口腔の状態と栄養状態に関するメタアナリシス(2021JPR)
今回は口腔の状態とMNAに関するメタアナリシスを読みます。JPRに出たばかりです。JPRはJstageに移動したので、ダウンロードが容易になりました。しかし、PDFには保護がかかっておりまして、文字や図表を簡単に切り出せないようになっているのは本当に勘弁して頂きたいです。分からない単語をコピペして検索できませんから・・・。
Association of Oral Health and Mini Nutritional Assessment in Older Adults: A Systematic Review with Meta-analyses
Sahar Hussein, Rifat Falak Kantawalla, Stephenie Dickie, Piedad Suarez-Durall, Reyes Enciso, Roseann Mulligan
J Prosthodont Res. 2021 Jul 15
https://doi.org/10.2186/jpr.JPR_D_20_00207
Abstract
Purpose: To evaluate whether poor oral health is associated with a higher risk of malnutrition based on the Mini Nutritional Assessment (MNA) or MNA-SF (short form) in older adults.
Study Selection: For this meta-analysis, cohort and cross-sectional studies with adults 65 years and older, reporting oral health outcomes (i.e. edentulism, number of teeth) and either the MNA or MNA-SF were selected. Four electronic databases were searched (Medline via PubMed, Web of Science, Cochrane Library and EMBASE) through June 2020. Risk of bias was assessed with the checklist by the Agency for Healthcare Research and Quality scale.
Results: A total of 928 abstracts were reviewed with 33 studies, comprising 27,559 participants, aged ≥65 being ultimately included. Meta-analyses showed that the lack of daily oral hygiene (teeth or denture cleaning), chewing problems and being partially/fully edentulous, put older adults at higher risk of malnutrition (p < 0.05). After adjustment for socio-demographic variables, the included studies reported lack of autonomy for oral care, poor/moderate oral health, no access to the dentist and being edentulous with either no dentures or only one denture were risk factors significantly associated with a higher risk of malnutrition (p < 0.05).
Conclusions: These findings may imply that once elders become dependent on others for assistance with oral care, have decreased access to oral healthcare, and lack efficient chewing capacity, there is increased risk of malnourishment. Limitations of the study include heterogeneity of oral health variables and the observational nature of the studies. Further studies are needed to validate our findings.
目的:高齢者において口腔内の環境と低栄養が関連するかどうかを評価する事です。
実験方法:65歳以上の高齢者を対象としたコホートと横断研究で、アウトカムが口腔の健康(残存歯数や無歯顎かどうかなど)で栄養状態の評価としてMNAまたはMNA-SFを用いているものを対象としました。4つのデータベースから検索を行いました。バイアスリスクはthe Agency for Healthcare Research and Quality scaleによるチェックリストで評価しました。
結果:928のアブストラクトから33の研究を抽出しました。65歳以上の27559名が被験者として含まれました。メタアナリシスの結果、日常の口腔清掃(歯と義歯)が欠如している、咀嚼に問題がある、片顎または全顎が無歯顎、である場合に有意に低栄養リスクが高くなりました。人口統計学的な要素を調整後には、口腔ケアが自立していない、口腔の健康状態が悪いまたは中等度、歯科医院を受診せず無歯顎でありながら義歯を有しない、または片顎のみ義歯を装着している場合、有意に低栄養リスクが高くなりました。
結論:この結果は、高齢者が口腔ケア介助になったり、口腔の健康管理に通う機会が減ったり、咀嚼能力が低下した場合には栄養不良のリスクが上昇することを暗に意味しているかもしれません。本研究のLimitationには口腔の健康に関する不均一性と観察研究であることが含まれます。この結果の妥当性を検討するために更なる研究が必要です。
ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
他の年齢層に比べて高齢者の割合は、世界的に、特に発展途上国で増加し続けています。このような高齢者は、筋肉量の減少や代謝活性成分の減少に伴う栄養障害のリスクを抱えており、その結果、機能低下や健康状態の悪化を招きます。低栄養は、食事の困難さ、運動能力の低下、心理的ストレス、パートナーの喪失、非識字、貧困、医療・歯科医療・社会サービスへのアクセスの悪さなど、さまざまな要因によって引き起こされます。口腔と全身的な状態の悪は特に高齢者において相互関係にあり、低栄養は明確な寄与因子です。
高齢者は、口腔衛生、歯周病、う蝕、不適合な補綴物など、さまざまな口腔衛生上の問題に悩まされる可能性があります。長年にわたる歯の喪失により無歯顎となり、口腔の機能障害や能力低下が起こる可能性があります。それにより食欲が減退するかもしれません。咀嚼機能が低下した人は、食べ物の選択肢を調整するか、消化器系の問題となる粗い粒子を飲み込むことで対処する事になります。前者は食事の摂取量のバランスを崩し、後者は栄養素の生物学的利用能の低下と胃腸障害を引き起こすかもしれません。どちらの状況でも、食事や栄養素の摂取量が損なわれることで、栄養起因の疾患が増加する可能性があります。
MNA、MNA-SFは、栄養スクリーニングおよび評価に最も広く使用されているツールです。そのため、このシステマティックレビューでは、MNAまたはMNASFを用いた研究のみを対象としました。3つの救急病院で栄養失調のリスクがある高齢者を対象とした最近の研究では、口腔内の健康状態が中程度に低下していると報告した患者の栄養失調率は14%であったのに対し、口腔内の健康状態が悪いと報告した患者の栄養失調率は20%であり、統計的に有意な差が認められました。
本研究の目的は、予防と治療の戦略を導くために、口腔内の健康状態の悪さが高齢者の栄養状態にどのように影響するかを明らかにすることです。
実験方法
PRISMAに則ってメタアナリシスを行っています。
口腔の健康と栄養状態の関連性についてのコホート研究、横断研究のみを対象として、MNA、MNA-SFを用いていないものは除外しています。
結果
論文の抽出
論文の抽出に関しては以下のフローの通りですが、最終的に33本が採用されました。28本が横断研究で5本がコホート研究となっています。33本に含まれる被験者の総数は27559名で、1つの研究における最大数が3459名、最小数が53名となっています。年齢は全て65歳以上となっています(65~101歳)。
17の研究は地域在住高齢者であり、家またはERまたは病棟でインタビューされています。7つの研究は施設入所者のみを対象としています。9つの研究は地域在住高齢者と介護の両方を扱ってます。
口腔健康状態
口腔内のアウトカムに対して低栄養と関連が認められたかどうかを表2、表3に示します。
表2は未調整、表3は調整済みのモデルとなっています。
各アウトカムにおいてそれぞれ有意差が認められた研究と認められなかった研究が列記されています。
人口統計学的な項目を調整した表3において口腔のアウトカムと低栄養で相関が認められたのは4項目でした。残存歯数や咬合歯数、歯周ポケットの深さなど感覚的に関係ありそうな項目は有意差がない論文ばかりとなっていますが、論文51と41のウェートがやけに高いのは気になります。
バイアスリスク
バイアスリスクを評価したところ72.7%がHighリスクとなっています。
メタアナリシスの結果
メタアナリシスに関しては、口腔のアウトカムにおいて同じグループで最低でも2つ以上の研究があるものについて検討しています。
A:65歳以上で片顎、または全顎無歯顎である場合、低栄養、栄養失調のリスクは有歯顎者と比較して9.5%高まりました(RR=1.095; 95% CI 1.007 to 1.190; p=0.033)。
B:補綴物を有する、使用している高齢者は、補綴物を持っていない人より3.7%栄養失調のリスクが下がりましたが、有意差を認めませんでした(RR= 0.963; 95% CI 0.862 to 1.076; p=0.505)。
C:咀嚼に問題を抱えている高齢者は、そうではない人と比較して約2倍低栄養リスクがありました(RR=1.956; 95% CI 1.097 to 3.488; p=0.023)。
D:日常的に歯と義歯を清掃しない高齢者は52.6%低栄養リスクが高くなりました(RR= 1.526; 95% CI = 1.261 to 1.847)。
E:4本以上歯を喪失すると栄養失調のリスクがありますが、統計的な有意差を認めませんでした(mean difference = – 3.858; 95% CI -7.968 to 0.252; p=0.066)。
ただし、GRADEによるエビデンスの質をみると、LOWまたはVERY LOWになっているので注意が必要です。
考察
無歯顎
今回の結果では、無歯顎であれば補綴物の使用の有無に関わらず9.5%低栄養リスクが高くなりました。無歯顎者はフルーツや野菜の摂取量が減少し低栄養リスクが高くなると言う報告があります。無歯顎者で義歯を使用していない、または片方しか義歯を使用していない場合にも低栄養リスクが増大するという報告があります(文献20)。上下共にしっかりと義歯を装着している場合、有歯顎者と比較して低栄養リスクに有意差はなかったという報告もあります(文献38)。
補綴物の使用
今回の結果では、補綴物の使用、未使用で低栄養リスクは有意差はありませんでした。Lindmarkらの報告ではインプラント治療と低栄養リスクは有意な関連性を認めませんでした。
咀嚼と咬合
今回の結果では咀嚼に問題を抱えている人の低栄養リスクは約2倍となりました。一般的に咀嚼に問題を抱えている人は柔らかく食べやすいものを選ぶ傾向にあり、栄養バランスが悪くなると報告されています。
咀嚼能率は臼歯の数と咬合関係と比例します。一方、小臼歯、大臼歯の咬合ペアが咀嚼機能のよい指標であるという報告もあります。残存歯数、特に臼歯部の咬合ペアと栄養状態に正の相関を見つけることは驚くことではありません。Gil-Montoyaらの報告では8箇所以下の咬合歯数の場合、低栄養のリスクがあります。咀嚼と嚥下機能に対する咬合支持の効果を考えた時、菊谷らは咬合支持の喪失と低栄養のリスクは相関すると報告しています。天然歯列を有する+適切な咀嚼機能を持つ高齢者群と比較した場合、義歯を持たない不適切な咬合群は3.189倍低栄養リスクが高いという報告があります(文献36)。同じ報告中では全部床義歯を装着し咬合が維持されている場合に1.704倍低栄養リスクとなっています。本研究では高齢者において早期治療介入により咬合を守る事の重要性が強調されます。
口腔関連QOL
Wuらは交絡調整後にもGOHAIスコアが高齢者において低栄養と有意に関連していたと報告しています。一方で歯に関する因子は調整後には低栄養と相関は認められなかったと報告しています。
日々の口腔衛生欠如
今回の結果によると、毎日の口腔衛生(歯や入れ歯の洗浄)の欠如により、高齢者は栄養不良のリスクが52.7%高くなることが示されました(p<0.001)。 Saarelaらは、介護付き住宅に入居している虚弱な高齢者、および低学歴で施設入所期間が長い男性では、日常的な口腔衛生の欠如、栄養不良、および日常生活動作における依存の発生率が高かったと報告しています。 このことは、これらの居住者が受けている口腔衛生支援が自立した日常的な口腔ケアの喪失を補うには不十分である可能性を示唆しています。 口腔内の健康状態が悪いにもかかわらず、これらの居住者は歯科サービスをあまり利用していません。 体の弱い高齢者支援施設の入居者の口腔衛生に焦点を当てたリソースや教育をさらに進めるべきです。
口腔ケアの自立
咀嚼機能の低下や依存は低栄養のリスクと報告されています。Poissonらは口腔ケアの自立は低栄養と独立して相関したと報告しています。彼らは口腔ケアの自立と嚥下障害の関連も報告しています。
歯科へのアクセス
12ヶ月以上歯科にかかっていない場合、多重ロジスティック回帰分析の結果から低栄養リスクが高くなることが報告されています。Sroffelらは人的なリソース不足、地理的、経済的、文化的な障壁によると報告しています。
エビデンスのLimitation
GRADE表による総合的なエビデンスの質は、「無歯顎」「補綴物の使用」「咀嚼の問題」「中等度の口腔衛生状態の悪さ」については低いものでした(GOHAI≤57)。 また、「平均歯数」と「毎日の義歯や歯のクリーニングをしない」という変数に関するエビデンスの質は、メタ分析に含まれた研究が2件のみであり、観察研究のデザインも非常に低いものでした(補足表4)。 このシステマティックレビューでは、いくつかの制限事項を強調する必要があります。まず、65歳以上の患者を対象とした研究のみを対象としています。第二に、一次データの収集は、さまざまなレベルの訓練を受けた単一または複数の研究者が、口頭試問、アンケート、個人面接などのさまざまな方法を用いて行っています(Supplement Table 2)。 このシステマティックレビューに含まれる研究のほとんどは、口腔内の健康状態を自己申告する質問票を用いていました。 口腔内の健康状態の自己申告と口腔内の健康ニーズの認知度は、検査の結果とは相関しないことが知られています(文献54)。第二に、口腔衛生変数の測定値には大きなばらつきがあり、収集された口腔衛生状態のデータには膨大な数の口腔内の状態が含まれていました。唾液腺機能低下や口腔内病変などの状態は、病状や変更不可能な危険因子の結果である可能性があります。3つの研究を除くすべての研究は、バイアスのリスクが高い/明確でないものでした。
ポイント
メタアナリシスの結果、以下の項目で低栄養リスクが高くなるという結果になりました。
日常の口腔清掃(歯と義歯)が欠如している
咀嚼に問題がある
片顎または全顎が無歯顎
人口統計学的な要素を調整後には、
口腔ケアが自立していない
口腔の健康状態が悪いまたは中等度
歯科医院を受診せず無歯顎でありながら義歯を有しない、または片顎のみ義歯を装着している
まとめ
まだまだ質の高い研究が足りず、この結果はすぐに変わってしまう可能性はありそうです。残存歯数や機能歯数が入っていないというのはどうなのかな?と思う所です。
しかし、無歯顎であること自体が低栄養のリスクであることは比較的多くの論文で指摘されています。
昔1本論文を読んでブログにもしています。全部床義歯を装着していても低栄養リスクがあります。
高齢全部床義歯装着者の栄養状態、口腔関連QOLは悪い
https://www.dentist-oda.com/edntulousnutriton_qol/
また、全部床義歯装着者に栄養指導を行うかどうかで半年後の栄養状態に有意差が出たという論文もあります。
https://www.dentist-oda.com/completedenturewithdietaryadvice/
勿論1名1名状況は違うわけですが、この結果から考えると適切な歯科治療介入、口腔ケア、義歯ケア+食事の工夫、定期検診などが必要と考えられると思います。