普通の歯科医師なのか違うのか

高齢者では残存歯(残根含む)が多くなると、唾液中の細菌数が多くなる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

私が歯医者になりたての頃は、高齢者といえば義歯、特に全部床義歯を使っているのが普通でした。しかし、今は義歯を使う必要が無いほど歯が残っている人も多くなっています。歯が多い人の方が色々良いエビデンスは沢山ありますし、私達もできるだけ歯を助けたいと思っています。しかし、単純に歯が多ければいい、だから抜歯適応の歯でも無理矢理残せというのは私は違うと思います。今回はそういった考えの一助になりそうな論文です。

Multicentered epidemiological study of factors associated with total bacterial count in the saliva of older people requiring nursing care
Takashi Tohara , Takeshi Kikutani , Fumiyo Tamura , Mitsuyoshi Yoshida , Takuo Kuboki 
Geriatr Gerontol Int. 2017 Feb;17(2):219-225. doi: 10.1111/ggi.12695. Epub 2016 Jan 22.
PMID: 26800022

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26800022/

Abstract

Aim: To clarify whether the number of present teeth, independent of other well-known factors, was associated with the total bacterial count in the saliva of older people requiring care at nursing homes in a multicentered epidemiological survey.

Method: The participants were 618 older people (mean age 86.8 ± 6.9 years; 122 men, 496 women) residing in 14 nursing homes across Japan. The dependent variable was the participant’s salivary bacterial count, and the independent variables were basic demographic data, oral conditions and activity of daily living (measured by Barthel Index). Statistical analysis was first carried out by Student’s t-test, Pearson’s correlation coefficient analysis and Spearman’s rank correlation coefficient analysis. Independent variables found to have a significant relationship to their salivary bacterial count by the univariate analyses were further examined by stepwise multivariate analysis.

Results: The independent variables shown by univariate analysis to have a significant positive relationship with higher salivary bacterial count were presence of food residue (P = 0.001), absence of mouth dryness (P = 0.001), need of oral care assistance (P = 0.001), inability to keep the mouth opened (P = 0.009), inability to gargle (P = 0.002), denture use (P = 0.004), higher number of present teeth (P = 0.006) and lower Barthel Index (P = 0.001). Subsequent multivariate analysis identified presence of food residue (P = 0.031), higher number of present teeth (P = 0.043) and lower Barthel Index (P = 0.001) as independent associated factors for higher salivary bacterial count.

Conclusions: The present study found that presence of food residue, higher number of present teeth and decreased activity of daily living were significantly related to higher bacterial count in the saliva of older people requiring care. 

目的:現在歯数が、介護施設でのケアが必要な高齢者の唾液中の総細菌数と関連するかどうかをマルチセンターで明らかにすることです。

実験方法:日本の14の介護施設に入所中の618名の高齢者(平均年齢86.8±6.9歳、男性122名、女性496名)を被験者としました。目的変数を被験者唾液中の細菌数とし、独立変数を人口統計的データ、口腔内状況、ADL(Barthel index)としました。統計解析はt検定、Pearsonの積率相関係数、Sprearmanの順位相関係数を用いました。単変量解析で唾液中の細菌と有意な関連性が認められた独立変数は、ステップワイズ多変量解析を行いました。

結果:単変量解析により有意な関連性が認められた独立変数は、食物残渣あり、口腔乾燥なし、口腔ケア介助必要、開口維持不能、うがい不能、義歯使用、現在歯数が多い、ADLが低い、でした。多変量解析の結果、食物残渣がある、現在歯数が多い、ADLが低い事が唾液中の細菌数と相関しました。

結論:本研究では、食物残渣がある、現在歯数が多い、ADLが低い事が、介護を必要とする高齢者において唾液中の細菌数の多さと有意に相関しました。

ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください

緒言

口腔には誤嚥性肺炎の病原因子が多く存在している事はよく知られています。そのため、口腔細菌フローラの数をコントロールする目的での効果的な口腔ケアは、誤嚥性肺炎予防のための重要な戦略として認識されています。

これまで、口腔細菌フローラに影響する要因を調べる研究は数多く行われてきました。(i)口腔ケアを実施する能力として、認知機能低下、ADL低下、口腔ケアの自立度など、(ii)口腔環境の低下として、口腔機能低下、経管栄養、唾液量など、(iii)口腔の状態と歯科疾患として、歯周病、虫歯、義歯使用などです。口腔の状態に関連して、高齢者において残存歯数の保存は、正常な咀嚼と嚥下機能、栄養状態の維持に重要である事が知られています。口腔健康を促進するための公的なプログラムの結果として、多くの高齢者がより多くの歯を残すことができるようになりました。2011年に日本の厚生労働省が行った歯科疾患の調査では、80歳以上で20本以上の残存歯をを有する割合は38%で、将来的にさらに増加すると予想されています。しかし、高齢者、特に介護施設入所の場合、口腔をセルフケア出来る能力が低下しています。加えて、殆どの口腔細菌は歯面に付着したバイオフィルム中で発見されます。口腔細菌は、最終的に、日常的な口腔機能(咀嚼、発音、嚥下など)や、不適切な口腔清掃により唾液中に移動していきます。そのため、残存歯数が多い高齢者は、唾液中の細菌数が多い可能性が考えられます。

唾液中の細菌数をカウントする大規模な疫学調査は困難であるため、介護施設でケアを必要とする高齢者における残存歯数と唾液中の細菌数の関連性については殆ど情報がありませんでした。この困難を打開するために、唾液中の細菌数をスピーディ、簡単にカウントする装置を開発しました。

そのため、本研究では、現在歯数が、介護施設でのケアが必要な高齢者の唾液中の総細菌数と関連するかどうかをマルチセンターで明らかにすることとしました。

実験方法

被験者

被験者は、2008年7月から9月にかけて、全国14カ所の特別養護老人ホームに入所していた高齢者825人の中から選ばれました。特別養護老人ホームの場所は、東京4施設、愛知6施設、福岡3施設、新潟1施設です。220名が無歯顎でした。除外基準は(i)経管、静脈栄養、(ii)調査3か月以内に抗菌薬を服用、(iii)細菌数のカウントができないほど認知機能が低下しているの3点です。結果として、最終的な被験者数は618名(平均年齢86.8±6.9歳、男性122名、女性496名)(表1)となりました。

アセスメント

前述した14の施設において、1人の較正された歯科衛生士が、標準化されたプロトコルにより介護スタッフに口腔ケアのガイダンスを月に4回行いました。口腔健康状態のアセスメントは、歯科衛生士により行われました。全ての衛生士は10年以上の臨床経験(平均13.1±5.3年)を有し、アセスメント前に2回(1回4時間、トータル8時間)均一になるように研修を受けました。測定バイアスを避けるために、衛生士には本研究の目的を伏せた状態でアセスメントを行いました。

目的変数

唾液中の細菌数を目的変数とし、起床後30分、食事前の唾液を測定しました。

まず、唾液を嚥下するように指示し、開口させます。綿棒を舌下ヒダにおき10秒間唾液を収集しました。細菌数のカウントは、新規に開発した装置を用いました。この装置で得られた結果と培養法または蛍光顕微鏡法で得られた細菌数と高い相関があることを報告しています。

独立変数

人口統計学的データ

被験者の年齢、性別を記録しました。栄養状態は被験者のBMIを元に評価しました。BMIが18.5以下の場合低栄養としました。車いす、または椅子に座って1人で姿勢を維持できるかどうかで、被験者を分類しました。嚥下能力は頸部聴診で評価しました。摂食嚥下障害の判断のために3mlの改訂水飲みテストを行い、呼吸切迫や嗽音、その他の所見が認められた場合、摂食嚥下障害ありとしました。頸部聴診を行う前に、評価者間での評価の違いを避けるために歯科医師を均一化しました。

口腔状態データ

介護施設の看護師に義歯の使用の有無を聞き、記録しました。日常的に義歯を使用していない場合、義歯使用記録は「no」としました。残存歯数は歯科衛生士により記録されました。残根が認められた場合、その歯は残存歯数に含みました。

舌苔については以前の研究で報告された分類を用いました。カテゴリー1(舌背の1/3以下の舌苔)よりも高い場合、舌苔ありと判定しました。口腔乾燥はKakinokiらの方法で判定し、乾燥、マイルドな乾燥を本研究では口腔乾燥ありと判定しました。食物残渣の有無についてはOnoらの方法で判定しました。スコア0は残渣なし、スコア1(残渣量が1.0cm2未満)以上のスコアを食物残渣ありと判定しました。口臭はMiyazakiらの方法で評価しました。スコア0は口臭無しで、それよりも高いスコアは口臭ありと判定しました。うがいの能力については、5mlの水を口腔内に貯めてうがいができる被験者を可能と判定し、呼吸切迫や水を口腔内に維持できない場合などは不可能と判断しました。開口の維持に関しては、最低5秒開口を維持できれば可能、それ以外を不可能と判定しました。

ADL

ADLはBarthel indexにより判定しました。

統計解析

目的変数と独立変数の関連性については、両側t検定、Pearsonの積率相関係数、Sprearmanの順位相関係数により解析しました。単変量解析の有意水準はp=0.01としました。単変量解析で有意差が認められた独立変数については、ステップダウンの多変量解析を行いました。多変量解析の有意水準はp=0.05としました。

結果

唾液中の細菌数との関連で有意差が認められた独立変数は、食物残渣あり、口腔乾燥なし、口腔ケア介助の必要性、開口維持不能、うがい不能、義歯使用、残存歯多数、Barthel index低値でした(表2,3)。

多変量解析では、食物残渣あり、残存歯多数、Barthel index低値が有意に関連しました。

考察

本研究の結果から、唾液中の細菌数と残存歯数は強い相関があることがわかりました。高齢者の天然歯数が、より高齢になっても維持される最近の状況では、この結果は重要な示唆を与えてくれます。本結果では、数本の歯を有する高齢者の唾液中の細菌数は増加しましたが、機能低下により口腔内を完全に清掃する能力がないことを示しており、新たな歯科的問題を引き起こし、誤嚥性肺炎のリスクファクターとなる可能性さえあります。入念な口腔ケアの重要性が強調されます。口腔衛生に影響する因子には、自立した口腔ケア、口腔問題の存在、ADL低下などがあるようです。しかし、残存歯数を議論した、または、残存歯数が口腔衛生にどれぐらい影響するかを検討した過去の研究はありません。そのため、本研究の結果は大きな潜在的意義を有しています。さらに、我々の研究は、口腔内の食物残渣とADL低下が細菌数増加と独立して関連している可能性を提起しています。Staphylococcus 、CandidaまたはPseudomonas areruginosaなどの細菌数がADL低下により減少するとの報告や、食物残渣量の増加は、口腔細菌数の減少困難と関連している可能性があるという報告もあります。今回の結果は、それを支持しています。

歯科的な問題や肺炎を予防するために口腔の衛生状態を維持する事は、介護を必要とする高齢者にとって非常に重要です。上記のように、多くの研究者達がケアが必要な高齢者の口腔衛生について研究してきました。本研究での口腔衛生の指標は唾液中の細菌数です。この細菌数は、口腔衛生管理のパフォーマンスにより減少する事が報告されており、唾液中の細菌数が口腔衛生の指標として使える事が示されています。

嚥下機能が低下すると、口腔内に唾液が長く貯留し、唾液中の細菌数が増加する可能性があるという事実に基づき、嚥下機能も検査しました。今回、嚥下機能と唾液中の細菌数に関連を認めませんでした。今回、改訂水のみテスト後の頸部聴診を用いて嚥下機能を評価しました。この方法は重症な摂食嚥下障害を特定するには適していますが、中等度の摂食嚥下障害を特定するには不向きだった可能性があります。そのため、我々は頸部聴診による判定が結果に影響した可能性を除外できません。

本研究では、介護施設入所高齢者において、唾液中の細菌数が残存歯数と関連することが明らかになりました。歯面、義歯材料、舌と口腔粘膜に付着するバイオフィルム、ならびに口腔内の食物残渣は、全て唾液中の細菌の起源であると考えるのが妥当です。なぜなら、新たに分泌された唾液には、重度の敗血症の場合を除いて、通常ほとんど細菌が含まれていないからです。分泌後に、唾液はバイオフィルムや食物残渣から移動、拡散した細菌とコンタミされます。対照的に、残存歯は高齢者自身やその介護者にとってきれいにしづらい部位(歯間部や、歯周ポケット、歯頸部)であるかもしれません。残存歯数が増えると、よりきれいにするのが困難なエリアが増え、バイオフィルムの堆積がより高度になると考えるのは普通でしょう。介護施設入所のADLが低下した高齢者では、本人または介護者が適切な口腔衛生を実行するのはより困難でしょう。これによりさらに唾液中の細菌数が増加するため、介護の必要性のある高齢者において入念な口腔ケアの重要性が、こういった高齢者が今後さらに増加することからも示唆されます。

本結果の重要性は、比較的大規模で、日本各地の地域でマルチセンターで起こった疫学研究から得られたという点にあり、日本の介護施設入所者に対する本結果の一般化可能性は高いと考えられます。歯科教育や歯科界が高齢者の歯を可能な限り長く、広範囲に保存することを積極的に目指している中で、残存歯数の多さとADLの低さが唾液中の細菌数と独立した有意な因子であることを示した本研究の結果は、介護施設での介護を必要とする高齢者の唾液中の微生物フローラの状態についての新たな理解を深める上で大きな影響を与えるものと期待されます。

本研究のlimitationの1つは、被験者の36%が無歯顎者であった事に関連します。最初は、細菌数と残存歯数の関連を検討するために、有歯顎者を別途調査するつもりでしたが、残存歯数という変数は、義歯装着と関連すると思われたため、この方法を断念しました。我々は、無歯顎者を残存歯数0とカウントして、有歯顎者と一緒に解析しました。残っている歯の本数や関連する義歯の装着を複合的な要因として唾液中の細菌数との関係を分析したことは、著者たちにとって非常に興味深いものでした。予想通り、多変量解析で、残存歯数は独立して唾液中の細菌数と相関しました。また、義歯装着については多重共線性により否定されました。そのため、我々は残存歯数の少なさ(究極的には無歯顎)は義歯装着と関連していると推定しました。義歯は可撤式なので、高齢者や介護者にとって、日々の口腔ケアにより口腔内をきれいに維持することは簡単です。

記載するべき他の問題は口腔ケアの標準化に関するものです。本研究では、できるだけ多くの施設を対象とすることで、各施設で行われている標準化されていない口腔ケアの結果が反映されないように努めました。そのため、結果はパブリッシュされた当時に日本で一般的に行われていた口腔ケアを反映したものと考えられます。結果が将来大きく異なるようなら、口腔ケアの新しいシステム、口腔ケア技術の向上によるものと推測します。

過去の研究では、介護施設入居の高齢者において唾液誤嚥は肺炎の有意なリスクファクターであり、唾液中の最近増加は肺炎のリスクも上昇させる事がわかっています。唾液中の細菌数が多い、残存歯数が多い人に対する集中的な口腔ケアは、細菌数を減少し、さらに肺炎の機会も減らすかもしれません。もちろん、この目的を達成するには、このアプローチの有用性に関する疑問を解決するために、特定のコホートに焦点を当てたものなど、将来の前向き追跡調査が必要です。

残存歯が高齢者の健康上の危機を助長するべきではないと思っています。効果的な口腔ケアの開発ができるだけ早く必要です。残存歯の本数にかかわらず、高齢者が不健康な状態に陥らないように実施されるべきです。

まとめ

重回帰分析の結果で、Barthel indexのβ値(標準偏回帰係数)がマイナスになっており、これはBarthel indexの値が低いほど、唾液中の細菌数が多いということを意味するわけですが、考察では、Staphylococcus 、CandidaまたはPseudomonas areruginosaなどの細菌数がADL低下により減少するとの報告という文章があり、今回の内容と食い違っている気がします。増加するなら話がわかるんですが。

Michishige F, Yoshinaga S, Harada E et al. Relationships between activity of daily living, and oral cavity care and the number of oral cavity microorganisms in patients with cerebrovascular diseases. J Med Invest 1999; 46: 79–85.

この論文の内容らしいので、読めるようなら読んでみたいと思います。

実際の臨床で、高齢者に抜歯を提案すると、凄く抵抗されることがあります。歯を抜かない歯医者さんが良い歯医者さん、という事を言う患者さんもいます。しかし、口の中にあって役に立たない、害になるような歯を無理に残しておけば、唾液中の細菌数が増えるでしょう。なぜならその歯はすでに感染源だからです。これは最終的に誤嚥性肺炎リスクという話になります。今回は残根もカウントしています。残根がどれぐらいあったかは今回のデータからはわかりませんが、年齢からするとある程度あったのではないでしょうか。

実際、訪問診療にいくと、ドロドロに汚染された口腔内をよく見ます。残根、虫歯、歯周病、歯にたっぷりとついた歯垢、多量の食物残渣。至る所から膿が出ています。口の中は細菌だらけでしょう。逆に無歯顎の人は凄くきれいな状態であることが多いです。駄目な歯は、特にご高齢な方では細菌の温床になる前に処理するべきです。

高齢な方というのは、抜歯を提案した時点での体調が最も良いことが多いです。より歳を取れば体力も落ちますし、別の病気になって何か薬を飲むことになるかもしれません。骨粗鬆症の注射が始まるかもしれませんし、認知機能が低下してきて歯科医院に通うことも難しくなるかもしれません。歯科医師がこれはもう駄目ですね・・・という歯を無理に残して、抜歯が困難な状況になってから症状が強く出て抜いてほしいと言われてもそう簡単に抜歯できない可能性もありますし、抜いた後そこをどうするのか?という事について対応が難しくなります。無理な歯を無理に残す場合のデメリットについて考えさせられる論文でした。

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