義歯は本当に夜間乾燥保管しては駄目なのか?
たまにWhitecrossという歯科用サイトを読む事があるのですが、そこに紹介されていた論文に興味が湧きまして、読む事にしました。
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水中保管に関していえば、自分もたいしてエビデンスを調べる事もなく「湿潤下で使用する物だから、口から出したら水中へ」と先輩の受け売りで患者さんに指導していました。日頃から先輩からの伝言ゲームは良くない事も多いよ、と指導しているわりに自分がそうなっているわけですから反省しないといけません。世の中知らない事だらけです。
Effects of overnight storage conditions on conventional complete removable prostheses
Yasmine Bouattour, Nicole Kalberer, Najla Chebib, Philippe Mojon, Albert Mehl, Murali Srinivasan, Frauke Müller
Int J Prosthodont. 2022 November/December;35(6):730–737. doi: 10.11607/ijp.7158. Epub 2021 Feb 26.
PMID: 33651026
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33651026/
Abstract
Purpose: To evaluate the effects of overnight storage conditions on the dimensional stability and retention of prostheses, as well as the participant’s subjective perception of these interventions.
Materials and methods: Subjects with maxillary complete prostheses (CRPs) were randomly assigned to receive two interventions in a crossover design: storing the CRPs overnight in a dry or wet environment with a cleansing tablet. The denture intaglio surface was scanned, and outcome measures were collected before each intervention (BLN), post ntervention (PIS), and after immersion in water for 15 minutes after the intervention (WOC). Dimensional changes were analyzed for the total surface, anterior flange, palate, and tuberosities. Retention force was measured using a dynamometer, and the participants’ subjective assessment of comfort, fit, and retention of their CRPs were collected. After verifying normal distribution, paired t and Wilcoxon signed-rank tests were used to check for any statistical significance (α = .05).
Results: Ten participants (mean age: 76.5 ± 5.9 y) were recruited in this study. Between BLN and PIS, the dimensional changes after dry intervention were significantly less than when stored wet for total surface (P = .009), anterior flange (P = .028), and the palate (P = .005). No difference was found between the effects of storage or washout interventions on objectively measured CRP retention. However, after WOC following dry storage, participants perceived a lower retention (P = .021), and a more comfortable palate after WOC following the wet intervention (P = .018).
Conclusion: For dimensional stability, dry overnight storage of removable prostheses can safely be recommended when indicated. Immersion in water for 15 minutes does not seem to add advantages.
目的:夜間の保管方法が補綴物の寸法安定性と維持に与える影響と、被検者の介入による主観的な感覚を評価することです。
実験方法:上顎全部床義歯装着者にランダムに義歯を夜間乾燥保管するか、洗浄剤を入れた水中保管するかの2つの介入をクロスオーバーデザインで行いました。義歯粘膜面を介入前、介入後、介入後に15分水中浸漬後の3つの段階でスキャンしました。寸法変化を全体、前歯部フレンジ、口蓋、上顎結節部で解析しました。維持力はダイナモメーターで測定し、快適性、適合、維持についての主観的評価を行いました。正規分布確認後に、対応のあるt検定とWillcoxonの符号付順位検定を行いました。有意水準は5%としました。
結果:被験者は10名としました(平均年齢76.5±5.9歳)。介入前と介入後の比較では、寸法変化は、全体、前歯部フレンジ、口蓋で乾燥の方が有意に小さい結果となりました。客観的な維持力に関しては、保管方法による有意差は認めませんでした。しかし、乾燥保管からの水中浸漬では、被験者は維持力の低下を感じており、水中保管後の水中浸漬の方がより快適ででした。
結論:寸法安定性に関しては、可撤式補綴物の乾燥保管は、指示された場合、安全に推奨することができます。水中15分浸漬は特に利点はありませんでした。
ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
汚染された口腔内と義歯は、肺炎と死亡の原因の1つであると提唱されています。そのため、睡眠時には全部床義歯を装着しないように指導する事がしばしばあります。全部床義歯を夜間乾燥保管するのか、水中保管するのかという問題が発生します。乾燥保管は細菌の増殖やカンジダのコロニー形成を防ぎます。しかし、形態変化を避けるため、全部床義歯は使用していないときは水中保管が推奨されています。その際に義歯洗浄剤を使用することが好ましいとされています。未使用時の義歯の保管方法にはいまだにコンセンサスが得られていません。
PMMAは、低価格、加工操作の簡便さ、審美性、適切な機械的物性などにより、1930年代から義歯床用材料として使用されてきました。数多くの研究が、義歯床の寸法安定性、床下粘膜への適合、維持力に焦点をあてています。
報告されている義歯床用アクリルレジンの寸法変化は、温度または湿度による収縮、膨張変化が含まれます。これらの変化は全部床義歯の製作過程に遭遇しますが、生化学的な力の作用や保管環境の変化でも同様に起こります。全部床義歯の寸法変化の測定は、主に、コンパレーター、ノギス、顕微鏡などを用いた実寸計測が採用されてきました。しかし、これらの方法は3次元的な体積変化のような、複雑な挙動を特定するできるほど感度がよくありません。スキャンと表面のマッチングプログラムを使用したデジタルテクノロジーによる解析が期待されています。本研究の目的は、保管方法が寸法安定性、維持、患者の主観的評価に与える影響を調査することです。主な仮説は「保管方法で寸法安定性に違いは無い」です。二次的な仮説は「保管方法により全部床義歯の維持力は変化しない」です。3次的な仮説は「患者の主観的な調査に基づき、保管方法で義歯の維持や快適性には差は無い」です。
実験方法
本研究は、ダブルブラインド、クロスオーバーランダム化臨床試験であり、被験者は表1に示す採用、除外基準により、プールされた患者からリクルートされました。
サンプルサイズを前回のin vitroでの実験に基づいて推定しました。前回の実験は今回と類似したアウトカムを採用しており、1群につきn=7に設定しました。しかし、今回はTypeIIエラーまたは偽陰性などを避けるために1群につきn=10としました。
保管方法のランダム化はオンラインシーケンスジェネレーターを使用し、2つの保管方法のどちらを最初にするかを決定しました。この配列は、番号のついた密封された不透明な封筒に入れられ、プロジェクトリーダーと一緒に保管されました。被験者へのインフォームドコンセント終了後、介入日にプロジェクトリーダーにより封筒は開封されました。全ての被験者と、臨床診査を行う研究者は、どの保管方法が行われているか把握していません。スキャンを行うコーディネーターは患者からブラインドされています。参加者の身元、割り当てられた介入、収集されたデータはコード化され、プロジェクトリーダーにより安全に保管されました。コーディネーターとカラーマッチングを行うエキスパートは、データソースについてブラインドされています。本研究は乾燥と湿潤保管の2つをクロスオーバーで行います。リクルートした被験者は、ランダムにまず1つの介入を割り当てられます。1つの介入プロトコルが終了したらもう1つの介入プロトコルに移ります。
介入
乾燥保管:義歯を水道水にて洗浄後、スリーウェイシリンジで乾燥しました。夜間は、空気中、室温、で義歯保管用の箱の中で乾燥保管しました。
湿潤保管:水を張った義歯保管箱にKukident社製の義歯洗浄剤を加え、義歯を水中浸漬しました(この後、義歯洗浄剤の成分が記載されていますが、省略します)。被験者に義歯を返却する前に水道水でよく洗浄し、義歯洗浄剤を除去しました。
ウオッシュアウト介入
保管後、実験のために被験者の口腔内に上顎全部床義歯を初めて挿入した後に、義歯を室温で15分間水道水に浸漬しました。
寸法安定性
義歯の寸法安定性については、粘膜面を技工用のスキャナーでスキャンして評価しました。義歯を保管後に4秒間ブローして乾燥した後で、2秒間パウダーを塗布しました。スキャンデータを、以前の研究でKalbererらが報告している通り、専用の3Dソフトウェア(Oracheck ver2.10)を用いて比較しました。ベストフィットアルゴリスムで2つのスキャンデータを重ね合わせ、粘膜面全体、とフレンジ、口蓋、結節などの特定部位で差を計測しました。
維持力
モデリングコンパウンドを用いて、上顎全部床義歯研磨面の口蓋中央部にゴシックアーチ描記装置の描記針を設置しました。描記針に平行な垂直な力を義歯が偏位するまで増加させました(垂直な維持力)。力はダイナモメーターにより計測されました。後方部の維持力を測定するために、同じゲージを切歯部に設置し、後縁封鎖が喪失するまで計測しました(後方維持力)。維持力は3回計測し、平均と最大値を決定しました。維持力は、保管前、保管後、ウオッシュアウト後に計測しました。
被験者の主観的評価
半構造化質問表で、義歯の適合、快適性、維持力をVASで回答させました。自己回答式で、今回の被験者に使用する前にテストを行いました。トレーニングシートでVASとは何なのかを指導しました。質問表は、保管前、保管後、ウオッシュアウト後の3回記入します。
研究プロトコール
被験者はあらかじめ決めておいた採用、除外基準に応じて選択しました。被験者はそれぞれ番号を振られ、介入順序を割り当てられました。歯科的な問診(上顎が無歯顎になってからの期間、現在の上顎全部床義歯の使用期間、夜間の義歯の保管方法)と、簡単な口腔内診査(CawoodとHowellの分類による顎堤診査)を行いました。その後、質問表に回答させました。続いて、維持力を計測しました。その後、上顎義歯粘膜面の初回スキャンを行いました。最終的にそのまま義歯は指示された方法で保管されました。
2回目の訪問時、朝に被験者が到着する前に2回目のスキャンを行います。義歯を被験者に返却し、質問表に快適さ、維持について記載させ、維持力を測定します。
測定終了後に、ウオッシュアウト介入をスキャン前に行います。3回目の維持力を測定したら、患者に義歯を返却し、再度質問用紙に記入させます。クロスオーバー介入のために、1週間後に3回目と4回目の訪問をお願いします。3回目と4回目は1回目、2回目と同じプロトコルで行います。トータルで6回義歯のスキャンを行います。1回目、2回目の訪問で3回スキャンし、3回目、4回目で同じくり返しを行います。
統計解析
SPSSを使い統計解析を行いました。収集したデータが正規分布に従う事をKolmogorov-Smironov検定で確認しました。正規分布データに関しては、対応のあるt検定を用いました。Mann-Whitney検定とWillcoxonの符号付順位検定は正規分布ではないデータの解析に使用しました。各群内と群間で保管効果について統計解析を行いました。有意水準は5%としました。
結果
被験者の特性について表2に示します。
寸法変化
粘膜面全体のカラーマップは、重ね合わせによるずれを示します。許容される閾値は-0.05mm~+0.05mmです(図1)。
乾燥保管では、保管前後で寸法変化が湿潤保管よりも全ての測定点で小さくなりました。有意差が認められたのは全体と前歯部、口蓋部で、上顎結節部では有意差は認められませんでした。
保管後とウオッシュアウト介入のスキャンデータを比較した場合、乾燥、湿潤両方ともに、全ての測定点で有意差を認めませんでした(図2)。
維持力
垂直維持力は327g~2500gの範囲となりました。後方維持力は乾燥保管で310g~2500g、湿潤保管で343.3g~2500gでした。垂直維持力は乾燥、湿潤による保管後、ウオッシュアウト後で変化しませんでいた。後方維持力は乾燥、湿潤保管後にも変化せず、ウオッシュアウト後も同様でした。対応のあるt検定の結果、各保管方法において垂直維持力と後方維持力で有意差を認めませんでした。
主観的評価
全ての質問に対するVASの結果を表4に示します。乾燥保管では、維持に関する主観評価で有意差が認められました。湿潤保管では、人工的な口蓋部の快適さで保管前後で有意差を認め、ウオッシュアウト後に改善が認められました。他の質問については、介入による統計的な有意差を認めませんでした。乾燥と湿潤保管間での有意差は認めませんでした。
考察
全部床義歯におけるアクリルレジンの寸法安定性は、義歯保管に関する基本的な推奨を決める重要な要因と示唆されます。この要因に基づくと、義歯は口腔内から撤去した際には、変形を避けるために水中に浸漬し続けるべきだと言われています。最近のシステマティックレビューは、衛生療法と義歯床の色調と寸法安定性に対する保管環境の効果を調査した臨床試験の不足を強調しています。微生物学的な観点から、ある臨床研究は、乾燥保管は細菌数とCandida Albicansのレベルを減少させ、夜間水道水に過酸化物の洗浄剤を入れて浸漬するのと同程度の効果があることを報告しています(文献6)。そのため、本研究では、2つの介入に限定して機械的物性に与える効果を調査しました。洗浄剤が全部床義歯の寸法安定性に与える影響は研究していません。水道水は、細菌数を効果的に減少させることができないことから、臨床現場では一晩の保存媒体として推奨されていないため、この保存状態は対照群として選択されませんでした。本研究の主目的は、夜間の脱水と水分補給後の全部床義歯におけるアクリルレジンの寸法安定性を調べる事です。本研究の結果に基づくと、主仮説と第3仮説は否定されました。しかし、乾燥、湿潤保管で維持力に有意差を認めなかったので、第2仮説は否定されませんでした。同様のアウトカムを調べた以前の研究では、in vitroで義歯上のランドマークポイント間を反復2次元計測して変化を検討していました。これらの研究はサンプルサイズがかなり小さく、記述統計のみであるといった他のlimitationを有しています。さらに、著者らが知る限りでは、保管方法が全部床義歯の維持、患者の快適性、主観的評価を調査した臨床試験はいまだありません。
本研究では、両群ともに寸法変化を示しましたが、しかし、その大きさは非常に小さく、患者が気づかない範囲であることが、本研究の参加者の主観的評価によって確認されました。乾燥保管は、粘膜面トータル、前歯部フレンジ、口蓋部において、湿潤保管よりも有意に変形が小さくなりました。これから、夜間の乾燥保管は寸法安定性にとって優れている事が示唆されました。しかし、今回得られた全ての寸法変化は臨床的にほぼ無視できるものと判断出来ます。他のin vitroの研究では乾燥保管で大きな寸法変化が観察されました。これには、いくつかの理由が考えられます。例えば、義歯が違う方法で製作された、使用されたレジンが異なる物性と密度だった、または高温などの極端な環境をテストしたことなどが挙げられます。また、長期間の連続保管が行われている可能性がありますが、予備の義歯を長期間乾燥させて保管しない限り、臨床の現実を反映していません。本研究では、実際の日常、夜間の義歯使用を模倣しているのが、強みの1つです。保管後に1日口腔内温度の粘膜上に義歯が乗ることは、寸法変化をベースラインに戻すと考えられます。保管後、丸一日、口腔内の粘膜に義歯を装着し直すことは、遭遇した寸法変化をベースラインに「リセット」することとみなされます。
湿潤保管前後の寸法変化は、乾燥保管よりも大きな寸法変化を示しました。これは、口腔内というある湿潤状況下から、義歯洗浄剤がはいった水という他の湿潤状況に移動した際に変形が起こることを意味しています。理由としては、媒体の変更、液量、口腔内から室温への温度変化、義歯洗浄剤入りの水とは異なる唾液の拡散係数などが考えられます。口腔内環境を完全に再現するのは不可能です。
本研究で行った維持力測定のテクニック、装置、最適な牽引ポイントは以前の研究でも行われており、チェアサイドでの調査として確立されています。SkinnerとCampellは、室温水中保管による義歯の膨張が維持力に与える影響を検討しました。彼らは、湿潤保管時間が経過するにつれて維持力が増加する事を発見しました。しかし、乾燥保管での維持力に関しては検討しませんでした。
客観的な評価だけでなく、介入後の義歯の変化について、患者さんがどのように感じているのか、もしあれば調査することも重要な課題でした。被験者は、異なる保管方法後にも適合、快適さ、維持力については有意な違いを感じていないようでした。しかし、15分間の水中浸漬後には変化しました。乾燥保管後の被験者は、維持力が下がったと感じ、湿潤保管後の被験者は口蓋部がより快適になったと感じました。これらの知見は寸法変化や維持力の評価では確認出来ませんでした。検出された寸法変化はマイクロメートルの範囲であり、維持力はほとんど変化しないことを考えると、ウォッシュアウト介入中の変化に患者が気づいたことは非常に驚くべきことでした。しかし、本研究では、患者間でのばらつきなど、主観的評価の信頼性について計測していません。義歯満足度は非常に複雑であり、義歯の維持よりも多くの因子が寄与しています。主観的評価の複雑さを考慮すると、被験者数を増やすことが、より信頼性のある結果になると考えられます。本試験の検出力計算は、主要なアウトカム指標として義歯の変形を用いました。さらに、主観的評価は、統計的有意差があったはいえ、スコアはかなり近い範囲であり、臨床的な影響はほぼないか限定的です。したがって、これらの主観的な結果は慎重に解釈する必要があります。
加えて、ウオッシュアウト介入は、保管中に起こる可能性のある変化をリセットするためにデザインされました。湿潤保管では、この介入はプラセボと考えられます。したがって、口蓋部の快適な感覚については客観的な理由がありません。時々患者の感覚は理由無くばらつくことが確認されています。
考えられるlimitationは、粘膜面をブロー乾燥、スキャン前にパウダー塗布をする必要があるので、スキャン過程で起こる可能性があります。層が一定でない所は正確にスキャンできていなかったかもしれません。ブロー乾燥は湿潤保管に対する譲歩だったかもしれませんが、義歯は数分で乾燥しきって変形するような事はありません。ウオッシュアウト介入は、変形を引き起こしませんでした。そのため、数分程度では変形は起きないこと事が確認されていてます。濡れた面をスキャンすることは不正確な計測と光の反射により複数のエラーを引き起こします。また、義歯の凹凸のような明るく滑らかな面をスキャンする場合、このような不正確なスキャンが行われると、スキャン結果の品質がさらに低下します。
さらなるlimitationは維持力の測定に関してです。まず、使用したゲージがアナログです。次にピンの固定が力が強すぎると壊れる可能性があります(今回はそのようなことは起こりませんでした)。第3に解剖学的な状態と唾液の組成が人によってかなり違うため、臨床研究固有の弱さが存在します。
結論
本研究での知見として、義歯の夜間保管方法の違いは臨床的にほぼ影響がなく、主観的な義歯の変形や維持の喪失に繋がらないことを示しています。朝のウオッシュアウト介入は控えるべきです。義歯の乾燥保管は、しばしば変形の原因と非難されますが、実際は義歯変形のリスクファクターではなく、湿潤保管よりも変形が小さい事が明らかになりました。寸法安定性の観点から、口腔衛生状態や健康上の理由がある場合には、乾燥保管を安全に推奨することができます。
臨床的な意味
義歯の変形と維持の観点から、乾燥保管も洗浄剤をいれた湿潤保管もどちらも安全です。義歯装着者、特に介護を必要とする高齢者の予期せぬ健康上の合併症を防ぐために、保管方法を決める前に、心理社会的側面、口腔衛生、気道保護などの他の要因も考慮する必要があるかもしれません。
まとめ
この論文ですが、いくつか問題点があると思います。
まず、この被験者10名のうち、6名が通常推奨されていない夜間乾燥保管を通常行っており、普通推奨している(と本文にも書いてある)湿潤+洗浄剤で夜間を過ごしているのが2名しかいません。これは主観的なデータに大きな影響を与えた可能性があります。客観的なデータにまで影響を与えたかはなんともいえないところです。被験者に偏りが見られたのは確かなので、10名では少なすぎるかもしれません。
また、義歯の夜間保管を2晩行っただけなので、乾燥保管を長期間行った時に義歯の物性などが湿潤と比べて差がないのかどうかに関してこの論文で結論づけることはできません。
変形のレベルですが、湿潤でもせいぜい40μm程度で乾燥はそれよりも小さい値を示しています。これは粘膜の沈下量2mm程度と比べてかなり小さく、本文にも書いてあるとおり、臨床的にどっちがいい、というほど影響がありません。乾燥は変形するから駄目!とは今回の結果ではいえません。
今回の研究から乾燥保管でも寸法安定性や維持力に影響があまりない、他の研究から乾燥保管なら微生物学的に有利、という点を考えると、絶対水中保管しないといけないというわけでなさそう、ということがわかったかなと思います。
長期的な変化と微生物学的な所はもうちょっと別の論文を読んでみないといけないと思いました。whitecrossで執筆されている先生とは見解が同じなところも違うところもあります。