口腔機能と全身のフレイルの関連性
前回の論文のリファレンス
前回の論文の緒言にあったリファレンスを読む事にしました。
前回のブログは以下の内容になります。
今回の論文は筆頭著者の渡邊先生は北大に戻られましたが、前回と同じ東京都長寿医療研の方々の研究となります。
今回はフレイルと口腔機能の関連性について以前も紹介した大府スタディのデータを用いて横断で解析してます。
Relationship Between Frailty and Oral Function in Community-Dwelling Elderly Adults
Yutaka Watanabe, Hirohiko Hirano , Hidenori Arai , Shiho Morishita, Yuki Ohara, Ayako Edahiro, Masaharu Murakami , Hiroyuki Shimada , Takeshi Kikutani , Takao Suzuki
J Am Geriatr Soc. 2017 Jan;65(1):66-76.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27655106/
Abstract
Objectives: To determine the standard values of and age-related changes in objective oral function of healthy older people; compare oral function of robust, prefrail, and frail older people; and determine the association between oral function and frailty.
Design: Cross-sectional analysis.
Setting: General community.
Participants: Elderly adults (≥65) from the Obu Study of Health Promotion for the Elderly were included and assigned to the robust, prefrail, and frail groups (N = 4,720).
Measurements: Each participant underwent detailed physical testing to assess frailty. The frailty phenotype was defined according to the presence of limitations in three or more of the following five domains: mobility, strength, endurance, physical activity, and nutrition. The numbers of present teeth and functional teeth were counted, and occlusal force, masseter muscle thickness, and oral diadochokinesis (ODK) rate were measured, along with sociodemographic and functional status, comorbidities, and blood chemistry.
Results: The number of present teeth, occlusal force, masseter muscle thickness, and ODK rate decreased with age. The frail group had significantly fewer present teeth (women aged ≥70), lower occlusal force (women aged ≥70; men aged ≥80), lower masseter muscle thickness, and lower ODK rate than the robust group. Multivariate analysis indicated that age, Geriatric Depression Scale score, skeletal muscle mass index, Mini-Mental State Examination score, hypertension, diabetes mellitus, albumin and triglyceride levels, and oral function were significantly associated with frailty.
Conclusion: Age-related differences in oral function were found in older adults. Moreover, frail older individuals had significantly poorer oral function than prefrail and robust individuals. The risk of frailty was associated with lower occlusal force, masseter muscle thickness, and ODK rate.
目的:健康な高齢者の客観的な口腔機能の平均値と加齢変化を決定する事です。また正常、プレプレイル、フレイル群間で比較を行い、口腔機能と身体的なフレイルとの関連性を検討する事です。
研究デザイン:横断研究
被験者:65歳以上の大府スタディ参加者4720名
実験方法:フレイルかどうかアセスメントするために身体検査を行いました。フレイルの診断は、歩行速度、握力、耐久性、身体活動、栄養の5つのドメインにおける境界値が3つを満たす場合と定義されました。残存歯数、機能歯数をカウントし、咬合力、咬筋厚、オーラルディアドコキネシスを測定しました。また、人口統計学的、機能的な状態、基礎疾患、血液生化学検査等の項目も採取しました。
結果:残存歯数、咬合力、咬筋厚、オーラルディアドコキネシスは加齢に応じて低下しました。正常群と比較してフレイル群では、女性で70歳以上の場合、残存歯数が少なく、男性70歳以上、女性80歳以上の場合は咬合力が低下、また咬筋厚の低下、オーラルディアドコキネシスの低値が有意差として認められました。多重比較の結果、年齢、GDSスコア、SMI、MMSE、高血圧、糖尿病、アルブミン、トリグリセライド、口腔機能がフレイルと有意に相関しました。
結論:口腔機能の加齢変化が高齢者において認められました。さらにフレイルの高齢者達は、正常、プレフレイルと比較して有意に口腔機能が低下していました。フレイルリスクは咬合力、咬筋厚、オーラルディアドコキネシスの低下との関連が認められました。
ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言はカットします。
実験方法
被験者
大府スタディに参加した65歳以上の被験者5104名からパーキンソン病、脳卒中などの既往がなく、MMSEが18以上である被験者4723名を対象としています。
フレイルの分類
以下の5つの項目で該当0なら正常、1,2個該当ならプレフレイル、3個以上該当ならフレイルと判断しています。
歩行速度:1.0m/s以下
握力:男性26kg以下、女性17lg以下
耐久性:GDS(the Geriatric Depression Scale)内の自分が活気にあふれていると思いますか?という質問項目でいいえ
身体活動:エクササイズやスポーツをしていますか?という質問項目で活動している時間により分類
栄養:2年で5%以上体重が減ったかどうかを自己申告
口腔診査
残存歯数、機能歯数(補綴歯数含む)
咬合力:プレスケール
咬筋厚:エコー
オーラルディアドコキネシス
血液検査
総蛋白、アルブミン、中性脂肪、総コレステロール、クレアチニン
統計解析
正常、プレフレイル、フレイル群間における身体所見などの比較にはχ2検定と一元配置分散分析を用いました。口腔機能に関しては、男女別に5歳ずつの階層で各々平均値とSDを算出しました。口腔機能の群間比較は、性別、年齢階層別で一元配置分散分析を用いてました。
正常群からフレイル群までの傾向に関与する要因を調べるためにロジスティック回帰分析を用いて解析しました。
結果
被験者数総数は4720名で正常者は1494名(31.7%)、プレフレイルは2691名(57.0%)、フレイルは535名(11.3%)となりました。群間の比較では、性別、BMI、喫煙歴、脂質異常、悪性腫瘍、うつを除いて有意差が認められました。
口腔機能
機能歯数:性別、年齢層、フレイルの状態で有意差なし
現在歯数、咬合力:加齢によって低下。70-74歳、75歳以上の年齢階層においてフレイルの進行によって有意に低下。
咬筋厚:プレフレイル群、全体において加齢によって有意に低下したが、正常、フレイル群では有意差なし。
フレイル群間での口腔機能の相違:フレイル進行によりpoorな口腔機能
年齢層別にみたフレイル群間の相違
機能歯数:70-74歳男性はフレイル進行により有意に減少したが、他の年齢層では有意差なし
残存歯数:男女共に加齢、フレイル進行により減少する傾向。特に70~74歳と75歳以上
咬合力:女性の65~69歳、70歳以上、男性の70~74歳、75歳以上でフレイル進行により有意に低下
咬筋厚:女性の80歳以上、男性の70~74歳、80歳以上でフレイル進行により有意に低下
オーラルディアドコキネシス:女性の70~74歳、80歳以上における「タ」、男性の65~69歳における「パ」「カ」ではフレイル進行による有意差を認めませんでした。しかし、オーラルディアドコキネシスは他の年齢層において全て有意差を認めました。
多項ロジスティック回帰分析
SMIが高いほどフレイルリスクが有意に低下
GDSスコアが高いほどフレイルリスクが有意に上昇
MMSE24未満の場合、MMSE24以上と比較して有意にフレイルリスクが上昇
高血圧、心疾患、糖尿病、結合組織疾患がある場合はフレイルリスクが上昇
アルブミン値が高い、咬合力が大きい、咬筋が厚いほどフレイルリスクが低下
多重ロジスティック回帰分析
年齢、性別調整で正常+プレフレイル群vsフレイル群
SMIが1kg/m2 高くなると場合、フレイルリスクは有意に減少(オッズ比0.81)
GDSが高いほど、フレイルリスクは有意に上昇(オッズ比1.33)
MMSE24未満であればMMSE24以上と比較してフレイルリスクは有意に上昇(オッズ比1.48)
高血圧(オッズ比1.43)、糖尿病(オッズ比1.55)
1g/dlアルブミン値が高くなる(オッズ比0.34)、100mg/dlトリグリセライドが高くなる(オッズ比0.82)、100N咬合力が増える(オッズ比0.94)、1mm咬筋が厚くなる(オッズ比0.89)、とフレイルリスクは減少
オーラルディアドコキネシスの「カ」の結果が良いとフレイルリスクは低下(オッズ比0.89)
まとめ
今回舌圧は計測しておりませんが、オーラルディアドコキネシスのカ音がある程度代償していると考えられます。カ音が良いとフレイルリスクが低下するため、舌背部から奥舌にかけての機能がフレイルリスクと関連性があると考えてもよいでしょう。
歯数が減るとフレイル、という関連性は今回は認められていませんが、咬合力との関連性は認められています。他の研究では、歯数減少で食欲とカロリー摂取に影響が出たという報告もあります。Eichner分類により咬合力がB3以降は大幅に下がるという研究があります。咬合力は歯数もそうです咬合接触面積、加齢による低下もあるでしょうから、単純に残存歯数だけではなく咬合力で判定するほうが包括的な意味がありそうです。咬合力が低下するとフレイルリスクが上昇するのは柔らかい食事の選択による栄養の偏りなどを想像すると理に適っています。また咀嚼筋である咬筋の厚みもフレイルリスクに関与していたのも同様な理由と考えられます。
逆の発想をすると、この研究の結果からフレイルにしないために口腔を鍛えるとすると
咬合力を向上させる
咬筋厚を厚くする
オーラルディアドコキネシスの「カ」を鍛える
ということになるかと思います。
咀嚼訓練としてガム、チューブ、グミ、
舌機能訓練としてペコパンダとかそういうものを指導していく形になりそうです。
勿論ですが、あくまで横断研究ですから因果関係を明確に語ることはできません。しかし、4000人規模の横断ともなると流石に結果には注目せざるを得ないでしょう。
50%以上がプレフレイルで、正常値な人は30%ぐらいしかいません。一般的な高齢者の多くがフレイル予備軍である、ということを認識しておく必要がありそうです。
以前読んだ大府スタディの論文はこちら
GDSとは
GDSは高齢者のうつ尺度であり、日本語版だと以下の様な質問項目になります。