口腔機能低下症は欠損累積型フレイルと有意に相関
オーラルフレイルの新しい定義が確立されたため、今後はオーラルフレイルと口腔機能低下症の2本だてでのアプローチが必要になると考えられます。オーラルフレイルはどちらかというとポピュレーションアプローチ、口腔機能低下症は治療、リハでの介入が必要ということになると思われます。
最近、口腔機能低下症のエビデンスに関する論文をあまり読んでいなかったので、2022の論文をまず読んでみようと思います。口腔機能低下症は日本オリジナルの概念かつ保険病名なので、今回も当然日本からです。今回は広島大学系の先生方の論文です。
Oral hypofunction and its relation to frailty and sarcopenia in community-dwelling older people
Mitsuyoshi Yoshida , Aya Hiraoka , Chiho Takeda , Takahiro Mori , Mariko Maruyama , Mineka Yoshikawa , Kazuhiro Tsuga
Gerodontology. 2022 Mar;39(1):26-32. doi: 10.1111/ger.12603. Epub 2021 Nov 2.
Abstract
Objective: The purpose of this study was to examine the frequency of oral hypofunction in community-dwelling older people and determine its relationship with frailty and sarcopenia.
Background: Previous studies have shown that frailty and sarcopenia are associated with decreased oral function. However, these studies have only evaluated frailty or sarcopenia alone and have not evaluated their relationship with each other.
Materials and methods: The participants were community-dwelling independent older people in Kyoto. Their oral function evaluation included seven items (oral hygiene, oral dryness, occlusal force, tongue-lip motor function, tongue pressure, masticatory function and swallowing function). Oral hypofunction was defined as abnormalities in at least three of these items. The frailty status was classified into three categories (robust, pre-frail and frail) according to the frailty phenotype and deficit-accumulation models. Sarcopenia was defined according to the Asian Working Group for Sarcopenia (AWGS) Consensus. The relationships between oral function and frailty were analysed using logistic regression analyses, after adjusting for sarcopenia.
Results: Among the 340 participants that were analysed (69 men, 271 women; average age: 75.0 years), 182 (53.5%) had oral hypofunction (40 men, 142 women; average age: 76.8 years). There was a significant relationship between oral hypofunction and deficit-accumulation model-assessed frailty, after adjusting for sarcopenia.
Conclusion: Almost half of the community-dwelling older people have oral hypofunction, which is significantly related to comprehensive frailty and sarcopenia.
目的:本研究の目的は、地域在住高齢者における口腔機能低下症の頻度を調査し、口腔機能低下症とフレイル、サルコペニアとの関連性を決定する事です。
背景:過去の研究で、フレイルとサルコペニアは口腔機能低下と関連が認められました。しかし、これらの研究は、フレイル、サルコペニア単独で評価されており、お互いの関連性が評価されていません。
実験方法:被験者は京都在住の自立高齢者です。口腔機能を7項目(口腔衛生、口腔乾燥、咬合力、舌口唇機能、舌圧、咀嚼機能、嚥下機能)で評価しました。口腔機能低下は7項目中最低3項目が異常値であると定義されました。フレイルは3段階(健康、プレフレイル、フレイル)に分類されました。サルコペニアはAWGS基準により定義されました。口腔機能とフレイルの関連について、サルコペニアを調整後に、ロジスティック回帰分析で解析しました。
結果:340人の被験者(男性69名、女性271名、平均年齢75.0歳)を解析しました。182名(53.5%、男性40名、女性142名)が口腔機能低下症と診断されました。口腔機能低下症と欠損累積モデルのフレイルはサルコペニア調整後に有意な関連が認められました。
結論:ほぼ半数の高齢者が口腔機能低下症で、総合的な虚弱やサルコペニアと有意な関係があります。
ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください
緒言
高齢化は世界中で加速しています。2050年には65歳以上の高齢者が約20億人になると予想されています。これは、医療と社会的ケアの計画と提供に重大な影響を与えるでしょう。高齢化の最大の問題はフレイルです。ストレス因子に暴露した際に要介護や死亡リスクが上昇するが、適切な対策で軽減できる臨床的な状態と定義されています。フレイルは、日常生活の多くに影響を及ぼす生物生理学的障害であり、生理的予備力の低下とストレス誘発性障害に対する抵抗力の低下が特徴です。健康寿命の最適化を目的とした戦略を立てることは重要な考えです。フレイルは、フェノタイプ型と欠損累積型で評価することができます。フェノタイプ型はフレイルの身体的側面をフォーカスしている一方、欠損累積型はフレイルの総合的評価(身体、心理/認知、社会性)を提案しています。身体的フレイルとサルコペニアには密接な関連がある事が報告されています。フレイルの領域の優先順位については、いまだ議論の対象であり、コンセンサスはありません。そのため、いくつかの方法を組み合わせてフレイルを評価する事が重要です。
口腔機能の低下はフレイルの原因となると報告されています。過去の研究では、地域在住高齢者において、フレイルは口腔機能低下、たとえば咬合力、舌圧、咀嚼機能などの低下と関連する事が示されました。しかし、これらの研究は、口腔機能の1つ、または2,3種類を評価したにすぎません。そのため、口腔機能のあらゆる側面と、それがフレイルに与える影響を包括的に評価する必要があります。2016年、日本老年歯科医学会が、7つの口腔機能を使って口腔機能低下の評価基準を構築しました。7つの状況(口腔不潔、口腔乾燥、咬合力低下、滑舌低下、舌圧低下、咀嚼機能低下、嚥下機能低下)が、口腔機能低下症の診断に選ばれ、診断のための閾値が決定されました。これらの基準は口腔機能全体の評価に使用することができるので、サルコペニアだけでなく、2つのフレイル評価モデルとの関連性を検討するのは有意義と考えられます。これにより、口腔機能が全身の健康にどのように関連しているかがわかるかもしれません。
そのため、本研究では、自立地方在住高齢者において口腔機能低下症の割合を検討し、口腔機能低下症とサルコペニア調整後のフレイルとの関連性を解析しました。
実験方法
2002年に京都高齢者体力測定研究プロジェクトを立ち上げて以来、1年に1回京都先端科学大学で体力測定を行ってきました。被験者は、2019年6月22、23日に体力測定のために大学を訪問した人で構成されています。2019年以前からサーベイに参加していた人と2019年に参加した人が含まれています。検査会場に自ら訪れた人と、招待または広告を見てから公的機関でのサーベイに参加した人がいます。検査の前に簡単な医学的インタビューを通して、循環器疾患や人工関節置換などの既往がある人は除外しました。収縮期血圧が200mmHgを越える人も除外しました。
過去の研究に従い、αレベルが0.05の際、口腔機能低下症の発生率は0.5であり、検出力が0.9の場合、必要な参加者数は260人です。参加前に、被験者は研究目的や方法について説明をうけ、同意書にサインをしました。
口腔機能低下症
口腔機能低下症の定義や閾値についての説明がありますが、日本では既知なので今回は省略します。
フレイルとサルコペニアのアセスメント
年齢、性別、身長体重、フレイルの状態などの基礎特性データを得るために、自己回答式質問表を用いました。BMIを算出しました。
CHS基準によるフェノタイプモデル、基本チェックリスト(KCL)による欠損累積モデルでフレイルの状態を決定しました。フェノタイプを、体重減少、疲労、活動量、歩行速度、握力において報告されたカット値により定義しました。1つも該当しない場合は健康、1~2個該当ならプレフレイル、3個以上該当ならフレイルと分類しました。
基本チェックリストは、厚労省が介護や支援が必要なリスクがある高齢者を確認するために日本の厚労省が開発し、フレイルのスクリーニングにも用いられています。基本チェックリストは25のはい/いいえの質問で、ADL5問、身体の強さ5問、うつ5問、記憶3問、口腔機能3問、栄養2問、孤独2問の7種類で構成されています。過去の報告では、基本チェックリストのスコアで健常(0~3点)、プレフレイル(4~7点)、フレイル(8点以上)の3段階に分類しました。
サルコペニアはAWGSにより定義しました。AWGS基準は低筋肉量、低筋力、身体能力を組み合わせており、(a)、握力:男性28kg未満、女性18kg未満、and/or 歩行速度:1.0m/秒未満、で(b)骨格筋量:男性7.0kg/m2、女性5.7kg/m2であればサルコペニアに該当します。骨格筋量はYamadaらの報告に基づき、BIAを用いて評価しました。また、身体アセスメントは京都先端科学大学のスタッフによって行われました。
統計解析
口腔機能低下症あり、なしの2群にわけ、年齢やBMIをMann-Whitney U検定で比較しました。加えて、フレイル、サルコペニア群における口腔機能低下症の頻度の決定にχ2検定を用いました。さらに、口腔機能低下症のそれぞれの項目を、CHS基準、基本チェックリストで判定した健常、プレフレイル、フレイル群間で比較し、さらに、AWGS基準により判定したサルコペニアありなしでも比較しました。これにはKruskal-Wallis検定とMann-Whitney U検定を用いました。フェノタイプモデルのフレイル、欠損累積型フレイルとサルコペニアの関係性について検討した後に、口腔機能低下症との関連性をロジスティック回帰分析で検討しました。有意水準は5%としました。
結果
被験者は340名(男性69名、女性271名、平均年齢75.0歳)でした。平均年齢、BMIは口腔機能低下症ありなし群で有意差は認められませんでした。CHS基準によるフェノタイプモデルのフレイル、KCLによる欠損累積型フレイルモデル、AWGSによるサルコペニアは有意に口腔機能低下症と関連しました(表1)。
口腔機能低下症の全ての項目で、嚥下機能のみが3種類全てのフレイル、サルコペニアと相関しました(表2)。
多変量解析で、フェノタイプモデルのフレイルはサルコペニアと有意な相関が認められましたが、口腔機能低下症との関連は認められませんでした(表3,4)。しかし、欠損累積モデルのフレイルは、サルコペニア調整後にも口腔機能低下症と有意に相関が認められました(表4)。
考察
本研究の結果から、サルコペニア調整後において、欠損累積型フレイルモデルと口腔機能低下症には相関が認められました。
日本老年歯科医学会により提案された口腔機能低下症を評価するための検査は、2018年から公的保険に導入されました。Ikebeらのレビューによると、地域在住高齢者における口腔機能低下症の有病率は40~50%であり、本研究の結果とほぼ一致しています。Kugimiyaらによる研究でも43.6%と報告していますが、異なる基準で判定するオーラルフレイルは22.5%であり、評価基準によりバラツキがあります。口腔機能低下症を設定した目的は、全身の健康状態や将来の障害リスクとの関連性を検討するだけではなく、口腔機能低下が疑われる高齢者を特定するためでもあります。口腔機能は、多くの高齢者で低下しており、効果的な介入方法をみつけるのは今後の課題です。
フレイルは健康と機能障害の狭間の状態であり、ストレス因子に対し、身体、精神、社会的な脆弱性が増加した状態です。フレイルを評価するための統一された基準はありませんが、Friedらが提唱したフェノタイプモデルは、身体的フレイルの判定のために使用される一般的な診断方法です。フレイルの有病率は2%~67%の範囲と推定されています。しかし、最近の62カ国のデータを用いたメタアナリシスでは、フェノタイプを用いた場合の累積有病率は12%と示唆されました。我々の研究では2.7%しかいませんでした。これは、本研究の被験者が健康に興味があり、我々の体力測定に自発的に参加した事が理由かもしれません。そのため、我々の知見を一般化するには限界があります。
欠損累積型モデルは、健康の維持・増進に関連する様々な要因における障害の蓄積が、徴候、症状、日常生活障害、疾病、認知機能障害などのフレイルを反映するという考えに基づいています。身体、機能評価を組み合わせた質問表を用いたアセスメントがバイアスを避けるために推奨されています。そのため、CHS基準のフェノタイプとKCL基準の欠損累積型フレイルの両方で評価する事は有意義であるようです。さらに、総合的な健康状態を評価するために、人体計測を行うサルコペニアを加える事は、フレイルの総合的な理解に有益かもしれません。サルコペニアは、筋肉量とその機能の加速的な喪失を含む、進行性で全身の骨格筋障害であると報告されており、最終的にフレイルとなります。我々の研究では、フェノタイプモデルのフレイルとサルコペニアは有意な関連を認めました。そのため、多変量解析後には口腔機能低下症と相関は認められませんでした。逆に、欠損累積型モデルのフレイルは、サルコペニアの影響を考慮した後でも、口腔機能低下症と有意に相関しました。これはおそらく、欠損累積型のモデルでは、身体機能のみならず、包括的なフレイルを評価するためであると考えられます。そのため、口腔機能低下は身体的側面だけではなく、心理的、社会的側面にも影響しています。口腔機能はコミュニケーションや審美性など社会的側面もあるのだから、これは理に適っています。
逆に、口腔機能低下症の診査項目において、嚥下機能だけがフェノタイプフレイル、欠損累積型フレイル、サルコペニア全てと相関しました。最近の研究でも、口腔機能低下と嚥下機能の有意な関連性が報告されています。これは、嚥下障害がフレイルの鍵である可能性を示唆しています。そのため、嚥下機能を維持する方法が、今後検討されるかもしれません。
結論
結論として、地域在住高齢者において約半数が口腔機能低下症であり、包括的なフレイル、サルコペニアと有意な関連を認めました。口腔機能の適切な評価、特に嚥下機能、と口腔機能低下を抑制するための効果的な介入は、健康寿命延伸に有用であるかもしれません。
まとめ
わざわざ体力測定に参加してきた高齢者において、口腔機能低下症と判定されたのが50%を越えたことから、これだけ多いのだから口腔機能低下症は介入していかないとと考えることもできますが、口腔機能低下症の診断基準には問題がある、と考えることもできると思います。
横断研究のため、因果は明確にはわかりませんが、欠損累積型モデルの方が口腔機能低下症と有意に相関したというのは、考察にもあるとおり、口腔機能は単に咀嚼嚥下だけでなく、審美性やコミュニケーションといった社会的要素も含まれるからと考えるのが自然な流れかと思います。口腔機能低下症は身体的フレイルとは有意に相関しなかったというのも、単に栄養や筋肉量だけの問題ではないことの表れでしょう。
基本チェックリストの妥当性について、自分はよくわかっていないのでそこら辺をもうちょっと調べる必要があるなと思いました。