糖尿病と根管治療の治癒に関するメタアナリシス2020
前回、2016のシステマティックレビューを読みました。今回はそこから4年経過した2020年のシステマティックレビューを読んでいきます。全部読むとわかりますが、新しい論文がプラスされています。
Diabetes mellitus and the healing of periapical lesions in root filled teeth: a systematic review and meta-analysis
A Gupta , V Aggarwal , N Mehta , D Abraham, A Singh
Int Endod J. 2020 Nov;53(11):1472-1484.
PMID: 32654191
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32654191/
Abstract
Background: Diabetes mellitus (DM) may affect the healing and survival of root filled teeth with periapical lesions.
Aim: To systematically analyse the available clinical literature to evaluate the association between DM and the prevalence of radiolucent periapical lesions in root filled teeth. The review question was ‘Is there a difference between the root canal treatment healing outcome (in terms of presence or absence of radiolucent periapical lesions) in diabetic and non-diabetic patients?’.
Data sources: A systematic review of cross-sectional studies and prospective clinical trials was conducted according to the PRISMA checklist. The review involved a search of the electronic databases of PubMed, Scopus and EBSCO host.
Study eligibility criteria, participants and interventions: The research protocol was previously registered in the International Prospective Register of Ongoing Systematic Reviews (CRD42019130954) and included defined inclusion/exclusion criteria. The included studies were related to the root canal treatment outcome in diabetic patients in terms of periapical radiolucent lesions associated with root filled teeth.
Study appraisal and synthesis: The selected studies were critically analysed by two evaluators using the Joanna Briggs Institute Critical Appraisal tool. The pooled odds ratio (OR) was recognized as the primary outcome variable and measure of the effect for the occurrence of periapical lesions associated with root filled teeth of control and diabetic patients. The random-effects Mantel-Haenszel method was used, at a 95% confidence interval, to calculate the pooled OR. A funnel plot was created to evaluate possible sources of heterogeneity.
Results: Ten studies published between 1989 and March 2019 were selected after thorough analysis and exclusion according to the strict criteria. Seven cross-sectional studies, 1 longitudinal and 2 prospective clinical studies were included. The pooled OR was calculated by comparing 773 diabetic subjects and 1133 control subjects. The pooled OR for the observational studies and clinical studies were 1.42 and 6.36, respectively. This value signified a high prevalence of periapical lesions in root filled teeth in diabetic subjects.
Limitations: There are limited prospective clinical trials on this topic. The majority of the included studies are observational.
Conclusions and implications of key findings: The data suggest a strong connection between the presence of periapical radiolucency on root filled teeth amongst diabetics as determined by the pooled OR.
背景:根尖病変を伴う根管充填歯の治癒と生存に糖尿病が影響しているかもしれません。
目的:根管充填歯におけるX線透過性の根尖病変の割合と、糖尿病との関連性を評価するためにシステマティックな解析を行うことです。レビューのクエスチョンは、糖尿病患者と非糖尿病患者において、根管治療の治癒(X線透過性の根尖病変があるかないか)に違いがあるか、です。
データ:横断研究と縦断研究のシステマティックレビューをPRISMAに基づいて行いました。PubMed、Scopus、EBSCOhostデータベースの検索が含まれます。
採用基準、被験者、介入:研究プロトコルは以前登録したもの(CRD42019130954)で、採用基準と除外基準の定義を含みます。採用された研究は、糖尿病患者における根管充填歯の根尖部のX線透過性病変による根管治療のアウトカムに関するものです。
研究の評価と合成:選択された研究は、2名の評価者がJoanna Briggs Institute Critical Appraisal toolを用いて解析しました。累積オッズ比は、コントロール(非糖尿病患者)と糖尿病患者群の根管充填歯に関連した根尖病変の発生に関する主要アウトカムであり、効果の尺度であると認識されました。95%信頼区間、累積オッズ比を算出するためにMantel-Haenszelの方法を用いました。異質性を評価するためにファンネルプロットを作成しました。
結果:1989~2019年3月までの10の研究が、解析と厳格な基準による除外の後に選択されました。累積オッズ比は773名の糖尿病患者と1133名のコントロールの比較により算出されました。累積オッズ比は1.42と6.36でした。この値は、糖尿病患者では根管充填歯の根尖病変の割合が高い事を示しました。
Limitation:本トピックでは、縦断の臨床試験は限られており、多くの研究が観察研究です。
結論:本データから、糖尿病患者における根管充填歯の根尖透過性の存在との強い関連が示唆されました。
ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください
緒言
根尖性歯周炎は歯髄組織の炎症性疾患で、根尖周囲組織に影響します。X線画像的に、根尖性歯周炎は透過性の根尖病変として認められます。根尖性歯周炎の最良の治療は根管処置です。根管充填歯に根尖性歯周炎が発生した場合、X線透過性の根尖病変として出現し、X線透過性の根尖病変に関連する根管充填歯として分類されます。
根管治療の成功を評価するパラメーターは様々であり、根尖部の病的所見、臨床徴候の完全な解決が含まれます。しかし、全身疾患が治癒を阻害するかもしれません。根管治療のアウトカムに影響する最も一般的な全身疾患は糖尿病(DM)です。DMはタイプ1とタイプ2に分類されます。DMの主な特徴は高血糖です。それにより白血球や単球、マクロファージや他の炎症性マーカーの細胞機能に影響し免疫機構を低下させます。感染に対する感受性の増加により慢性炎症が起こり、組織破壊の進行と組織修復の低下が起こります。DMの病的影響は、歯髄組織にも及びます。糖尿病患者には血行が低下し、免疫応答が低下した歯髄組織が多いです。DMは根管充填歯の治癒結果に負の影響を与えると報告されています。DM患者においてコントロールされていない血糖レベルは、根尖性歯周炎の潜在的な修飾因子として作用し、根管治療後の根尖病変の割合の増加とリンクするかもしれません。
コントロールされていない糖尿病患者では、PMNの機能低下と創傷治癒遅延があり、根尖病変の増加に至ります。Benderらは、DMが根管充填歯の根尖周囲の健康に与える影響について33名の被験者を用いて研究しました。引き継いだCheraskinとRingsdorfらは、30週のフォローアップを行い、血糖値の低い患者は高い患者と比べて根尖性歯周炎ののサイズが大幅な減少を示したと報告しました。以前パブリッシュされた研究によると、根管治療歯において、DMと根尖病変の発生の関連性を示唆した生物学的エビデンスがあるようです。
根尖周囲組織の治癒は時間依存性の経時的な変化であり、横断研究での評価が難しいです。過去には、DMが根管治療歯のアウトカムに与える影響を評価した2つのシステマティックレビューがあります。このレビューは観察コホート、横断研究がベースです。以前にも述べましたが、組織治癒のよい評価方法は縦断ランダム化臨床試験です。システマティックレビューの発行以後に、2つの縦断臨床試験が報告されました。この報告は、根尖周囲の治癒への糖尿病の影響の解析をさらに強化しました。本レビューは、DMと根管処置の結果の関連性についての最近の研究全てを考慮し、DMが根管治療成績に及ぼす影響を評価するために、横断的研究のデータの評価とともに、縦断臨床研究の系統的レビューとメタアナリシスを行うことを目的としました。
実験方法
本レビューのプロトコールは、PRISMAチェックリストを用いて構築しました。プロトコールをPROSPEROに登録しました。本レビューのクエスチョンをPICOに基づいて作成しました。クエスチョンは、糖尿病患者と非糖尿病患者において、根管治療の治癒(X線透過性の根尖病変があるかないか)に違いがあるか、です。
文献検索
文献検索は次のデータベースで行いました。MEDLINE/PubMed、Scopus、EBSCOhostでの検索を行いました。文献検索は2019年3月に3人が独立して行いました。検索キーワードを表1に示します。収集されたデータは、重複の識別と除外のために手作業で検索されました。
採用基準
3人がタイトルとアブストラクトスクリーンに表示しました。採用基準に該当した文献が通過しました。全文を入手し、共通のコンセンサスを得るために、査読者が独自に十分なスクリーニングを行いました。採用基準は以下の通りです。
1 1960年~2019年3月にパブリッシュ
2 臨床試験、ケースコントロール、横断、コホート、縦断研究で英語で書かれている
3 成人糖尿病患者と、非糖尿病患者を含む
4 根管充填歯を対象
5 根管充填歯の根尖部の状態をX線画像的に評価
除外基準
1 ケースシリーズ、培養ラボ研究、動物実験
2 コントロール群がない
3 X線画像の評価がない
4 14歳以下の被験者
データベースの検索から、引用文献を2名の著者がハンドサーチしました。除外の流れを図1に示します。
質の評価とデータの抽出
2名の調査者がデータを抽出し、それぞれの研究で以下のパラメーターを解析しました。著者、年/国、ジャーナル、言語、年齢群、研究デザイン、サンプルサイズ、診断基準、根管治療の結果、バイアスリスク、エビデンスレベル。2名の著者の不一致は3人目の著者により解決されました。バイアスリスクの評価は、Joanna Briggs institute critical appraisal checklistによるチェックリストを用いて行いました。バイアスリスクを判定するために、観察、横断研究の場合7つの基準、縦断研究の場合10の基準を用いました。2名の評価者が独立してバイアスリスクを評価し、その後でディスカッションを行いました。不一致は全て3人目の評価者が最終一致を得るために解決しました。
アウトカムと統計解析
累積オッズ比は、コントロール(非糖尿病患者)と糖尿病患者群の根管充填歯に関連した根尖病変の発生に関する主要アウトカムであり、効果の尺度であると認識されました。Mantel–Haenszelの方法を用いて、95%信頼区間、累積オッズ比、フォレストプロットの記載を行いました。個々の研究の統計的異質性のテストには、τ2値とI2検定を用いました。統計的な異質性と臨床的な異質性を混同してはならないことに注意すべきです。全ての研究は異なった国で行われているため、臨床的な異質性が推定されます。それに応じてランダム効果モデルを採用しました。ファンネルプロットは出版バイアスを評価するために作製しました。有意水準は5%としました。
結果
検索の流れを図1に示します。409の研究が確認されました。重複している研究を除外しました。残った89についてアブストラクトを評価しました。10の研究が採用基準に合致し、システマティックレビューとメタアナリシスに採用しました。DMと治癒を扱った研究で除外したものは、1つが歯周病、5つがX線透過性根尖病変に関連した根管充填歯の割合ではないもの、3つが根管充填歯の抜歯に関しての糖尿病患者と非糖尿病患者での比較でした。
研究の特徴
最終解析では10の研究を採用しました。全ての研究が、根管充填歯のX線透過性根尖病変による、糖尿病患者の根管治療のアウトカムを扱っていました(表2)。
メタアナリシス
それぞれの研究において、ランダム効果、Mantel-Hasenszelの方法を用いて累積オッズ比を算出しました(表3)。
それぞれの研究におけるオッズ比をフォレストプロットに記載し、全体的なオッズ比をメタアナリシスで算出しました(図2、図3)。
観察研究において、非糖尿病群を基準とした糖尿病群の累積オッズ比は1.42(95%信頼区間1.13-1.79)でした。縦断臨床試験において、累積オッズ比は6.36(95%信頼区間 1.93-20.95)でした。観察研究、縦断研究共に統計的な異質性は低く、これは含まれる研究の信頼区間が同程度であったことに起因すると考えられます。出版バイアスを評価するために、観察、縦断研究両方のファンネルプロットをプロットしました。検出力が高く標準誤差が小さい研究は上に、検出力が低い研究は下にプロットされています(図4、図5)。ファンネルプロットは視覚的に対称であり、出版バイアスがないことを示唆しています。
バイアスリスク
10の研究中、3つのみがリスクが低く、1つは中等度リスク、残り6つはハイリスクでした。それぞれの研究において、エビデンスレベルをNational Services Scotlandのガイドラインで決定しました(図6、図7)。4つの研究はレベル+2、残り6はレベル-2でした。
それぞれの研究の解釈
Aryaら(2017)は、12か月で46本の歯のフォローアップした前向き臨床研究で、タイプ2糖尿病患者群と非糖尿病群における根管治療の治癒を比較しています。非糖尿病群(25本中20本が治癒)と比較して、糖尿病群は治癒率が低い結果でした(21本中12本が治癒、オッズ比5.33、95%信頼区間1.44-19.70)。
同様の前向き臨床研究はRudranaikら(2016)により報告されています。80名の患者をタイプ2糖尿病群と非糖尿病群に分けました。術前評価では、コントロール群ではより急性な痛みを伴う病変で、糖尿病群では、サイナストラクトや根尖部圧痛を伴う慢性的な病変であることが判明しました。単回の根管治療が行われ、術後の治癒を1、2週、1、2、6か月、1年で評価しました。40名の糖尿病患者中6名が失敗、40名のコントロールでは1名も失敗がいない結果でした(オッズ比15.26、95%信頼区間0.83-30.13)。非糖尿病群ではイベント/失敗の数が「ゼロ」であったため、意味のある結果を得るために各群で0.5の値を加えました。
Smadiら(2017)は、糖尿病患者と非糖尿病患者での根尖の状態を評価する横断研究を行いました。糖尿病患者は根尖性歯周炎を有する確率が非糖尿病患者よりも高い結果(オッズ比1.60 、95%信頼区間0.75-3.43)となりました。さらに、糖尿病群は非糖尿病群よりも根管充填歯が多い傾向を認めました。
Fouad&Burleson(2003)は後ろ向きの縦断研究を行い、糖尿病患者と非糖尿病患者では、X線透過性根尖病変の数に差があることを報告しています。ただし、その差に有意差を認めませんでした(オッズ比1.24、95%信頼区間0.74-2.08、p=0.42)。しかし、術前病変を有する糖尿病患者とコントロールを比較すると、根管充填歯のX線透過性病変の発生において有意差が認められました。
Falk(1989)はX線透過性根尖病変を有する根管充填歯の頻度について研究し、慢性糖尿病患者は非糖尿病患者よりも頻度が高い事を報告しています。オッズ比は有意差を認めませんでした(オッズ比1.31、95%信頼区間0.87-1.97 p=0.20)。しかし、糖尿病女性でX線透過性病変を有する根管充填歯の頻度は、コントロール群女性と比較すると有意に高い結果でした。
Brittoら(2003)は、根尖部の状態を比較しました。X線透過性病変を有する根管充填歯の割合には有意差を認めませんでした(オッズ比1.09、95%信頼区間0.49-2.43、p=0.82)。さらに、タイプ2糖尿病男性は、根管充填歯にX線透過性病変が残存している可能性が有意に高い結果となりました。この発見は、X線透過性病変の発生が多いことを示しており、1つ、それ以上のX線透過性根尖病変を有する確率は糖尿病群で97%、コントロール群で87%でした。
Segura-Egeaら(2005)は、38名のコントロール群、32名の糖尿病群において、根尖周囲の状態を検討しました。糖尿病患者における根管充填歯は12本、コントロール群では20本でした。糖尿病群では12本中10本にX線透過性根尖病変、コントロール群では20本中12本にX線透過性病変が認められました(オッズ比3.33、95%信頼区間0.57-19.42、p=0.17)。
Lopez-Lopezら(2011)は、よく管理した糖尿病群とコントロール群において、X線透過性病変を有する根管充填歯の割合について検討しました。糖尿患者群の46%にX線透過性病変を有する根管充填歯が認められたのに対し、コントロール群では24%でした。しかし、統計的な有意差は認められませんでした(オッズ比2.67、95%信頼区間0.86-8.28、p=0.09)。
Marorraら(2012)による横断研究では、未処置歯のX線透過性根尖病変は、非糖尿病群の7%よりも糖尿病群では10%とより高頻度な結果でした(オッズ比1.39、95%信頼区間0.83-2.32)。しかし、根管充填歯におけるX線透過性h病変の割合(46%)は、コントロール群(38%)と比較して統計的な有意差を認めませんでした。
最後にMarques-Ferreiraらは、46名を均等にコントロールと糖尿病群の2群にわけて根管充填歯の成功率を検討しました。X線透過性病変を有する根管充填歯の割合は両群で有意差を認めませんでした(オッズ比3.05、95%信頼区間0.94-9.88、p=0.06)。
個々の観察研究の評価では、オッズ比は統計的に有意ではありませんでした。しかし、データを統合すると、統計的なパワーが増加し、最終的なオッズ比は有意なものとなりました。
考察
DMのような様々な全身疾患は根管治療の結果と関連すると報告されています。糖尿病患者と歯周病の関連はしっかり確立されています。しかし、DMとX線透過性病変を有する根管充填歯の関係に関連するデータは少なく、よくわかっていません。そのため、このシステマティックレビューとメタアナリシスの目的は、糖尿病患者、非糖尿病患者において、根管治療歯のX線透過性根尖病変の割合を明らかにすることでした。本レビューは10の研究を採用しました。そのうち7つが横断、1つが後ろ向き縦断、2つが前向き縦断でした。
6つの横断研究と後ろ向き研究は、持続的な根尖性歯周炎の発生の違いを反映しています。一方で、1つの横断研究と2つの前向き臨床研究は、根尖周囲の病的状態の存在に関して、糖尿病群とコントロール群の差を報告していました。全ての横断研究では、X線透過性根尖病変のある根管充填歯の割合は、糖尿病群の方が多いと報告していますが、有意差を認めたのは1つしかありませんでした。さらに、有意差を認めた1つ以外の研究は全てハイリスクまたは中等度リスクでした。
本レビューと類似したSegura-Egeaら(2016)によるシステマティックレビューは、全て横断研究でエビデンスレベルはCとDで、バイアスリスク評価はありませんでした。彼らの累積オッズ比(1.42、95%信頼区間1.11-1.80、p=0.0058)は、糖尿病患者はコントロールと比較して、X線透過性根尖病変を有する根管充填歯の割合が高い事を示唆しています。本研究では、累積オッズ比とp値を観察研究(オッズ比1.42、p=0.003)と臨床研究(オッズ比6.36、p=0.002)で別々に算出しました。糖尿病患者の根管充填歯において根尖病変の割合は有意に高い結果を示しました。さらに、エビデンスレベルとバイアスリスクの両方を算出することで、糖尿病患者におけるX線透過性根尖病変を有する根管充填歯の割合がより明確にナリ、今回のレビューの知見が強化されました。Aminoshriaeら(2017)らも同様のレビューを行い、バイアスリスクの高い同じ横断研究を使用しています。しかし、このレビューは、本レビューと比較するとバイアスリスクの適用についての基準が少なかったです。彼らのレビューによると、利用できる科学的なエビデンスは、糖尿病と根管治療の結果の関連性を確立するには不十分であるとしています。本レビューでは、完全な基準に従って、対象研究のバイアスリスクを評価しました。
バイアスリスクとエビデンスレベル両方の計算と共に、Segura-Egeaら、Aminoshriaeらのレビューと比べ、追加の研究を本レビューに加えました。これにより、糖尿病患者においてX線透過性根尖病変を有する根管充填歯の頻度の増加が認められ、より信頼性が高いことが証明されました。前向き臨床研究2つでは、糖尿病患者群とコントロール群で根尖病変を有する根管充填歯の割合に、統計学的にかなりの差が認められたと結論づけています。両方の研究はバイアスリスクが低く、エビデンスレベルも2+であり、糖尿病とX線透過性根尖病変を有する根管充填歯の関連を確立するための重要なデータを提供してくれました。
Cabanillas-Balseraらによるシステマティックレビュー、メタアナリシスでは、DMを有する患者の2回目の根管治療の結果に注目しています。3つの研究を引用しており、これらの研究はDMがあると根管充填歯の非維持(抜歯?)の頻度が増加すると結論づけています。
X線透過性根尖病変を伴う根管充填歯の観点から評価した根管治療のアウトカムと糖尿病の関連性の強さは累積オッズ比により決定されます。累積オッズ比が1より大きい場合、コントロールと比較して糖尿病患者の方がX線透過性根尖病変の発生が多い事を意味します。累積オッズ比が1であれば、2つの変数の関連性はなく、1未満であれば、コントロールの方が糖尿病患者よりも多い事を示します。今回のメタアナリシスの結果ではオッズ比が1より大きかったので、糖尿病とX線透過性根尖病変を有する根管充填歯の関連性が示唆されました。もし、観察研究を個別に評価したらオッズ比は有意ではありません。しかし、累積オッズ比は有意な結果を示し、糖尿病と根管治療後の根尖部の治癒に負の相関を示しました。メタアナリシスでは個別の研究と比較してデータ量が増加するため、統計的検出力が高まり、推定値の精度と妥当性が向上しました。フォレストプロットとファンネルプロットを、異質性と出版バイアスの評価のために使用しました。統計的な異質性はI2=0であり低い結果でした。I2は統計的異質性の尺度である事を記載しておくべきです。全ての研究が異なる国で行われており、臨床的な異質性は高いと考えられました。従って、ランダム効果を統計解析に選択しました。
終末糖化産物(AGE’S)の集積により、糖尿病が組織治癒能力を低下させるのは確固たる事実です。これらの産物は炎症反応を引き起こし、さらには骨吸収に進行します。細胞間経路の再活性化は炎症性サイトカインの増加をもたらします。そのため、糖尿病では、根管充填歯の根尖周囲の状態に応じて免疫応答と組織修復能が低下します。炎症性ケミカルメディエーターの上方制御が亢進すると、骨のターンオーバー速度が低下し、創傷治癒が遅れます。糖尿病は、慢性炎症を起こしやすいだけでなく、病原性の微生物叢の増加も起こします。その中には、Fusobacterium nucleatum、Peptostreptococcus micro、streptococcus属などが含まれます。全ての因子が協調して、糖尿病患者の根管充填歯において根尖性歯周炎の発生に寄与します。臨床研究の結果は、交絡因子により影響されているかもしれません。歯周病の状態と他の全身疾患の存在は治癒過程に影響する可能性があります。今回採用した研究のいくつかは、交絡をコントロールするための測定を採用しています。しかし、血糖コントロールに関する重要な情報と他の全身疾患の存在について、全ての研究で利用不可能でした。今回採用した研究の多くは横断研究でした。以前にも述べたとおり、骨治癒は連続的なプロセスです。横断研究の結果は注意深く評価するべきです。さらに、観察研究の殆どがリスクバイアスが高く、結果の妥当性が低くなっています。縦断研究や前向きランダム化試験はごく少数です。これらの研究は治癒に与えるリスクファクターの効果の正確な推定値を与えてくれます。これらの研究は初期のベンチマークであり、決定的な声明を出すにはより多くの研究が必要です。糖尿病が基礎疾患として最も多いものの1つであり、その存在が治癒結果に影響するかもしれないし、しないかもしれない事を考慮すると、今回のレビューの今後の方向性は、根管治療の治癒成績に対する糖尿病の寄与をさらに明らかにするために、より適切に計画・デザインされた臨床研究を奨励することです。
結論
メタアナリシスのデータは、累積オッズ比により決定された、糖尿病患者の根管充填歯における根尖部のX線透過性の存在という点での歯内療法の成績との関連を示唆しています。しかし、臨床研究が2つしかないため、糖尿病と非糖尿病患者間でのX線透過性根尖病変を有する根管充填歯という点での歯内治療の成績に関する決定的な声明はまだ作製できません。これらの研究は初期のベンチマークで有り、さらなる研究が必要です。
まとめ
2016年のレビューと比較して2本の前向き研究が追加されています。今回は横断研究と前向き研究を分けてメタアナリシスしていますが、さすがに2本だけのメタアナリシスは無理があります。95%信頼区間が1.93-20.95と広範囲であり、残念ですが、そこまで信頼度は高いとは言えません。今後はこの部分のメタアナリシスに追加できる研究の増加で知見が固まってくるのではないかと考えられます。しかし、4年で少し知見がアップしました。2020年からもう4年経ってるわけでまた新しいメタアナリシスが出ているかもしれないので検索してみようと思いました。