多数歯欠損の高齢者は蛋白質摂取量が減少するが、補綴物使用群では減少が軽減する
義歯のケアに関する論文をここ最近ずっと読んできましたが、やっと原稿がある程度形になりましたので、別ジャンルを読んでいくことにします。
Dental prosthesis use is associated with higher protein intake among older adults with tooth loss
Taro Kusama , Kenji Takeuchi , Sakura Kiuchi , Jun Aida , Hiroyuki Hikichi , Satoshi Sasaki , Katsunori Kondo , Ken Osaka
J Oral Rehabil. 2023 Jul 2. doi: 10.1111/joor.13554. Online ahead of print.
PMID: 37394871
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37394871/
Abstract
Background: Tooth loss is associated with reduced protein intake, which leads to sarcopenia and frailty in older adults.
Objective: To evaluate the protective effect of dental prostheses on decreased protein intake in older adults with tooth loss.
Methods: This cross-sectional study was based on a self-reported questionnaire targeting older adults. Data were obtained from the Iwanuma Survey of the Japan Gerontological Evaluation Study. We used % energy intake (%E) of total protein as the outcome and the use of dental prostheses and number of remaining teeth as explanatory variables. We estimated the controlled direct effects of tooth loss by fixing the use/non-use of dental prostheses based on a causal mediation analysis, including possible confounders.
Results: Among 2095 participants, the mean age was 81.1 years (1SD = 5.1), and 43.9% were men. The average protein intake was 17.4%E (1SD = 3.4) of the total energy intake. Among participants with ≥20, 10-19 and 0-9 remaining teeth, the average protein intake was 17.7%E, 17.2%E/17.4%E and 17.0%E/15.4%E (with/without a dental prosthesis), respectively. Compared to participants with ≥20 remaining teeth, those with 10-19 remaining teeth without a dental prosthesis did not have a significantly different total protein intake (p > .05). Among those with 0-9 remaining teeth without a dental prosthesis, total protein intake was significantly low (-2.31%, p < .001); however, the use of dental prostheses mitigated the association by 79.4% (p < .001).
Conclusion: Our results suggest that prosthodontic treatment could contribute to maintaining protein intake in older adults with severe tooth loss.
背景:歯の喪失は、高齢者においてサルコペニアとフレイルの可能性を高める蛋白質摂取量の減少と関連があります。
目的:欠損歯を有する高齢者の蛋白質摂取量の減少に対して、補綴物が保護的な効果を有するか評価する事です。
方法:本研究は高齢者を対象とした自己回答式質問表を用いた横断研究です。JAGESである岩沼スタディからデータを得ました。アウトカムとして総蛋白のエネルギー摂取%(%E)を、説明変数として補綴物の使用と残存歯数を用いました。可能性のある交絡因子を含めた因果関係媒介分析に基づき、歯科補綴物の使用/不使用を固定することによる歯の喪失の制御された直接的影響を推定しました。
結果:被験者は2,095名であり、平均年齢は81.1±5.1歳で43.9%が男性でした。平均蛋白摂取量はそう寝るギー摂取量の17.4±3.4%Eでした。20本以上残存歯がある群では17.7%E、10~19本群で補綴物有り17.2%E、補綴物無し17.4%E、0~9本群で補綴物あり17.0%E、補綴物無し15.4%Eでした。20本以上群と比較すると、10~19本群の補綴物無し群は有意差を認めませんでした。0~9本群の補綴物無しでは総蛋白摂取量は有意に低い結果となしましたが、補綴物の使用により関連性は79.4%緩和されました。
結論:我々の結果から、補綴治療が多数歯欠損の高齢者において蛋白質摂取の維持に寄与している可能性が示唆されました。
ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください
緒言
低蛋白質摂取は、高齢者には重大な栄養上の問題です。世界的な高齢化とともに、フレイルやサルコペニアなど加齢に関連した疾患の健康負担が増加しています。これらの疾患は、認知症や死亡などといった次の健康上の問題も引き起こします。フレイルとサルコペニアの主要リスクファクターの1つが低蛋白質摂取です。加齢と筋蛋白合成低下により、高齢者において骨格筋量を維持するためには、動物性、植物性蛋白両方が重要な量必要です。そのため、フレイルやサルコペニアを防ぐために適切な日々の蛋白質摂取が重要です。
歯の喪失のような、口腔環境の悪化は栄養摂取に大きな影響を与えます。歯の喪失は世界中で蔓延している健康上の問題で、その割合は不可逆的な特性上、加齢に伴い増加します。過去の研究で、高齢者で残存歯が少ないほど、総蛋白摂取量低下と関連する事が示されました。しかし、かれらは蛋白質を動物性と植物性に分類しませんでした。過去の研究で、筋肉合成には動物性蛋白の方が植物性蛋白よりも優位である事も示されました。さらに、歯の喪失による低栄養に対して補綴物が保護的な効果があることも示されました(文献16)が、歯の喪失による低蛋白質摂取にも、補綴物が保護的な効果があるのかを調べた研究はありません。
歯の喪失が蛋白質摂取に与える影響を動物性、植物性蛋白で分類する事は可能です。さらに、補綴物の保護的効果が動物性、植物性蛋白質摂取に与える影響はよくわかっていません。本研究の目的は、(1)残存歯の喪失と、総蛋白、動物性、植物性蛋白質摂取との関連性、(2)高齢者の歯の喪失による、低蛋白質摂取に与える補綴物の保護的効果の割合、を評価する事です。最後に、本研究の仮説は、「残存歯数、補綴物の使用と蛋白質摂取は関連性がない」です。
実験方法
自己回答式質問表をベースとした横断研究です。2019年に行われた岩沼スタディからデータを使用しました。このスタディは、65歳以上を対象とした国家規模のコホート研究であるJAGESのサブコホートにあたります。宮城県岩沼市で調査されました。質問には、栄養摂取、口腔の健康、身体状況、社会経済的状況などがありました。栄養摂取についての質問は、2010年の岩沼調査に参加した被験者のみに送られたので、本研究の被験者は74歳以上となります。2010年の質問表は、2019年のものとは部分的に異なり、栄養摂取についての質問が含まれていませんでした。そのため、本研究のデザインは横断となります。質問表は郵送され、参加に同意した場合、調査者はお宅を訪問し質問表を回収しました。年齢と性別が自治体の記録と異なるデータは除外しました。また、認知症と報告されたデータも除外しました。
アウトカム
総蛋白、動物性、植物性蛋白質摂取量をアウトカムとしました。蛋白質摂取量は簡易型自記式食事歴
法質問票(BDHQ)で取得しました。日本の成人に対するBDHQの妥当性はすでに確認済みです。これには58種類の食品が含まれ、蛋白質を含む栄養素摂取量をアルゴリズムを元に推定します。総蛋白、動物性、植物性蛋白質の摂取量が、総カロリー摂取の割合(%E)で表現されます。動物性蛋白は魚、肉、卵、乳製品などに含まれる蛋白質と定義されます。植物性蛋白は、穀物、じゃがいも、砂糖、豆類、野菜、フルーツ、菓子、飲料、調味料に含まれる蛋白質と定義されます。菓子類に含まれる動物性蛋白質は、牛乳やチーズなどの乳製品に含まれていますが、製品によっては含有量が報告されていないため、植物性タンパク質に分類しました。
説明変数
残存歯数と補綴物の使用を説明変数としました。残存歯数に関しては、被験者に「天然歯が何本ありますか?」と質問し、被験者は0、1~4、5~9、10~19、20本以上の中から選択しました。それを0~9、10~19、20本以上に再分類しました。補綴物の使用に関しては、被験者に「義歯またはブリッジ、インプラントを使っていますか?(複数回答可)」と質問し、被験者はなし、義歯、ブリッジ、インプラントから選択しました。補綴物を使用していると答えた被験者は、補綴物使用群に分類しました。私達は、残存歯数と補綴物使用を組み合わせて、20本以上残存歯あり、10~19本残存歯+補綴物使用、10~19本残存歯+補綴物使用無し、0~9本残存歯+補綴物使用、0~9本残存歯+補綴物使用無し、の5つ変数を設定しました。
共変量
以前の研究と臨床的知見を元に、我々は、可能性のある交絡を共変量として選択しました。性別(男/女)、年齢(74-79/80-84/85以上)、収入(200万円以下/200~399万円/400万円以上)、教育歴(9年以下/10年以上)、疾患(脳梗塞、糖尿病、がん)、結婚(配偶者あり/なし)、生活状況(独居/独居ではない)、ADL(よい/悪い)、喫煙歴(なし/以前/現在)、飲酒(なし/以前/現在)。加えて岩沼市は東日本大震災後の津波被害を受けており、住民の健康状態は地震により影響を受けていると考えられました。そのため、東日本大震災後の家の被害状況を共変量に加えました。
統計解析
線形モデルを採用し、総蛋白、動物性、植物性蛋白質摂取量の%Eの差と95%信頼領域を推定しました。蛋白質摂取と残存歯数、補綴物使用の関連性を評価するために2つのモデルを使用しました。まず1つ目は残存歯数と補綴物使用を組み合わせたモデルで、2つ目は残存歯数と補綴物使用の相互作用を考慮し、参加者全員が補綴物を使用している場合と使用していない場合の残存歯数とタンパク質摂取量との関連を調べました。2つ目のモデルでは、因果関係媒介分析の枠組みによる統制された直接効果に基づいて推定値を算出しました。また、補綴物の有無の条件下で推定値を比較し、残存歯の少なさがタンパク質摂取に及ぼす負の影響が、補綴物の使用によってどの程度緩和されるかを推定しました(歯科補綴の使用によって解消される割合)。選択バイアスを減少させるために、多重代入法を行いました。元データは、連鎖方程式による多変量代入法を用いて、すべての変数を主解析に含めて代入され、50の代入データセットが作成されました。インプットされたデータセットから得られた各推定値は、Rubinのルールに基づいて結合されました。感度分析のために、完全症例分析も行いました。すべての解析は性層別化データを用いて行いました。すべての統計解析にStata/MP version 17.0(Stata Corp.)を使用しました。
結果
被験者の採用について図1に示します。質問表を2868名に配付し、2324名から回答がありました(回答率81.0%)。同意を得られなかった113名、年齢や性別が不適切だった30名、認知症である86名を除外し、2095名が本研究に参加しました。平均年齢は81.1±5.1歳(74~103)、43.9%が男性でした。
多重代入法を行い、506名の被験者の欠落データに代入されました。表1に多重代入法後の被験者の特性を示します。
総蛋白、動物性蛋白、植物性蛋白の平均摂取量の総エネルギーに対する割合はそれぞれ17.4±3.4%E、10.1±3.7%E、7.2±1.3%Eでした(表2)。総蛋白、動物性蛋白、植物性蛋白の総エネルギーに対する割合は女性よりも男性の方がわずかに低い結果となりました。残存歯0~9本で補綴物を使用していない群が、他の群と比較して最も蛋白質の摂取量が低い結果となりました。
残存歯数と補綴物の使用を組み合わせた線形モデルの結果を表3に示します。総蛋白摂取は20本以上残存群と比較して、10~19本残存で補綴物使用群、0~9本残存で補綴物使用群、0~9本残存で補綴物未使用群で有意に低下しました。動物性蛋白質もほぼ同様な結果を認めました。植物性蛋白質については、どの群でも統計的有意差を認めませんでした。性層別分析は、全体の結果と同様な結果を示しました。
表4に補綴物使用、未使用による全ての患者の推定値を示します。補綴物使用の有無に関係なく、10~19本残存群では、20本以上残存群と比較して、総蛋白、動物性蛋白、植物性蛋白全てで有意差を認めませんでした。しかし、残存歯0~9本、補綴物未使用群は、20本以上残存群と比較して有意に総蛋白質摂取量が少ない結果となりました。一方で、補綴物を使用している場合には、未使用よりも推定総蛋白質摂取量の減少は軽度でした。0~9本残存群で、補綴物未使用の場合には、使用している群と比較して79.4%総蛋白質摂取量が減少しました。動物性蛋白質においても動揺の結果が認められ、71.2%の減少を認めました。植物性蛋白質については、20本以上残存群と比較して、10~19本残存群、0~9本残存群で統計的な有意差を認めませんでした。
表5に性層別分析の結果を示します。全体の結果と同等な結果となりました。
考察
今回の結果から、高齢者において0~9本しか残存歯がないという事は、20本以上残存歯がある場合と比較して、総蛋白と動物性蛋白摂取量が少なくなる事が示唆されました。補綴物の使用は総蛋白、動物性蛋白質摂取量の減少をそれぞれ77%、68%軽減しましたが、植物性蛋白質については、残存歯数や補綴物使用で有意差を認めませんでした。
過去の研究では、残存歯数の減少は蛋白質摂取量の減少と関連しており、この発見は今回の結果とも一致しています。補綴物使用について考慮されていない過去の研究においても、残存歯数の減少は動物性蛋白質摂取減少とは関連するが、植物性蛋白質とはしないことが報告されています。今回、補綴物使用を考慮し、過去の研究と同じ傾向を観察しました。蛋白質摂取に対する補綴物使用効果について、高齢無歯顎患者の義歯ありなしにフォーカスした過去の研究では、栄養所要量を満たしていない蛋白質摂取の割合は、義歯ありの方が義歯なしよりも低い結果でした。我々の結果はこれらの知見に追加しました。10~19本残存は義歯使用にかかわらず、蛋白質摂取の推定値は負の値を示しましたが、統計的有意差は認められませんでした。一方で、0~9本残存は、総蛋白質、動物性蛋白質摂取量低下と有意に相関し、補綴物使用で低下量が軽減しました。
歯の喪失と蛋白質摂取量低下のメカニズムは以下の様に説明されています。「歯の喪失は咀嚼能力の低下と相関し、咀嚼能力の低下により食品選択が制限され低蛋白摂取になります。」しかし、今回の結果から20本以上残存群と10~19本残存で補綴物使用無し群では蛋白質摂取量に有意な差を認めませんでした。加えて、過去の研究では機能歯数が咀嚼能力と強く相関したと報告しています。そのため、10~19本残存している人達にはある程度小臼歯や大臼歯が残っており、機能歯が温存され、咀嚼能力が20本以上残存群とあまり変わらなかったと考えられます。しかし、0~9本残存では、殆どの大臼歯や小臼歯が喪失し機能歯が殆どなく、咀嚼能力の低下が起こりました。
今回、残存歯数が少ないと動物性蛋白質の摂取量が有意に減少しました。しかし、植物性蛋白質では有意差を認めませんでした。過去の研究では、咀嚼能力の低い人は、穀類を除くほとんどの食品群の摂取が制限されることが報告されています。上記の通り、ある研究では、咀嚼能力は、残存歯数と機能歯数と強く相関しました。加えて、穀類は植物性蛋白源であり、本研究では残存歯数による植物性蛋白質摂取減少を認めませんでした。一方で、肉のような動物性蛋白を含む食品は、他の食品と比較して咀嚼しづらく、歯を喪失した人達は食品摂取を制限されていると考えられます。
過去のメタアナリシスでは、義歯、ブリッジ、インプラントを含む補綴物は、歯の喪失による咀嚼能力を改善する事ができると報告しています(文献28~30)。そのため、今回の研究から、補綴物の使用は咀嚼能力を回復し、残存歯数が少ない人の総蛋白、動物性蛋白質の摂取量減少を軽減すると考えられます。しかし、回復の程度は補綴物の種類により異なりました。加えて、10~19本残存の場合補綴物の使用と蛋白質摂取量は負の関係となりました。この結果は、10~19本残存の人は、補綴物を使用している人が、使用しなかった人に比べて残存歯数が少なかった可能性があるためと考えられます。そのため、補綴物を使用していない人は、より多くの機能歯とよい咀嚼能力を有しており、今回の結果となった可能性が考えられます。加えて、本研究では、残存歯数、機能歯数、補綴物の種類など歯列の状態を詳細に評価していません。10~19本群の逆転現象について明確にするために、より臨床診査を行った研究が行われる必要があります。
臨床的な視点では、補綴治療は歯の欠損を有する高齢者の蛋白質摂取量を維持し、フレイルやサルコペニアを予防する効果的な治療オプションである事が示唆されました。しかし、補綴物を新しくするだけでは食を改善する事は出来ず、補綴物をセットする際に歯科専門職が咀嚼指導を行う必要がある事が知られています(文献31)。公衆衛生的な視点では、過去の研究から高齢者の歯科受診と補綴物使用は、社会経済的な格差があることがわかっています。そのため、全ての人が適切な歯科治療を受けられる口腔のヘルスケアシステムが必要です。しかし、今回の結果の頑健性を検証するためには、コホートデザインを用いた今後の研究が必要です。さらに、われわれの研究はいくつかの強みを持っています。まず、この研究は多くの被験者と高い回答率を有しており、再現性に貢献しています。第二に我々の結果は以前の知見と一貫性があり、今回の知見の互換性(transportability)に繋がっています。
結論
本研究では、高齢者において重度な歯の喪失が総蛋白、動物性蛋白質摂取量の減少と相関していました。しかし、重度の歯の喪失による蛋白質摂取量減少は補綴物使用により軽減されました。補綴治療は残存歯数が少ない高齢者において、蛋白質摂取の減少とその後の健康問題を予防するかもしれません。
まとめ
多重代入法という方法ですが、初めて知りました。こういった解析方法はわからないだらけで適切かどうかを判断する能力が自分にはありません。勉強しないとなと思いながらもできていません。
今回は考察にも書いてあるとおり、アンケート調査なので、残存歯数、補綴物の使用などについて口腔内を歯科専門職が診査していません。また、横断研究のため、補綴物を入れたら蛋白質摂取量が増えるかどうかについての因果関係については明確ではありません。ここらへんは今後の検討課題という事かと思います。しかし、2000人を越える規模の大きい調査の結果、ここまで有意差がしっかりでるとなると、多数歯欠損を放置しておくのは好ましくないのは確かでしょう。補綴治療の必要性について1つの知見を与えるものかと思います。
次はこの論文の参考文献31を読もうと思っていたのですがMDPIでした。ということで今現在次に読む論文はまだ決まっておりません。