口腔の状態と栄養状態に関するメタアナリシス(2018)
2つ目のメタアナリシス
先週、JPRに掲載されたばかりの口腔の状態と栄養状態に関するメタアナリシスを読みましたが、今回は2018のClinical Nutritionに掲載されたタイトルがかなり似ている感じのメタアナリシスを読んでみようと思います。
Relationship of nutritional status and oral health in elderly: Systematic review with meta-analysis
Mirian Paola Toniazzo , Paula de Sant’Ana Amorim , Francisco Wilker Mustafa Gomes Muniz , Patricia Weidlich
Clin Nutr. 2018 Jun;37(3):824-830. doi: 10.1016/j.clnu.2017.03.014.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28392164/
Abstract
This systematic review aimed to compare the nutritional status and oral health in older adults individuals. Three databases (Medline-Pubmed, Scopus and EMBASE) were searched up to October 28th 2016 for studies that performed the Subjective Global Assessment (SGA) or the Mini Nutritional Assessment (MNA) and an oral examination performed by a dental professional, either dental hygienist or a dentist. Both observational and interventional studies were screened for eligibility. Meta-analyses were performed comparing the malnourished/at risk of malnutrition and the normal nutrition subjects with three oral health parameters (edentulism, use of prosthesis and mean number of present teeth). Twenty-six studies were included in the systematic review, of which 23 were cross-sectional. It was showed that well-nourished subjects had a significantly higher number of pairs of teeth/Functional Teeth Units (FTU) in comparison to individuals with risk of malnutrition or malnutrition. The meta-analyses showed no statistically significant association between edentulism and use of prosthesis, as the pooled Relative Risk were, respectively, 1.072 (95% CI 0.957-1.200, p = 0.230) and 0.874 (95% CI 0.710-1.075, p = 0.202). On the other hand, the pooled Standard Mean Difference of mean number of present teeth were -0.141 (95% CI -0.278 to -0.005, p = 0.042) in subjects with at risk of malnutrition/malnourished. FTU and mean number of teeth present were significantly associated with nutritional status. Furthermore, more longitudinal studies in this field are needed.
このシステマティックレビューの目的は高齢者における栄養状態と口腔の健康を比較する事です。3つのデータベースを用いて2016年10月までのSGAまたはMNAによる栄養表と歯科専門職(衛生士または歯科医師)による口腔内診査が行われている研究を検索しました。観察、介入研究の両方が検討されました。メタアナリシスは栄養失調、または低栄養リスクと栄養状態が良好の人を3つの口腔健康状態(無歯顎、補綴物の使用、残存歯数)に関して比較しました。26の研究が該当して、そのうちの23が横断研究でした。栄養状態良好群は栄養失調または栄養状態リスク群と比較して有意に多い機能歯数を有していました。メタアナリシスの結果、無歯顎群(RR=1.072 95% CI 0.957-1.200, p = 0.230)と補綴物使用群(RR=0.874 95% CI 0.710-1.075, p = 0.202)に有意な相関は認めませんでした。一方で、 残存歯数の標準化した平均値の差は栄養状態不良群においてRR=-0.141 (95% CI -0.278 to -0.005, p = 0.042)であり、有意差を認めました。機能歯数と残存歯数は栄養状態と有意に関連しました。更なる縦断的な研究が必要です。
ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
高齢者は天然歯が少なく、栄養面で大きな問題を抱えている可能性があるため、特に食事制限の影響を受けやすいと言われています。高齢者にとって、栄養と健康全般は大きな関心事の一つです。高齢者に見られる最も重要な栄養障害は栄養失調であり、死亡率の増加、感染症への罹患率の上昇、QOL低下と関連しています。
口腔衛生状態不良、う蝕、歯周病、義歯の不具合や適合性の悪さなどは、この集団に共通する問題の一つです。歯の分布と数は、咀嚼の快適さと容易さ、および補綴物の有無に影響します。歯の喪失は、不適切な食べ物の選択を誘発する可能性があります。その結果、食欲が減退し、食べる楽しみが失われ、低栄養のリスクになると推定されています。
咀嚼機能の低下と口腔衛生は、低栄養のリスクファクターとして知られています。多くの研究が歯の喪失と高齢者の栄養状態との関係について述べており、それによると、無歯顎症は咀嚼、栄養、歯の健康に悪影響を及ぼす可能性があり、歯の喪失が栄養状態の予測因子であることが示唆されています。本研究では、栄養状態良好、低栄養リスクあり、栄養失調の高齢者に関して口腔健康状態を評価・比較することを目的としました。
実験方法
論文の採用条件としては
被験者は60歳以上
栄養評価としてSGAまたはMNAを採用
口腔内の診査を歯科専門職(衛生士または歯科医師)が行っている
歯の欠損、残存歯数、無歯顎、補綴物の使用、DMF、機能歯数、う蝕、なんらかのプラークスコア、なんらかの歯肉スコア、プロービングデプスたはアタッチメントレベルのいずれかをアウトカムとして採用している。
除外対象
ケースレポート、in vitroのスタディ、動物実験、エディターへのレター、システマティック、ナラティブレビュー
口腔の健康状が自己申告
統計方法
栄養失調/低栄養リスクvs栄養状態良好群において無歯顎、補綴物の使用、平均残存歯数についてのメタアナリシスを行いました。栄養失調群(MNA17未満)、低栄養リスク群(MNA17~24)は栄養失調群がかなり少なかったため1群として扱いました。
残存歯数のメタアナリシスについては標準化した平均値の差(SMD)を用いました。無歯顎者数、補綴物使用についてはリスク比を算出しました。また、施設入所者かどうかでサブグループを作ってメタアナリシスを行っています。
結果
論文の選択
最終的に以下のように26本が残りました。
23本が横断研究、1本がケースコントロール、1本がコホート、1本がトライアルでした。全体として被験者13257名でした。
18本がMNAを採用しており、7本がMNA-SFでした。最後の1本はMNA-SFを行い低栄養リスク異常の結果になった場合、MNAの残りのパートを埋めるという方法でした。
口腔の診査に関しては以下の表1をみればわかりますが、残存歯数、補綴物の使用、無歯顎、機能歯数に関しての論文が多いです。
論文のバイアスリスクですが、ブラインドされた研究は1つもありませんでした。横断ばかりなので仕方無い所ですが論文のクオリティ不足は否めない所です。
メタアナリシス
無歯顎に関するメタアナリシスに使用した論文は8本
補綴物の使用に関しては4本
残存歯数の平均に関しては5本
であり、表1に紹介されている全ての論文が使われているわけではありません。
無歯顎については全体では有意差は認められませんでした(図A)。
今回の解析では、いずれの検定でも出版バイアスは検出されませんでした。中程度の不均一性のリスクが検出されました。年齢で調整したメタ回帰分析では、不均一性を説明できませんでした。
補綴物の使用に関しても有意差を認めませんでした。出版バイアスは検出されませんでした。高い不均一性のリスクが検出されました。年齢で調整したメタ回帰分析では、不均一性を説明できませんでした。
残存歯数の平均値では、栄養不良群は栄養状態良好群と比較して有意に歯が少ない結果となりました(SMD of -0.141; 95% CI -0.278 ~-0.00502)。サブグループ解析の結果、施設非入所者においてこの傾向が認められました。出版リスクは認められず、不均一性は弱かったため、メタ回帰は行っていません。
考察
本研究は、MNAまたはSGAで評価した栄養不良または栄養不良のリスクと、高齢者の口腔状態との間に関連性があるかどうかのレビューが目的です。その結果、栄養失調または栄養不良のリスクがある人は、現存する歯の数が少なく、補綴物の使用や無歯顎であることは、栄養状態とは関連しないことが明らかになりました。
MNAは、高齢者のために特別に開発されたため、高齢者の栄養状態を評価する最初の方法として選択されました 。MNAは2段階に分かれており、SFはスクリーニングツールであり。完全版は、以前に低栄養と診断された場合に評価されます。
質的分析および量的分析で示されているように、栄養失調の人と口腔衛生状態の悪さとの関連は、主に残存歯数で証明される可能性があります。栄養失調の人は、栄養状態の良い人と比較して平均0.14本の歯を失っていた。この結果は統計的には有意であるが、臨床的には意味をなさない可能性があるため、この知見の解釈は慎重に行うべきです。
残存歯数は、う蝕や歯周炎の累積的な影響を長期間にわたって受けてきた結果であり、特に高齢者の口の状態にとって重要な結果となります。いくつかの研究では、高齢者が食べることのできる食品の数が残存歯数と有意に関連していることが報告されており、食品の選択が制限され、果物、野菜、繊維質の摂取量が減少し、低栄養リスクの上昇にいたります。
FTUの数は、咀嚼の信頼できる指標であり、咀嚼能力を決定するものです。このシステマティックレビューには、咬合対とFTUのデータを報告したいくつかの研究が含まれていますが、定量的なアプローチを行うことはできませんでした。臼歯部の咬合を持たない人は、栄養失調になる可能性が2倍高いことが報告されています(文献35)。さらに、臼歯の機能歯数が少ないことと栄養摂取量の減少との間には、有意な関連性があります。(文献14,15,27,33,36)。El Ostaらは、FTUが4箇所以下の高齢者は咀嚼機能が低下しており、野菜や肉などの硬いものを食べることを避けていることを観察しており、これらの人々の栄養不良のリスクが高いと報告しています(文献29)。
義歯の使用については、多くの論文では栄養不良の人と栄養状態の良い人との間に有意差を認めませんでした。義歯を使用している被験者は、天然有歯顎者と比較して咀嚼能力と咬合力が20%程度しか低下していなかったにも関わらずです(文献17、51)。本研究の定量的な分析でも、義歯の使用と高齢者の栄養状態との間には関連を認めませんでした。しかし、補綴物の使用と栄養状態の関連には無歯顎が強く影響します。また、最大でも1個の総義歯しかない無歯顎者は、日常的に菓子パンを食べる傾向があり、健康的な食生活を送っている人に比べてMNAのスコアが低いことがわかっています。このことは、上下顎総義歯を使用している無歯顎者は、上下どちらかの総義歯しか使用していない無歯顎者と比較して、栄養状態が良好であることを示唆しており(文献10)、上下顎総義歯を使用することは、栄養不良に対して有利である可能性があることを示しています(文献7)。
無歯顎と栄養状態との関係を評価した研究については、完全無歯顎の患者で栄養不良のリスクが高いことを示したものは1本のみでした。本研究で実施されたメタアナリシスでは、無歯顎と栄養状態との間に統計的に有意な関連は認められませんでした。集団ベースの研究では、無歯顎と栄養素の消費および複数の栄養欠乏との間に相関関係が認められています。無歯顎は咀嚼能力を低下させるため、食習慣の変化をもたらし咀嚼しやすい食品を選択することになります。咀嚼しやすい食事は栄養が偏っている可能性があります。
施設入所は高齢者の栄養不良の危険因子であり、今回のメタアナリシスではこの事実を考慮してサブグループ分析を行いました(文献54、55)。施設入所者の口腔衛生状態は、非入所高齢者に比べて栄養不良への影響が少ないことが示されています。この事実は重度の慢性疾患やポリファーマシー、高齢、機能依存、無動、嚥下障害など、それ自体が栄養不足や栄養失調に関係する施設入所者固有の特徴によって説明することができます。このシナリオでは、口腔の健康状態が悪くても栄養不良にはほとんど影響しません。
虫歯と歯周病により歯の喪失が起こり、咀嚼機能の低下につながります。歯の喪失とその結果は、高齢者に食事制限を課し、栄養状態に影響を及ぼします。
Limitaion
歯科専門職が口腔内を診査した研究のみを採用している
研究の質にかなりばらつきが認められる
殆どが横断研究であり、経時的なリスクが評価されていない
ポイント
メタアナリシスの結果、栄養リスクがあると残存歯数が少ないという関連が認められました。ただし、栄養良好群と栄養不良、リスクあり群の残存歯の平均値の差は0.14とかなり小さいです。
機能歯数に関しては今回抽出した論文では栄養状態との有意な関連性がある、という報告をしている論文が多く認められていますが、メタアナリシスは行っていません。
まとめ
前回の2021のメタアナリシスの場合は、口腔内の状況については申告によるケアの方法や咀嚼満足感などの項目も含まれており、そこが大きく異なる所です。
前回の結果で低栄養リスクが高くなるのは
日常の口腔清掃(歯と義歯)が欠如している、咀嚼に問題がある、片顎または全顎が無歯顎
人口統計学的な要素を調整後には、
口腔ケアが自立していない、口腔の健康状態が悪いまたは中等度、歯科医院を受診せず無歯顎でありながら義歯を有しない、または片顎のみ義歯を装着している
であり、残存歯数は相関しませんでした。また、今回のメタアナリシスでは補綴物装着や無歯顎では関連が認められませんでしたが、前回の研究では認められています。
2本メタアナリシスを読んでみた感想として、結果がバラバラであり、口腔内の要素が低栄養と関連することは色々な研究では指摘されているものの、ではどの要素が?と言われたらそれはまだよくわからない、という事ではないでしょうか。
気になる引用文献
文献7 Lamy M, Mojon P, Kalykakis G, Legrand R, Butz-Jorgensen E. Oral status and nutrition in the institutionalized elderly. J Dent 1999;27:443e8.
文献10 De Marchi RJ, Hugo FN, Hilgert JB, Padilha DM. Association between oral health status and nutritional status in south Brazilian independent-living older people. Nutrition 2008;24:546e53.
文献17 Moynihan P, Thomason M, Walls A, Gray-Donald K, Morais JA, Ghanem H, et al. Researching the impact of oral health on diet and nutritional status: methodological issues. J Dent 2009;37:237e49.
文献29 El Osta N, Hennequin M, Tubert-Jeannin S, Abboud Naaman NB, El Osta L, Geahchan N. The pertinence of oral health indicators in nutritional studies in the elderly. Clin Nutr 2014;33:316e21.
文献35 Mesas AE, Andrade SM, Cabrera MA, Bueno VL. Oral health status and nutritional deficit in noninstitutionalized older adults in Londrina, Brazil. Rev Bras Epidemiol 2010;13:434e45.
文献51 Michael CG, Javid NS, Colaizzi FA, Gibbs CH. Biting strength and chewing forces in complete denture wearers. J Prosthet Dent 1990;63:549e53.