普通の歯科医師なのか違うのか

PEEK冠の実際の臨床研究(6か月フォロー)

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。
さて、12月にPEEKについての論文を読んで来ましたが、純粋にモノリシックのPEEK冠での使用が想定されておらず、日本で12月に保険適用になった根拠がイマイチ分からないところでした。今回読む論文は、広島大学が行った臨床研究であり、まさにPEEKをモノリシックで使用したものです。2022年にScientific Reportにパブリッシュされたものになります。

この論文ですが、文章にミスがいくつかあるように思います。一応指摘しておきましたので、ミスじゃないよ!というご意見などありましたらコメント欄に頂ければ幸いです。

Clinical report of six‑month follow‑up after cementing PEEK crown on molars
Hitomi Kimura , Koji Morita , Fumiko Nishio , Hitoshi Abekura , Kazuhiro Tsuga
Sci Rep. 2022 Nov 9;12(1):19070. doi: 10.1038/s41598-022-23458-5.
PMID: 36351981

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36351981/

Abstract

We conducted a six-month clinical follow-up on computer-aided design/computer-aided manufacturing-fabricated molar polyetheretherketone PEEK crowns to investigate their therapeutic effect. Only the PEEK crowns were examined as our study focused on short-term clinical evaluation of the new PEEK material. Twenty-three cases of PEEK crowns placed on the molars of 20 subjects (7 males and 13 females, mean age: 60.6 ± 14.2 years) were included in the study. The evaluation items were the condition of the crowns at the time of cementation and after six months, patient satisfaction, masticatory ability, and occlusal force. Mann-Whitney U tests with a significance level of 5% were used to examine the difference in glucose concentration by masticatory ability, occlusal pressure, and occlusal force, with and without PEEK crowns. The occlusion, margin fit, and contact of all 23 cases at the time of cementing were good. Six months after cementation, there was no crown desorption, fracture or crack, and prosthodontics was not needed in the 22 cases (one patient dropped out). No wear of the dental antagonist was observed. Patient satisfaction was generally high. There was no significant difference in masticatory ability between the groups with and without PEEK crowns. The subject’s occlusal force was within the normal range. PEEK crowns used on molars can replace metal crowns and hold promise for an appropriate and effective treatment.

臨床的な効果を調べるために、大臼歯部にPEEK冠をCAD/CAMで製作し6か月間フォローしました。新しいPEEKという材料の短期的な臨床評価に焦点を当てたため、PEEK冠のみを対象としました。20名の被験者(男性7名、女性13名、平均年齢 60.6±14.2 歳)の大臼歯に23本のPEEK冠をセットしました。評価項目は、合着時と6か月後のPEEK冠の状態、患者満足度、咀嚼能力、咬合力としました。咀嚼能力評価としてのグルコース濃度、咬合圧、咬合力では、PEEK冠のありなしでMann-Whitney U検定を行いました。有意水準は5%としました。合着時の咬合、マージンの適合、コンタクトは23ケース全てで良好でした。6か月後、脱離、破折またはクラックは認められませんでした。対合歯に咬耗は認められませんでした。患者満足度も全般的に高い結果でした。PEEK冠のありなしで咀嚼能力に有意差は認められませんでした。咬合力も正常範囲内でした。大臼歯のPEEK冠は金属冠の代替として可能性があり、適切で効果的なな治療法として期待されています。

ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください

緒言

ここ数年、歯冠補綴でのメタルの使用は減少しています。審美性、金属アレルギー、貴金属の価格上昇などが原因です。加えて、貴金属が高騰したため、価格変動の少ない材料の導入が緊急で必要となっています。ハイブリッドレジンとジルコニアはノンメタルの歯冠補綴でよく使用されていますが、ハブリッドレジンは破折と層間剥離しやすく、ジルコニアはかなり硬いため対合歯にダメージを与える傾向があります。そのため、我々はPEEKに着目しました。PEEKは、歯科材料としての機械強度、耐摩耗性、耐吸水性、耐薬品性、生体親和性、加工性に優れた、高機能、耐熱性のプラスチック材料です。熱可塑性レジンとして、PEEKは耐久性が求められる自動車や航空機のパーツに使用されています。医科領域では、脊椎インプラントに応用され、生物学的安全性はすでに確認されています。

しかし、PEEKはグレーベージュ色でセメントとの接着強さが小さいことから、歯冠補綴材料としてあまり使用されていません。上記問題を解決するために、質量比20%の二酸化チタンを添加して乳白色に色を変更しました。さらに、高濃度の硫酸、サンドブラスト、レーザーによるグルービングなどの表面処理を行う事で接着強さを向上しました。適切な表面処理、プライマー、セメントにより接着強さが臨床的に許容できる範囲に到達したという報告があります。そこで、広島大学臨床研究倫理審査委員会にCAD/CAMシステムによる臼歯用PEEK冠の臨床研究を申請し、広島大学病院において臨床研究を行いました。

PEEKは有望な歯科補綴のノンメタル材料の1つですが、臨床研究はほとんどありません。そのため、この研究において、合着6か月後の大臼歯部PEEK冠22ケースの臨床評価を報告しました。

実験方法

被験者

この臨床研究は、広島大学病院歯科で2018年3月29日から2020年10月まで行われた6か月間の前向きコホートの探索的研究です。本研究の被験者は、虫歯または根尖性歯周炎の治療後に大臼歯部の単冠補綴の必要がある20名(男性7名、女性13名、平均年齢 60.6±14.2 歳)で、23本のPEEK冠をセットしました。全ての被験者に口頭と文章でPEEK冠による補綴治療のICを行いました。

採用基準、除外基準

採用基準は、1)20歳以上、2)上下顎大臼歯の単冠(連続した2本の単冠の可能性)の対合歯があることです。支台歯の軸面は頬舌側形成後に約3mmです。除外基準は、1)支台歯が部分床義歯の鉤歯、2)重度歯周病(歯周ポケット深さ6mm以上、骨吸収/アタッチメントロスが歯根の1/2以上、根分岐部病変がレベル2以上)です。1)または2)に該当した場合、その被験者を除外しました。

材料

本研究で用いたPEEKはVsetakeep DC4450 PEEK(歯冠色、ポリエーテルケトン、質量比20%二酸化チタン、Daical-Evonik Ltd)です。PEEKの生体親和性は良好です。ここで使用されているPEEK素材は、生体内使用の基準を満たしています(https://medical.evonik.com/en/high-performance-polymers/vestakeep-peek/biocompatibility)。他の領域では、ヒトの顎骨と脊椎の皮下、粘膜下組織にPEEKを埋め込む事ができ、組織細胞と接触する骨内インプラントとしての生体安全性は保証されています。本研究では、PEEKクラウンは口腔内に適応されますが、粘膜下組織に埋め込まれるわけではありません。内側ではありますが、体腔の外で使用されたので、細胞や粘膜とダイレクトに接触せず、生物学的な有害性を考慮する必要はありません。

Visio. Link(Bredent社、Chesterfield)は、PEEK表面をサンドブラストし、プライマーであるVisio linkが接着性レジンセメントの接着を改善するという報告に基づいて選択され、PEEKクラウンの内側に使用されました。

支台歯表面には、スーパーボンドでセットする場合、メタルコアにはV-primer、レジンコアにはスーパーボンドPZプライマー、リライエックスアルティメットでセットする場合は、メタルとレジンコア両方にスコッチボンドユニバーサルアドヒーシブを使用しました。

スーパーボンドC&Bとリライエックスアルティメットの2種類の接着性レジンセメントで合着し、脱離や破損が起こるかどうかを確認しました。

プロトコル

概形印象採得後に、術前診査で対合歯やメタルコア、レジンコア築造の必要性などをチェックしました。その後、支台歯を過去の報告に従って形成しました。支台歯の基本形は全部鋳造冠とほぼ同等で、対合歯とのクリアランスは最低1.0~1.5mmです。頬側、舌側のクリアランスは中央部で最低1.0mm、マージン部で0.8mmとしました。咬合面と軸面の移行は丸く移行的とし、フィニッシュラインはスムーズな形態としました。歯頸側に近い相対軸面は20度以内としました。支台歯形成はダイヤモンドバーを用いてタービンにて行いました。印象は個人トレーを用いてシリコーン印象材を使用しました。5年以上の経験を有する歯科医師により治療が行われました。硬石膏を印象に注入し、作業模型を製作しました。対合歯列はアルジネート印象材で印象し、顎間関係記録はシリコーンバイトで採得しました。

模型をスキャンして3Dデータにコンバートしました。CAD/CAMシステムを製作に使いました(図1、図2)。

試適の後、隣接面と咬合面を調整、研磨しました。荒研磨はカーボランダムポイントファインで、中堅間はビッグシリコンポイントM3で、最終研磨はタイガーポリでバフ研磨を行いました。研磨後に、超音波洗浄とエチルアルコール洗浄で消毒を行いました。

PEEK冠の内面は50μmのアルミナサンドブラスト処理を10mmの距離で0.1MPa圧で10秒行いました。
Visio. Linkを塗布後に乾燥、90秒光照射しました。以前の報告で使用されており、PEEKとの接着強さが期待できる2種類の接着性レジンセメントで合着しました。スーパーボンドC&B11ケースとリライエックスアルティメットレジン12ケースで合計23ケースとなります。本研究で使用したPEEK材は、リライエックスを使用した以前の研究で使用されたものと類似しています。PEEK表面をサンドブラストとVisio. Linkで処理した後にリライエックスアルティメットとスーパーボンドC&Bの2種類のセメントで合着したところ、剪断接着強さは10MPa以上でした。この結果から、本研究でのPEEK冠の表面処理をサンドブラストとVisio. Linkによるプライマー処理にしました。

PEEK冠内面の表面処理後、支台歯の表面処理を推奨されるプライマーで行いました。スーパーボンドC&Bの場合、メタルコアの場合はV-primer、レジンコアの場合はPZプライマーで処理後に乾燥しました。リライエックスアルティメットの場合、メタル、レジンコア両方に、スコッチボンドユニバーサルアドヒーシブを塗布後に乾燥、20秒間光照射を行いました。

評価方法

合着後に23ケース、6か月後に22ケースの評価を行いました。評価項目は以下の通りです。支台歯形態、支台歯の高さ、咬合面のクリアランス、口腔内セット時のPEEK冠の状況(咬合接触、マージン形態、隣接面のコンタクト、6か月後の咬合接触、クラック、破折、裂開、疼痛、二次カリエス、咬合面の状態、表面性状、変色とステイン、プラークの付着、辺縁歯肉、対合歯の咬合面の状態(wearの有無)、隣接面のコンタクト、再治療の必要性、患者満足度。加えて、咀嚼能力、咬合力、咬合圧を口腔機能として測定しました。

支台歯形態:支台歯の高さを表すために、頬舌側、近遠心のフィニッシュラインから咬合平面までの距離をデジタルキャリパーで作業模型を測定しました。対合歯とのクリアランスは、対合歯の中心窩までの距離をクリアランスゲージで測定しました。

PEEK冠の状態:セット時の咬合接触状態、マージン形態、隣接面のコンタクトの状況、半年後のクラック、破折、裂開、二次カリエス、二次カリエス、咬合面の状態、表面性状、変色とステイン、プラークの付着、辺縁歯肉、対合歯の咬合面の状態(wearの有無)、隣接面のコンタクト、再治療の必要性については1名の歯科医師が評価しました。評価基準(表4)を決めて、安定性を確保し、時間による評価のばらつきを避けるため、スライドを使用しました。

患者満足度は、咀嚼、審美、疼痛の改善について患者に質問することで評価しました。合着時の咬合接触は咬合紙で1名の歯科医師により評価しました。理想的な咬合状態を「excellent」、微調整が必要だが、概ね良好なものを「good」、かなりの調整が必要なものを「poor」としました。6か月後の咬合状態についても1名の歯科医師が咬合紙で評価しました。機能咬頭(functional occiputと原文にありますが、機能的な後頭部という直訳になります。ちょっと意味がわからないのでおそらくこうだろうと推測しています)による点接触を「no problem」、面接触を「good」、接触無しを「loss」としました。プラークの付着はミラーとプローブで判断しました。PEEK冠をエアーで乾燥した後に、プラークが視覚的に確認出来るものを「Equivalent」と判定しました。隣接面のコンタクトの評価はコンタクトゲージを用いました。口腔内写真、X線写真を必要と判断した場合に撮影しました。

口腔機能評価

合着後1、3か月時に、咬合力、咀嚼能力を評価し、口腔機能を定量化しました。咬合力と咬合圧をデンタルプレスケールにより計測しました(プレスケールによる測定方法の文章が以後続きますが、省略します)。咀嚼能力については、標準化されたグミゼリーを使用したグルコセンサーを使用しました(グルコセンサーによる溶出試験のやり方が続きますが、省略します)。測定は3回行い、左咀嚼、右咀嚼、自由咀嚼を指示しました。以前の報告から咀嚼能力検査を2回実施しても、それぞれの検査結果に差がないことが報告されているため、本研究でも各部位1回の測定で実施しました。正常値を150mg/dLとしました。

統計解析

20名のグルノース濃度、咬合圧、咬合力のPEEK冠装着側、非装着側での比較をMann-Whitney U検定で行いました。セメントタイプによる咀嚼能力、咬合圧、咬合力の比較をKruskacl-Wallis検定で行いました。有意水準は5%としました。

結果

被験者

本研究には、20名トータル22ケース(23ケースの間違い?)のPEEK冠を含みます(表1)。この中で、1名がフォローアップ時に離脱しており、6か月後には22ケースとなりました。

プロトコル

ケースナンバー1~11の対合歯は、全部金属冠6名、暫間被覆冠1名、セラミック冠2名、硬質レジン1名、天然歯1名でした。スーパーボンドC&Bで合着した11ケースの平均年齢は60.5歳で、対象歯は上顎第一大臼歯が4ケース、第二大臼歯が2ケース、下顎第一大臼歯が1ケース、第二大臼歯が3ケース、第三大臼歯が1ケースでした。一方、リライエックスアルティメットで合着したケースナンバー12~23の12ケースの平均年齢は59.1歳で、対象歯は上顎第一大臼歯が6ケース、第二大臼歯が3ケース、下顎第一大臼歯が1ケース、第二大臼歯が2ケースでした。加えて、対合歯は、全部金属冠1名、陶材焼付鋳造冠2名、天然歯3名、PEEK冠1名、ジルコニア冠2名、メタルインレー3名でした(表1)。

評価項目

支台歯形態:軸面の高さ1.2mm~7mm、クリアランス1.0~2.0mm(表2)

色調は乳白色で、上顎うどく第二大臼歯(文章には第二大臼歯と記載されていますが、図と図の解説をみると第一大臼歯です)にセットしたPEEK冠の1例を示します(図3)。

セット後6か月で撮影したデンタルX線写真から、PEEK冠はわずかに不透過性で、冠概形を確認する事ができます(図4)。

23ケースのPEEK冠中、22ケースでは咬合接触状態が「excellent」。マージン形態では21ケースが「excellent」で、特に問題を認めませんでした。

PEEK冠の状況:6か月後のPEEK冠、支台歯、対合歯の状況を表4に示します。被験者1名がフォローアップ時に離脱しており、19名22ケースでは、破折、クラックなどは認められませんでした。また再治療が必要なケースもありませんでした。

本研究では、6か月間の装着による裂開や破折の発生を検討するために、2つのセメントを使用しました。脱離や深刻な破折などは本研究では認められなかったため、2つのセメントの違いは解析できませんでした。軽い咬合接触の跡が2ケース、表面のわずかなあれが6ケース、ステインが7ケース、軽度歯肉炎が5ケースに認められました(表5)。

患者満足度の結果を表6に示します。チューインガムが付着するという4名のコメントがありました。しかし、主訴、咀嚼、審美についての満足度は全体的に高い結果となりました。

口腔機能

グミゼリーによる咀嚼能力試験の結果を図5に示します。23ケースの平均値は、自由咀嚼254.2mg/dL、PEEK冠装着側254.2mg/dL、PEEK冠非装着側236.1mg/dLで、PEEK装着非装着での統計的な有意差を認めませんでした(図6)。

咬合力の結果を図7、8、9、10に示します。23ケースでの咬合力、咬合圧の平均値はそれぞれ794.5N、33MPaでした。PEEK冠装着、非装着側間での統計的な有意差を認めませんでした。

セメントの種類の違いによる咀嚼能力、咬合圧、咬合力の差も統計的な有意差を認めませんでした。

考察

本研究では、被験者は20歳以上で単冠症例、対合歯を有し、頬舌側で軸面の高さが3mm以上に該当する者としました。日本では、20歳以上を成人と規定しています。咬合関係の構築には、単冠を用いて1本の歯の装着状態を確認するための単冠、咬合、咀嚼能力の維持のための対合歯の存在、破折防止のための3mmの高さが用いられました。除外基準は、予後が悪く、破折や脱離が起こると考えられる部分床義歯の支台歯であること、重度な歯周病に罹患していることとしました。

合着6か月後の評価を元に、咬合接触スコアBは2名(男性1名、女性1名)咬合面表面性状スコアBが2名(男性2名、女性0名)、表面テクスチャースコアBが6名(男性3名、女性3名)変色/ステインスコアBが7名(男性2名、女性5名)、辺縁歯肉スコアBが5名(男性2名、女性3名)でした。表5にスコアB評価項目をまとめました。

PEEK表面の変化は対合歯がジルコにアの場合著明でした。スーパーボンドはセット中の歯肉溝へのセメントの流出により歯肉炎を起こした可能性があります。我々はこれらの評価は、対合歯やセメント材料により影響されると推測しました。しかし、結果はケース数が少なく不明瞭でした。咬合接触スコアの殆どはAで点接触は維持されていました。PEEK冠は6か月の口腔内使用では適切な耐摩耗性を有していると示唆されました。PEEKクラウンの研磨方法が悪かったため、表面粗さ、着色、歯肉炎の結果が悪く、改善の余地があります。フラットな表面は研磨しやすく光沢を出しやすいですが、咬合調整後の研磨は咬頭を失うリスクを避けるために甘くなりがちです。咬頭のような複雑な形態の研磨方法には今後のさらなる研究が必要です。しかし、クラック、破折、脱離、疼痛、カリエス、プラーク対合歯の咬合面、コンタクト、再治療などに関する問題は認めませんでした。チューインガムが付着しやすい(男性1名、女性3名)は個人のライフスタイルに起因するものでした。そのため、PEEK冠での治療前に、チューインガムを食べる習慣があるかどうかを患者に聞く必要があり、もし患者がチューインガムをよく食べるようならPEEKによる治療は避けるべきです。逆に、審美的な評価では9ケースがGoodで、女性の割合が高い結果でした(男性1名、女性8名)。色調は乳白色で、審美性は金属冠よりもはるかに良いです。しかし、患者満足度の結果によると、天然歯からは程遠く、人工物と分かりやすいです。PEEKのオリジナルの色はグレーです。しかし、本研究で使用したPEEK冠はグレーベージュです。二酸化チタンの添加により色調変化が可能になりました。しかし、PEEKには透過性がなく、天然歯の色調にマッチさせる技術はありません。PEEK表面にレジンを前装する事により天然歯の色調に近づけるアプローチは現在開発中です。PEEK冠は破折やクラックなどはありませんでした。しかし、咬合、色調、表面粗さの変化はありました。PEEKの加工性の高さが原因かもしれませんが、素材の柔らかさにも関係しているかもしれません。

本臨床研究では、歯科臨床で広く使用されているサンドブラスト、接着力を向上させるプライマーと2種類の接着性セメントの前処置として使用しました。さらに、PEEK内面へのサンドブラストは接着強さを改善します。PEEK冠内面へのVisio. Link、支台歯へのV-primer、スーパーボンドPZプライマー、スコッチボンドユニバーサルアドヒーシブをプライマーとして使用しました。本研究ではスーパーボンドC&Bとリライエックスアルティメットという2つのセメントを使用しました。これらは接着性レジンセメント、サンドブラスト処理後の適切なプライマー処理として一般的に使用されており、Visio. Linkは過去の文献にも記載されています。特に、Visio. LinkはPEEKと接着性レジン間の剪断接着強さを向上する事が複数の論文で報告されているため、本研究でも使用しました。さらに、MMA含有レジンレメントは表面官能基化なしでPEEKと化学的に接着します。加えて、PEEK表面のCOおよびCOO基は、Visio. Linkと反応する可能性があります。PEEK表面が酸化されると、芳香環が開いて極性が増し、反応性の高い官能基が付加されるため、接合強度が向上するため、接着剤としてVisio. Linkを採用しました。一般的に使用されている2種類の接着性セメントを使用しました。両方のセメントにおいて、6か月の間に脱離したPEEK冠はありませんでした。接着性セメントの使用はPEEKクラウンの剥離を防ぐ可能性が示唆されました。

咀嚼能力試験では、自由咀嚼、PEEK冠装着側、PEEK冠非装着側での測定値の殆どは、無歯顎者で正常とされる範囲のグルコース濃度で、PEEK冠には十分な咀嚼力がある事がわかりました。23ケース全てでグルコース濃度は150mg/dLで、これは無歯顎者の正常範囲でした。さらに、同一患者でのPEEK冠装着側と非装着側で有意差を認めませんでした。これは、PEEK冠は咀嚼能力を低下させないことを示唆しています。加えて、咬合力の平均値は794.5Nであり、咬合力低下の境界値であり500Nを越えていました。6ケースで500Nを下回りました。加えて、咬合力、咬合圧についてもPEEK冠装着側と非装着側で有意差を認めませんでした。そのため、被験者の咬合力は正常範囲内であり、PEEKクラウンは咬合力に耐えうることが予測できます。

支台歯の高さに関係なく、脱離、破折、クラックは6か月後に認められませんでした。しかし、咬合力は人により異なるので、この結果は本研究に限定されるかもしれません。あるケースでは、わずかなwear、ステイン、粗さの変化、歯肉炎が観察されました。wearと咬合の変化は起こる可能性があることが示唆されます。われわれの知る限り、PEEKと歯肉炎について過去の研究はありませんし、PEEKは細菌の付着を抑制するという報告さえあります。類似した研究には陶材焼付鋳造冠とCAD/CAM冠の後ろ向きコホート研究が含まれます。362の大臼歯CAD/CAM冠の29.3%に臨床的なトラブルが起こり、そのうち74.5%が脱離で、4.7%が破折でした。大臼歯の冠脱離の多くは比較的早期、6か月以内に起こりました。最も一般的なトラブルは、レジン冠では破折で、陶材焼付鋳造冠では維持の喪失です。本研究では、脱離、破折は6か月以内には起こりませんでした。そのため、PEEKは、6か月でありますが、これらの研究の結果に劣っているということはありませんでした。PEEKは患者の連続的な使用に適している事が示唆されました。

我々の研究にはいくつかのLimitationがあります。本研究では、ジルコニアや金属冠などと比較を行っていません。そのため、既存のこれらの冠より優れているのかは不明です。我々はプラーク付着を染色したりせず目視で確認しただけです。さらに本研究では、評価のバラツキを最小化するために単一の評価者を設定しています。これは議論の余地があるでしょう。一方で、合着6か月後の患者満足度については患者に質問表で尋ねただけで、治療前後の効果をOHIPを使って評価していません。そのため、我々の結果は客観性に欠けるかもしれません。チェアサイドでの研磨方法の確立は、PEEK冠の臨床応用では必須ですが、まだ確立されていません。咀嚼能力、咬合圧、咬合力は口腔全体の妥当な指標ですが、PEEKクラウンを使用した特定の部位はテストできませんでした。PEEK冠をセットした部位の検討が必要です。さらに、咀嚼能力、咬合圧、咬合力は、ノンパラメトリックであるMann-Whitney U検定を用いて連続補正を行い、統計解析しました。しかし、PEEK冠装着時と非装着時の咀嚼能力、咬合圧、咬合力の差はサンプルサイズのせいで検証することができませんでした。したがって、今回の結果を検証するためには、今後、サンプル数の多い長期的な研究が必要です。

結論

PEEK冠は、生物学的な安全性と機械特性により金属冠の代替手段として製作されました。PEEK冠は適切な表面処理後に接着性セメントで合着されました。限られた被験者での我々の知見から、CAD/CAMで製作したPEEK冠は脱離、破折せず、辺縁歯肉に悪影響もなく、咀嚼能力を低下させることもありませんでした。PEEK冠は大臼歯において金属冠の有望な代替である事が示唆されました。

まとめ

これが現在PEEKのモノリシック冠について検討した最新で唯一の論文かもしれません。PEEKは改質すれば象牙質と弾性率や引っ張り強さが近い材料であるため、CAD/CAMなどよりも脱離や破折などのリスクが低いと考えられますので、今回の結果はある程度理論通りと言えるかと思います。CAD/CAMは外れるときは結構早くはずれるので、そこはかなり違いがありそうです。ただ、軟らかい材料なので、対合がジルコニアなどの場合は咬耗のリスクがありそうです。どちらにしてもより長期的な評価が必要でしょう。

出展を失念したのですが、MMA含有レジンの方がPEEKにはよいという文章を見たことがあります。今回はリライエックスアルティメットでも問題なかったので、関係ないのかもしれません。しかし、セメントで予後が変わるかもしれないなら、よりよい方を選択する必要があります。しかし、in vivoの研究結果がこれだけしかないとしたら、保険適応なぜされたんでしょうかね。もっと被験者数の多い研究があって、自分が見つけられていないだけなんでしょうか・・・・。

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