全部床義歯の咬合
最も基本的なコンセプトが最も難しい
久々に臨床の話をしようと思います。
最近になり、昔編集した動画を引っ張り出してきました。
補綴学会の支部会でランチョンをやったときに使った動画です。
大学時代の最後ぐらいに作った全部床義歯のケースで、元々自分の患者さんを5年生のケースにして、学生さんにちょっとやらせながら最終的には全て自分でやったものになります。
とてもうまくいったので動画を撮影していたんですが、補綴学会で義歯の咬合について話せと言われた時に編集して使用したのですがその後数年間放置していました。
全部床義歯の咬合は両側性平衡咬合が基本であり、その中でも
1)フルバランストオクルージョン
2)リンガライズドオクルージョン
が基本的な咬合付与になるかと思います。
その他、色々な事を提唱する歯科医師や技工士がいますが、私はこの2つで充分と考えています。
フルバランストオクルージョンですが、最も基本的なコンセプトなのに、最も実現させるのが難しいのではないか、と思います。軸学説を提唱したGysiさんも本当にこんな咬合を毎回与える事ができていたのか・・・と思うレベルです。
教科書にもまず最初に載っている咬合なのに、その実際の症例写真や動画を殆どみない?ような気がします。
フルバランスは机上の空論か
若い歯科医師に聞くと机上の空論的な言い方をする人がいてビックリします。補綴科なんですけどね。
たしかに最近の無歯顎の患者さんは難症例が多くて、顎堤吸収、フラビー、顎位がフラフラとかで、自分もすぐにリンガライズ風な咬合へ調整する事が多いのは確かです。リンガライズに寄せると側方滑走時の義歯の動揺や多少の顎位の不安定さなどが許容されますし、接触点数と面数がフルバランスよりも遙かに少なくなりますので調整が容易です。
フルバランスは実現するのは条件が確かに厳しいですが、できないわけではないと思います。
自分もある程度条件が整えば目指しますが、目指したからといってそうならないのが難しい所です。少しでも顎位がずれてれば付与できません。自分の未熟さを痛感します。
印象、咬合、排列全てがしっかり整った状態でやっとフルバランスを目指すことが出来ます。つまり、義歯を作る過程が全てある程度のレベルでできる歯科医でなければ到達できない領域ということではないか、と考えています。
再編集した動画
再編集した動画は以下のものになります。
義歯セット時から中心チェックバイトにて咬合器にリマウントして調整しており、口腔内では殆ど調整しておりません。
ある程度の咬合小面が形成されています。
面と面で接触させるながら綺麗に滑走させるのは非常に難しいです。
自分もまだまだ未熟なので、少しでも滑走が綺麗になるように今後も努力していきたいと思います。
追記(2020/08/27)
この義歯をどうやって作ったのかについて何件か問い合わせを受けており個別に対応するのも面倒なのでここに記載することにしました。
①概形印象採得
②個人トレーによる精密印象採得
③咬合採得 フェイスボウトランスファー
④咬合器装着(Hanau H2-O) 顆路平均値で人工歯排列(全歯排列)
⑤ろう義歯試適、前方チェックバイト、顆路調整
⑥上顎前歯部以外再度顆路に合わせて再排列
⑦フレームワーク外注
⑧フレームワーク込みで再試適、排列最終調整
⑨Tenchの歯型法による上顎咬合面印記
⑩埋没~重合、割り出し
⑪リマウント模型製作、上顎咬合器装着
⑫義歯セット 中心位チェックバイト 下顎咬合器装着 咬合調整
⑬義歯調整