義歯安定剤と呼気中アルコール濃度
以前話題になりました
義歯安定剤と呼気中アルコール濃度については以前ニュースになりましたね。
入れ歯安定剤で酒気帯び、免許取り消しは無効 東京高裁
https://www.asahi.com/articles/ASL9W5W0ZL9WUTIL035.html
このニュースが出るまで、自分も確かに安定剤やティッシュコンディショナーにアルコールが含有されているということは知っていましたが、まさかこういう事件の争点になるとは思っていなかったのです。
その後、複数の大学でこれに関して研究されていました。
去年の義歯ケア学会で徳島大学の先生がこの話で口演されていました。
https://www.jdenturecare.com/gakujutu/gakujyutu_11.html
今回補綴誌にパブリッシュされていたのでご紹介いたします。
文献紹介
アルコール含有義歯安定剤であるホームリライナーが呼気中アルコール濃度へ与える影響の評価
これ以上文献はりつけると著作権で怒られそうですので、後は簡単に要約したいと思います。
実験
使用した材料
義歯安定剤
タフグリップクッション(TC)
クッションコレクト(CC)
ライオデント(LD)
粘膜調整材
ティッシュコンディショナーII(TCII)
デンチャーソフト(DSII)
実験1 アルコール臭の拡散実験
口腔内を模した準閉鎖環境において義歯安定剤を留置し、拡散するアルコールをにおいセンサで計測
実験2 ヒト対象試験
健常有歯顎者に口蓋床を製作してそこに義歯安定剤とティッシュコンディショナーを貼付、圧接。
装着直後、5分後、15分後、30分後、45分後、60分後における呼吸中アルコール濃度を測定
また装着5分後に口蓋床を撤去し装着直後、5分後、撤去直後、撤去5分後、撤去10分後における呼気中アルコール濃度を測定
結果
実験1
TCとCCの2種類は呼気中アルコール濃度が他と比べて高く、1時間経ってもあまり減少しない
実験2
義歯安定剤
口蓋床装着直後の呼気中アルコール濃度が最も高く、装着5分後までは酒気帯び運転の基準となる0.15mg/Lを上回るが、それ以降は経時的に減少し30分後には0mg/Lとなる。
口蓋床撤去の実験に関しては装着5分後に撤去させた際には0.3mg/Lぐらいまで上がるが撤去5分で0mg/Lとなった。
粘膜調整材
常に酒気帯び運転の基準値を下回る結果 となった。
結果から考えてみる
エビデンス的な知見がなかったので今回は高裁で無罪となりました。いまも争っているのでしょうかね?
この実験結果からすると義歯を入れて20~30分後ということはそこまで呼気中アルコール濃度に対する義歯安定剤の影響はなかったのではないかと思います。
飲酒、酒気帯び運転をする人は厳重に罰せられるべきでしょう。
この結果を考えると、酒気帯び検問で怪しい人を見つけた警官は まず計ってみて値が0.15mg/L以上なら、義歯を装着していないか確認して装着しているようなら外させる。
義歯安定剤の使用などについて確認する。
5分後に再測定してそれでも0.15mg/L以上なら義歯安定剤や粘膜調整材の影響はもうないはずなのでアウトー!ということになるのではないでしょうか?
ただし、今回の裁判での義歯安定剤は使用量がどうも常識では考えられない量だったようです。それは考察でも触れられています。そういう場合はもっと時間をおいてみるしかないのかもしれませんね。
警察の方も大変ですが、以後はこういった材料についても考慮して飲酒検問をしないといけないんですね・・・ご苦労様です。
歯科側としては
基本的にホームリライナーであるクッションタイプの義歯安定剤は使用が推奨されていません。
日本補綴歯科学会ガイドライン
歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008
このCQ5-2の部分に記載があります。
今現在、義歯安定剤は悪である、というエビデンスはなく、むしろ義歯安定剤を使用した方が下顎運動路が安定した、などという論文があります。
当院において、義歯適合がそれほど問題ではないのに義歯の離脱感を訴える方にはクリームタイプを指導しています。オーラルジスキネジアの方などはどうしても下顎義歯が浮いてくる、と言うことを訴えられる事もありますし、仕事上義歯が少しでも動くと困る、という方もいらっしゃいます。
義歯を使用している患者側としては
やはりクッションタイプは使用しないということが一番かと思います。
クッションタイプを使わないと義歯が合わないということは、もう義歯を修理、または新しく作らないといけない時期と解釈していただいて良いのではないかと思います。
例えばクリームタイプの安定剤を今まで使用してきたが使用量が増えてきた、という場合、やはり義歯が合わなくなってきていますので、まず歯科医院を受診して診察してもらうべきかと思います。
クッションタイプでメジャーなものとしては以下のものがあります。
以前よりもかなり製品が減りました。
やはりガイドラインで推奨されないという事が明確になったからでしょう。
クッションコレクト(シオノギ)
http://www.shionogi-hc.co.jp/crt/about/about02.html
タフグリップ クッション(小林製薬)
https://www.kobayashi.co.jp/seihin/tg/index.html
新ライオデント(ライオン)
https://www.lion.co.jp/ja/products/130
こういった製品は残念ですがお勧めできません。
多量に使うと飲酒検問で引っかかるおそれもあります。
緩くなってきたな、と思ったら自己判断せずに歯科医院を受診していただければと思います。