義歯の清掃方法に関するシステマティックレビュー(2018年)
義歯の保管方法などに関して、数本の論文を読みました。今回は義歯の清掃方法に関してのシステマティックレビューを読みます。読んでみると、これだけ義歯のケアに関する商品が多いにも関わらずエビデンスがそれほどしっかりしていない領域が結構多そうです。
Hygiene practices in removable prosthodontics: A systematic review
S Papadiochou , G Polyzois
Int J Dent Hyg. 2018 May;16(2):179-201. doi: 10.1111/idh.12323. Epub 2017 Nov 9.
PMID: 29120113
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29120113/
Abstract
Objective: To systematically review the recent scientific evidence about the hygiene practices of removable prostheses relative to the effectiveness, colour and dimensional stability. This review aimed also to identify patients’ attitudes and habits towards denture hygiene.
Methods: Three electronic databases (MEDLINE/PubMed, Scopus and Cochrane Library) were screened, in English language, between January 1995 and December 2016. A supplementary hand search in the reference list of the identified articles was also performed. Controlled clinical trials (CCTs) involving patients with no clinical signs of denture stomatitis along with a comprehensive aim to assess the effectiveness of hygiene interventions and their impact on prosthesis colour and dimensional stability were eligible for inclusion.
Results: Following a thorough screening of titles/abstracts/full texts and consideration of the defined inclusion criteria, 21 CCTs examined the effectiveness of the hygiene approaches, 3 evaluated the colour stability of dentures subjected to hygiene practices, 2 examined the dimensional stability of dentures following microwave disinfection and 30 studies registered patients’ attitudes and habits towards denture hygiene.
Conclusions: Combined application of different hygiene interventions, including brushing or ultrasound vibration in conjunction with chemical agents, leads to more effective outcomes (reduction in denture biofilm percentage and/or number of microorganisms’ colony-forming units). The dimensional stability seems to be unaltered, but the number of clinical trials was limited. Critical concentrations of cleansing solutions along with the duration of their implementation influence the serviceability of dentures regarding colour stability. Brushing represents the most commonly applied hygiene practice, while denture wearers’ attitudes are not complied with the recommended guidelines considering the reported frequency of hygiene practices and the continuous denture wear.
目的:義歯清掃の有効性、色、寸法安定性に関する最近のエビデンスをシステマティックレビューすることです。また、義歯衛生状態に対する患者の意識と習慣を確認する事も目的です。
方法:MEDLINE/PubMed、Scopus、Cochrane Libraryの3つのデータベースで、1995年1月から2016年12月間の英語論文を検索しました。検索した論文の引用文献リストから対象論文を追加しました。義歯性口内炎の徴候がない患者を用い、衛生介入の有効性とそれによる色調と寸法安定性に与える影響を調査する包括的な目的を有する対照臨床試験(CCT)を対象としました。
結果:21のCCTが義歯清掃の有効性について、3つが色調安定性、2つがマイクロウエーブによる消毒の寸法安定性を調査していました。30のCCTが義歯衛生状態に対する患者の意識と習慣に関して記録していました。
結論:ブラシによる清掃、または化学薬品を入れた超音波洗浄を含む異なる洗浄の介入の組み合わせは、より効果が高い結果(義歯バイオフィルム率、微生物のコロニー形成数の減少)となりました。寸法安定性は変わらないようですが、論文数が少ないです。洗浄液の臨界濃度とその実施期間は、色の安定性に関する義歯の使用性に影響を与えます。ブラシによる清掃はもっと一般的な方法ですが、義歯装着者の意識は、報告されている衛生習慣の頻度や義歯の連続装着を考慮すると、推奨されるガイドラインに準拠していません。
ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
義歯清掃について問題は、義歯装着者の不適切な衛生習慣の結果、口腔、全身の感染症を進行させるというエビデンスから非常に重要と考えられます。アクリルレジンによる義歯床には、義歯性口内炎の可能性のある口腔内、口腔外のCandidaや細菌が容易にコロニー化します。また、義歯表面からは呼吸器病原性細菌もみつかります。最近のシステマティックレビューの知見に基づくと、消毒、抗菌手法は義歯性口内炎の治療において、抗真菌療法と同等に効果的です。その研究では、義歯装着者がエビデンスに基づいた口腔衛生ガイドラインを遵守するための重要な要因として、口腔衛生教育の問題が強調されています。超音波装置は、バイオフィルムの機械的除去と化学的洗浄の同時使用を組み合わせたものです。光線力学的療法(PDT)またはマイクロウエーブによる義歯への照射は、全部床義歯の消毒方法として記載されています。最も理想的な清掃方法は、義歯床や人工歯の物性や機械的性質に影響を与えないものであるべきです。特に、色調、寸法安定性は、義歯の長期予後のために最低限必要なものと考えられます。
義歯の衛生介入のシステマティックレビューは、義歯バイオフィルムの減少、微生物数の除去などの測定による有効性と同様に、義歯の清掃が色調、寸法安定性に与える影響を、口腔ヘルスケアを提供する人に知らせる必要があります。最後に、義歯装着者の義歯衛生に対しての意識と習慣を報告することを目的としました。
実験方法
本システマティックレビューはPRISMAとPICOに基づいて行っています。4つのクエスチョンがPICOを通じて作成されました。キーワードリストを製作し、1995年1月~2016年12月までの期間でのMEDLINE/PubMed、Scopus、Cochrane Libraryの3つのデータベースで英語の論文を検索しました(表1)。
questions
1. In patients wearing removable dentures (P), the effectiveness (O) (reduction in denture biofilm AND/OR number of colonyforming units of microorganisms) depends on the type (C) of the applied hygiene practice (I)?
2.In patients wearing removable dentures (P), what is the effect of the applied hygiene practice (I) on denture sanitation (O)?
3.In patients wearing removable dentures (P), what is the effect of the hygiene practice (I) on prosthesis colour stability (O)?
4.In patients wearing removable dentures (P), what is the effect of the hygiene practice (I) on prosthesis dimensional stability
(O)?
タイトルとアブストラクトを見て、本文を読むべき論文かどうかは2人の著者により別々に評価しました。不一致が起こった場合、議論しました。最終的に、全文を入手した論文の引用文献リストから関連性がある論文を検索しました。
対照臨床試験(CCT)のみを全文を読む採用基準としました。研究対象者は、義歯性口内炎の症状がなく、義歯の特定の衛生習慣/プロトコルに従う予定の義歯装着者です。性別、年齢は無制限としました。1番目のPICOクエスチョンに対応するために、異なる清掃方法の有効性を検討したCCTのみを採用基準としました。残りのPICOクエスチョンでの回答には、衛生介入が義歯の衛生状態、色調、寸法安定性に与える影響を検討したCCTが潜在的に関連すると考えられました。本レビューのアウトカムを決定するために、利用できるレビューと採用された論文の介入アウトカムの両方を綿密に検討しました(表1)。
潜在的に関連のある論文の採用は、著者両名が独立してまずタイトルと要約から全文を読むべきかどうか評価し、分類しました。不一致が起こった場合、タイトルを含め全文を入手し、議論の末にコンセンサスを得ました。最後に、全文を入手した論文の引用文献リストから更なる検索を行い、論文を追加しました。
採用した論文の以下の項目を記録しました。(i)著者名、(ii)発行日時、(iii)研究のタイプ、(iv)コントロール群、(v)サンプルサイズと特性、(vi)衛生介入のタイプ、(vii)生産者名、衛生商品のブランド名、(viii)衛生介入の有効性を評価した方法、(ix)色調安定性の評価方法、(x)寸法安定性の評価方法、(xi)結果。
本研究では、統計的な比較、最終的なメタアナリシスを研究の多様性を考慮し行っていません。
バイアスリスクをthe Cochrane Collaboration Tool for the randomized controlled trials (RCTs) とMINORS index for N-RCTsを用いて評価しました。バイアスの程度は、全ての基準に適合した場合低い、1つ該当しない場合中等度、2つ以上該当しない場合高いと分類されました。比較研究のMiNORSスコア24は低リスク、20~24は中等度リスク、20未満は高リスクです。
最終的に、著者はGRADEシステムにより、既存のエビデンスの質、推奨の強さと方向性を評価しました。GRADEの基準に従って、バイアスリスク、結果の一貫性、エビデンスの直接性、データの正確性、出版バイアスと推奨の方向性について検討しました。著者間で不一致が生じた場合、さらなるディスカッションで解決しました。
結果
論文検索と選択
MEDLINE/PubMed、Scopus、Cochrane Libraryを検索して780論文が要約から関連があると考えられました。第2段階で77論文の全文を入手しました。47の臨床試験のうち22を表2の理由で除外しました。結局25のCCTが最終選択のために予め定義していた採用基準に適合しました。これらを目的別に4つのカテゴリーに分類しました。21 CCT(17 RCT、4 N-RCT)は、義歯性口内炎の症状を認めない被験者において、微生物の殺菌または非活性化、または義歯バイオフィルムの除去のいずれかで義歯清掃の有効性について検討していました。3 CCTは色調安定性について検討し、2 CCTは寸法安定性に関して、マイクロウエーブによる義歯消毒をテストしていました。最後に30の論文が、義歯装着者の義歯衛生についての意識と習慣について検討しており、、取り外し式義歯の夜間装着の有無や清掃の頻度、適用した衛生介入の種類も含まれます。
研究デザイン
衛生介入の有効性を、従来の微生物学的分析手法で微生物量を計算したもの、義歯バイオフィルムの表面カバー率で評価したもの、またはその両方がありました。微生物学的分析手法で微生物数を調べた臨床研究については、2 CCTが歯周病原因菌とCandida Albicansの確認、2 CCTがCandida属とMutans Streptococci両方、2 CCTはCandida属、1 CCTがStreptococcus属、Candida属、Neisseria属、2 CCTがStreptococcus属、Candida属、Staphylococcus属、2 CCTがCandida属を含む多種細菌を扱っていました。
被験者に関しては、21 CCT中12が全部床義歯装着者の清掃方法の有効性を調査、5つが上顎全部床義歯装着者、2つが下顎全部床義歯装着者、1つがリラインされた全部床義歯でした。
衛生介入のタイプ
21 CCTのうち4つが発泡タブレットとその溶液(過酸化アルカリ、過ホウ酸ナトリウム、ペルオキシモノサルフェートカリウム、炭酸水素ナトリウム、モノサルフェートカリウム グルタルアルデヒド、次亜塩素酸ナトリウム、ジグルコン酸クロルヘキシジ ン)を含む化学的洗浄の消毒効果を調査しました。3 CCTはブラッシングの有効性に特化、2 CCTはPDTとマイクロウエーブを含む照射方法の有効性、12 CCTは機械的清掃、化学的清掃、その両方を比較していました。
アウトカム
比較研究
12の比較研究のうち、4 RCTはブラッシング、発泡過酸化アルカリ溶液、超音波とそのコンビネーションが義歯の衛生状態に与える影響、8 CCTはブラッシング、溶液への浸漬、そのコンビネーションによる消毒効果を検討していました。
超音波にブラッシングと化学的洗浄、超音波のみ
採用したRCT全てが、機械的清掃に発泡タブレットの組み合わせは、機械的清掃のみ(ブラッシングまたは超音波)よりも、総細菌数、Mutans Streptcocci数が有意に減少した事から、義歯の衛生状態に効果的だったと報告しています。Candida属の数については、現存するエビデンスは混乱しています。2 RCTでは、清掃方法(ブラッシングのみ、ブラッシングに発泡タブレット超音波あり、なし)で有意差がなかったと報告しています。対して、Nishiらは過酸化アルカリ溶液に浸漬し超音波洗浄した場合、有意にCandida属の数が減少したと報告しています(表3)。
ブラッシング+化学的洗浄
義歯バイオフィルムの表面カバー率、微生物顎堤手法による結果を考慮すると、発泡過酸化アルカリ、トウゴマ、ラウリル硫酸ナトリウム、0.12%、2.0%、4%グルコン酸クロルヘキシジンへの浸漬は、ブラッシングと併用した際にもっと良い結果を示しました。
ブラッシング
ブラッシングの有効性を検討した3 CCTは、義歯表面のバイオフィルム面積率が有意に減少したと報告しています。加えて、歯磨剤を併用したブラッシングは、中性洗剤を併用した場合と比較してバイオフィルム面積が減少しました。ブラッシングに歯磨剤、中性液体、石けん、人工唾液を併用した義歯における酵母真菌のコロニー形成数では、明確な違いはありませんでした。加えて、義歯においてブラッシングに3種類の異なる歯ブラシと歯磨剤を併用した場合でも、酵母真菌のコロニー形成数は同等レベルで残りました。
化学的洗浄
化学溶液(過酸化アルカリ、0.5%次亜塩素酸ナトリウム、グルコン酸ヘキシジン)に浸漬した後では、全ての義歯で、細菌とCandida属数が有意に減少しました。0.2%グルコン酸ヘキシジン用いた口腔洗浄液を、過酸化アルカリ溶液に浸漬した義歯の補助とした場合、コロニー形成数の平均値において統計的に有意な減少は認められませんでした。
照射
マイクロウエーブ650W3分照射は全部床義歯の臨床的な殺菌方法として有効です。そのほかに、650W2分照射ではCandida属、mutans Streptococci、Staphylococcus属の数は有意に減少しました。PDTではCandida属を含む90%以上の微生物が減少すると報告されています(表7)。
色調安定性
2つの臨床試験では、リライン義歯を6か月、1年間マイクロウエーブ消毒と過ホウ酸ナトリウムと2%グルコン酸ヘキシジン浸漬し消毒した際の色調安定性を検討しました。分光光度計の計測値から、リライン義歯ではマイクロウエーブ照射による有意な色調変化は認められませんでした。一方で、過ホウ酸ナトリウムと2%グルコン酸ヘキシジン浸漬による消毒では、リライン義歯に国際照明委員会の色差L “a “b系座標(DL、Da、Db)、NBS(National Bureau Standards)値などの色パラメーターに有意な変化が認められました。しかし、2%グルコン酸ヘキシジン浸漬では、過ホウ酸塩溶液に浸漬した対応する義歯に比べて,7日目,1ヶ月目にそれぞれ知覚可能で著しい色変化を示しました。0.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に1日3分90日間浸漬した場合、有意な色調変化は認められませんでした(表8)。
寸法安定性
マイクロウエーブ照射による義歯の寸法安定性については、咬合圧パターンによる間接的な方法と、義歯床の寸法測定による直接的な方法がありました。650W3分を週3回では、寸法変化は1%未満でした(表9)。Bassoらは、650W3分を週3回の照射では咬合圧パターンは変化しないことを報告しました。さらにフォローアップ期間中に義歯による疼痛、不満がなかった事は、義歯の適合が同レベルであった事を示唆しています(表9)。
衛生習慣、意識
エビデンスから、ブラッシングは義歯装着者にとってもっとも一般的な清掃方法であることがわかりました(表10)。週に2、3回の清掃では不十分であり、1日2、3回の清掃で良好な清潔さとなりました。洗浄剤は、歯科専門職により強く推薦される清掃方法ですが、義歯装着者の1/4しかある程度の頻度で使用していません。特に、約50%の義歯装着者が夜間義歯を外していないと9つの論文で報告されています。さらに義歯装着者の30~60%が1日1回しか義歯をブラッシングしません。義歯の衛生状態と性別の関連性については、女性の方が「良い」、「大体良い」の割合が男性よりも多くなりました。義歯の清掃と洗浄剤使用頻度についても女性の方が男性を上回りました。最後に、女性の方が男性よりも夜間義歯を撤去していました。
研究の質
本システマティックレビューで採用した全ての論文が、衛生介入の有効性と、それが義歯の色調、寸法安定性に与える影響を評価した縦断CCTでした。表11にRCTのリスク判定基準であるCochrane quality assessment tool for the randomized controlled trialsのスコアと、バイアスリスクの判定結果を示します。
Non RCTに関しては、MINORS基準の判定により、採用された臨床研究は中等度リスクと判定されました。これらの臨床研究で、研究のサイズの前向き算出とエンドポイントのブラインド評価を行ったものはありませんでした(表12)。
エビデンスのグレード
機械的介入、洗浄剤、そのコンビネーションに対するエビデンスの質と推奨の強さについて、表13にGRADEシステム基準による格付けを要約します。バイアスリスクはLowからHighまで様々で、報告バイアスの可能性があります。各研究による結果のバラツキと信頼区間の重複は、利用可能な科学的証拠にいかなる「矛盾」をも生じさせます。さらに信頼区間が広いと研究の質が低下し、不正確さが生じます。研究集団、結果、介入方法の直接的な比較が観察されたため、結果は「一般化可能」であると仮定できます。バイオフィルムの除去に関しては、確実性のレベルは「中程度」と評価され、化学的清掃法単独と比較して、機械的清掃法と化学的清掃法の組み合わせを支持する穏やかな勧告となりました。微生物学的分析に関しても、確実性のレベルは「中程度」と評価され、機械的清掃法と化学的清掃法の組み合わせは、機械的清掃法のみと比較して、軽度の推奨となりました。
考察
義歯の清掃方法の分野におけるエビデンスのレビューから、いくつかの結論を導くことができました。1つ目、2つ目のPICOクエスチョンに関して、超音波、ブラッシング、超音波+ブラッシングによる機械的清掃介入と過酸化アルカリ水溶液浸漬の組み合わせを検討したRCTでは、適切な衛生状態に到達するためには上記の組み合わせが推奨されています。蒸留水中で超音波洗浄しただけの義歯では、Candida Albicans、Mutans Streptococci、トータルの細菌数に目立った変化は認められなかったので、水溶液のキャビテーションによる泡の効果は、すでに存在する微生物を消滅させるには不十分であると推定されました。そのため、超音波洗浄の効果は、機器の機械的な振動よりも、浸漬する溶液の補助的な化学的作用に関連します。異なるタイプの衛生介入の頻度と時間に関するすべての利用可能なRCTの設計を考慮すると、ブラッシングは1日2分/3回、37~50度のアルカリ性過酸化物溶液に義歯を毎日5~20分浸漬、超音波洗浄法は15分の振動に対応します。ブラッシングに短期間(5~20分)の過酸化アルカリ水溶液または次亜塩素酸ナトリウム水溶液、グルコン酸ヘキシジン水溶液、ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を併用した研究では、ブラッシング単独よりも優れた結果でした。これは、清潔を向上させるには、補助的な洗浄剤の導入が必要ということを示唆しています。Streptococcus mutansとC. albicansの耐性は、生化学的な観点から、それぞれペプチドグリカンからなる厚い細胞壁と厚い多層細胞壁という形態的な特徴に起因しています。
今回採用した1種類の清掃方法の有効性を検討したCCTでの知見では、次のようなエンドポイントに集約されます。バイオフィルムの割合減少について、2つの研究では、歯磨剤を併用したブラッシングは、中性石けんを用いたブラッシングよりも優れていました。ブラッシングをアシストする製品や歯ブラシのタイプは微生物的分析の結果から考えられる衛生状態に重要な影響を与えませんでした。利用できる化学的な材料として、0.2%グルコン酸ヘキシジン水溶液、0.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液単体、または発泡過酸化アルカリを追加、発泡過酸化アルカリ水溶液単体に義歯を浸漬した場合、コロニー形成数が有意に減少しました。NaOClの抗菌効果は、細菌の酵素部位の不可逆的不活性化、ムチンなどの有機物の溶解など、水酸化イオンと塩素化の作用によるものとされています。一方で、軟質裏装材などのケースでは、NaOClの効果はリライン表面に凹凸を形成し、Candida Albicansの付着やバイオフィルムの形成量の増加などを起こすため、有害である可能性があります。クロルヘキシジンの致死的な作用機構は、細胞の浸透圧平衡の破壊に起因しています。特に、クロルヘキシジンは負に帯電した細菌壁に結合し、細菌の細胞膜を破壊し、細胞質の沈殿をもたらします。
このシステマティックレビューの結果は、American College of Prosthodontistsの現在のガイドラインと一致し、効果的で研磨剤を含まない義歯洗浄剤を用いて浸漬とブラッシングにより義歯を毎日洗浄するべきであることが示唆されました。動作に制限がある、または認知機能が低下しており、主に高齢者施設や介護施設の住民である義歯装着者では、超音波洗浄のような、労働力を削減するような手法は推奨されます。超音波洗浄器の必要は高価ではありますが、義歯洗浄液を併用した超音波洗浄は病院や介護施設に適しているかもしれません。
上顎と下顎全部床義歯のバイオフィルムレベルを比較すると、下顎の方がレベルが大きい事が分かっています。上顎の方が維持力が高いということが、この事実の合理的な説明かもしれません。臨床的な知見に基づくと、バイオフィルムは、横口蓋ヒダ、上顎結節、前庭部などに多く存在しています。下顎全部床義歯では、レトロモラーパッド、前歯部(前庭+舌側)に多く存在しています。
650W3分のマイクロウエーブは、全部床義歯の臨床的な殺菌になります。ほかに、650W2分のマイクロウエーブ照射も総細菌数以外については消毒になり得ます。最近まで、マイクロウエーブ照射の正確なメカニズムはよく分かっていませんでした。照射の致死効果は、マイクロウエーブによる熱か、マイクロウエーブにより発生する電磁場と細胞分子との相互作用によります。
光線力学的療法は、義歯上の細菌を90%以上減少させる画期的な消毒方法です。この消毒方法の基本法則は、光感作性薬剤として知られる物質の放射で、一重項酸素のような活性酸素の生成による細胞死を引き起こします。
現在のエビデンスの詳細としては、部分床義歯、インプラントオーバーデンチャー、顎補綴装着者に対する衛生介入の有効性を調査したRCTは存在しません。例えば、オブチュレーターの機能として、口腔、洞(副鼻腔のこと?)、鼻腔を隔てる事が含まれるので、この特殊な補綴装置の衛生介入効果を今後の研究目的とするべきです。
消毒によるアクリルレジンの明確な色調変化は、義歯装着者に社会的な制約を与え、義歯を新製するコストがかかるかもしれません。消毒が色調と寸法安定性に与える影響を検討した論文は殆どありません。マイクロウエーブによる消毒は、リラインされた義歯において色調変化はわずかでした。マイクロウエーブ照射後の常温重合型リライン用アクリルレジンの残留モノマー量が低いことから、酸化速度が低いことが推測されました。そのため、吸水とレジンの親水性による本質的な色調変化は軽減していました。リライン義歯において、色調不安定の決定的な要素は時間であり、特殊な化学薬品を使用したとしても、リライン材は着色の可能性があります。今後の研究が必要な他のパラメータとして、義歯材料を着色してしまうクロルヘキシジンの濃度があります。最終的に、Sousa Portaらは0.5%次亜塩素酸ナトリウムによる色調への影響を検討しましたが、3か月後では有意差は認めませんでした。繰り返し色評価を行った結果、色差値は許容範囲の最低閾値である3.7を下回ることがわかりました。義歯の色調安定性は、食品や飲料摂取などによる唾液ペリクルなどの要因である程度影響される物性です。これらの状態を再現したin vitroでの研究はないので、今後より長期間の研究が必要です。
マイクロウエーブ照射が寸法安定性に与える影響を検討した臨床研究は2つしかありません。義歯の寸法安定性に対する衛生介入の効果について、より明確な結論を導き出すために、さらに縦断的な臨床試験を実施する必要があります。
得られたエビデンスから、義歯のブラッシングは装着者の清掃方法として最も一般的なものです(表7)。清掃頻度は必ずしも有効性を意図しませんが、多くの装着者、特に高齢者は、適切な義歯ケアに関して充分に情報提供されていません。適用される衛生方法の頻度や義歯の連続装着・夜間装着の登録値を考慮すると、エビデンスに基づく衛生ガイドラインを患者に伝えるべきと結論付けられます(表7)。義歯装着者のかなりの割合、50%以上、が夜間義歯を撤去していません。Iinumaらの報告(文献3)に基づくと、地域在住の超高齢者において、夜間義歯装着は深刻な肺炎イベントリスクが2.38倍になると報告しています。
検索方法に関して、可能性のあるLimitationは英語、データベース数と同様に、検索した期間が考えられます。しかし、著者らは20年間分の文献検索を行っており、最新のデータの収集を試みました。
結論
本システマティックレビューのlimitarion内で、義歯における異なる清掃方法の組み合わせ、いわゆる機械的清掃に洗浄剤の併用は、衛生の効果に関して適切な結果を示しました。清掃が義歯の色調、寸法安定性に与える影響については限られた数の臨床試験しかないですが、マイクロウエーブによる消毒は寸法安定性に影響を及ぼさないようです。義歯衛生介入による色調の不安定性は溶解液の濃度と作用期間に依存します。義歯のブラッシングは世界中の義歯装着者にもっとも一般的な清掃方法です。義歯装着者の義歯の衛生についての習慣や意識から、エビデンスに基づいた衛生ガイドラインを患者に伝えるべきであることを示しています。
臨床関連事項
科学的根拠
本シスマティックレビューは、口腔ヘルスケア提供者に、清掃法の有効性と色調、寸法安定性に対する効果に関して情報を提供し、口腔健康教育の潜在的な欠陥を確認するため、患者の義歯の衛生についての意識と習慣を報告するために行われました。
基本的な知見
化学的洗浄を併用した機械的介入により適切な清潔状態に到達しました。臨床的なエビデンスは限られていますが、マイクロウエーブ消毒により寸法安定性は変化しませんでした。洗浄溶液の臨界濃度その使用期間は、色の安定性に関する義歯の使用性に影響します。義歯を装着する人の意識や習慣は、推奨されるガイドラインに合致していません。
実用的意義
衛生介入が色調と寸法安定性に与える影響についての更なる臨床研究が必要です。エビデンスに基づいたガイドラインを患者に知らせるべきです。
まとめ
色々な論文で書かれていますが、やはり機械的洗浄と化学的洗浄の組み合わせが最も義歯が清潔になるようです。ただし、実際どれぐらいの時間、頻度で行えば適切なレベルなのかが考察に記載があります。
「異なるタイプの衛生介入の頻度と時間に関するすべての利用可能なRCTの設計を考慮すると、ブラッシングは1日2分/3回、37~50度のアルカリ性過酸化物溶液に義歯を毎日5~20分浸漬、超音波洗浄法は15分の振動に対応します。」
これはメタアナリシス等されていませんので、あくまで著者の意見に過ぎませんが、臨床的な感覚と一致すると思います。化学的洗浄の方法や時間ですが、一晩つけておかなくていいの?、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。一般的に使用されている酵素入りポリデントの使用説明には以下のように記載されています。
完全に今回のエビデンス通りです。一晩つけておかないといけないというのは迷信と言ってよいでしょう。しかし、衛生士さんなどに講演すると案外ご存じない方もいらっしゃいます。
マイクロウエーブによる消毒法について自分ははじめて認識したのですが、電子レンジ3分を週3回ってちょっと怖くないですか?義歯を電子レンジにいれるのは重合の時だけだったんですが、本当に寸法変化しないんですかね。まあ、電子レンジ対応のお皿とかと同じ感覚でいれば良いのか・・・。
今回の論文のバイアスリスクはやはりModerateまたはHighが多く、論文のデザインに問題が多い事が指摘されています。よって、今後しっかりした論文が出てくる事を期待したいと思います。次回はこの論文の引用を読む予定です。