糖尿病と根管治療後の根尖性歯周炎に関するメタアナリシス2023
かなり久しぶりの更新
8月以降仕事がかなり忙しくなりました。原稿の依頼などをこなすので手一杯になってしまい、論文を読む時間がなかなか作れずに結局年末になってしまいました。やっと仕事が少し落ち着いてきたので、ブログを再開したいと思います。
今回読むのは前回からの続きで、糖尿病が歯内治療歯に与える影響についての論文です。2023年のJournal of Endodonticsなので、比較的新しいメタアナリシスとなります。
Diabetes Mellitus Increases the Risk of Apical Periodontitis in Endodontically-Treated Teeth: A Meta-Analysis from 15 Studies
Xinyue Liu , Guiying He , Zhengjie Qiu , Feng Chen , Jiapeng Wang , Zheng Huang , Pengtao Zhang , Jian Zhang , Liangjun Zhong , Cheng Ding , Xing Chen
J Endod. 2023 Dec;49(12):1605-1616. doi: 10.1016/j.joen.2023.07.016. Epub 2023 Jul 26.
PMID: 37506763
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37506763/
Abstract
Introduction: At present, the incidence of diabetes mellitus (DM) is gradually increasing globally. In clinical practice, many patients with diabetes with apical periodontitis (AP) have poor and slow healing of periapical lesions. However, the potential relationship between the 2 is still unclear and controversial. The consensus is that DM can be deemed a risk factor for AP in endodontically-treated teeth. Therefore, we pooled existing studies and carried out a meta-analysis to explore the potential association between the 2.
Methods: Studies that met the inclusion criteria were selected from the database, and relevant data were extracted. Stata SE 17.0 software was used to analyze the relevant data, and the Newcastle-Ottawa Scale was used to assess the literature’s quality. The pooled odds ratio (OR) with a 95% confidence interval (CI) was used to determine the strength of the association between DM and the prevalence of AP after root canal treatment (RCT).
Results: After searching, 262 relevant studies were retrieved, fifteen of which met the inclusion criteria. A total of 1087 patients with 2226 teeth were included in this meta-analysis. According to the findings, diabetics showed a higher prevalence of AP after RCT than controls at the tooth level (OR = 1.51, 95% CI = 1.22-1.87, P < .01). At the patient level, DM increased the probability of developing AP in RCT teeth more than 3 times (OR = 3.38, 95% CI = 1.65-6.93, P < .01). Additionally, subgroup analysis was performed by blood glucose status, preoperative AP, and study design. Except for the status of blood glucose, the results were significant in the other 2 groups (P < .05).
Conclusions: Available scientific evidence suggests that DM may increase the risk of AP in endodontically-treated teeth. In teeth with preoperative AP, DM might promote the development of AP.
緒言:現在、糖尿病患者は世界的に増加傾向にあります。臨床では、糖尿病患者の根尖性歯周炎では、根尖領域の治癒が悪い、遅延することが多いです。しかし、これらの関連性についてはいまだよくわかっていません。糖尿病は歯内治療歯の根尖性歯周炎のリスクファクターと見なされる、というのがコンセンサスです。そのため、関連性を検討するために既存の文献を蓄積し、メタアナリシスを行いました。
実験方法:データベースから基準に適合する文献を選択し、データを抽出しました。Stata SE 17.0を解析に使用しました。またthe Newcastle-Ottawa Scaleを文献の質の評価に用いました。糖尿病と歯内治療後の根尖性歯周炎の頻度との関連の強さを決定するために、プールオッズ比と95%信頼区間を用いました。
結果:文献検索により262の文献を取得し、基準に適合した文献は15でした。トータルで1087名、2226本の歯をメタアナリシスに採用しました。歯レベルにおいて、糖尿病はコントロール群と比較して根管治療後の根尖性歯周炎と高い相関を認めました(オッズ比1.51、95%信頼区間 1.22-1.87、p<0.01)。患者レベルでは、糖尿病は根管治療歯の根尖性歯周炎発生の可能性を3倍以上増加させる結果となりました(オッズ比3.38、95%信頼区間 1.65-6.93、p<0.01)。加えて、血糖値、術前の根尖性歯周炎、研究デザインによるサブグループ解析を行いました。血糖値を除き、他の2群では結果は有意でした(p<0.05)。
結論:利用できるエビデンスから、糖尿病は根管治療歯の根尖性歯周炎のリスクを増加するかもしれないことが示唆されました。術前に根尖性歯周炎を伴う歯では、糖尿病が根尖性歯周炎の発現を促進しているかもしれません。
ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
糖尿病は慢性的な代謝疾患であり、世界的な公衆衛生問題となっています。高血糖が特徴で、世界第3位の罹患率です。糖尿病の罹患率は年々増加しています。疫学調査によると、2021年の10.5%(5億3660万人)と比較して、2045年には20~79歳の12.2%(7億8320万人)が糖尿病に罹患すると予想されています。糖尿病は2つに分類されます。1型糖尿病はインスリン欠乏と免疫システムによるβ細胞の破壊が特徴で、インスリン抵抗性を示す慢性疾患です(chronic disease of insulin resistanceを直訳)。一方、2型糖尿病は、標的組織に対するインスリンの代謝作用に対する抵抗性が特徴です。糖尿病が口腔内の疾患、カンジダ症、蜂窩織炎、歯周病などとと関連するという研究があります。そのため、ますます多くの歯科医がDMに関心を寄せています。
不可逆性歯髄炎と根尖性歯周炎は、歯に起こる最も一般的な炎症性疾患です。根管治療(RCT)は両方の疾患に適した好ましい治療法です。しかし、根管治療後に、持続的な根尖性歯周炎や根尖透過像が臨床的にしばしば起こります。根管治療の失敗率は約10.8%と報告されています。不適切な機械的デブライドメント、根管、根尖周囲組織における細菌残留、根充の質が悪い、辺縁漏洩などが一般的に失敗の原因とされています。Gillenらは、9つの文献によるメタアナリシスを通じてこの仮説を確認し、根充の質が低いと根尖周辺の治癒が悪くなる事を示唆しました。適切かつ十分なRCTにもかかわらず、術前に根尖病変を有する歯の10%~15%において、持続的な根尖性歯周炎が発生していることは議論の余地がありません。微生物学的な観点から、歯根外の感染がいくつかの失敗ケースには含まれるかもしれませんが、殆どのRCTの失敗は持続的または二次的な歯根内の感染です。例えば、根尖性歯周炎からEnterococcus faecalisが多数認められたと報告している文献があります。医原性の要因と微生物感染に加えて、根管治療後、持続的な根尖性歯周炎は宿主要因に依存するかもしれません。もし、患者が全身疾患を有していたら、根尖性歯周炎のリスクが上昇するかもしれません。
最近、より詳細で包括的な研究により、糖尿病と口腔疾患の双方向の関係がさらに研究されています。利用可能な文献によると、糖尿病により口腔感染症になりやすくなります。逆に、もし口腔感染症が起これば、糖尿病の発症に影響する可能性があります。糖尿病と歯周病の双方向性は、この視点をよく表しています。Lallaらは、糖尿病が歯周病において細菌への高い炎症反応と組織修復低下を引き起こすと示唆しています。同様に、歯周病は糖尿病患者の血糖コントロールを阻害し、他の合併症の発生や進展に寄与します。
同様に、歯内療法を受けた歯における糖尿病と根尖性歯周炎の関連性に関する研究は、動物実験や臨床研究を含め、過去数十年の間に急増しています。Falkによる研究では、非糖尿病患者と比較して、短期糖尿病患者、長期糖尿病患者において根尖性歯周炎がある根管処置歯の数は有意差を認めませんでした。さらに、Machadoらは9つの文献のプール解析を行い、彼らも糖尿病と根尖性歯周炎には明確な関連性が認められなかったと結論づけています。対照的に、他の文献では糖尿病は組織の治癒を遅延させ、それにより、根尖領域の治癒に影響し、根尖性歯周炎が発生、最終的に治療失敗、抜歯に至る、と指摘しています。
これらの研究に基づき、糖尿病と根管処置歯の根尖性歯周炎の関連はいまだ議論の対象です。糖尿病は根管治療のアウトカムに影響を及ぼすのか?糖尿病は根管治療後の根尖性歯周炎の発生や進行に影響するのか?これらの問題を調査するために、私たちは、根管治療歯の根尖性歯周炎の発生率と糖尿病との関連性について検討した論文を用いてメタアナリシスを行いました。
実験方法
本研究は、the Preferred Reporting Items Statement for Systematic Reviews and Meta-Analysesに厳格に基づいてデザインされ実行されました。PICOSは、臨床的な問題点の様々な要素を明確にするために一般的に用いられます。我々のメタアナリシスでは、PICOSは以下のもので構成されました。被験者:根管治療を受けた患者、介入:根管治療を受けた患者と糖尿病と診断された(HbA1c 6.5以上、空腹時血糖 患者 126 mg/dL以上)患者、コントロール:糖尿病ではない根管治療を受けた患者、アウトカム:根管治療歯の根尖性歯周炎の発生率を糖尿病群と非糖尿病群で比較、研究デザイン:縦断研究、コホート研究、後ろ向き研究、横断研究。
文献検索
PubMed/MEDLINE、Web of Science、WanFang Data Knowledge Service Platfrom、China National Knowledge Infrastructure Platformを含むデータベースを徹底的に検索しました。2022年12月が最終の検索となります。キーワードは以下の通りです (Diabetes mellitus OR Diabetes OR Diabetic OR Hyperglycemia) AND (Apical periodontitis OR Periapical periodontitis OR Periapical diseases OR Periradicular lesion OR Radiolucent periapical lesion OR Root filled teeth)。言語などの制限は特に設けませんでした。加えてマニュアル検索と、レビューからの引用を行いました。
文献の選択、採用、除外基準
1人の調査者が全ての文献のタイトルとアブストラクトをスクリーニングしました。採用基準は、(1)ヒトを用いた研究、(2)過去に根管治療を受けた事がある1またはそれ以上の永久歯、(3)糖尿病、非糖尿病群での比較研究、(4)糖尿病群と非糖尿病群(コントロール)の根管治療歯の根尖性歯周炎の発現率などについての研究です。除外基準は、(1)ヒトではない研究、(2)具体的な数や有病率ではなく割合のみを記載したり、DM群のAP症例数のみを報告し対照群のデータを記載しないなど、完全なデータの欠如、(3)コントロール群がない研究、(4)原著が利用できない文献です。
データの抽出
2名の著者が、それぞれ採用の可能性のある論文全文を読みました。採用基準に適合した文献からデータを抽出し、データ標準化フォームに記録しました。それぞれの著者で見解の相違が見られた場合、議論し見解の一致に至りました。それぞれの研究で、以下の重要な情報を記録しました。筆頭著者の名前、発行年月日、研究デザイン、サンプルサイズ、根尖性歯周炎の診断、糖尿病と根管治療後の根尖性歯周炎との関連性。1つの研究で複数の治療群が提示された場合、PICOSに準拠したデータのみを収集しました。
質の評価
2名の著者がNewcastle-Ottawa Scale (NOS) for assessing the risk of biasを用いて各研究の質の評価を行いました。収録文献の質は、選択、比較可能性、暴露の3つの属性に関して評価されました。これらの3つのセクションには、合計9つの評価指標が用いられました。星2つが与えられる比較可能性を除き、他の部分には最大星1つが与えられます(星1つは1ポイントに相当)。満点は10点で、結果は点数で示されます。スコアが7以上の研究は質が高く、4~6点は中程度の質の文献、残りは質の低い研究と考えられました。
統計処理
糖尿病と根管治療後の根尖性歯周炎の出現率との関連性についてはオッズ比と95%信頼区間を用いて評価しました。プールオッズ比を計算するために、固定効果モデル(Mantel-Haenzel method)とランダム効果モデル(DerSimonina and Laird method)を用いました。異質性I2が50%未満でP>0.1の場合、均質性は良好で各研究の異質性は無視できると考えられ、固定効果モデルを使用しました。それ以外、I2>50%またはP<0.1であればランダム効果モデルを使用しました。Stata SE 17.0を全ての統計解析に使用しました。結果はフォレストプロットとしました。糖尿病とコントロール群間の違いは、P<0.05であれば統計的有意差があるとしました。
加えて、Begger’s funnel plotsとEgger’s testを用いて出版バイアスを評価しました。関連する結果はファネルプロットで示しました。ファネルプロットが概ね左右対称であれば、組み入れられた研究の無作為化過程は良好であったと考えられます。有意な出版バイアスはない、または許容範囲内だったので、メタアナリシスの結果は正確でした。そうでなければ、有意な出版バイアスがありました。
結果
研究の特徴
図1に検索結果を示します。
検索に使用したキーワードについては追加のファイルにて提供しています。
最初の文献検索で262がピックアップされ、167が検索の重複のため除外されました。根尖性歯周炎と関連がなかったため、残った95の文献から35の文献が除外されました。さらに、19の文献がシステマティックレビューで、5つの文献がケースレポート、18の文献が動物実験またはin vitroの実験だったので除外しました。その他に10の文献ではデータが完全ではなく、著者に連絡を試みたものの、残念ながら返事はありませんでした。そのため、これらの文献も除外しました。加えて、レビューの引用文献のハンドサーチを行い、6つの文献が採用基準に該当しました。最終的に中国のデータベースに基づき1つの文献が追加されました。
本メタアナリシスにはトータルで15の研究を採用しました。この15の研究を、研究対象により2つのカテゴリ、歯レベルと患者レベルに分類しました。11の研究が歯レベルで、9つの研究が患者レベルでした。5つの研究で両方が行われていた(文献19、20、23、26、27)のは特筆すべきです。表1、2に15の文献の要約を示します。筆頭著者の名前、発行年、研究デザイン、サンプルサイズ、根尖性歯周炎の診断方法、糖尿病と根管治療後の根尖性歯周炎との関連性について記載しています。
定量的データ解析
表3と4に文献から抽出、要約したデータと、オッズ比、95%信頼区間、NOS(Newcastle-Ottawa Scale)を示します。検討した文献の中で、糖尿病と根管治療歯における根尖性歯周炎の発現に関連を示唆したものはたった4つだけでした。これらの文献では、糖尿病は根管治療の長期的アウトカムに影響を与える可能性のあるキーファクターであり、根尖性歯周炎リスクを上昇させる、と結論づけられています。対照的に、残りの11の文献は、関連性を否定しています。これらの研究では、性別、年齢だけでなく、糖尿病罹患期間も根尖性歯周炎の発生に影響しませんでした。しかし、これらの中でいくつか興味深い記載がありませいた。Falkは、糖尿病罹患期間が長い女性では根尖性歯周炎のリスクが高い事(p<0.05)を示唆しています。Rudranaikらは、2年間2型糖尿病患者の根管治療歯のフォローアップを行い、根管治療の成功率が根尖病変の大きさと有意に相関したと報告しています。根尖病変のサイズが3mmより大きいと、失敗確率が30%(p<0.05)と高くなりました。
8つの研究では2型糖尿病患者を用いており、1つの研究では1型糖尿病、3つの研究では1型、2型両方、残りの3つの研究では記載なしでした。1型も2型も相対的にはインスリン欠乏であるため、メタアナリシスでは区別しませんでした。
一方で、血糖値、術前根尖性歯周炎のありなし、研究デザインによりサブグループ解析を行いました。5つの文献では、血糖値が根管治療後の根尖性歯周炎に与える影響について言及しており、我々も解析しまとめました。このサブグルーブ解析には、252本、290人の被験者が含まれます。米国臨床内分泌学会の基準により、血糖値、またはHbA1cでコントロール良好群と不良群の2群にわけました。コントロール良好群は糖尿病と診断された患者で、HbA1c<6.5または空腹時血糖<7.0mmol/Lとしました。それ以外はコントロール不良群と判定しました。加えて、術前根尖性歯周炎の有無もサブグループ解析に使用しました。術前根尖性歯周炎を有している歯とは、術前のレントゲンで根尖部に透過像を有するものです。5つの研究で258人、342本が該当しました。第三に、縦断研究のデータを別々に抽出し、統合しました。
メタアナリシス
最終的に、1087人、2226本の歯がメタアナリシスに採用されました。歯レベルでは、糖尿病群1043本、非糖尿病群1183本でした。プールオッズ比から、糖尿病罹患者の根管治療後に根尖性歯周炎が発生する割合は、非糖尿病群と比較して1.51倍(95%信頼区間 1.22-1.87、p<0.01、I2=13.8%)となりました。患者レベルでも同様の結果となりました。糖尿病患者で根管治療を受けた332人、非糖尿病患者で根管治療を受けた755人を比較した結果、糖尿病患者における根尖性歯周炎の平均有病率は、非糖尿病群の3.38倍(95%信頼区間1.65-6.93、p<0.01、I2=72.9%)となりました。図2に全ての結果を示します。
プーズオッズ比は固定効果モデルとランダム効果モデルを使用して計算されました。歯レベルでは異質性が13.8%でp値が0.31だったため、固定効果モデルを用いました。患者レベルでは、異質性が72.9%であり、ランダム効果モデルを用いました。
加えて、3つのサブグループ解析を行いました。図3に結果を示します。
まず最初に、血糖値は根尖性歯周炎の有病率に影響を与えない結果となりました。図3A、Bに結果を示します。固定効果モデルで計算し、プールオッズ比は歯レベル1.65(95%信頼区間 0.92-2.94、P>0.05、異質性I2=47.8%)、患者レベル1.57(95%信頼区間 0.89-2.78、P>0.05、異質性I2=39.6%)であり、両方とも統計的有意ではありませんでした。
一方で、根管治療前に根尖性歯周炎がある場合、糖尿病は有意に根尖組織の治癒に影響しました。結果を図3C、Dに示します。歯レベルでは、術前根尖性歯周炎がある場合、糖尿病群は非糖尿病群と比較して3.23倍(95%信頼区間1.72-6.06、p<0.01)根尖周囲の治癒が悪い結果となりました。患者レベルでも同様に有意差(オッズ比3.93、95%信頼区間1.92-8.07、p<0.01)が認められました。異質性は有意ではなかったため、固定効果モデルを採用しました。
さらに、縦断研究のみ採用した場合にも、同様の関連が歯レベル、患者レベルにおいて認められました(歯レベル:オッズ比2.76、95%信頼区間1.72-4.42、p<0.01、患者レベル:オッズ比3.22、95%信頼区間1.31-7.90、p<0.05)。図3E、Fに結果を示します。歯レベルでは異質性は0%でp値は0.82だったため、固定効果モデルを採用しました。患者レベルでは異質性が69.9%だったため、ランダム効果モデルを採用しました。
質の評価
結果を追加表2に示します。15の研究のうち12が質が高く、全体の80%となりまsちあ。のこり3つは中程度の質であり、質が低いものはありませんでした。選択時にすべての研究は症例群とコントロール群を正確に定義しており、コントロール群の選択は症例群と質は同じでした。しかし、症例数が不足していました。
同様に、全ての研究は交絡因子についてコントロールされており、比較可能でした。すべての原著論文は、実験群と対照群に同じ研究方法を用い、暴露方法を注意深く記録し、研究結果を詳しく説明していました。注目すべき点は、5つの研究の無回答率に差があったことです。そのため、星1つを割りふっていません。
出版バイアス
潜在的な出版バイアスをBegger’s funnel plotとEggers’ testで評価しました(図4)。95%信頼区間の外側に落ちたり、底に落ちたりする点があるにもかかわらず、ファネルプロットは基本的に対称のままでした。
考察
過去の研究では、2型糖尿病と血糖値不良は有意に根尖性歯周炎と相関すると報告しています。しかし、糖尿病と、根管治療後の根尖性歯周炎有病率の関連性については未だに議論の対象であり、別の論文には別の観点があります。我々はさらなる調査のために、文献を収集、データを要約し、歯レベルと患者レベルにおいて2つの相関の強さを再評価しました。歯レベル、患者レベル両方において有意な相関を示しました。このことは、臨床家にとって、根管治療後の予後と根尖性歯周炎の有病率を評価するための指針となる意義を持つでしょう。
偶然にも、文献検索の一方で、2016年にJuan J. Segura-Egeaによって、糖尿病と根充歯におけるX線透過性根尖病変の有病率との関係を探るために、6つの論文が要約され、分析されていることがわかりました。プールオッズ比は1.42(95%信頼区間1.11-1.80、p<0.05)で、糖尿病が根充歯の根尖周囲透過像の発現を助長することが示されました。この研究は、根充歯におけるDMと根尖周囲透過像の関係を初めて明らかにしたものであり、重要な革新的要素を伴っています。しかし、サンプルサイズが小さく、誤差のリスクが大きいです。本メタアナリシスと比較すると、Juan J. Segura-Egeaの研究は6つの文献、歯レベルのみの解析ですが、こちらは15の文献で歯レベルに加えて患者レベルも解析しています。より重要なのは、様々なバイアスの影響を軽減するために、バイアス分析が行われたことです。そのため、私たちの結果の方がより信頼できると思います。
さらに、我々は糖尿病と根尖性歯周炎の関連性を検討した3つの他のシステマティックレビューとメタアナリシスを見つけました。これらを注意深く読んだ結果、Guptaらの研究では、9つの文献を採用しており、1つが患者レベル、8つが歯レベルでした。メタアナリシスでは、歯レベルのみが検討されました。我々は、患者レベルの文献を追加することでこの部分を補足し、糖尿病と根管治療後の根尖性歯周炎との関連性を決定するための独立したメタアナリシスを行いました。
次に、Pérez-Losadaらの研究には動物実験が含まれていました。これは我々の研究デザインに適合しませんでした。一方、ヒトを対象とした研究でこのレビューに含まれたのは、歯レベルでは2件、患者レベルでは4件のみでした。サンプルサイズが不十分えだり、バイアスリスクがあり不正確な結果が導かれた可能性があります。
最後に、Nagerndrababuらによる研究では、糖尿病は根管治療の術前予知因子と考えられる、と結論づけています。これは我々の知見と一致します。しかし、このアンブレラレビューにはシステマティックレビューしか含まれておらず、このうち2つの研究はメタアナリシスであり、具体的な価値を提供していますが、根管治療後の糖尿病と抜歯の確率について論じているのはそのうちの1つだけです。これは、我々の研究デザインとかなり乖離しています。しかし、これらの3つのレビューを我々のメタアナリシスで別個に論じませんでしたが、それでも我々はこれらのレビューが言及したすべての種類の文献を注意深く読み、スクリーニングを行い、統計解析のための包含基準を満たした研究を含めたことを宣言しておきます。
我々のメタアナリシスの結果と、原著論文の結果に乖離があることは記載しておくべきです。4つの論文のみが糖尿病と根尖性歯周炎に相関ありと報告し、残り11は相関なしと報告しています。理由を解析すると、11の論文のサンプルサイズが小さく、個々の値がトータルの結果に大きく影響し、不正確な結論に至ったのではないか、と我々は結論づけました。1つの研究と比較して、我々のメタアナリシスにはより多くの研究からのデータが含まれ、サンプルサイズが拡張、エラーの減少、より正確な結論に至りました。
同時に、我々はバイアス発生の調査と潜在的エラー減少のために質的解析を行いました。NOS(追加表2)は各原著のソースを示しており、図4はファネルプロットを示しています。NOSでは、80%の論文が質が高いと考えられ、質が低い物はありませんでした。これは、客観的に見てこのメタアナリシスの元データは正確であることを意味しています。交絡因子に関して、いくつかの論文では喫煙について厳密にコントロールしたり、循環器疾患を除外したり、コントロール群の選択を糖尿病群と一貫で行っていました。そのため、群間、群内で良好な比較可能性を有しています。本メタアナリシスのハイライトは以下の通りです。第1に、糖尿病群、非糖尿病群(コントロール群)は曖昧なコンセプトの妨害を排除するために明確に規定されました。第2に、糖尿病群とコントロール群の間には良好な一致が見られ、実験結果の分析には主観的要因の影響を避けるため、periodontitis apical indexやStrindberg criteriaなどの定量的データが用いられました。第3に、全ての原著論文では統計解析が行われ、主アウトカムが記載されていました。最後に、全てのサンプルを術前と術後のX線写真(デンタルまたはパノラマ)で比較しましたが、より説得力のあるものでした。しかし、この研究はいくつかのバイアスを有しています。例えば、英語以外で書かれた別の論文があるかもしれません。こういった論文の詳細な内容を理解するのは難しいです。それでも、最終的な結果には影響しないでしょう。加えて、いくつかの研究では、糖尿病群とコントロール群で非回答率に差があり、いくつかの研究では直接データ(著者が算出)を提供しておらず、8つの研究では追跡期間が3ヵ月未満でした。
一方で、我々は図4の95%信頼区間から外れているポイントもあることにも気付きました。議論後に、我々はこの現象は各研究の異質性によるものではないか、ということで一致しました。ファネルプロットの底にあるポイントは、他の研究よりもサンプルサイズが相対的に小さい事により説明できます。しかし、ファネルプロットのポイントの分布は大体対称であり、異質性と出版バイアスは許容できることを示しています。
加えて、根尖性歯周炎に与える血糖値の効果に言及している5つの論文がありますが、我々は血糖値が根尖性歯周炎の有病率に与える影響の有意性を見いだせませんでした。しかし、対象となった論文の数が限られていることから、結果を注意深く解釈するべきです。関連の強さを検討するためには、更なる研究が必要です。それいがいに、非常に残念なことに、データ不足のため両群の術前根尖性歯周炎のない患者について独立した解析を行うことができませんでした。
さらに、今回解析対象の15の論文のうち、7つが縦断研究、7つが横断、1つが後ろ向き研究であったことも記載しておかなければいけません。理論的に、今回採用した全ての論文の知見に基づき、糖尿病は根管治療歯の根尖性歯周炎の有病率に有意に相関する、ということだけを我々は結論づけることができます。しかし、7つの縦断研究のデータだけを別に抽出し、サブグループ解析を行った結果、糖尿病は根管治療歯において根尖性歯周炎のリスクファクターであることが示されました。
もう一つのポイントは、根尖性歯周炎の有病率に対する性別の影響を指摘する研究がいくつかあり、女性の方が根尖性歯周炎が多いことがわかりました。さらに、喫煙習慣と循環器疾患の既往が根尖性歯周炎発生に影響している事もわかりました(引用文献番号なし)。しかし、今回採用した論文の殆どはこれらの因子に言及しておらず、さらなるデータが解析には必要です。
本メタアナリシスから糖尿病が根尖性歯周炎有病率を上げる事がわかりましたが、そのメカニズムはいまだ報告されていません。しかし、歯周病と糖尿病の関連から推察することができます。20世紀終盤、歯周病は糖尿病の6番目の合併症と確認されました。Mealeyらによると、糖尿病群の歯周病発症リスクは、非糖尿病群と比較して約4倍であると報告されています。糖尿病と歯周病の双方向の関連性も報告されています。この2つの相互作用の発症メカニズムについては、糖尿病と歯周炎は同じ炎症因子、例えばIL-6やTNFαを共有していると指摘する論文もあります。糖尿病は、炎症因子の発現を上昇させます。すなわち、歯周病の増悪を加速します。同様に、歯周病の炎症応答が炎症因子のレベルを上昇させ、それが、糖尿病患者の血糖値レベルに悪影響を与えます。根尖性歯周炎は炎症性病変でもあり、根尖性歯周炎を有する患者から炎症因子が検出されるのが一般的です。
私たちは、この2つの疾患の発症機序の可能性を探るために文献の一部を検索し、動物モデルからヒントを得ました。Samuelは、糖尿病、非糖尿病ラットに根尖性歯周炎を発現させました。同時に、免疫分子(IL-6、IL-7、TNFその他)の同定を行い、非糖尿病ラットと比較して、糖尿病群では炎症浸潤が高度で、骨吸収領域が大きく、炎症性サイトカインが高いレベルにありました。Prietoらもラットの実験において、糖尿病は身体の抗酸化状態に変化をもたらし、血清中の尿酸値が上昇、アルブミン値が低下する事を報告しています。根尖性歯周炎が、ヒトのアルブミンレベル低下、尿酸値レベル上昇により糖尿病の効果を増強する可能性があることを思い出させます。
上記2つの関連性を元に、同様のプロセスがヒトにおいて糖尿病と根尖性歯周炎においても起こっていると推測します。糖尿病が根管治療後の根尖性歯周炎の有病率を増加するということは、以下の相互作用から説明できるかもしれません。(1)糖尿病の副産物はtoll-likeレセプターに直接結合し、IL-1などの炎症性サイトカインの増加を引き起こします。(2)糖尿病は骨芽細胞の活動に影響します。それにより根尖部の骨代謝に影響し、骨代謝バランスを破壊します。不利な反応全てが根尖部の炎症を増悪し、骨吸収と破壊を加速、糖尿病患者の根管治療歯に根尖性歯周炎を発現させます。これは、長期にわたる根尖部の骨破壊を引き起こします。大きな根尖病変の治癒がなぜ悪いかの説明にもなります。
本メタアナリシスにはLimitaionがあることを記載せねばなりません。最初に、手作業による文献検索では、ダウンロードするために更新が必要な原著論文もあり、サンプル数のロスが生じました。第2に、今回見つけた論文全てをメタアナリシスに採用したが、それでも1087人、2226歯でした。そのため、サンプルサイズは改善の余地があります。それ以外に、いくつかの論文ではオリジナルデータが欠損しており、性別、喫煙習慣、根尖の治癒基準などの、最終結果のバイアスとなりうる交絡因子を厳密にコントロールすることができませんでした。最後に、いくつかの論文では術後のフォローアップ期間が3か月以下であり、根尖領域の治癒期間が十分ではなく、実験結果にバイアスがかかった可能性があります。そのため、本結果は注意深く解釈するべきです。
最後に、今後の研究では、交絡因子が結果に及ぼす可能性のある影響を減らすために、交絡因子を厳密にコントロールしながらサンプルサイズを拡大するか、より異なるサブグループを使用することを提案します。
結論
非糖尿病群と比較して、糖尿病群では根管治療後の根尖性歯周炎の有病率が高くなりました。糖尿病は、根管治療に有害な影響を与えます。糖尿病は根管治療歯の根尖性歯周炎、特に術前根尖性歯周炎を有する歯と有意に関連しました。同時に、糖尿病は根管治療歯における根尖性歯周炎のリスクファクターであり、根尖領域の治癒不全を引き起こします。そのため、糖尿病患者では、もし何かあればすぐに対応出来るように、注意深く根尖周囲の経過を見守る必要があります。
まとめ
少し期間が空いてしまいましたが、今まで2016年、2020年のメタアナリシスを読んできました。今回は2023年であり、2020年のメタアナリシスの時にはなかった論文が追加されています。その多くが縦断研究であり、糖尿病が根尖性歯周炎発現のリスクファクターであることがサブグループ解析できるぐらいのサンプルサイズになっています。
2016年、2020年と徐々にサンプルサイズが拡大していますが、この3つのメタアナリシス全てで糖尿病と根管処置後の根尖性歯周炎の有病率は有意に相関しています。まあ引用している論文が被っていますので、同じ結論が導かれやすいのは確かですが、ここまで念を押されれば関連がないという結論にはならないでしょう。15論文のうち有意な関連を認めたのは4つだけで、11は有意差なしという結論でしたが、1つ1つのサンプルサイズが小さいため、メタアナリシスで統合すると関連があるという結果になったと考察されています。
これからは、どういった因果関係で糖尿病が根尖性歯周炎のリスクとなりうるのか?性差や喫煙、他の全身疾患などの関与などを踏まえた検討が必要になると考えられます。考察に記載されているのですが、喫煙が根尖性歯周炎発生と関連するというのは初めて知りました。これは論文を読む必要がありますね。