普通の歯科医師なのか違うのか

全部床義歯の咬合様式はエビデンス的に何が一番?

 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

全部床義歯はエビデンスがあまりない医療術と言われます。しかし、EBMが求められる現代において技術だけが全てなんて行ってられません。今回は全部部床義歯の咬合様式は何がよいのか、をエビデンス的に決めようとする論文で、2021年のJPです。ただし、結論はなかなか難しい感じになっています。

Complete Denture Occlusion: Best Evidence Consensus Statement
Gary Goldstein, Yash Kapadia, Stephen Campbell 

J Prosthodont. 2021 Apr;30(S1):72-77. doi: 10.1111/jopr.13309.
PMID: 33336857

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33336857/

Abstract

Purpose: The occlusal scheme required for an edentulous patient is controversial. The purpose of this Best Evidence Consensus Statement was to evaluate the existing complete denture literature related to occlusal schemes.

Materials and methods: A literature search was limited to Meta-analyses, Systematic Reviews (SR), Randomized Controlled Studies (RCT) and Clinical Trials. Key Words were: Complete dentures, occlusion, harm; Complete dentures, occlusion alveolar bone loss; Complete dentures, occlusion, stability; Complete dentures, occlusion. Additional related articles were culled from the authors’ library and reference lists in the articles found in the PubMed searches.

Results: Of the 165 articles that met the initial search criteria, 34 related to the focus questions and were evaluated and rated.

Conclusions: There is strong support that the average denture patient, with good residual ridges and no neuromuscular problems, will function adequately with a properly fabricated complete denture regardless of the occlusal scheme. There is neither strong support for or against bilateral balanced occlusal schemes as it relates to patient satisfaction, preference or chewing ability. There is some support for increased alveolar bone loss with complete dentures that have a non-balanced occlusion. There is a need for bilateral balanced occlusal schemes for patients presenting with loss of stability and retention as a result of their presenting conditions (PDI III and IV).

目的:無歯顎患者に必要とされる咬合様式は一貫していません。本研究の目的は咬合様式に関する全部床義歯の文献を評価する事です。

実験方法:文献検索はメタアナリシス、システマティックレビュー、RCT、臨床試験に限定しました。検索キーワードは、「全部床義歯、咬合、害」、「全部床義歯、咬合、骨吸収」、「全部床義歯、咬合、安定性」、「全部床義歯、咬合」としました。追加の文献を、筆者の図書とPubMed検索時にみつけた文献のリファレンスから抽出しました。

結果:165の文献が初期の検索条件に該当しました。そのうち34の文献が今回のクエスチョンに関連し、評価、レーティングしました。

結論:よい顎堤をもち神経筋的な問題がない平均的な義歯患者では、適切に製作された全部床義歯であれば、咬合様式に関係なくしっかり機能する、ということが強く支持されます。患者の満足度、好み、咀嚼能力との関連で、両側性平衡咬合に強い支持があるわけでもなく、反対もありません。平衡咬合ではない全部床義歯では骨吸収が増加する事には、ある程度の支持があります。現在の状況の結果(PDI III級、IV級)、維持安定を喪失している患者では両側性平衡咬合が必要です。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

無歯顎患者に必要とされる咬合様式は一貫していません。全部床義歯(CD)の咬合様式は大きく分けて平衡咬合か非平衡咬合かに分類する事ができます。非平衡咬合としては、(1)咬頭傾斜に関係なく、側方運動時の犬歯誘導によるディスクルージョン、(2)調節彎曲による補償がない、またはバランシングランプを付与しないモノプレーンオクルージョン、が該当します。平衡咬合としては、(1)解剖学的咬合(AO)、(2)リンガライズドオクルージョン(LO)、(3)バッカライズドオクルージョン(BO)、(4)調節彎曲による補償がある、またはバランシングランプを付与したモノプレーンオクルージョン(MO)が該当します。LOとBOの普及により、用語に混乱が生じています。4つの平衡咬合は両側性平衡咬合を目指すものなので、完全な解剖学的咬合をバイラテラルバランス(BB)と呼ぶと、科学論文を読む人に過度の誤解を与えることになります。補綴学用語集第9版では、義歯の咬合様式を以下の様に定義しています。両側性平衡咬合:咬頭嵌合位、偏心位において臼歯部の咬合が両側性、同時に認められる。解剖学的咬合:臼歯部人工歯が天然歯の咬合面に酷似した形態を有し、対合が天然歯、または人工歯と咬合する(注:解剖学的人工歯のことかと思います)。リンガライズドオクルージョン:上顎舌側咬頭と下顎咬合面が中心位、作業側、非作業側で咬合する。モノプレーン:人工歯を頬舌側、近遠心的にフラットな平面に排列する。モノプレーンオクルージョン(monoplane articulation):フラットな平面に位置していることによる歯並び。モノプレーンオクルージョン(monoplane occlusion):無咬頭歯による咬合。バッカライズドオクルージョンはMoradpoorらにより以下の様に定義されています。「中心位、偏心位にて下顎頬側咬頭が対向する上顎咬合面に咬合するが、下顎舌側咬頭は咬合しない。また、下顎頬側咬頭頂は、下顎顎堤頂の位置に排列する。」以上の解説から、全部床義歯の咬合に関する用語の充実が必要であることがわかりました。

全部床義歯患者が直面する最も重大な問題が、Tallgrenらの25年間の研究で報告されているように、継続する顎堤吸収です。この研究では、下顎顎堤吸収は平均で上顎の4倍と報告しており、高齢になると治療が難しくなり、義歯を管理する能力も低下するという明らかな結果を招きます。患者がもしProsthodontic Diagnostic Index(PDI)のIV級であれば、難易度が高く熟練した歯科医が必要で、義歯の維持力が低下するために、安定性の必要が増加します。30人の義歯装着者の下顎運動の研究では、下顎の義歯床下組織が吸収した患者では、咀嚼時の下顎の動きが減少することが報告されています。本研究の目的は、咬合様式に関連する全部床義歯の文献を評価する事です。

文献検索

メタアナリシス、システマティックレビュー、RCT、臨床試験に限定して文献検索を行いました。全部床義歯、咬合、害では1つの論文がヒットしましたが、今回のクエスチョンに関連したものはありませんでした。全部床義歯、咬合、顎堤吸収では7つの論文がヒットし、1つが今回のクエスチョンに関連していました。しかし、骨吸収のレベルが検討されておらず適切ではありませんでした。全部床義歯、咬合、安定では24の論文がヒットし、7つが今回のクエスチョンに関連していました。全部床義歯、咬合では105の論文がヒットし、20が今回のクエスチョンに関連していました。このうちの3つが以前の検索でヒットしていました。追加の文献を、筆者の図書とPubMed検索時にみつけた文献のリファレンスから抽出しました。

クエスチョン1:平衡咬合は顎骨吸収が少なくなるか

Winter、Woelfel、Igarashiは、45人の無歯顎患者にAO、セミAO、MOにて新義歯を製作し、5年間のセファロ分析を行いました。AO群はMO群よりも有意に骨吸収が少なく、セミAO(注:おそらく準解剖学的人工歯?)は中間でした。解剖学的人工歯は咬頭嵌合位がしっかりきまるため、義歯の動きが抑えられたためではないかと、著者らは感じています。これを裏付ける、または反論する研究は他にはありませんでした。この研究はPubMed検索でも出てこず、システマティックレビューにも引用されていませんでした。

エビデンスに基づいた結論

前述の研究に基づくと、解剖学的咬合はモノプレーンオクルージョンよりも顎骨吸収が少ないです。

クエスチョン2:平衡咬合は患者満足度が高いか

22名の患者に平衡咬合または犬歯誘導の全部床義歯を製作した研究では、両側性平衡咬合だけが、全部床義歯における咬合の基本原則ではないと結論づけています。著者らは顎堤吸収、フラビー、レトロモラーパッド、粘膜ヒダなどを診断したが、今回のデータ解析との関連性を認めませんでした。わずか14名、犬歯誘導9名、バッカライズ5名が本研究を完了しました。彼らは犬歯誘導の方が平衡咬合よりも褥瘡性潰瘍を作りやすかったと報告しています。加えて、平衡咬合の上顎義歯の方が犬歯誘導よりも有意に維持が優れており、平衡咬合3症例に対して犬歯誘導7症例で側方、前方運動時に維持が喪失しました。しかし、下顎義歯では、犬歯誘導の方が平衡咬合よりも偏心運動時に安定していました。

Kimotoらは、30名に平衡咬合またはリンガライズを付与したパイロットスタディで、全体的な満足度、咀嚼能力、義歯の安定性には影響はなかったと報告しています。リンガライズ付与群では、平衡咬合付与群よりも遙かに義歯の維持への満足度が高い結果でした。7名の歯科医が参加し、2名のリンガライズ、2名の平衡咬合患者を治療しました。平衡咬合、リンガライズ共に前方滑走時の平衡接触は完全に説明されています。

Suttonらは、45名の患者に、それぞれ3種類の義歯(モノプレーンオクルージョン、解剖学的咬合、リンガライズドオクルージョン)を製作し、ランダムに8週間使用させOHIP-EDENTで評価しました。患者は解剖学的咬合とリンガライズドをモノプレーンよりも好む傾向でした。同じ被験者を使用した以前の論文で同じ著者らは、リンガライズドオクルージョンは、疼痛の減少、擦過傷の減少、食べる能力、食事中止などに関して、モノプレーンオクルージョンと比較して有意に優れており、リンガライズと解剖学的咬合は有意差がなかった、と報告しています

38人の無歯顎患者に対して、新しい上顎全部床義歯と、2つの下顎全部床義歯(平衡咬合と犬歯誘導)を製作し、満足度をアウトカムとして評価したクロスオーバーシングルブラインド試験を行いました。2週間義歯を使用させ満足度を評価し、患者に知らせることなく義歯の咬合様式を変更しました。さらに2週間後に患者満足度を再評価しました。2週後では、63%の患者が平衡咬合を、5%の患者が犬歯誘導を好みました。4週後では、47%の患者が平衡咬合を、11%の患者が犬歯誘導を好みました。%の残りは特に好みはありませんでした。著者らは、平衡咬合は新義歯への適応を容易にすると結論づけています。

Paleariらは、よくデザインされたクロスオーバー試験を行っています。PDI 1級の44名患者を予後別に分類した所、平衡咬合と犬歯誘導での咬合様式は、患者満足度、下顎運動に影響を与えなかったと報告しています。

SchierzとReissmannはクロスオーバーシングルブラインドRCTを行い、大学院生が製作した全部床義歯に平衡咬合と犬歯誘導を付与し、OHIP-EDENTの短縮版を用いてQOLを評価しました。19名の被験者がブラインドでテストされました。全ての全部床義歯は平衡咬合で製作し、コンポジットレジンを上顎犬歯舌側面に55°のガイドを用いて付与し犬歯誘導に変化させるようにしました。4名の患者がドロップアウトしました。そのうち2名は最初が犬歯誘導で、残り2名は平衡咬合のターンでした。著者らは、新義歯は旧義歯で起こった問題を少なくするが、咬合様式では有意な差は無かったと結論づけています。

Kawaiらは、別のランダム化二重盲検で、患者をPDIで分類していますが、義歯装着後3か月、6か月でリンガライズと平衡咬合で有意差はなかったと報告しています。しかし、6か月のフォローアップでは、骨吸収が高度な患者の平衡咬合下顎義歯は、リンガライズと比較して満足度は低く、痛みの程度は高い結果となりました。リンガライズの人工歯は硬質レジンで平衡咬合では陶歯を使用したことから、どの変数のせいなのか、独立なのか関連因子なのかなどを決める事が難しくなっています。

Moradpoorらは、歯学部学生が製作した義歯(解剖学的咬合、リンガライズドオクルージョン、バッカライズドオクルージョン)を装着した患者86名の満足度を報告しています。除外基準はよく規定されており、シビアな2級、3級関係と同様に顎堤吸収高度な症例が含まれます。アウトカムはOHIP-EDENTの19項目短縮版を使用しています。唯一違いが認められたのが痛みであり、解剖学的咬合で高い結果を占めました。

Moradpoorらは、研究の第2部として、部分的なグループファンクションを付与した30人の新しいコホート研究を報告しています。部分的なグループファンクションは、犬歯誘導のバリエーションで側方滑走した際にも初期は第1小臼歯も接触させるように設定しています。部分的グループファンクションは、平衡咬合と比較して快適性、安定性、維持に関する満足度が低く、バッカライズ、リンガライズと比較して疼痛スコアが高く、リンガライズと比較して機能障害スコアが高くなったと報告しています。

Brandtらは、クロスオーバーRCTを行い、ベースラインの調査時によく適合した平衡咬合の義歯を使用していた50人の被験者で平衡咬合と犬歯誘導を比較しました。被験者は、ランダムに2群(平衡咬合→犬歯誘導、犬歯誘導→平衡咬合)にわけられ、それぞれ3ヶ月間義歯を使用しました。歯科学生が義歯を製作し、20%がドロップアウトして残り40名を解析しました。が、審美、発音、咀嚼効率、維持に関して患者が犬歯誘導義歯の方を有意に好んだと報告しています。ただし、ドロップアウトの人口統計や、PDI、Kapur分類、前方滑走時の接触などは記載されていませんでした。

3種類の義歯(平衡咬合、リンガライズ、バッカライズ)をランダムな順番で装着した15名の患者の臨床研究では、それぞれ6週間装着した後、”サンプル数が少ないという注意を払った上で”、”バッカライズは患者の満足度という点で、食物回避や機能障害を改善できる “と報告されています。アウトカムはOHIP-EDENTで行われています。今回付与した咬合3つがすべて両側性平衡咬合であり、全ての治療過程は歯科学生によるものである事に注目することが重要です。

エビデンスに基づいた結論

文献により様々な結論となっています。あるものは、平衡咬合は患者満足度を向上させる事を支持しています。またあるものは研究対象となった患者集団において平衡咬合と非平衡咬合では差は認められなかったと結論づけています。

クエスチョン3:平衡咬合は咀嚼能力を改善するか?

大雑把な除外基準を設けたクロスオーバー研究で、無歯顎歴平均16.3年の被験者を用いてリンガライズドオクルージョンと部分的グループファンクションを比較した所、咬合様式と製作方法は咀嚼能力には影響がなかったと結論づけています。4名の被験者が顎堤吸収が高度、11名が中等度、5名が軽度でした。データは顎堤状態により評価されていません。著者らは、6症例の義歯が不安定で、2症例が側方にスライドしてしまう、12症例が維持力が弱く、簡単に外れてしまう、と報告しています。著者らは、同じ被験者を用いて患者による評価をアウトカムとした研究も行っていますが、咬合様式による違いは無かったと報告しています。

24名の被験者を用いた二重盲検のクロスオーバー臨床試験では、平衡咬合とCPを付与した義歯を3か月ずつ使用させましたが、咀嚼能率や患者満足度に有意差を認めませんでした。義歯は学生が製作し、咀嚼能率はビーズを用いて色彩学的に評価されました。著者らは、性差の影響、粘膜の回復力、顎堤の高さが咀嚼能率に与える影響を評価するために、さらなるRCTが必要であると述べています(注:引用文献番号が間違っているようでこの文章についている文献番号の内容とここにかかれている内容が食い違っています。そのため、CPが何の咬合なのかがわかりません)。

30名の全部床義歯患者を用いたシングルブラインドの研究では、平衡咬合とリンガライズドオクルージョンを比較しました。全ての被験者はまず3か月平衡咬合の義歯を使用して、次にリンガライズドオクルージョンの義歯を3か月使用しました。3か月の使用後、ガムとピーナッツ咀嚼時の側頭筋と咬筋のEMGを測定しました。加えて、患者の満足度を1~5のアナログスケールで計測しました。患者満足度は、平衡咬合よりもリンガライズドオクルージョンの方が高い結果でした。リンガライズでは、咀嚼能力、最大随意筋力が増加し、咀嚼時間が減少しました。被験者の顎堤形態については記載がありませんでした。本研究のLimitationとして、最初に全員が平衡咬合の義歯を使い、次にリンガライズの義歯を使用しているため、オーダーエフェクトが発生しています。加えて、EMG活動は顔面の形態により異なる可能性があります(注:前の文章についていた引用文献番号21の内容はこれになります)。

10名の被験者を用いて平衡咬合と中立的咬合(モノプレーンに近い咬合のようです)の2つの咬合様式を比較した研究では、咀嚼能力と最大咬合力に有意差を認めませんでした。被験者は全てPDI 1級または2級で、1名の経験豊富な歯科医が製作した義歯を使用し、高い維持と安定スコア(Kapurスコア最低6)を有していました。

エビデンスに基づいた結論

研究対象となった患者集団において咬合様式は咀嚼能力に影響を与える、という事に関して弱いエビデンスを文献は示しました。

システマティックレビュー

コクランレビュー2008で、無歯顎患者の義歯の咬合面デザインに関する適用基準に該当する文献はたった1本でした。1983年のクロスオーバー試験で、リンガライズドオクルージョンとモノプレーン人工歯を比較しています。29名の患者がリンガライズを、5名がモノプレーンを好み、5名は好みなしでした。

7つの平衡咬合と犬歯誘導を比較した臨床試験を評価した2013年のシステマティックレビューでは、咀嚼機能と患者満足度を治療のアウトカムとして考えたとき、平均的な全部床義歯患者にとって、平衡咬合は治療の成功に不可欠なものではない、と結論づけています。引用文献の1つであるTrapozzanoは咬合理論して県誘導を使用していません。彼は20度臼歯を使用して咬合器上で非平衡咬合になるように排列しています。興味深い事に、このクロスオーバー研究において12名の患者のうち9名で平衡咬合の方が咀嚼能率が良い結果でした。8名の患者で好ましくない顎堤形態であり、全員BBの方が咀嚼能率が優れいたにもかかわらず、4名はどちらの咬合方式にも好感を持ちませんでした。MotwaniもTrapozzanoと似た実験方法を用いており、犬歯誘導を用いていません。

7つの文献を報告している他のシステマティックレビューでは、以下の咬合様式を採用基準で評価しています。解剖学的咬合、平衡咬合、犬歯誘導、リンガライズドオクルージョン、モノプレーンオクルージョン、両側性平衡と犬歯誘導デザイン。研究の異質性とバイアスにより統計的に解析できませんでした。かれらは、7つのうち3つの文献でリンガライズドオクルージョンが高い患者満足度を示し、リンガライズドオクルージョンと平衡咬合は、患者満足度が高く、従来の全部床義歯に上手く使うことができると述べています。そのため、「全部床義歯にはバランスのとれた咬合設計が必要であるという従来の補綴学の常識は、文献によって支持されていない」という結論には疑問があるようです。

Abduoは、全部床義歯患者への3つの咬合様式の影響を定性的に評価した12の文献をレビューし、平衡咬合とリンガライズにおいて解剖学的人工歯を使用することは、咀嚼能力、審美、快適性、発音に関して患者に等しく受け入れられると報告しています。咀嚼と安定性の点で、リンガライズが顎堤吸収高度症例に適しているといういくつかのエビデンスがあります。彼らは、患者の好みは解剖学的人工歯を使用した事による審美性が主だと感じています。PDIまたはKapurの分類については報告していません。

Klinebergらは、全部床義歯、部分床義歯、インプラントの咬合に関するレビューで、1966~2006までの研究を報告しています。全部床義歯では平衡咬合、リンガライズ、モノプレーンがレビューされ、リンガライズが好ましいとされました。CDに関する初期の研究は観察的なもので、引用文献の中には専門家の意見もありました。興味深いことに、彼らはWoelfelの1962年の研究を引用しているが、1974年にWinterと行った研究は引用していません。

Lemosらは、17の文献でレビューを行い、平衡咬合、リンガライズ、犬歯誘導、モノプレーンを比較しました。アウトカムは患者満足度とQOL、咀嚼能力、筋活動です。著者らは、平衡咬合は他の咬合様式と比べて優れているわけではなく、リンガライズは患者満足度とQOLに良い効果があり、咀嚼能力については平衡咬合と差が無かったと報告しています。犬歯誘導は、筋活動が弱っている患者には望ましい事を発見しました。著者らは、今回のレビューで用いた論文のフォローアップ期間が1~6か月で平均2.96か月であり短すぎる、PDI、Kapurの分類を使用していないと指摘しています。

平衡咬合と犬歯誘導の差を決定するためのレビューでは、採用基準にマッチしたのが7つの文献だけでした。多くはランダム化、ブラインド化されていませんでした。そのため、関連するすべての変数を深く調査することができず、研究の質がpoorからmoderateとなりました。最終的に咬合様式の違いは小さいと結論づけています。引用文献の中にTrapazzanoが含まれていますが、彼は犬歯誘導を採用していません。

エビデンスに基づいた結論

今回用いた研究の範囲内では、システマティックレビューは平衡咬合を弱く支持しながらもバラバラな結果を示しました。システマティックレビューはRCTに限定する必要はありません。Sackettは、EBMはRCTとメタアナリシスに限定されない、と述べています。それは、私たちの臨床的な疑問に答えるための最良の外部証拠(システマティックレビューが存在する場合はそこから、そうでない場合は一次研究から)を探し出すことです。利用可能なエビデンスを評価することは、もっとRCTが必要だと言うよりも、自分が治療している患者に関連した答えを探す臨床医にとって、より実りあるものです。

コンセンサスの議論

報告されたことがほぼないのが、歯医者ー患者間の信頼関係です。全部床義歯に対する患者さんの満足度は、技術的に完璧な義歯よりも、医師と患者さんの関係性によって左右されることが示唆されています。平衡咬合は、頬舌側に加えて、前方運動時にも前歯と臼歯が同時に接触する事を意味します。臼歯部の咬頭の高さが切歯路と調和していれば達成することができます。もし、咬頭の高さが低すぎる、または咬頭傾斜が前方滑走時に接触できるほど急ではない場合、調節彎曲またはバランシングランプが必要になります。平衡咬合を達成できるのは、解剖学的咬合、リンガライズドオクルージョン、バッカライズドオクルージョンであり、術者依存性です。アンテリアガイダンスを伴う咬合様式では全ての偏心運動時に臼歯部が接触しません。犬歯誘導の場合、アンテリアガイダンスと組み合わせることが前提ですが、引用された研究では明確になっていません。リンガライズとバッカライズは、突出したバランスを達成するために調節彎曲が必要な場合がありますが、これもほとんどの研究で、どのように、そしてもしそれが達成されたとしても、明確ではありません。

良好な顎堤を有し、神経筋的な問題を持たない平均的な義歯患者では、適切に製作された全部床義歯であれば、咬合様式に関係なくうまく機能するということは文献から明らかです。ほとんどの研究が類似した厳格な除外基準を持っており、無歯顎患者全体のコホートを代表するものではありません。歯科大学で行われ、一般歯科を対象とした研究プロジェクトであることは理解出来ます。今回の研究に含まれる患者は、補綴専門医の診療所で見られるような症例ではないかもしれません。加えて、1つを除き、全ての研究が咀嚼とQOLに関連する短期間のアウトカムを見ており、顎骨吸収、治療後のメインテナンス、修理、リベース、再製などの合併症を見ていません。咬合高径は全ての咬合様式の決定的な要素です。低下した咬合高径の回復は、視界をいつも悩ませます。今回用いた患者層での、咬合高径の変化と長期予後との関連については、これまで研究されていません。

究極的に、為害性がない、ということが最も重要なことです。年代バイアスに悩まされることなく、歯槽骨の減少を報告した研究は、Winter、Woelfel、 Igarashiの論文だけです。

コンセンサスの結論

1 良好な顎堤を有し、神経筋的な問題を持たない平均的な義歯患者では、適切に製作された全部床義歯であれば、咬合様式に関係なくうまく機能する、ということが強く支持されます。

2 ここで取り上げた患者群においては、患者満足度、好み、咀嚼能力に関して両側性平衡咬合への強い支持も反対もありませんでした。

3 非平衡咬合を付与した全部床義歯では顎骨吸収が増加するということを支持する論文があります。

4 結果がばらばらで、どちらの方向にも強いエビデンスがないことから、著者らは、交絡が試験結果に関与していると考えています。その結果、患者集団を予後的に層別化(PDI)し、合併症、メインテナンス、その他のアウトカムを含むアウトカムについてより長い追跡調査を行い、十分に定義された臨床試験を追加する必要があります。

5 著者らの専門家としての意見を総合すると、PDI 3級や4級などの結果として安定と維持が失われている患者に対して両側性平衡咬合の必要性が支持されます。

PDI分類

PDI分類は欠損別に種類があります。無歯顎用は以下のリンクになります。顎堤形状だけでなく舌の大きさなども診査対象になります。

https://www.prosthodontics.org/assets/1/7/Complete_Edentulism_Checklist.pdf

まとめ

今回引用されている論文はかなり古いものもあります。つまり、なかなか適した研究がないということになります。この論文の文章だけよんでいるとやはり犬歯誘導は厳しいな、というイメージを受けます。義歯が動きやすいのは当たり前ですからね。それに耐えられるだけの良好な顎堤があれば話は別ということでしょう。日本の高齢者で顎堤状態が良い無歯顎患者はかなり少ないです。今回の論文でそういった顎堤状態が悪い症例に両側性平衡咬合が推奨されるというのは、今までの臨床的なイメージとしても腑に落ちる所です。

ちょっと疑問だったのが、平衡咬合が何を指しているか?というのが論文によって違うのではないか?ということです。平衡咬合(Balanced Occlusion)という単語が今回一杯出てくるんですが、全ての論文で同じ両側性平衡咬合をを指しているかが謎です。
リンガライズドオクルージョンも今回の論文では緒言で両側性平衡咬合として定義されていますが、今回引用している論文全てそうなのかは謎です。リンガライズドオクルージョンは片側性平衡咬合も存在します。リンガライズドオクルージョンと平衡咬合を比較する論文が今回紹介されていますが、このリンガライズが両側性平衡咬合なら、何の平衡咬合と比較しているんでしょうか・・・。

また、多くの研究で歯学部の学生に義歯を作らせています。自分が学生の時を考えると、本当にちゃんと両側性平衡咬合になっているのか、ちょっと不安を感じます。経験のある歯科医が作ると結果が違うのかもしれません。また殆どの研究が短期的なアウトカムしか見ておらず長期的な経過がありません。ただし、咬合は硬質レジン歯ぐらいであれば比較的容易に摩耗で変化していくでしょうから、長期的な研究をするための条件は厳しそうです。金属歯とかジルコニアとかなら数年間は大丈夫そうですが。

メタアナリシスもできないぐらい異質性が高く、論文数も少ない状況なので、これをもって確定とは当然いきませんが、1つのまとめとしては有用かと思います。

この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© 5代目歯科医師の日常? , 2023 All Rights Reserved.