象牙質歯面をボンディングした後にあまり乾燥しすぎると接着力が落ちる可能性
今回はメールで来たDMJ最新刊の内容を読んでいたら興味がある論文が掲載されていたので、それを読んでみることにしました。もちろん材料系のお話です。韓国からの論文ですね。
Effect of dentin surface conditions and curing mode of resin cement on the dentin bond strength
Sung-Ae Son , Jae-Hoon Kim , Deog-Gyu Seo , Jeong-Kil Park
Dent Mater J. 2024 May 9. doi: 10.4012/dmj.2023-287. Online ahead of print.
PMID: 38719583
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38719583/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dmj/advpub/0/advpub_2023-287/_pdf/-char/en
Abstract
This study investigates the effects of dentin’s drying time, roughness, and curing modes of resin cement on bond strength. Forty human teeth were divided into eight groups based on three experimental factors: dentin’s roughness by 240-or 600-grit SiC paper (coarse or fine), dentin wetness with air-drying time (5-s or 10-s), and Single Bond Universal adhesive’s curing mode by co-curing with RelyX Ultimate cement or light-curing separately (co-curing or light-curing). The micro-tensile bond strength of fifteen resin-dentin stikcs per groups was measured. Failure mode and adhesive layers were observed using stereoscopic and confocal laser scanning microscopy, respectively. The curing mode of the adhesive layer affected the bond strength of the dentin-resin cement (p<0.05). In particular, the light-curing mode exhibited a significantly higher bond strength than the co-curing one (p<0.05). The bond strength between the resin cement and dentin was improved in the 5-s drying groups than in the 10-s drying groups.
本研究では、象牙質の乾燥時間、表面粗さ、レジンセメントの重合方法が接着強さに与える影響を検討しました。40本のヒトの歯を以下の条件により8群にわけました。象牙質の表面粗さ(240または600番の耐水研磨)、象牙質の乾燥時間(5秒または10秒)、重合方法(RelyX Ultimate cementを用いた共重合または光照射)。各群において15個の試料の微少引張り強さを計測しました。破損モードと接着層を、それぞれ立体顕微鏡と共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察しました。接着層の重合方法は、象牙質ーレジンセメントの接着強さに有意に影響しました。特に、光重合は共重合よりも有意に高い接着強さを認めました。5秒間乾燥は10秒乾燥よりも接着強さが優れていました。
緒言
審美修復の成功と生存は、最適な歯質への接着面を形成するためのボンディングとレジンセメントの適切な使用に左右されます。アドヒーシブレジンセメントは、象牙質表面のコンディションとボンディング材の使用方法に敏感です。
レジンセメントを使用する前に接着層が充分重合していれば、修復物の象牙質との接着強さは増加します。しかし、接着層が未重合であると、窩洞の形状によっては局所的または全体的に接着層が厚くなることがあり、修復物の完全な装着が妨げられ、修復物と歯との間に不適合が生じます。
そのため、この現象を防ぐために共重合が提案されました。ボンディング使用後、光照射しなくてもレジンセメントを即座に使用できます。その次に、ボンディングとレジンセメントを一緒に光重合します。この方法により、イレギュラーな象牙質接着層の厚みが最小限になり、修復物が不適合になる可能性が下がります。加えて、この方法は装着にかかる時間を短縮し、シンプルな接着操作となります。
ボンディング材を使用する際、スメア層の性質と象牙質表面の水分管理は、プレパレーション方法に依存します。窩洞形成時のインスツルメントの粒子径は、象牙質表面粗さとスメア層の形成に影響します。セルフエッチングプライマーシステムでの水の役割は、象牙質の脱灰と浸透を同時に行い、酸性レジンモノマーのイオン化と作用の媒体となることです。象牙質表面の湿潤は、酸性機能性モノマーのイオン化と象牙質への浸透能力に影響し、臨床的なエアーによる乾燥時間でコントロールします。さらに、色々な表面に粗さ上に形成したスメア層の接着強さは、ボンディング剤とその塗布方法により、やや議論のある結果を示しました。臨床家は、象牙質表面のコンディション、例えばボンディングやレジンセメントを使う際の湿潤や粗さをコントロールする方法に興味があります。加えて、セメンテーション過程を簡便にする技術、例えば共重合が象牙質接着に及ぼす影響への関心も高まっています。
本研究の目的は、乾燥時間、象牙質の表面粗さ、重合方法(共重合か、別々に光重合するか)が接着強さに与える影響を調べることです。帰無仮説は、接着層の重合方法、象牙質表面の粗さ、乾燥時間はレジンセメントと象牙質間の微少接着強さに影響しない、としました。
実験方法
歯の選択
図1に本研究のワークフローを示します。抜歯後3か月以内のカリエスのない第3大臼歯40本を使用しました。0.5%クロラミンTで消毒し、4℃の蒸留水中に浸漬しました。ダイヤモンドのカッティングディスクで歯冠を水平的に切断し、平らで健全な象牙質を露出しました。
実験デザインと試料の用意
表1に、本研究で使用した材料の成分と使用方法について示します。40個のレジンディスクを製作するために、4mm厚、直径9mmのシリコーン製の型に、コンポジットレジン(GC、MIグレースフィル)を2mmの厚みで充填し1200 mW/cm2で20秒光照射を行いました。レジンディスクを型からはずし、裏面に20秒光照射を行いました。その後で250番の紙やすりで60秒間耐水研磨を機械にて行いました。40本の歯を歯軸に垂直にカットして、スメア層の標準化のためにランダムに2つのパーツに分けました。20本の歯の表面を250番炭化ケイ素研磨紙で60秒耐水研磨し、粗い象牙質群としました。のこり20本の歯の表面は250番で研磨後に600番で耐水研磨し、細かい象牙質群としました。研磨機は全ての試料の研磨、30秒の水洗に使用しました。
両群をさらに乾燥時間5秒と10秒群の2群に分類しました。圧力レギュレーターで1バールに調整した3ウェイシリンジで5秒または10秒間象牙質表面に空気を当てました。象牙質表面から1.5cm離した位置で、45度の向きでエアーノズルを固定しました。
それぞれの群をさらに2つの群に分けました。レジンセメントでセメンティングする前に象牙質のボンディング剤を重合するかどうかで、共重合と光重合の2群にわけました。表1に本研究で行った重合方法を詳細に記載しています。次に、レジンディスクをデュアルキュアのレジンセメントで1kg1分の荷重で装着しました。余剰セメントを除去後に両面を20秒光照射しました。装着後全ての試料は37度の蒸留水で24時間保管しました。
微少引張接着強さ試験
全ての試料を1×1×10mmの棒状にカットしました。ランダムに15個の試料をそれぞれの群から選択し、微少引張接着強さを微少引っ張り試験機でクロスヘッドスピード1.0mm/minで測定しました。
破壊面解析
微少接着強さ試験後に、破壊面を顕微鏡にて40倍で観察、記録しました。象牙質ーセメント間またはレジンディスクーセメント間で破壊が起こっている場合、界面破壊を記録しました。セメント層内の凝集破壊を記録しました。凝集と接着破壊が起こっている場合、混合破壊を記録しました。さらに、象牙質またはレジンディスク内での破壊が起こっている場合、材料破壊を記録しました。
共焦点レーザー顕微鏡解析
共焦点レーザー顕微鏡解析の画像を得るために、16本の抜歯されたばかりのヒト第3大臼歯を使用しました。選択された歯は象牙質表面を露出させるために、上記に記載とおりの方法で切断しました。ローダミンB蛍光色素を接着システムに加えました。フルオレセインイソチオシアネート色素を0.01wt%でレジンセメントに加えました。試料全てを近遠心方向で垂直に厚み1.0mmでカットしました。共焦点レーザー顕微鏡を使用して、接着界面を観察し、200倍拡大蛍光画像を得ました。
統計解析
Shapiro-WilkテストとLeveneテストを正規性と均一性の確認のために使用しました。実験データの解析は分散分析とDuncanの多重比較を行いました。有意水準は5%としました。
結果
微少引張接着強さ試験
表2に象牙質とレジンセメント間の微少引張接着強さを示します。光照射群では、共重合群と比較して有意に大きい接着強さを認めました。粗い5秒乾燥群(共重合:13.6±3.8MPa、光重合:20.6±6.3MPa)と細かい10秒乾燥群(共重合14.1±2.6MPa、光重合22.4±7.3MPa)の接着強さの差は、他の群と比較して有意に大きくなりました(注:文章と表で細かい10秒群のデータが逆になっているようです。その後の文章から表は正しくこの文章が間違っています)。光重合、細かい5秒乾燥群は最も大きい微少引張接着強さを示しました。一方で、共重合、細かい10秒乾燥群では最少の微少引張接着強さを示しました。細かい10秒乾燥群は重合方法に関わらず、接着強さが小さくなりました。
表3に3元配置分散分析の結果を示します。象牙質の荒さとは異なり、重合方法、乾燥時間は有意に接着強さに影響を与えている事が確認できました。重合方法と乾燥時間の相互作用も有意に接着強さに影響を与えました。対照的に、重合方法と象牙質の荒さ、象牙質の荒さと乾燥時間の相互作用は影響しませんでした。3つ全ての相互作用も同様に影響しませんでした。
図2は、重合方法、象牙質の荒さ、乾燥時間での微少引張接着強さの平均値を示します。重合方法において、共重合群は光重合群と比較して有意に小さい象牙質ーレジンセメント接着強さを示しました。象牙質の荒さでは、粗い群と細かい群で有意差を認めませんでした。対照的に、5秒乾燥群の接着強さは10秒乾燥群よりも有意に大きくなりました。
破壊面解析
図3には、剥離した破壊モードについて示します。混合破壊が最も多く、界面破壊は10秒乾燥群で多く認められ、共重合、細かい、10秒乾燥群では試料の47%が界面破壊でした。凝集破壊と材料破壊は光照射群、5秒乾燥群で多く認められました。特に、光照射ー5秒乾燥群では、凝集破壊は試料の33%、材料破壊は試料の20%に認められました。
共焦点レーザー顕微鏡解析
図4に各群の共焦点レーザー顕微鏡イメージを示します。ボンディング剤とセメントの境界は共重合群では不明瞭でしたが、光重合群では明瞭でした。10秒乾燥群と比較して、5秒乾燥群は象牙細管に浸透するボンディング剤が高濃度であり、均一な浸透パターンが認められました。特に光重合ー粗いー5秒乾燥群で著明に観察されました。
考察
本研究では、3つの要素である象牙質表面粗さ、乾燥時間、重合方法が、象牙質ーレジンセメントの接着強さに与える影響を検討しました。3要素は接着強さに影響しないという帰無仮説は、重合方法、乾燥方法については否定され、表面粗さでは肯定されました。
本研究では、Single Bond UniversalとRely X Ultimateのコンビネーションのみを使用しました。条件を規格化した象牙質試料にレジンディスクをセメンテーションした後に微少引張接着強さを測定しました。
重合方法が微少引張接着強さに与える影響については、共重合群は、象牙質の荒さや乾燥時間に関係なく、光重合群と比較して有意に小さい接着強さとなりました。本実験で使用したSingle Bond UniversalははpH2.7と低いものでした。本研究では、低pHのSingle Bond Universalとデュアルキュア型レジンセメントを使用する際に、未重合酸性モノマーとデュアルキュア型レジンセメントのアミン成分との反応によるレジンセメントーボンディング剤の不適合という潜在的な問題に対処するために、アミンフリーのデュアルキュアRely X Ultimateセメントを使用しました。製造業者はSingle Bond UniversalとRely X Ultimateを間接修復物の装着に使用した場合、接着層には光照射しなくても問題ないと報告しています。レジンセメントの自己硬化成分が薄い接着層に作用して化学重合を達成するため、このような共重合技術が可能になります。もし、象牙質ボンディング剤が、レジンセメントによるセメンティング前に光重合されていたら、象牙質ボンディング剤の厚みは窩洞により様々になるでしょう。ボンディング剤が貯まりやすい場所がおこり、その層の厚みにより修復物の浮き上がりに繋がる可能性があります。本研究の共焦点レーザー顕微鏡画像をみると、共重合群では象牙質ボンディング層とレジンセメントの境界が明瞭ではない重合が観察され、象牙質ボンディングとレジンセメントが一緒に重合したことが示唆されました。しかし、ボンディング剤をレジンセメント一緒に共重合した場合、接着強さが小さくなることを報告している研究があります。本研究では、象牙質とレジンセメント間の接着強さは、光重合群と比較して共重合群では有意に小さくなりました。1つの可能性ある説明として、共重合群では、重合のための光はボンディング層とセメント層を通して伝えられるため、光エネルギーの減衰と分散が起こり、重合のための光暴露が制限され、好ましくない重合と不適切な界面ができるのかもしれません。対照的に、ボンディング層を直接光重合した場合、接着層は充分に重合され、接着界面とハイブリッドレイヤーの安定化に寄与します。
炭化ケイ素研磨紙を使用して歯面を研磨する方法は、接着強さ試験のために人工的なスメア層を生成、規格化するのによく使用されます。600番の研磨紙は滑沢な面のスメア層を生成する事ができるため、よく使用されます。600番の研磨紙により、薄いスメア層(1.2μm)を生成できますが、180~240番の研磨紙は、もっとラフなスメア層を生成するのに適しています。本研究では、240番の耐水研磨で生成した粗い群は、600番で生成した細かい面と比較してわずかに接着強さが大きくなりましたが、有意差は認めませんでした。象牙質の表面荒さは接着強さに影響を与えませんでした。Oliveiraらによる研究では、240、320、600番で研磨した際のスメア層の厚みと荒さはそれぞれ異なると報告しています。しかし、様々な荒さのスメア層に塗布したボンディング剤の接着強さは、ボンディング剤の種類と塗布方法に依存するという物議を醸す結論が報告されています。本研究で選択したボンディング剤はpH2.7と少し低めで、酸性機能性モノマー(10-MDP)を含有していました。ボンディング剤の酸性は、疎水性ボンディング剤の象牙質への浸透を可能にすると同時に、酸性モノマーが象牙質表面を溶解することを可能にします。加えて、10-MDPの化学的安定性は、重合後の接着界面の安定性に寄与します。本研究で使用したボンディング剤は、表面研磨後に象牙質表面に蓄積したさまざまな残留物や研磨粒子によって変化しうる象牙質の表面粗さの効果を最小化することができる事が示されました。
対照的に、象牙質の乾燥時間は接着強さに有意な影響を与えました。特に5秒照射群で大きな接着強さを認めました。共焦点レーザー顕微鏡による5秒乾燥群は、10秒乾燥群と比較して象牙細管に浸透するボンディング剤が高濃度であり、均一な浸透パターンを認めました。本研究では、表面粗さに関わらず光重合ー5秒乾燥群で大きな接着強さを観察しました。湿潤した象牙質環境は機能性モノマーのイオン活性に好影響を与え、ボンディング剤のセルフエッチング機能を向上させて象牙質マトリックスを溶解し、ボンディング剤を象牙質内に充分に浸透されるためです。次に、接着層の光照射により接着界面が充分に重合し、ハイブリッドレイヤーの安定化が起こります。光重合ー5秒照射での共焦点レーザー顕微鏡画像では、象牙質の荒さに関係なく、他の群と比較してボンディング剤が象牙質に充分に浸透していました。
対照的に、共重合、光重合による微少引張接着強さの違いは、10秒乾燥群ではそれほど差がありませんでした。1つの可能性のある説明としては、乾燥した象牙質では、ボンディング剤の酸性機能性モノマーのイオン活性と象牙質マトリックスへの浸透が、象牙質接着界面を形成するのに不十分であるため、その後の光照射の効果が最小限に抑えられるというものです。界面破壊は、5秒乾燥群よりも10秒乾燥群で多く観察されました。特に共重合ー細かいー10秒照射群では、界面破壊は試料の47%に及びました。
本研究では、Single Bond UniversalとRely X Ultimateのみを使用し、サーマルサイクルによる劣化加速を使用せず接着強さを測定しており、limitationがあります。制約がある本研究では、接着層を予め光重合する事は、Single Bond Universalを塗布した後にRely X Ultimateを使用する場合には、共重合と比較して接着強さに有利でした。さらに、象牙質の乾燥時間は表面粗さよりも重要でした。
結論
Single Bond UniversalとRely X Ultimateを使用し、in vitroで修復物の接着を行った所、以下の結論を得ました。
1)接着層の重合方法は、象牙質ーレジンセメントの接着強さに有意な影響を与えました。特に、光重合は、共重合と比較して有意に大きな接着強さを示しました。
2)象牙質表面の粗さは接着強さに影響を与えませんでした。しかし、象牙質の乾燥時間は有意に影響しました。特に5秒乾燥群は大きな接着強さを示しました。
まとめ
3MがSingle Bond Universalの乾燥時間を標準で何秒に指定しているのかを調べたのですが、シングルボンドプラスという材料については添付文章を見つけることができました。
これをみると5秒という指定になっています。10秒乾燥すると逆に接着力が下がってしまうので、エアーブローには注意が必要ですね。
また、ボンディング剤、レジンセメントに酸性モノマー、アミンが反応してしまう可能性などは全く頭にありませんでした。そういう意味でも歯面処理とレジンセメントの相性は考慮しないといけませんね。同じ会社の製品で揃えるのが妥当でしょう。
また、CR充填前のボンディング処理でも同じ事がある程度言えると思いますので、過度のエアーブローは控えた方がよいかもしれません。ただ、窩底のボンディング剤が動かなくなるのって結構ブローしないといけない気がするんですが、そこら辺はどうなんでしょうね。また、ボンディング剤によって性質が異なりますので添付文章にどう書いてるのチェックは必要かと思います。
歯面処理後に光照射してからCAD/CAM冠をセットした場合、キツくなって入らず浮かせてしまったことがあります。本論文でもミスフィットの可能性があると記載されており、接着力が上がっても適合が悪くなってしまったら元も子もないですし、それにあわせてセメント層を厚めに設定してユルユルにするのもまたおかしいかなと思います。これは実際の臨床でどうしたらよいのかは今後の課題ですね。