消毒しました。綿球は10分間露髄面に置いておきました。綿球除去後にも出血が続く歯はこの実験対象歯から除外しました。余剰次亜塩素酸を除去するために生理食塩水にて洗浄後、綿球にて乾燥を行いました。
MTAまたは水酸化カルシウムへの割り付けはenvelope methodを用いました。材料が同じ様な外見や使用法ではないためにどちらに割り付けるかを記載した紙が中が見えない封筒の中に入っているように設定しました。
水酸化カルシウムはメーカー指示に従い生理食塩水と粉を混和して露髄面に貼付した後にレジン強化型グラスアイオノマーセメントにて裏装したのちにCR充填を行いました。
MTAはWhite ProRootを使用してメーカーの指示通りに混和してキャリアーにて露髄面に貼付しました。MTA上に湿潤した綿球を保持したのちにDentsply社のIRMを用いて仮封しました。24時間後にMTAの硬化を確認したのちにレジン強化型グラスアイオノマーセメントにて裏装したのちにCR充填を行いました。
予後に関しては術後1週間、3か月、6か月、12か月に評価を行いました。評価はブラインドされた状況でキャリブレーションされた2名によって行われました。
1年後の予後に関しては、歯髄が生活反応を示し、 歯髄炎や歯髄壊死等を示す レントゲンや臨床所見がないものを成功としました。判定者はだれがどの治療を行ったかなどの治療過程を一切把握していません。
また術後1週間までの疼痛に関しても測定しました。患者にVASの記載方法に関して指導を行い、患者自身が術後6,12,18時間後と1,2,3,4,5,6,7日後の痛みをVASに記載しました。痛みは0-4mmが痛み無し、5-44mmがマイルドな痛み、45-74mmが中等度の痛み、75-100mmが深刻な痛みと分類しました。
RESULTS
71名の参加者中64名に関して32名ずつMTAまたは水酸化カルシウムによるDPCが行われました。その後水酸化カルシウム群は3名、MTA群は5群がドロップアウトして、1年後に判定できたのは、水酸化カルシウム群が29名、MTA群が27名でした。
歯種としては第1大臼歯が47%、第2大臼歯が53%でした。
被験者は男性が多く、中央値が示す通りかなり若いです。
全体的な成功率は80.4%でした。MTA群が93%、水酸化カルシウム群が69%であり、6か月、12か月時の調査において統計的な有意差が認められました。
失敗例としての多くは深刻な痛みでした(水酸化カルシウム9例、MTA1例)。失敗した症例は根管処置が行われました。
術前の痛みは水酸化カルシウム群が35.06±24.75、MTA群が35.16±26.57で両群間に統計的有意差を認めませんでした。29%の患者が治療前に痛みを訴えていました。
6時間、12時間後の痛みの程度において両群間に有意差を認めませんでしたが、18時間後からは有意差を認めました。DPCを行ってから6時間後から両群共に痛みが有意に低下します。この後、24時間後までMTA群は有意に低下していきますが、水酸化カルシウム群では統計的に有意な低下は認められませんでした。
DISCUSSION
DPCの予後に影響する因子に関しては数多くの報告がされてきました。例えば年齢、性別、使用材料や露髄面の位置、大きさ、露髄の原因、神経の状態、カリエスのタイプなどです。
この後、この影響に関して今までの報告と今回の実験との比較をして正当性を説明しています。
この中に直接覆髄は若い人が有利という所があります。
最終的に今回の実験では以前の2つのランダム化比較試験(RCT)の結果を支持するな結果だったという感じになっています。
その2つのRCTとは
Hilton TJ, Ferracane JL, Mancl L. Comparison of CaOH with MTA for Direct Pulp Capping: A PBRN Randomized Clinical Trial. J Dent Res 2013;92(Suppl 7):16S–22S.
Kundzina R, Stangvaltaite L, Eriksen HM, Kerosuo E. Capping carious exposures in adults: a randomized controlled trial investigating mineral trioxide aggregate vs. calcium hydroxide. Int Endod J 2017;50:924–32.
の2つです。
2013と2017の報告になります。
イントロダクションの文章をそのままもう1回出します。
Hiltonらの研究では術後2年でのMTAが80.3%の成功率に対して水酸化カルシウムは68.5%でした。Kundzinaらによる多施設ランダム化比較試験での3年後の生存解析ではMTA群の歯髄生存率は85%であったのに対して水酸化カルシウムでは52%で有意にMTAの方が生存率が高いと報告されています。
MTAまたは水酸化カルシウムで差がなかったという報告も引用されています。
岩本らの研究ですが、これは健全な第3大臼歯を機械的に露髄させていること、短期間での評価であることを指摘しています。
Iwamoto CE, Adachi E, Pameijer CH, et al. Clinical and histological evaluation of white ProRoot MTA in direct pulp capping. Am J Dent 2006;19:85–90.
まとめ
2013,2017、2019における3つのRCTにおいて、MTAが水酸化カルシウムよりも成功率が高かったことから、可逆性歯髄炎における深いカリエスによる露髄でケミカルサージャリーで止血可能な場合はMTAによる直接覆髄を第1選択とするべきと考えられます。成功率もかなり高いですしね。
勿論、MTAでやっても失敗している症例はありますので、万能ではありません。可逆性の歯髄炎ではなかった可能性もあるでしょう。
MTAは扱いが難しい材料ですから、そこら辺の失敗もありえます。
今回の実験ではMTA群でも水酸化カルシウム群でも術後6時間で痛みがかなり減っています。24時間後ではMTA群では中間の痛みすらありません。MTAで修復して1週間経って中間以上の痛みなら失敗の可能性が高いのかもしれません。
前回の論文と総合すると50歳以上のような場合は露髄しそうか怪しい場合は間接覆髄として水酸化カルシウムをいれてからリエントリー、年齢が若くてうっかり露髄した感じの症例では直接覆髄みたいな使い分けかな、と思います。
とりあえず後3本の論文は読む必要があるのかないのか、と言った所ですね。
当院、高知県にありますので地元優遇ということでYamakinのミエールに今回移行しました。酸化ビスマスフリーで安いのでお買い得かと思います。
0.2g 3袋を買ってます。
https://www.yamakin-gold.co.jp/prdct_dental/material/index.html
ただし、御高名な先生の中には、ProRootが最もエビデンスがあるから他の材料では同じ様な結果がでるかはわからない、と言われる先生もいらっしゃいます。どうなんでしょうかね・・・。
とりあえず自分の場合、もっと上手くMTAを使えるように練習しないといけませんね・・・。
この本を読んだりしていますが、やはりMTAに関しては使用している動画を何回も観た方がよさそうではあります。
ただし、この本は使用する器具なども載ってるので参考にしています。
今年の更新は一応これで終了予定です。来年もよろしくお願いします。