咬合力、咀嚼能力的にEichnerB2、B3が分岐点
最大咬合力がフレイルの予知指標となりうるという論文を以前読みました。
最大咬合力が高い、中間、低い、の3群にわけると低い群は5年以内にフレイルに移行する確率は25%以上、高い群と比較すると2.78倍リスクがある、という結果になっています。
咬合力が低い、ということは咀嚼する力が弱いわけなので摂取食品が制限され栄養が偏りフレイルへ進行していく事が考えられます。
では、咬合力はどれだけ歯を失うと下がっていくのでしょうか?と言う事に関して1つの回答となる論文が今日読む論文です。
Validation of the Eichner Index in Relation to Occlusal Force and Masticatory Performance
Kazunoir Ikebe, Ken-ichi Matsuda, Shunsuke Murai, Yoshinobu Maeda, Takashi Nokubi
Int J Prosthodont. Nov-Dec 2010;23(6):521-4.
PMID: 21209986
Abstract
Purpose: Eichner Indices (A, B, and C), especially the Eichner subgroups (A1-A3, B1-B4, C1-C3), have not been validated in relation to oral functions. The purpose of this study was to investigate the association of posterior occlusal contact loss with occlusal force and masticatory performance in subjects who had a normal dentition or partially edentulous arches restored with removable prostheses.
Materials and methods: The study sample consisted of 1,288 independently living patients over the age of 60 years. Subjects were grouped into 10 subgroups by posterior occlusal contacts according to the Eichner Index. Bilateral maximum occlusal force in the intercuspal position was measured using pressure-sensitive sheets. Masticatory performance was determined by the concentration of dissolved glucose obtained from comminuted gummy jellies.
Results: Occlusal force and masticatory performance were significantly associated with posterior occlusal contacts. Occlusal force measured in subgroups A2 to B2 and B3 to C3 did not differ statistically, although overall occlusal force decreased significantly as the loss of occlusal contacts increased. Similarly, masticatory performance was reduced with decreasing occlusal contact, although the decline was more gradual. Masticatory performance among subgroups A1 to B1, A3 to B2, B2 to B3, B4 to C2, and C1 to C3 did not differ significantly.
Conclusions: The Eichner Index subgroups were significantly associated with reduced oral functions, even if the teeth were restored with removable prostheses. Preservation of occlusal contacts of the bilateral (B2) and unilateral (B3) premolars was critical for occlusal force and masticatory performance, respectively.
目的:Eichner分類と口腔機能の関連性については今まで検証されてきませんでした。本研究の目的は臼歯部咬合接触の喪失と咬合力、咀嚼能力との関連性を正常有歯顎者から義歯を装着する無歯顎者に至るまで検討することです。
方法:被験者は60歳以上の1288人の自立生活者です。Eichner分類により10の群に分けられました。最大咬合力を感圧シートにより測定しました。咀嚼能力はグミゼリーを用いた試験を行いました。
結果:咬合力と咀嚼能力は有意に臼歯部の咬合接触状態と関連しました。咬合力はA2~B2群まで、B3~C3群までには有意差が認められませんでした。しかし、咬合接触が喪失すればするほど咬合力は有意に低下しました。同様に咀嚼能力も咬合接触の喪失に応じて低下しましたが、より段階的でした。咀嚼能力はA~B1、A3~B2、B2~B3、B4~C2、C1~C3では有意差が認められませんでした。
結論:Eichner分類は義歯により咬合接触が回復していたとしても口腔機能低下と有意に関連しました。両側(B2)、または片側(B3)小臼歯の咬合接触の保存は咬合力や咀嚼能力に決定的な要素と考えられます。
ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
歯科治療の主なゴールは口腔機能、特に咀嚼の回復です。臼歯部咬合支持の喪失は咬合力と咀嚼能力に影響すると報告されています。Eichner分類は天然歯、修復歯による上下臼歯部の接触状態の分類として広く使用されています。Eichner分類の3つに分類は咬合面のwear、顎関節症、主観的、客観的咀嚼能力と関連すると報告されています。しかし、Eicher分類の10分類については口腔機能との関連性が検討されていません。そのため、臨床的重要性がしっかり示されていない状態です。
Eichner分類による臼歯部咬合接触の喪失の状態区分は、たとえ欠損部を義歯で補綴したとしても、咬合力や咀嚼能力の低下と関連するという仮説を立てました。この仮説を検証するために横断研究を行いました。
実験方法
大阪府の高齢者専門学校への参加者で自立した60歳以上を被験者としました。被験者は1288名(男性640、女性648名)平均年齢66.2±4.2歳となりました。全ての被験者においてEichner分類を用いて咬合支持域を分類しました。
最大咬合力は咬合嵌合位で感圧シートを用いて計測しました。咀嚼能力はグルコース溶出グミゼリーを用いて計測しました。
義歯が必要な欠損があるにも関わらず義歯による補綴が行われていない人は除外しています。また義歯を装着している人でも痛みがあったり機能的に不具合がある場合も除外しています。
義歯を問題なく装着している被験者は義歯を入れた状態で測定を行っています。
統計処理はTukeyの多重比較を用いています。
結果
咬合力はEichnerA群と比較してB群では76%、C群では45%となりました。A2からB2群まで、B3~C3までは統計的に有意差を認めませんでした。
咀嚼能力はEichnerA群と比較してB群では81%、C群では49%となりました。
咬合力と同様に咬合支持の喪失が増加すると咀嚼能力が低下しましたが、より段階的な結果となりました。A1~B1、A3~B2、B2~B3、B4~C2、C1~C3では有意差が認められませんでした。
単位がグルコース溶出量に用いられる濃度ではなくmm2になっているので調べてみたところ、以下の様な実験系を用いてるようです。グルコセンサーがなかった時代ということでしょうか。
http://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/1965/1/2_14.pdf
まとめ
義歯を適切に使用していても、咬合力や咀嚼能力はB群の途中から明確に下がっています。特に咬合力はB2とB3の間に明確に低下しています。B3→C3間では有意差がないことから、咬合力としてはB2までで止める事が非常に重要と考えられます。
咀嚼能力は咬合力よりも階段状ですが、A3~B2までが有意差なし、B2とB3が有意差なし、B3とB4間は有意差あり、ということなので、B3とB4が大きな分岐点と考えてもいいでしょう。
ということはやはりB2、最低でもB3で喪失を止める事が重要ということになるかと思います。大臼歯がやはり無くなることが多いですから、小臼歯での上下の天然歯またはクラウンでの咬合接触の温存が極めて重要ということになりそうです。
ただし、この実験、検討方法には問題があると思います。男女で筋力はちがうのではないかという性差と、年齢が高い方が喪失歯数が多いのではないかという年齢に関する項目がしっかり検討されていると言い難いからです。年齢が高ければ欠損が多くて筋力も弱くなるから咬合力も咀嚼能力も弱くなるのでは?という項目の検討が必要ではなかったかと思います。