普通の歯科医師なのか違うのか

歯科衛生士による口腔衛生管理は施設入居高齢者の肺炎発症率を低下させる

2021/11/20
 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

待ちに待った論文がパブリッシュされました

口腔を綺麗にすることが肺炎リスクをさげる、という事の根拠に関する論文は1999年のLancetに載った米山先生の論文が有名なのですが、今の研究基準からすると研究サイズ、方法などに問題がなかったとは言えません。しかし、他にインパクトがあるものがなく、引用しつづけてきました。もうそれもやっと終わりです。新しい論文がやっとパブリッシュされました。

と書いて原文を読んだら緒言に同じ様な事が書いてありました。みな思う事は同じだったのです(苦笑)。

Pneumonia incidence and oral health management by dental hygienists in long-term care facilities: A 1-year prospective multicentre cohort study
Kaoko Hama,Yasuyuki Iwasa,Yuki Ohara,Masanori Iwasaki,Kayoko Ito,Junko Nakajima,Takae Matsushita,Takashi Tohara,Mayumi Sakamoto,Masataka Itoda,Ken Inohara,Yoshie Ozaki,Rikimaru Sasaki,Yasuhiro Nishi,Midori Tsuneishi,Junichi Furuya,Yutaka Watanabe,Yoshihiko Watanabe,Yuji Sato,Mitsuyoshi Yoshida
Gerodontology. 2021 Nov 9

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34750855/
PMID: 34750855

Abstract

Objective: To investigate the association between oral health management (OHM) by dental hygienists and the occurrence of pneumonia, and determine the effectiveness of OHM in pneumonia prevention.

Background: In long-term care facilities in Japan, the need for professional OHM is increasing with an increase in the number of severely debilitated residents.

Materials and methods: A 1-year prospective multicentre cohort study was conducted using data from 504 residents (63 men; mean age: 87.4 ± 7.8 years) in Japanese long-term care facilities. Basic information, medical history, willingness to engage in oral hygiene behaviour, need for OHM and oral conditions were investigated at baseline. In addition, information on the occurrence of pneumonia was collected using a follow-up survey after one year. A Poisson regression analysis with robust standard errors was conducted, with pneumonia as the dependent variable, and factors associated with OHM and pneumonia occurrence as explanatory variables.

Results: Overall, 349 (69.2%) residents required OHM by dental hygienists during that year of follow-up. Of those, 238 (68.2%) were provided with OHM, and 18 (7.5%) developed pneumonia. Among the 111 patients (31.8%) who were not provided with OHM, 21 (18.9%) developed pneumonia. The OHM group had lower pneumonia rates than the non-OHM group (prevalence rate ratio: 0.388; 95% CI: 0.217-0.694).

Conclusion: Oral health management by dental hygienists was associated with a lower incidence of pneumonia among residents of long-term care facilities, underlining the importance of professional OHM for such individuals. It is recommended that OHM be practised routinely in long-term care facilities.

目的:歯科衛生士による口腔健康管理(OHM)と肺炎発症の関連性について調査を行い、肺炎予防に対してOHMが効果的なのかを決定します。

背景:日本の介護施設では深刻な衰弱入居者が増加しており、OHMの需要が高まっています。

実験方法:1年間の縦断研究で、日本の介護施設の504名(男性63名、平均年齢87.4±7.8歳)の入居者によるマルチセンターリサーチを行いました。基礎情報、既往歴、口腔衛生への意欲、OHMの必要性、口腔の状態をベースライン時に診査しました。加えて、1年後までの肺炎発症に関するデータも収集しました。ロバスト標準誤差を用いたポアソン回帰分析を行いました。肺炎を独立変数、OHMと肺炎発症に関する要因を説明変数としました。

結果:最終的に349名の入居者に衛生士によるOHMが必要でした。そのうちOHMを行った238名中18名が肺炎を発症しました。OHMを行わなかった111名中21名が肺炎を発症しました。OHM施行群は非施行群と比較して有意に肺炎発症率が低下しました (prevalence rate ratio: 0.388; 95% CI: 0.217-0.694) 。

結論:歯科衛生士による口腔衛生管理は介護施設入居者の肺炎発症低下と関連しており、このような入居者へのOHMの重要性が示唆されました。介護施設でのルーチンなOHMが推奨されます。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

2018年に肺炎+誤嚥性肺炎が日本での死因3位になりました。口腔細菌の誤嚥は高齢者の肺炎の主な原因です。米山らは、日本のナーシングホームにて口腔清掃自立、または介護者による清掃が行われている入所者に対して歯科医師、歯科衛生士による専門的、機械的な口腔清掃が肺炎予防に効果的であったと報告しています。その結果、口腔衛生専門職による口腔健康管理は日本の介護保険システムのサービスとして含まれました。歯科医師の指導のもと、歯科衛生士は施設入居者に口腔衛生管理が行われています。口腔健康管理は、ナースが入居者を選択し、歯科衛生士が口腔衛生管理を月2回以上行い、介護スタッフにも指導を行う事を指します。このサービスは訪問診療を含みません。

米山が約20年前に行ってから、口腔ケアの必要性は介護施設入居者の増加により以前よりも重要なものになってきています。より介護が必要で、認知症に罹患しており、歯が残っている高齢者は20年前よりも増加しました。しかし、米山らの報告以来、しっかりした研究は行われてきませんでした。よって、私達は日本の介護施設において1年間のマルチセンター縦断研究を行いました。

実験方法

日本全国の介護施設を調査し、37施設が適合しました。2018年10月と2019年2月にベースライン調査を行いました。ベースライン調査1年後に22施設がフォローアップ調査に応じました。ベースライン時に非経口摂取、またはOHMの必要がないと判断された入所者は研究から除外されました。

ベースライン調査

質問表による調査
性別、年齢、BMI
既往歴(誤嚥性肺炎を含む肺炎、脳卒中、糖尿病、呼吸器疾患)
CDR
Barthel index
口腔衛生への意欲
歯科衛生士による専門的OHMを受けている

歯科衛生士による専門的OHMは施設スタッフが口腔内を適切に維持できない際に適供されると考えられます。施設看護師が老年歯科医学会のマニュアルに沿って入所者の専門的OHMの必要性を判断しました。最終的にOHMは入所者本人、家族の同意を得て行われました。

口腔内診査

訓練された歯科医師、歯科衛生士により口腔の診査が行われました。

残存歯数
食事時の義歯使用
OHAT-J
TCI(舌の汚れ)
ディアドコキネシス
改訂水飲みテスト
RSST

フォローアップ診査

施設スタッフにより1年後に以下のイベント情報が収集されました。
肺炎発症
入院とその理由
施設退所
死亡

統計解析

基本情報などに関しては、OHMが必要か否かに基づいて分類、比較されました。OHMが必要かどうかは看護師によって仕分けされ、入所者本人または家族の同意により提供されます。OHMが必要と判断された入所者はOHMを希望する群と希望しない群の2つの群に分割されました。群間の比較には連続変数ではt検定とMann-Whitney U検定を、カテゴリーではクロス集計とχ2検定を用いました。

肺炎発症リスクを解析するために、ロバスト標準誤差を用いたポアソン回帰分析を用いました。主な暴露変数はOHMの提供の有無です。年齢、性別、Barthel index、BMI、CDR、脳卒中、呼吸器疾患などを調整しました。多重共線性の可能性を検討するために、各因子間の相関を確認しました。複数の施設からデータを収集したため、マルチレベルモデルと、同じ予測因子を含むシングルレベルモデルを比較して尤度比検定を行いました。アウトカムの発生率が高い場合、ロジスティック回帰では関連性のリスクが過大評価される可能性があるため、ロバスト標準誤差を用いたポアソン回帰モデルを用いました。有意水準は5%としました。

結果

ベースライン時には37施設889名の入所者でしたが、1年後のフォローアップ時には22施設の525名となりました。そこから21名が経管栄養で155名がOHMが必要ではなかったため除外され、最終的に349名の被験者が経口摂取+OHMが必要な群となりました。

238名のOHM施行群中18名が、111名のOHM非施行群中21名が肺炎に罹患しました。155名のOHMが必要なかった群では22名が肺炎に罹患しました。

表1にベースライン時の各群の特徴を示します。OHMが必要な群はOHMが必要ではない群と比較して、有意にBarthel indexが低い、BMIも低い、口腔ケアへの意欲が低い、OHAT-Jスコアが低い結果となりました。

表2には、OHMが必要だが同意が得られず行わなかった群と施行した群との比較を示します。OHMを施行されている入所者は、OHMを施行しなかった入所者よりも、1年後の肺炎発症率とTCIが有意に低い結果となりました。

OHMが必要と判断された349名を肺炎発症群と非発症群に分割して比較した結果、発症群はBarthel Indexが有意に低く、OHMが施行されておらず、TCIが高い結果となりました。

ポアソン回帰分析の結果を表4に示します。マルチレベルモデルと、同じ予測因子を含むシングルレベルモデルを比較した尤度比検定の結果は有意ではなかった(P = 0.18)ため、シングルレベルモデルを使用しました。OHMの提供により、肺炎発症のRRは有意に低くなりました(0.37、95%CI:0.21-0.67)。また、歯の本数は肺炎発症率と関連していました(RR:1.05、95%CI:1.01-1.08)。各因子間にr≧0.6の相関は認められませんでした。

考察の一部

20年前にも本研究と同様の研究がありましたが、被験者は本研究と比べて残存歯が少なく、若く、ADLは高い状況でした。我々の研究の被験者は、ADL、認知症の割合、残存歯数、肺炎発症率などで最近10年の日本の介護施設入所者とほぼ同じでした。日本の介護施設における要介護度は高まっており、口腔ケアの履行はより難しく、肺炎リスクは高まっています。肺炎発症率は本研究で低下しました。日本の介護施設を対象とした先行研究とは対照的に、本研究では肺炎の発生率が低い結果となりました。したがって、入居者の現状を考慮すると、肺炎予防のために提供されるケアは改善されていると考えられます。しかし、歯数の増加や重度の認知症患者の増加による口腔衛生を受けたくない人や行いたくない人の増加などの要因による口腔衛生の変化が予想されることから、介護施設居住者に対して専門的なOHMの提供を増やす必要があると考えられます。今回の研究結果が示すように、LTC施設における肺炎の発生を予防するためには、専門的なOHMを必要とする人を特定し、適切に介入することが必要です。虫歯や歯周病を予防し、OHMを推進するための対策を講じることが必要です。

OHMを必要とした参加者は、専門的OHMを必要としなかった研究参加者に比べ、年齢が高く、OHMの介入率が高く、OHAT-JおよびTCIスコアが低い結果となりました。さらに、OHMを必要とした入所者の3分の2以上が、すでに歯科衛生士によるOHMを受けており、このことがOHATとTCIスコアの低下につながったと考えられます。また、OHMを必要とした参加者は、OHMを必要としなかったグループに比べて、BI、BMI、口腔衛生の受診・実施意欲が低い結果でした。このように、歯科衛生士による専門的なOHMの必要性は、看護師によって評価されており、この評価は概ね正確であることが示唆された。我々はまた、(歯科医師以外の専門家が口腔内の評価に用いることが多い)OHATと肺炎との関連を調べるとともに、肺炎の口腔内危険因子を明らかにしたいと考えました。しかし、OHATと肺炎罹患率との間には関連性が認められなかったため、肺炎リスクのスクリーニングにはさらなる検討が必要です。

OHMを受けた被験者と受けなかった被験者の一般的な特性(BI、BMI、CDRなど)には差がありませんでした。しかし、OHMを受けた患者の肺炎の発生率は、口腔衛生状態の評価に用いられるTCIと同様に、有意に低い結果でした。舌の細菌数と肺炎の関連性は以前にも報告されており(文献26)、我々の過去の研究では、口腔ケアが舌の細菌数を減少させることがわかっています(文献27)。本研究では、OHMを受けた参加者は潜在的に口腔内の細菌数が少なく(TCIが低いことで示される)、その結果、肺炎の発生率が減少したのではないかと考えられます。さらに、我々は、舌苔の発生が口腔機能の低下と関連しているという仮説(文献28)を立て、口腔機能へのアプローチが口腔衛生の重要な要因であると考えています。プロフェッショナルOHMには、口腔衛生を重視した口腔内の付着物除去を目的とした口腔ケアだけでなく、機能面を重視した口腔ケアも含まれます。したがって、歯科衛生士によるOHMの実施により、口腔機能が向上し、舌苔の付着量が減少したと考えられます。

日本の全国的な介護サービスによる専門的なOHMの提供率(2018年10月で8.92%)は、本研究の504名の参加施設で確認された提供率(47.2%)とはかなり乖離しています。これは、参加施設が日本老年歯科医学会の会員であったためと考えられます。このバイアスの影響を軽減するために、できるだけ多くの住民の参加を求め、先行研究よりも大きなサンプルサイズを実現しました。

この結果には、22のLTC施設のすべての居住者のデータが含まれていないことに留意する必要があります。参加に同意しなかった入所者や、誤嚥性肺炎のリスクが高い入所者は除外されました。非経口摂取者も口腔機能を維持・改善することではなく、口腔衛生を管理することが主目的であるという理由で除外されました。経口摂取者に対するOHMの主な目的の一つは、経口摂取を維持するための口腔機能の維持・向上であり、非経口摂取者とOHMの目的が異なるため,非経口摂取者は分析対象から除外しました。

専門家によるOHMの必要性は各施設の看護師が判断しました。この評価は、施設の環境やスタッフのOHMの能力に影響される可能性があります。OHMの必要性を判断する基準が、すべての施設で一貫して適用されていなかった可能性はあります。今後は、OHMが必要な人の評価基準を標準化が必要です。さらに、OHMで提供されるサービスは、入所者の状態に応じて提供され、サービスを提供する歯科衛生士の裁量で行われる、個別性の高いものです。LTC施設におけるOHMの提供についてさらに情報を提供するためには、投薬データ、歯科受診、肺炎予防に関連するその他の医療・介護サービス、ケアの種類・時間・頻度などのサービスの詳細についての研究が必要です。

まとめ

口腔衛生管理が必要であり実施した群と、必要であるが実施しなかった群で交絡を調整しても1年以内の肺炎発症リスクがかなり違うという結果になりました。95%領域を考慮しても明らかに差が大きいです。

残存歯数に関しては多いほうが肺炎リスクが高くなる、ということですが、RRが小さいからか、残存歯がどういう状況か加味されていないからか、考察では触れられていませんでした。
要介護者の残存歯は虫歯が進行していたり、進行しすぎて折れたり、歯周病が進行していたりと感染リスクが高い状況になっている場合も多いこと、手指の巧緻性が低下して本数が多いほどセルフケアがやりづらくなる事などが考えられますが、それはまた検討が必要かと思います。

1年後までのフォローですが、フォロー期間にもOHMがしっかり継続されていたかが評価されたのか、この論文からよくわかりませんでした。OHMの効果を評価するなら、ここは気になる所です。

しかし、口腔ケアのエビデンスってどういうものがあるの?と聞かれて20年前の論文ぐらいしか出せない状況から、今風にしっかりモディファイされてしっかり結果が出たこの論文を引用できるようになった事を大変喜んでおります。

追記(2021/11/20):最初の論文では結果の表と文章で数字が異なる所がありましたが修正されました。現在入手できる論文のPDFは修正されたバージョンとなります。著者の先生方の迅速な対応、誠に感謝いたします。

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東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
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