側方力で歯頸部に応力集中するが頬舌側両方
有限要素で応力分布をみる
NCCLの論文を何本か読んでいますが、今度は有限要素による応力の解析に関する論文を読みます。咬合力が本当に歯頸部に応力を発生するのかどうか、ということは臨床で証明することは非常に難しく、そういったときのシミュレーションモデルとして有限要素法がよく用いられます。
2014年のブラジルからの論文
Guimarães J C, Guimarães Soella G, Brandão Durand L, Horn F, Narciso Baratieri L, Monteiro S, Belli R.
Stress amplifications in dental non-carious cervical lesions. J Biomech 2014; 47: 410–416.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24315624/
Abstract
This study aims to investigate the influence of the presence, shape and depth of NCCLs on the mechanical response of a maxillary second premolar subjected to functional and non-functional occlusal loadings using 3-D finite element (FE) analysis. A three-dimensional model of a maxillary second premolar and its supporting bone was constructed based on the contours of their cross-sections. From the sound model, cervical defects having either V- or U-shapes, as found clinically, were subtracted in three different depths. The models were loaded with 105 N to simulate normal chewing forces according to a functional occlusal loading (F1) vertically applied and two non-functional loadings (F2 and F3) obliquely oriented. Two alveolar bone crest heights were tested. Ansys™ FE software was used to compute stress distributions and maximum principal stress for each of the models. The presence of a lesion had no effect on the overall stress distribution of the system, but affected local stress concentrations. Non-functional loadings exhibited tensile stresses concentrating at the cervical areas and root surfaces, while the functional loading resulted in homogeneous stress distributions within the tooth. V-shaped lesions showed higher stress levels concentrated at the zenith of the lesion, whereas in U-shaped defect stresses concentrated over a wider area. As the lesions advanced in depth, the stress was amplified at their deepest part. A trend of stress amplification was observed with decreasing bone height. These results suggest a non-linear lesion progression with time, with the progression rate increasing with patient’s age (deeper lesions and lower bone support).
本研究の目的は3次元有限要素法を用い、咬合による荷重が上顎第2小臼歯に起こる機械的反応に基づくNCCLの存在、形態、深さへの影響を検討する事です。
上顎第2小臼歯とその周囲骨のモデルを作製しました。歯頸部欠損の形態はVまたはU型として3種類の深さを設定しました。通常の咬合力として105Nの荷重(F1)を、非機能時の咬合接触として2種類の荷重(F2,F3)を設定しました。歯槽骨の高さを2種類設定しました。有限要素法のソフトとしてAnsys FEを用いて応力分布と最大主応力を検討しました。
歯頸部欠損の存在は応力分布に影響を与えませんでしたが、局部への応力集中には影響しました。非機能時の荷重は歯頸部と根面への引っ張り応力の集中を起こしましたが、機能時の荷重は歯全体に均一な応力分布を認めました。V型の欠損では町店付近に応力の集中が、一方でU型の場合は広い範囲に応力の集中が認められました。欠損の深さが増加すると、応力は最も深い部位で増幅されました。歯槽骨の高さが減ると応力が増加しました。
これらの結果から、時間の経過により非線形に欠損領域が拡大し、患者の年齢に伴い進行しやすい(より深い欠損、より低い骨支持)事が示唆されました。
ここからは適当に抽出して要約しますので、気になった方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。
緒言
咬合による引っ張り応力がNCCLの原因と考えられ、作業側咬頭に働く非機能性の荷重により歯頸部の引っ張り応力が増加するという報告はある程度の数あります。しかし、NCCLと咬合要素の関連性を否定する報告が最近は多くなってきました。酸蝕や歯磨き方法などの複合で起こる多因子性の疾患である事を最近の研究は支持しています。
歯頸部における酸と曲げ応力の複合はV型、またはU型の欠損を招きます。
この形態を決定する主な要因が鍵であると推定されます。非機能時の荷重と酸蝕がV型、U型形成に主な役割をするという報告があります。欠損が大きくなるにつれ、エナメル質、セメント質、象牙質などが破壊されて、より大きく深く進行していきます。高齢者の方がNCCL保有率が高く、より深いNCCLである事が知られています。しかし、深さの進行割合や形態への影響などはいまだよくわかっていません。
進行が進むと歯髄の石灰化や歯槽骨吸収、歯の動揺、究極的には歯冠破折等に至る可能性があります。本研究の目的はU型、V型の様々な深さのNCCLを有する小臼歯に機能的、非機能的な荷重を付与した際の応力とその分布を有限要素を用いて解析する事です。年配者を想定した歯槽骨の吸収モデルも構築して評価しました。
実験方法
健全な第2小臼歯をエポキシ包埋してスライスカットして断面を計測してそれを3次元有限要素モデルとして構築しています。その後、エナメル質、象牙質、歯髄腔などを設定しています。
歯槽骨や歯根膜腔の厚みなどを設定して弾性率とポアソン比を以下の数字で入力しています。
U型、V型のNCCLをモデルに設定しています。
深さは0.5mm、1.0mm、1.5mmの3種類で0.5mmのV型だとV1という風に記載しています。歯軸方向の設定は1.3~1.5mmの幅で中央にCEJが来るような欠損形態を付与しています。歯槽骨の高さについてはCEJから歯槽骨頂が3.0mm(S3)、4.0mm(S4)、5.0mm(S5)の3種類設定しています。
力の付与に関しては機能時の荷重はF1のように中央窩と舌側咬頭頂に歯軸方向に付与しています。非機能時の荷重は歯軸から35度ずらして頬側方向と舌側方向にそれぞれ付与しています(F2とF3)。
付与する荷重は最大咬合力が291Nで通常の咀嚼力はその36.2%という報告から105Nと設定しています。
結果
S3モデルで歯頸部欠損がない場合、歯軸に一致した咬合力を付与した場合、歯頸部への応力集中は認められません。頬側咬頭内斜面に非機能性の力を付与した場合は舌側の歯頸部と歯根部に応力の集中が、舌側咬頭内斜面に非機能性の力を付与した場合は頬側歯頸部と歯根部への応力集中が認められます。歯頸部への応力は2-10MPaの範囲内でした。
歯頸部欠損の存在は応力分布に影響はありませんでしたが、欠損周囲のエナメル質と内部の象牙質に応力の集中を認めました。
最も深い1.5mmの欠損を与えたモデルで舌側喉頭内斜面に力を付与した場合の応力は以下の図になります。頬側のNCCL部位の最も深い部位に引っ張り応力が発生している事がわかります。
歯軸方向の力であるF1ではNCCL部位には応力は発生していません。頬側咬頭内斜面に力を付与するF2ではNCCL部位の最も咬合面よりの角の部位にわずかに応力を認めます。舌側咬頭内斜面に力を付与したF3の場合はNCCLの最も深い部位に引っ張り応力を認めます。U型の1.0mm、1.5mm深さの場合は10-30MPa、V型の場合は最も浅い0.5mm深さでも10-30MPaの応力となりました。V型で最も深い1.5mmの場合は30-40MPaの応力を最も深い部位に認めました。
骨レベルを変更した場合の応力の違いですが、2~3mm程度の変化は応力、その分布に有意な違いを認めませんでした。唯一V型で最も深い1.5mmの欠損の場合に欠損底の頂点部位に30MPaを超える応力を認め、骨欠損の進行によってわずかに応力が増加しました。
考察
正常咬合の咬合力はF1のようにかかり、F2やF3というのは不正咬合での早期接触、側方滑走、ブラキシズムのような習癖によって起こります。過去の報告にもあるとおり、F3の付与により歯頸部には大きな引っ張り応力が発生します。これは1974本のNCCLを有する歯を調べて中心位での早期接触があったという報告を支持するものです。
NCCLが1回の咬合力で発生するかどうかに関して考察しています。詳しい計算式は省きますが、設定したNCCLの大きさで破折するためには1790Nという通常の咬合力の10倍以上の人間的に不可能な数字になりますので、NCCLは単独の過負荷によるものではなく、疲労によるプロセスだろうとこの論文で考察しています。
ダメージによる応答で歯頸部の象牙質は硬化し刺激に鈍感になります。57名、171本のNCCLを調査した研究では、硬化の程度と年齢、NCCLの深さに正の相関があったと報告しています。象牙質の疲労による破折への抵抗力はNCCLの深い位置では低下すると予想され、さらに深い位置では引張り強さは大きくなります。高齢者の象牙質は、硬化していない若者の象牙質より、疲労への耐久性や破折が起こる閾値などが低下していると報告されています。そのため高齢者の方がNCCLが進行しやすいと考察しています。
まとめ
F2やF3というのは今回の論文では異常な力という扱いなのですが、F2やF3という側方力自体はどんな人にも実際にかかっているのではないでしょうか?。むしろF1のように純粋に歯軸方向のみに力がかかるというのは実際の咀嚼サイクルを考えたときにどうでしょうか?作業側であればF2のような力が、非作業側であればF3のような力が咀嚼時に働く可能性は充分あるのでは?と思いました。そこがまず疑問点。
F3と頬側NCCLの関連に重点をおいていますが、F2でもF3と同等の応力が口蓋側にかかっており、それなら口蓋側にもNCCLがかなりできると思うのですが、実際の臨床では口蓋側にもできるものの、やはり頬側に圧倒的に多いということをこのモデルでは完全に説明できないのではないかと思います。
つまり、NCCLの発生要因は咬合だけではないということを暗に示しているのではないかと思います。
F2は作業側ですから、実際犬歯の咬耗により小臼歯部の作業側滑走がきつくなって咬合調整したりするときも多くは頬側にNCCLは認めますが、口蓋側にはあまりNCCLはない気がしますが、どうでしょうか。
今回の論文の考察では舌側への応力に関しては何も書いていませんでした。
勿論、一旦NCCLが頬側に発生すればF3の力が働くと象牙質が疲労して深化する可能性があるということはありえるとは思います。ただし、それだけがNCCLが深化する原因ではないだろうという事は他の論文でも指摘されている所かと思います。