普通の歯科医師なのか違うのか

クッションタイプの維持力はクリームやパウダーに劣る(in vivo)

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

クッション材が駄目な根拠はどういうものなのか

前回義歯安定剤のメタアナリシスを読んだわけですが、やはり安定剤のエビデンスはかなり不足しており、残念ですがメタアナリシスもそれほどエビデンスレベルが高いとは言えないものでした。ただ、今現在どういったエビデンスがあるのかを知る事も重要かと思います。

今回はメタアナリシスのdiscussionにこの一文とともに引用されていた論文を読んでいきたいと思います。

As for the insoluble DAs, some investigators are concerned that DA pads and wafers may change the occlusal relationship of the dentures due to their thickness, and lead to potential risk of ridge resorption.

義歯安定剤の最近の見解と患者指導(2018)にも記載されていますが、安定剤は粘着剤とホームリライナーに分類され、ホームリライナー(クッションタイプ)は好ましくないとされています。ただ、これにエビデンスがしっかりあるのか?ということを私は把握していませんでした。そこに魅惑的な文章と引用文献を提示されたので読む事にしました。

A comparative analysis of the effect of three types of denture adhesives on the retention of maxillary denture bases: an in vivo study
Nivedita J Pachore , J R Patel, Rajesh Sethuraman , Y G Naveen 
J Indian Prosthodont Soc. 2014 Dec;14(4):369-75. doi: 10.1007/s13191-013-0334-y. Epub 2013 Dec 1.
PMID: 25489160

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25489160/

in vivoであることとインドの補綴学会誌というところがだいぶひっかかるのですが、読まないと話にならないので読んでいきます。

Abstract

There are many factors involved in the success of a good quality complete dentures, one of them is retention. There are some forcing situations where providing optimal retention may be a problem, in which use of denture adhesives is recommended. In the present study, primary and secondary impressions were made on 20 completely edentulous patients, master cast was fabricated. Master cast was duplicated; heat-cured denture base was fabricated. The retention test for control group, powder group, wafer group, paste group was done using a customized force sensor device. Readings was subjected to ANOVA followed by post hoc test. Results show that the retention force value of the paste group was the maximum, followed by powder group, wafer group and the least retention force value was observed with control group. Within the limitations of the study it can be concluded that the paste form of denture adhesive has the best retentive property compared to the powder and wafer.

良い質の全部床義歯の成功に関して多くの要因があり、その1つが維持力です。適切な維持力が困難な場合、安定剤の使用が推奨されます。本研究では、20人の無歯顎患者に一次、二次印象を行い、作業模型を製作しました。作業模型を複製し加熱重合レジンで義歯床を製作しました。コントロール群、パウダー群、ウエハー群、ペースト群の維持力試験をカスタマイズした応力測定器を用いて測定しました。と統計はANOVA後にpost hocテストを行いました。ペースト群が最も維持力が大きく、次いでパウダー群、ウエハー群でした。コントロール群が最も維持力が小さい結果でした。Limitationはありますが、ペーストタイプは、パウダーやウエハーと比較して良好な維持を発揮すると結論づけられます。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言の一部

歯科医師は、無歯顎者に良質な義歯を製作し、栄養の質を改善するという重要な役割を担っています。良質な義歯の成功に関して多くの要因があり、その1つが維持力です。即時義歯、シングルデンチャー、顎義歯や、神経筋機構のコントロールが不良、顎堤吸収が高度、口腔乾燥、顎間関係の異常などの場合、義歯の維持力を更新するために安定剤の使用が推奨されます。また、義歯の適合性が悪く、要求の厳しい患者さんや、弁護士、俳優、政治家などの社会的活動家の方にも適応されることがあります。

義歯の維持は、特に垂直的な方法において支持組織から義歯が離れようとする動きへの抵抗、と定義されます。

義歯安定剤は義歯と粘膜を粘着する材料です。粘着性と密着性にのみならず、義歯と粘膜間の空隙をなくすことで快適性と信頼性を与えます。商品として入手可能で、無毒性、可溶性、粘性を有し、義歯の組織表面に塗布することにより、義歯の保持力を高め、義歯の安定性の質を向上させるものです。色々な形状、パウダー、ペースト/クリーム、泡、ストリップス/ウエハースなどのタイプがあります。

色々なタイプのなかで使いやすいのはウエハースタイプのようです。製品の用途だけでなく、材料の有効性も知っておく必要があります。パウダータイプ、ペーストタイプと、ウエハースタイプを比較した研究は未だなく、必要性を感じます。

本研究の仮説は、上顎義歯床の維持力に3つの安定剤は影響しない、です。

実験方法

被験者

20名の完全無歯顎者
採用基準:完全無歯顎、顎堤吸収が高度でない、健康的な粘膜
除外基準:口腔乾燥症、神経筋機構のコントロール不良、フラビ-ガム、口蓋欠損、非協力的な患者

印象、模型製作

概形印象採得:既製トレー+不可逆性のハイドロコロイド印象材(おそらくアルジネート)
精密印象採得:選択加圧できるように製作した個人トレー+モデリングコンパウンド+酸化亜鉛ユージノール印象材

複模型製作:作業模型を1つコピー
主模型:義歯製作に使用、複模型:維持力のチェックに使用

測定装置の製作

左右のハミュラーノッチの距離を測定して、2で割ったポイントにマーキングしました。

ベースプレートワックスのシートを複模型に適合させ、、前歯正中部に10mm×10mmのワックスブロックを設置しました。
複模型を、顎堤による平面が床と平行になるようにサベーヤーの模型台で設定し、フックをマーキングした上顎後縁部に設置しました。

フックとブロックの高さが同じになるように設定。ワイヤーを通すためにブロックの中央にグルーブを設定しました。これは患者の口唇を傷つけずに正中方向にまっすぐワイヤーが設定できるようにするためです。

ワックスをレジンに置換。実験用義歯床は維持力測定前に17日間水中浸漬しました。

維持力測定

義歯安定剤無し:control
Fixcon poeder:group I
sea bond wafer:group II
Fittydent pasate:groupIII

20名にGroupI~IIIを3回ずつ施行(1日で行う)
実験用義歯床を口腔内に挿入して3分待機後に、義歯床の外れやすさを試験しました。
パウダータイプ:実験用義歯床をぬらした後に粘膜面に拡散
ペーストタイプ:実験用義歯床を乾燥させて、ビーズ大を切歯、大臼歯部、口蓋中央部に塗布
ウエハース:実験用義歯床を乾燥させて、ウエハースをお湯に浸漬後に粘膜面に貼付

フックに1mmワイヤーをセットして、引っ張り試験器に接続。
水が入ったボトルfから、水がボトルiに落下することで荷重がかかるシステム
試験者は実験用義歯床が外れるか、外れたと患者が指摘した場合の荷重量を測定

結果

表1に示すように維持力の平均値はcontrol群では79.10g、group Iでは282.55g、group IIでは105.25g、group IIIでは646.2gでした。

グラフ1に示すようにgroup IIIが最も大きな維持力であり、controlが最も小さな維持力となりました。一元配置分散分析では各群間に有意差が認められました。

表3にはpost hocによる多重比較の結果を示します。control群と比較して、group I~III全てが有意に維持力の増加を認めました。Group Iと比較してGroup IIは有意に維持力の低下を、Group IIIでは有意な維持力の増加を認めました。Group IIと比較してGroup IIIでは有意な維持力の増加を認めました。

Discussionの一部(結構カットしてます)

義歯の維持は安定性を向上させるだけではなく、心理的な問題の助けにもなります。心理的な問題とは、義歯の維持に満足いかないことによる恐れ、不安、恥ずかしさなどが含まれるかもしれません。このように、安定性を補う維持力が、患者の身体的、生理的、心理的ニーズを満たす完成義歯を実現するのです。しかし、顎堤吸収が著しい高齢者では、歯槽骨の保持が不十分となる可能性があり、代替手段を講じる必要があります。文献を検索すると、ワイヤー、スプリング、サクションディスク、サクションチャンバーのような機械的デバイス、マグネットの使用、アンダーカットを使用して、必要な保持力を補綴物に与えていることがわかります。上記のデバイスは維持を増加するものの、支持組織にダメージを与え、状況を複雑にします。そのため、市販されている義歯安定剤は、無毒で、粘着性のある可溶性材料であり、義歯を所定の位置に保持する能力を有するため、維持を解決するための許容可能な解決方法として登場しました。いままで本研究のようなパウダー、ペースト、ウエハースタイプを比較したin vivoの研究はありませんでした。

維持力の評価には以下の3つの方法があります。主観的方法、より臨床的で客観性に乏しい方法、測定機器を用いた完全に客観的な方法です。主観的、臨床的な方法は信頼性に乏しいですが、疫学的な研究はとても実用的です。全ての側的機器を用いた客観的な研究は信頼性が保証されます。そのため、本研究では維持力の測定にカスタマイズしたセンサを用いる事としました。

大きさ、形態、床用材料、年齢、健康状態、粘膜の正常、義歯経験、唾液の質と量、義歯の吸水性など様々な要素が義歯の維持に影響します。今回はフラビーガムや口腔乾燥症などの異常を有する患者は除外しており、粘膜や唾液が正常な患者のみを扱っています。

Stephensらは、口蓋組織の厚みは日内変動があることを報告しています。今回の実験は1回のアポイントで完了しますし、全ての患者を同じ時間帯でテストしました。精密印象も同じ時間で採得し、誤差をできるだけ小さくすることに配慮しました。

Colonらは全部床義歯の維持を測定する研究でどこに力を与えれば良いかに関して検討しています。彼らは前歯部、中央部、後方部の3つにフックを設置しました。この研究によると、義歯偏位時の力が最も大きかったのは前歯部でした。中央部、後方部と力が小さくなりましたが、中央部はばらつきが認められました。

本研究では中央部はさけ、義歯偏位に要する力が最も小さかった後方部を採用しました。また、口蓋後方部は機能的、非機能的な動きにおいて過大な動きをするため、上顎義歯の維持力の低下に大きく影響する部位であることから、後方部にフックを設置することとしました。

Chew、GhaniとPictonらはペーストタイプの方がパウダーよりも維持力が高いと報告しています。KumarとThombareによるin vivoの研究でも同様の結果であり、本研究の結果とも一致しています。以前の研究の方が維持力が大きいですが、これは中央部にフックを設置していたからだと思われます。

ペーストタイプがより維持力が高い理由は粘弾性によるものでしょう。ウエハータイプの維持力が低い理由は厚みによるかもしれません。

まとめ

メタアナリシスの文献リストの番号を間違えたかも、ともう一度確認したのですが、間違えてませんでした。番号を振り間違えた可能性があるのかもしれませんが、今の所、メタアナリシスの論文でこの文献を引用して書かれた文章である

As for the insoluble DAs, some investigators are concerned that DA pads and wafers may change the occlusal relationship of the dentures due to their thickness, and lead to potential risk of ridge resorption.

に該当する記載はこの論文にはどうもないようです・・・。

いや、一応この論文の最後に

The reason for the wafer form of denture adhesive to be less retentive compared to the other forms may be due to the thickness of the wafer.

という箇所があるのですが、この文章だけでlead to potential risk of ridge resorptionと言えるわけもないと思います。これは残念な感じになっちゃいましたね。というか維持力を安定剤の違いだけで検討して一元配置分散分析している段階でもう違うだろうな、と思って読みましたが。

この論文自体の手法ですが、どう考えても義歯の着脱方法と一致しない方向に引っ張っているものを維持力と表現するのに違和感があります。ただ、他に維持力を計測した論文を読んだことがないので、一般的な手法かわかりません。これを論じるには他の論文を読んでみる必要があると考えます。

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