普通の歯科医師なのか違うのか

循環器疾患患者の炎症と残存歯数はある程度傾向がある

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

久々の投稿

第114回歯科医師国家試験が終わってからずっと忙しくてなかなか論文を読むところまで時間が取れなかったのですが、やっと仕事が一段落してきました。

前回読んだ論文は歯の欠損と全身状態の関連性についてだったのでうすが、長い割に不完全燃焼な感じだったので、今回は同じような内容で短い論文を読んでみることにしました。2018年の日本の論文です。

Associations among tooth loss, systemic inflammation and antibody titers to periodontal pathogens in Japanese patients with cardiovascular disease
N Aoyama , J-I Suzuki, N Kobayashi, T Hanatani, N Ashigaki, A Yoshida, Y Shiheido , H Sato, M Minabe, Y Izumi, M Isobe
J Periodontal Res. 2018 Feb;53(1):117-122

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29139559/

Abstract

Background and objective: It is well known that there is a strong relationship between periodontitis and cardiovascular disease (CVD). Tooth loss reflects an end-stage condition of oral diseases, such as periodontitis. Infection with specific periodontal pathogens is known as a possible factor that influences development of CVD. The aim of this study was to assess the relationship between the number of residual teeth and systemic inflammatory conditions in patients with CVD.

Material and methods: We divided 364 patients with CVD into four groups, according to the number of residual teeth: (i) ≥20 teeth; (ii) 10-19 teeth; (iii) 1-9 teeth; and (iv) edentulous. We recorded medical history, blood data and periodontal conditions. Serum samples were obtained and their IgG titers against three major periodontal pathogens were measured.

Results: Smoking rate and the prevalence of diabetes mellitus were higher in edentulous patients and in subjects with a few teeth compared with patients with many teeth. The levels of C-reactive protein were higher in patients with 1-9 teeth than in those with 10-19 teeth and with ≥20 teeth. The level of Porphyromonas gingivalis IgG in the group with 10-19 teeth was statistically higher than that in the group with ≥20 teeth. The level of P. gingivalis IgG in the edentulous group tended to be lower than that in the other groups.

Conclusion: The patients with 1-9 teeth had the highest level of C-reactive protein among the four groups, and the patients with 10-19 teeth had the highest level of IgG to periodontal bacteria. We conclude that the number of remaining teeth may be used to estimate the severity of systemic inflammation in patients with CVD.

背景と目的:歯周病と循環器疾患(CVD)が強い関連性があるということはよく知られています。歯の欠損は歯周病などの口腔疾患の最終段階を反映しています。特定の歯周病の病原体の感染はCVDの進行に影響する可能性がある事が知られています。本研究の目的は、CVDに罹患した患者における残存歯数と全身的な炎症の関連性について調査する事です。

実験方法:364人CVD患者を残存歯数により1)20本以上、2)10~19本、3)1~9本、4)0本の4群にわけました。既往歴、血液検査、歯周病検査などを採得しました。3種類の主な歯周病病原体に対する血清中のIgG力価を計測しました。

結果:喫煙率や糖尿病罹患率は、無歯顎、1-9本残存群で他の群と比較して高い傾向を認めました。CRPに関しては1-9本残存群が10-19本群、20本以上群と比較して高い傾向を認めました。P. gingivalisに対するIgG抗体は10-19本残存群では20本以上残存群と比較して有意に高い結果となりました。無歯顎群においてP. gingivalisに対するIgG抗体は他の群より低い傾向を示しました。

結論:1-9本群において最も高いCRPを認め、10-19本群において歯周病細菌に対する最も高いIgG抗体価を認めました。CVD患者において、残存歯数は全身の炎症の重症度の推定に使用できる可能性が示唆されました。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

 歯周病とCVDには強い関連性があるというのはよく知られています。歯の欠損は歯周病などの口腔疾患の最終かつ不可逆な段階であり、口腔の一般的な炎症性疾患は歯槽骨、支持組織の破壊を伴います。

 Liljestrandらは歯の喪失がCVD罹患と死亡を推定すると示唆しました。多くの研究では、動物モデルにおいて特定の歯周病病原体による感染はCVD進行を加速すると報告しています。例えば、P. gingivalisはマウスにおいて腹部大動脈瘤と動脈硬化を促進しました。A. actinomycetemcomitansはネズミの心筋梗塞と心肥大を悪化させることも報告されています。Vlachojannisらは歯周病罹患者では、歯周病未罹患者と比較してP. gingivalisへの抗体価が2倍に上昇すると報告しています。彼らは無歯顎者では有歯顎者と比較して抗体が低くなる事も報告しています。しかし、CVD患者において残存歯数、全身の炎症状態、抗体レベルの関連についてはデータがありません。そのため、CVD患者において無歯顎が全身の炎症や抗体レベルに与える影響に関する報告もありません。

 そこで本研究の目的は、日本人のCVD患者において口腔と全身の炎症について調査する事です。本研究では、全身の炎症反応と歯周病原因菌に対する抗体力価は少数歯残存患者においてピークとなり、無歯顎患者では低くなる傾向を示しました。

実験方法

被験者

 東京医科歯科大学において入院中の71~90歳のCVD患者364名をリクルートしました。残存歯数に合わせて4群に分けています。1)20本以上残存、2)10~19本残存、3)1~9本残存、4)0本(無歯顎)。

医学的検査

医師により病歴の採取と検査が行われました。殆どの患者は複数の薬剤を服用していました。高血圧、DM、脂質異常に関しても記録しました。喫煙歴に関しては聴取しました。血液を採取し、HDL、LDLコレステロール、CRP、HbA1cを計測しました。

歯周病検査

歯周病学会認定医(専門医?)である3人の歯科医によって口腔内の診査が行われました。残存歯数のカウントと、おそらくCPITNに準じた歯種に関して6点法によるポケット深さ、アタッチメントレベルの計測、ブリーディングの判定を行っています。

抗体

血清を用いて、3種の歯周病病原体による細胞表面の抗原に対するIgGを解析しました。P. gingivalis、A. actinomycetemcomitans、P. intermediaの3種類です。ELISA法を用いました。

統計方法

残存歯による4群間の比較:ANOVAとTukeyの多重比較
性別、高血圧、脂質異常:χ2検定
喫煙率とDMの傾向:コクラン・アーミテージ傾向検定
有意水準:5%

結果

被験者の特徴

4群間で性別、年齢、高血圧、脂質異常には有意差を認めませんでした(表1)。
喫煙率とDM罹患率に関しては有意差を認め、無歯顎者群と少数歯残存群が多数歯残存群と比較して高い傾向でした。

HDLコレステロールは無歯顎者群では20本以上残存群と比較して有意に低値となりました。一方、LDLコレステロールは4群間で有意差を認めませんでした。

CRPに関しては、1~9本残存群が10~19本残存群、20本以上残存群と比較して有意に高値となりました。無歯顎群のCRPは1~9本残存群、10~19本残存群と比較して低い傾向にはあったが、有意差は認めませんでした。

HbA1cに関しては4群間で有意差を認めませんでした。

口腔内状況

アタッチメントレベルについては1~9本残存群がもっと高値を示し、20本以上残存群が最も低値となりました。

ブリーディングの割合は10~19本残存群が20本以上残存群よりも有意に高い割合を示しました。

ポケット深さの平均値に関しては群間で有意差は認めませんでした。

IgG抗体

P. gingivalisのIgG抗体は10~19本残存群において20本以上残存群よりも有意に高値を示しました。有意差は認めなかったものの、無歯顎者群は他群より低値でした。

A. actinomycetemcomitans、P. intermediaの抗体でも、無歯顎者群は有意差は無いものの他群よりも低値となりました。

多変量解析で全身疾患等を調整した結果、男性は女性よりも深いポケットを有していました。しかし、深いポケット深さと喫煙、DM、高血圧、脂質異常は有意な相関を認めませんでした。

考察

 特定の歯周病原因菌がCVDの進行に影響していると示唆されています(文献1-3)。本研究では、歯が少ない患者では全身の炎症反応と歯周病菌に対する抗体価がピークになるのに対し、無歯顎患者では炎症が低下し抗体価が低い傾向にあることを示しました。我々が行った抗体検査では、抗体価のカットオフポイントはありませんでした。そこで、今回の研究では、両群間の抗体レベルを比較しました。Vlachojannisらは、P. gingivalisに対するIgGの上昇した抗体価は、歯周病の参加者では歯周病健常者に比べて2倍の有病率であり、無歯顎の参加者では有歯顎の参加者に比べて低い抗体反応を示しました。現在歯周感染症にさらされていない無歯顎群では、歯が抜けてからの時間が抗体価を決定する重要な要素ではあるが、高い抗体反応を保持する可能性は低いと考えられます。逆に、残存歯数が異なる人における高抗体価の有病率は、現在の歯周状態にも依存しています。

 P. gingivalisに対するIgGの力価は、DMを持っている人の方がDMを持っていない人よりも高かったことが報告されています。DMとの関連性については、IgG価を調べた先行研究と比較することはできませんでしたが、本研究ではDMを持つ人は2型DMと考えられました。我々のデータでは、DM陽性は残存歯数と負の相関があるが、CRP値や抗体価とは相関がないことが示されました。したがって,DMは歯周病による歯の喪失には影響を与えるかもしれませんが,全身の炎症反応や抗体価には直接影響を与えない可能性があり,これらの因子は歯質や無歯状態に依存している可能性があると考えられる.

以上のように、歯周状態や歯の本数が全身の抗体反応に及ぼす影響は、年齢、人種・民族、性別、DMの関連性の一因となっている可能性がある。今回の研究では年齢、人種・民族、性別に有意差がなかったため、歯周病の状態が結果に影響を与える可能性があります。P. gingivalisに対するIgGの力価は、DMを持っている人の方がDMを持っていない人よりも高かったことが報告されています。DMとの関連性については、IgG価を調べた先行研究と比較することはできませんでしたが、本研究ではDMを持つ人は2型DMと考えられました。我々のデータでは、DM陽性は残存歯数と負の相関があるが、CRP値や抗体価とは相関がないことが示された。したがって,DMは歯周炎による歯の喪失には影響を与えるかもしれないが,全身の炎症反応や抗体価には直接影響を与えない可能性があり,これらの因子は歯質や無歯状態に依存している可能性があると考えられる.

以上のように、歯周状態や歯の本数が全身の抗体反応に及ぼす影響は、年齢、人種・民族、性別、DMの関連性の一因となっている可能性がある。今回の研究では年齢、人種・民族、性別に有意差がなかったため、歯周病の状態が結果に影響を与える可能性があります。P. gingivalisに対するIgGの力価は、DMを持っている人の方がDMを持っていない人よりも高かったことが報告されています。DMとの関連性については、IgG価を調べた先行研究と比較することはできませんでしたが、本研究ではDMを持つ人は2型DMと考えられました。我々のデータでは、DM陽性は残存歯数と負の相関があるが、CRP値や抗体価とは相関がないことが示された。したがって,DMは歯周炎による歯の喪失には影響を与えるかもしれないが,全身の炎症反応や抗体価には直接影響を与えない可能性があり,これらの因子は歯質や無歯状態に依存している可能性があると考えられる.

以上のように、歯周状態や歯の本数が全身の抗体反応に及ぼす影響は、年齢、人種・民族、性別、DMの関連性の一因となっている可能性があります。今回の研究では年齢、人種・民族、性別に有意差がなかったため、歯周病の状態が結果に影響を与える可能性があります。P. gingivalisに対するIgGの力価は、DM罹患者の方がDM非罹患者よりも高かったことが報告されています。DMとの関連性については、IgG価を調べた先行研究と比較することはできませんでしたが、本研究ではDMを持つ人は2型DMと考えられました。我々の研究から、DM陽性は残存歯数と負の相関があるが、CRP値や抗体価とは相関がないことが示されました。したがって,DMは歯周炎による歯の喪失には影響を与えるかもしれませんが,全身の炎症反応や歯周病原因菌の抗体価には直接影響を与えない可能性があり,これらの因子は有歯顎か無歯顎に依存しているかもしれません。

 喫煙に関して、私達の研究結果は喫煙者の歯周病原因菌に帯する抗体価は非喫煙者より高いという以前の研究とほぼ同様な結果となりました。喫煙は残存歯数と負の相関を示しましたが、CRPや抗体価とは相関がありませんでした。このため、喫煙は歯周病由来の歯の喪失には影響するものの、全身的な炎症や抗体価とは関連性がないかもしれません。

limitation

1)サンプルサイズを計算していなかった
2)ポケット深さに影響を与える生物学的幅径を侵害する不良充填物などを精査してない
3)ポジティブまてはネガティブコントロールを設定していない
4)CVDの重要度を規定していない

まとめ

無歯顎者群は喫煙、DM罹患率が高いのですが、CRP自体には有意差は認められませんでした。無歯顎者のCRPはかなり標準偏差が大きいので結果の解釈には注意する必要がありそうです。無歯顎者の被験者数の少なさ、CVDの重症度による分類ではない事なども考えられます。

アタッチメントレベルは歯が残存している3群全てで有意差があり、70歳も後半になったところで20本以上残存している人と、1~9本しか残っていない人ではペリオの状況がかなり違うだろう、というのは想像に難くないところです。ブリーディングに関しては1~9本群、10~19本群では有意差なし、20本以上群と10~19本群で有意差有りとなりました。図をみると1から9本群は標準偏差がかなり大きいので、被験者が増えるとまた違うかもしれません。

多数歯残根でオーバーデンチャーが入ってて歯肉が大変な事になっている症例をある程度の割合でみますが、そういった方は本研究には含まれていないのか、含まれているのかが文章だけからはわかりません。
読んでみた印象からして、おそらく今回は含まれていない気がします。私は積極的に抜歯を勧めていますが、この研究の結果からも無歯顎にした方がCRPの低下などが期待できそうな気がします。こういう方は大体循環器に何か持っている事が多いですから。

ただし、前回読んだ論文では一般高齢者では歯を一定数喪失するとCRPが高くなるという結果となっています。歯の喪失による栄養摂取の偏り(抗酸化食の不足)がCRP上昇に繋がっていると考察しており、今回の結果と必ずしも一致していません。ここら辺はもっと知見を深める必要がありそうです。

 

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