普通の歯科医師なのか違うのか

口腔と全身の関連性に関する現在のエビデンス状況(Scoping review 2021)

2021/10/18
 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

論文探しならもうScoping review読んだ方が早い?

ずっと忙しかったのですが、少し落ち着いてきたので文献を読むのを再開します。内容はがらっと変わって高齢者系に戻ります。文献のストックが切れた分野なので、まずは文献検索からと思っていたら、以前受けた講演会のレジュメに丁度良さそうな論文を見つけました。

今回は2021年カナダでのScoping reviewとなります。純粋なレビューとは違い、どれぐらい文献があるかという調査ですので、論文の質に関しては検討されていません。フリーで読む事ができます。

Impact of Poor Oral Health on Community-Dwelling Seniors: A Scoping Review
Rana Badewy , Harkirat Singh , Carlos Quiñonez , Sonica Singhal 
Health Serv Insights. 2021 Jan 21;14:1178632921989734.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33597810/

Abstract

The aim of this scoping review was to determine health-related impacts of poor oral health among community-dwelling seniors. Using MeSH terms and keywords such as elderly, general health, geriatrics, 3 electronic databases-Medline, CINAHL, and Age Line were searched. Title and abstracts were independently screened by 3 reviewers, followed by full-texts review. A total of 131 articles met our inclusion criteria, the majority of these studies were prospective cohort (77%, n = 103), and conducted in Japan (42 %, n = 55). These studies were categorized into 16 general health outcomes, with mortality (24%, n = 34), and mental health disorders (21%, n = 30) being the most common outcomes linked with poor oral health. 90% (n = 120) of the included studies reported that poor oral health in seniors can subsequently lead to a higher risk of poor general health outcomes among this population. Improving access to oral healthcare services for elderly can help not only reduce the burden of oral diseases in this population group but also address the morbidity and mortality associated with other general health diseases and conditions caused due to poor oral health. Findings from this study can help identify shortcomings in existing oral healthcare programs for elderly and develop future programs and services to improve access and utilization of oral care services by elderly.

このScoping reviewの目的は地域在住高齢者の口腔内環境の劣悪さが全身的に影響を与えるかを決定することです。データベースを検索し131の文献が基準をクリアしました。これらの研究の多くが縦断研究(77%)で日本で行われたもの(42%)でした。16の全身的な健康アウトカムに分類され、死亡(24%)とメンタルヘルス(21%)が最も一般的な口腔環境と関連したアウトカムでした。90%の研究が高齢者の劣悪な口腔内環境が全身状態悪化のリスクを高める可能性があると報告しています。高齢者において口腔ケアサービスへのアクセスを改善する事は、口腔疾患自体を減少するだけでなく、口腔に関連した全身疾患や状態に関連した罹患率や死亡率にも対処する事ができます。本研究で得られた結果は、高齢者向けの既存の口腔ケアプログラムの欠点を明らかにし、高齢者の口腔ケアサービスへのアクセスと利用を改善するための今後のプログラムやサービスの開発に役立ちます。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

背景

高齢化が世界で急速に進行しています。寿命の延伸と出生数の低下が主な原因です。カナダも例外ではありません。高齢者はより多くの天然歯を有するようになりましたが、口腔衛生上のニーズは満たされていません。高齢カナダ人において口腔衛生が劣悪であると、全身状態が悪化するリスクが高いことが報告されています。

口腔衛生状態が悪いと、循環器疾患や代謝系疾患、炎症性疾患、精神疾患、そして死亡率の上昇に繋がっていきます。さらに、口腔の健康が関連する状態から起こるかもしれない色々な障害によりQOLが低下します。

地域在住高齢者と入所高齢者では状態がかなり違う可能性があるため、今回は地域在住高齢者を対象とすることにしました。

実験方法

2019年5月~8月にかけて表1の手法を元にレビューを行いました。
Question:地域在住高齢者において口腔の健康状態が悪いとどのような全身に関連した影響があるのか?

今回のレビューでは主観的、客観的に地域在住高齢者における口腔の状態が全身に与える影響を包括的な理解するようにしました。そのため、広いqusetionが重要です。今回のレビューでは研究の質の評価は行われていません。

論文の抽出条件ですが、表2に示す通りになります。研究のデザインですが、横断とコメント以外は全てOKとなっています。英語論文で2000年以降にパブリッシュされたOECD加盟国での研究に限定されています。

MEDLINE、CIHAHL、AgeLineの3つのデータベースを検索しました。検索キーワードの例についての表がありましたが、かなり長いですし、フリーで読めますので割愛します。

論文選択の流れは以下の様になります。

ピックアップした論文データを抽出して、研究デザイン、研究を行った国、被験者の性質、発行年、暴露変数とアウトカム、結論などを分類しました。

結果

最終的にピックアップした論文は131本でした。

主題分析

口腔内の状態を示唆する指標としては最も多く使用されていたのが、歯周病と歯の喪失でした。その他の指標に関しては表4参照です。

高齢者の口腔状態と一般的な健康との因果関係に関するエビデンスは、16の一般的な健康指標に主に焦点が当てられています。

今回の私達のQuestionに基づくと、観察研究が最も適した研究デザインであると考えられます。それが今回のレビューで集められた全ての研究が観察研究であった理由でしょう。RCTは1つもありませんでした。131の研究中103が縦断研究、16がケースコントロール、12が後ろ向きコホート研究でした。システマティックレビューは1つもありませんでした。日本における研究が42%、アメリカが21%で、残り37%はフィンランドやイギリスなどでした。

被験者の性質に関しては、6つが高齢男性を、3つが高齢女性を対象としていた以外は性別は特に制限を設けていませんでした。13の研究は60歳代以上を含む他野年齢階層も含まれていましたが、データを分離可能でした。19の研究では50代以上の被験者でした。

アウトカム

全身状態のアウトカムは以下の16:死亡、精神疾患、身体の健康状態+姿勢の安定性、循環器系疾患、栄養状態、OHRQoL、腎疾患、がん、炎症性疾患、健康にかかるコスト、代謝性疾患、骨疾患、脳血管疾患、総合的な健康状態、呼吸器疾患、肝疾患

1)死亡
高齢者において口腔環境の劣悪さが死亡リスクの上昇の予知因子となりうるかを34の研究が検討しています。循環器疾患による死亡リスクを検討した6つ、肺炎による死亡リスクを検討した4つ、がんによる死亡リスクを検討した2つを除き、全ての死亡リスクを取り扱っています。最も多いのは日本の研究で18本でした。33本が縦断研究でフォローアップ期間は1~23年でした。
口腔環境の劣悪さを歯の喪失、嚥下障害、歯周病、最大咬合力、無歯顎にて表現した論文の多くで死亡との有意な相関を認めました。また、慢性疾患や自己申告による健康状態、性別、喫煙などの交絡を調整した後でも死亡リスクの増加を認めました。Yoshidaらは、65歳以上の日本人8年間の追跡期間において、最低でも小臼歯部に両側性に咬合を有する場合、有しない群よりも22%全死亡率が低下すると報告しています(文献69)。同様に、Paganini-Hillらは52歳~105歳のアメリカ人で無歯顎は全ての死亡率の予知因子であり、20本以上歯を有する人より30%死亡率が上昇すると報告しています(文献51)。さらにフィンランドの85歳以上の高齢者で口腔の感染症(歯周病など)で救急的な歯科処置が必要であった人は、そのような必要が無かった人と比べて3.9倍死亡リスクが高い事も報告されています(文献70)。しかし、しかし、すべての研究が、口腔状態の悪い高齢者の死亡リスクの増加を示唆しているわけではありません。SaremiらとXuらは、若年層(60歳未満)では歯周炎が全死亡の強い予測因子であると報告していますが、高齢層(60歳以上)ではそうではありませんでした。

循環器疾患(CVD)による死亡と口腔状態を検討した6つの研究において、歯の状態と咀嚼能力を報告した2つの研究では日本人とドイツ人高齢者の循環器疾患による死亡の有意な予知因子である事が報告されています。Ajwantらは75歳以上のフィンランド人において歯周病罹患者は非罹患者と比較して2倍循環器系疾患による死亡リスクがあることを報告しています。Saremiらは35歳以上の2型糖尿病アメリカ人において重度歯周病と心腎系死亡は有意な相関を認め、35~54歳の健康な人と比較するとハザード比14.8と高いリスクを示しました。一方で、Xuらは歯周病とCVDによる死亡リスクについて、65歳未満では有意な相関を認めましたが、65以上では認めませんでした。

がんによる死亡と口腔状態の関連について検討した2つの研究のうち、1つは80歳以上の日本人について12年の追跡期間で歯の喪失は口腔がんによる死亡の予知因子であるというものでした。この研究では歯の喪失はがんリスクを6%増加させました。しかし、Aidaらによる2つ目の研究では、65歳以上の日本人で残存歯数、咀嚼困難さとがんによる死亡は相関しませんでした。

4つの研究では、日本の高齢者を対象とした呼吸器疾患による死亡と口腔の健康状態の関連性を検討していました。Awanoらは80歳以上の日本人で10本以上歯周ポケットを有している場合の4年間の肺炎による死亡リスクは、そうではない場合の3.9倍であると報告しています(論文65)。似たような結果でIwasakiらによる7年間による研究では、平均年齢64歳の日本人において歯周病罹患群は、歯周病非罹患軍の3.49倍肺炎死亡リスクがあることを報告しています(文献57)。以上の結果から、高齢者においては、口腔内の健康状態が悪いと死亡リスクが高まることが示唆されましたが、この2つの変数の間の因果関係については、さらに調査する必要があります。

2)メンタルヘルス

30の研究がメンタルヘルスと口腔状態の関連性を検討していました。メンタルヘルスのアウトカムは様々で、うつ、認知機能低下、記憶力低下、認知症、アルツハイマー型認知症などがありました。日本の縦断研究が最も多い結果でした。色々な口腔の指標が使用されていました。認知機能の評価で最も使用されたのはMMSEでした。他にはADAS-cog、GDS、DWR、DSS、WFなどの指標が用いられていました。多くの研究が縦断でフォローアップ期間は6~37年でした。28の研究で高齢者において口腔の健康状態とメンタルヘルスの間に相関を認め、年齢、性別、喫煙、飲酒歴、身体活動、教育レベル、聴覚能力、BMI、うつ、高血圧、糖尿病などの交絡を調整した後でも口腔状態が良い人と比較して、悪い人はメンタルヘルスが低下しやすいリスクがあることが報告されています。

Iwasakiらによる5年以上の追跡では、重度歯周病を有する75歳以上の日本人高齢者がMCIになるリスクは、歯周病がない場合と比較すると3.58倍と報告しています(文献95)。同様にNilssonらによる60~96歳のスウェーデン人の6年間の追跡では、歯槽骨の喪失が認められる場合は2.2倍認知機能低下のリスクがあると報告しています(文献92)。歯の喪失がメンタルヘルスに与える影響に関して、OKamotoらは65歳以上の日本人において、無歯顎者が中等度記憶障害になるリスクは25本以上残存歯を有する者の2.39倍であったと報告しています(文献84)。Stewartらのフランス人における37年間の追跡研究では認知症発症と歯の喪失について相関は認められませんでした(文献24)。驚くべき事に、Arriveらの研究では、教育レベルの低い高齢フランス人において11本以上の歯の喪失は認知症リスクを低下させることと報告しています。しかし、教育レベルの高い人が含まれていません。教育レベルの低い人において歯が喪失すると歯周病とそれによる慢性炎症が改善する可能性があります。しかし、教育レベルの高い人では教育レベルの低い人よりも歯周状態が良いため、欠損歯数が多い事が慢性炎症を減少させないのではないかと考えられます。

3)肉体的な健康と姿勢安定性

肉体的な健康と姿勢安定性については21の研究が口腔との関連性について検討しています。12の研究が日本における縦断研究です。Avlundらによる10年間の70歳以上のデンマーク人の研究では、喫煙や社会経済的な交絡を調整しても残存歯数が1~9本群では20本以上群よりも2倍疲労しやすい事が報告されています(文献112)。同様に他の2つの研究でもフレイルの進行と残存歯数、歯周病の状態、咀嚼機能との関連について報告されています(文献105,108)。フィンランドでは、残存歯数と歯周病の状態と握力の関連性について報告されています。MochidaとYamamotoらによる2つの研究では自己申告制の口腔状態として残存歯数と咀嚼しづらさが転倒と関連していることが報告されています。そのうちの1つでは、65歳以上の日本人で残存歯数19本以下だと20本以上の人と比べてオッズ比2.5と報告しています(文献106,111)

口腔状態が悪いと、機能的肉体的障害リスクが増大すると報告している論文が11あります。最近のRamsayらによる3年間の追跡研究では、色々な交絡調整後も71~92歳の無歯顎者は有歯顎者よりも2倍フレイルリスクがあると報告しています(文献107)。さらに同じ研究で3つ以上口腔問題がある場合にはフレイルリスクが2.7倍であるとも報告されています。他の2つの論文では、歯の喪失が高齢者の姿勢安定性に悪い影響を与えると報告しています。Brandらは65歳以上の無歯顎スウェーデン人は、残存歯を有する人と比較して歩行速度が遅くなること報告しています(文献110,115)

4)循環器疾患

 13の研究で検討されており、多くは縦断研究で5つがケースコントロール、1つが後ろ向きです。循環器疾患のアウトカムは脳卒中、心停止、高血圧、冠状動脈性心臓病、致命的ではない脳卒中、急性心筋梗塞、脳血管障害、末梢動脈疾患、頸動脈狭窄、肺塞栓症、心不全などでした。虫歯、歯周病、根尖性歯周炎、歯の喪失、残存歯数などの口腔健康に関する変数により高齢者において循環器疾患のリスクは有意に増加すると7つの論文で報告されています。

Schillingerらは口腔衛生と歯の状態、特に無歯顎は頸動脈狭窄進行の予知因子であり、62~76歳のオーストラリア人の無歯顎患者は、残存歯を有する患者よりも2倍ほどリスクが高かったと報告しています。歯周病に関しては、Chenらは日本人高齢歯周病患者(53~73歳)は歯周病非罹患者と比較して5倍程度末梢動脈疾患のリスクがあると報告しています(文献120)。しかし、5つの研究では、高齢者群と60歳未満群との間に有意な関連性は認められませんでした。Johanssonらの8年以上の追跡でも60~79歳のスウェーデン人において歯周病が冠動脈疾患のリスクファクターではあると報告していません。

今回の研究の多くでは口腔内の健康状態の悪化はCVDの予知因子であることを支持しています。しかし、より多くの研究が必要です。

5)栄養

高齢者の口腔と栄養の関連性について検討された論文は10で多くは日本でした。2つの研究で口腔の健康状態と体重減少についての関連が示唆されています。Weyantらは2年間の追跡で65歳以上のアメリカ人で歯周病罹患者は、非罹患者と比べて交絡を調整後にも体重減少リスクが1.53倍と報告している(文献130)。日本とアメリカの5つの研究では、機能歯数5本以下、歯の喪失、口腔健康と咀嚼しづらさの自己申告が、不適切な食事と嚥下の問題と有意に関連すると報告しています。5年以上の追跡では、Iwasakiらは日本の不適切な歯列を有する75歳以上の高齢者は、栄養素、食物繊維、野菜、肉などが、適切な歯列を有する高齢者よりも不足していると指摘しています(文献123)。Okamotoらによる5年間の追跡研究では、日本の65歳以上の高齢者で残存歯が0~12本の場合、27~32本を有する群と比較して2.5倍嚥下障害リスクが高いと報告しています(文献125)。

3つの研究では、口腔の健康状態は低栄養の決定因子の1つであると示唆しています。Kiesswetterらは55~80歳の咀嚼時の歯痛を有する高齢者の9年間における低栄養リスクは歯痛のない群と比較して交絡調整後にも2.14倍であったと報告しています(文献47)

今回抽出した論文の多くがフォローアップ1~2年と短く、より長期間の縦断研究が必要です。

6)Oral Health-Related Quality of life(OHRQoL)

口腔状態が高齢者のQOLに与える影響を検討した論文は9本見つかりました。そのうち7本が縦断で、2本が後ろ向きでした。フォローアップ期間は2~15年でした。口腔関連QOLの計測にはGOHAIやOHIP-14など色々なものが使われていました。9つの論文の結果から、歯の喪失、口腔乾燥、義歯の不所持、咬合力などの口腔の問題と、高齢者の自尊心、食べる・噛む能力、社会的機能とコミュニケーション、在宅生活、日常活動の遂行、痛みなどのQOLとの間に有意な関連性があることが推測されました。

Enokiらは7年間の追跡で60歳以上の日本人高齢者で歯の喪失経験がある、咬合力が低下している人は年齢性別などを調整した後もGOHAIスコアが高値になると報告しています(文献133)。これは口腔関連QOLが良くない事を示唆しています。Satoらは義歯を無くした高齢者においては食事しづらさ、発音に問題、人前で微笑んだり笑う事への抵抗感、歯を見せることへの抵抗感、感情的苦悩、社会性に関する問題が義歯をなくしていない高齢者よりもリスクが高いと報告しています(文献132)

7)腎障害

ベースラインで腎機能が保たれている地域在住の高齢者を対象に、歯周病が顕性腎症、末期腎症、腎機能低下の発症に及ぼす影響を調査した論文が5本あります。3本が後ろ向きで2本が縦断で、3本がアメリカ、2本が日本でした。5本全ての論文で交絡調整後においても歯周病と腎機能低下の関連性と、歯周病が腎疾患の予知因子である可能性を報告しています。

Grubbsらは高齢アメリカ人男性における4.9年の追跡で、重度歯周病罹患者は非罹患者と比較して2倍CKD発症リスクがあると報告しています(文献19)。さらに重度歯周病罹患者のCKD発症リスクは4倍という類似の論文もありました(文献137)。これに関しても文献数が少ないので、さらなるエビデンスの蓄積が必要です。

8)がん

歯周病または歯の喪失とが色々ながんとの関連性を検討した論文は4本あり、交絡調整後にも関連性を報告しています。3本が縦断で1本がケースコントール、3本がアメリカ、1本が韓国でした。Bertrandらによる22年間の追跡では、65歳以上の歯周病を有するアメリカ人において非ホジキンリンパ腫のリスクが歯周組織が健康な人と比べると33%増大すると報告しています。しかし、これは統計的に有意ではありませんでした。Divarisらは自己申告制の歯の喪失による歯周病の判定で、60歳以上のアメリカ人において交絡調整後でも頭頚部の扁平上皮がんのリスクが33%上昇したと報告しています。

このようにがんと口腔内の状態の関連性はまだ明確とは言い難いのが現状です。

9)炎症性疾患

高齢者で口腔内の状況と炎症性疾患が関連するかどうかを検討した論文は4本ありました。3本がケースコントロールで1つが縦断でした。Kodovazenitisらは、交絡調整後でも歯周病が急性心筋梗塞時のCRPの上昇レベルの寄与因子であると報告しています(文献40)。この研究では、57から79歳の歯周病を有するギリシャ人高齢者は、歯周病非罹患者と比較すると有意にCRP上昇レベルが高い結果となりました。他の研究では、75歳以上のフィンランド人の無歯顎部位の粘膜病変がCRP値上昇の強い予測因子であることが明らかになりました。粘膜病変のある人は、交絡を調整した後でも10年間でCRPが上昇するリスクが2倍になりました。他の2つの研究では、関節リウマチ(RA)患者が歯周病と歯周病菌(特にPrevotella intermedia(Pi)とPorphyromonas gingivalis(Pg))による感染に最も苦しんでいることが明らかになりました。

これらの研究においてもまだメカニズムもよくわからないので更なる研究が必要です。

10)健康にかかるコスト

今回のレビューでは、口腔の状態と健康に関するサービスの利用とかかるコストについてのエビデンスは限定的です。口腔内の健康状態と、医療費や入院費との関連性を測定した論文は3つあります。Krugerらは、オーストラリアの65歳以上の高齢者を対象に、10年間で入院率の増加に寄与した最も一般的な口腔保健関連疾患はむし歯であると報告した。他の2本は、日本の80歳以上の高齢者において、歯周炎と歯の喪失が将来の医療費の増加と有意に関連することを明らかにしました(文献143、144)

11)代謝疾患

ベースライン時には糖尿病ではない高齢者において、歯の状態と糖尿病の発症の関連性について検討した論文が2本ありました。この2つの論文はアイルランドとドイツにおける縦断研究で、2本とも口腔内の指標として歯周病が採用されていました。Winningらによる58~72歳のアイルランド男性における7.8年の追跡研究では、中等度、重度歯周病の2型糖尿病発症リスクは歯周病なし、軽度と比較すると交絡調整後は1.69倍と報告しています(文献39)。もう1つの論文では、糖尿病ではない歯周病高齢患者ではA1c、空腹時血糖の高値リスクがあることを報告しています。

12)骨疾患

スウェーデンとアメリカの2本の縦断研究がありました。Perssonらは3年間の追跡でスウェーデン高齢歯周病患者では非歯周病罹患者と比較して交絡調整後でも2倍ほど腰部、手の骨折リスクが高いことを報告しています。しかし、歯周病と骨粗鬆症を統合するとリスクが12倍と跳ね上がってしまいました。Phippsらによる65歳以上のアメリカ人を対象とした長期の追跡研究では歯周病、歯の喪失と骨密度(BMD)には有意な関連は認められませんでした。

13)脳血管疾患

口腔の状態と脳血管疾患との関連に関して得られたエビデンスは限定的です。縦断が1本、ケースコントロールが1本でした。Leiraらは、スペイン人高齢者において慢性歯周病はラクナ梗塞の決定因子の1つであることを示唆しています。交絡調整後で非歯周病罹患者と比較してラクナ梗塞のリスクは4.2倍となりました。しかし、高齢アメリカ男性における研究では、歯周病と脳血管障害の関連性は認められませんでした。

14)健康全般

2つの論文で高齢者の一般的な健康状態が結果指標として研究されています。 そのうちの1つの論文では、咀嚼困難、無傷ではない歯、ドライマウスなどの3つの口腔衛生指標と、日常生活動作機能、認知、抑うつ、健康の不安定さに関する一般的な健康を評価する4つの側面との関連が測定されました。この研究では、65歳以上の高齢者で、口腔内の健康状態が悪い人、特に咀嚼しづらさを経験している人は、これらの指標を持たない人と比較して、一般的な健康状態が悪くなるリスクが高いことがわかりました(文献147)。Benyaminiらは、5年間の追跡期間において、自己評価した口腔衛生(SROH)と将来の自己評価した健康(SRH)の間に独立した相関関係があると仮定しました。

15)呼吸器疾患

口腔の状態と肺疾患の関連性の可能性を評価している縦断研究が1本有りました。この研究は80歳以上の歯周病罹患フィンランド人は1秒率(FEV1)の低下を起こす可能性が高かったと報告しています。

16)肝疾患

口腔内の健康指標と肝疾患の発症リスクとの関連性についてのエビデンスは殆どありません。Nagaoらによる後ろ向き研究によると、ベースラインで歯周病とC型肝炎ウイルス(HCV)および/またはB型肝炎ウイルス(HBV)に感染している50〜72歳の日本人高齢者は、歯周病が軽度または全くない人と比較して、肝疾患の進行リスクが高いと報告しています(文献44)

考察

このレビューでは、口腔内の健康状態の悪さと様々な一般的な健康指標との間に有意な関連性があることが強調されました。これは、口腔と一般的な健康は相互に関連しており、口腔内の健康を維持・改善することは、世界中の人々の一般的な健康と幸福に不可欠な要素であるという事実を強調しています。

興味深いことに、口腔と全身の関連について最もよく研究されているのは、死亡率(全死因死亡率および慢性疾患による死亡率)と精神疾患であり、それぞれ掲載された論文の24%と21%を占めています。

口腔環境の悪化と認知機能障害との関連性を説明するために、いくつかの生物学的メカニズムが提案されています。主に、炎症性経路と栄養経路の2つの経路のいずれかであることが示唆されています。

今回のレビューでは、口腔の悪さと一般的な健康状態との間に関連性がないと報告した研究の大半は、循環器疾患(CVD)との関連性の可能性を検討しています。これらの研究では、今回の対象者(60歳以上の高齢者)はサブグループとしてのみ含まれており、若い年齢層でのみ強い有意な関連性を示す結果となっています。 これは、年齢がCVDと歯周炎の両方の危険因子であるという事実によっても説明され、高齢者は他のCVD危険因子に非常にさらされていることから、歯の喪失がこの集団のCVD発生率を予測する力を低下させているのかもしれません。

今回のレビューでは、地域で暮らす高齢者の口腔衛生状態の悪さと誤嚥性肺炎やその他の関連する呼吸器疾患の転帰を関連付ける研究は見つかりませんでした。これは驚くべきことではありません。なぜなら、このような関連性は入院中または施設に入所している衰弱した高齢者や、老人ホームや長期介護施設に入所している高齢者に多く見られるものであり、今回のレビューでは地域に住む高齢者のみに焦点を当てています。

Limitation

今回はScoping reviewであり文献の質は検討していません。

英語でOECD加盟国での論文に限定しています。

被験者は一般的な地域在住高齢者に限定されています。

まとめ

いままでも口腔と全身の関連性については少し読んだことがありましたが、ここまで大がかりな総説的なレビューを読んだことはありませんでした。日本の論文数がかなり多かったので、これは助かります。引用文献をこの後読んでいく予定です。

縦断の研究が多く因果関係について言及されている論文が多いみたいですが、ほとんどのメカニズムは不明で仮説レベルです。また、変数や交絡の調整などにより結果は変わるわけで、あくまである条件下で相関が認められたということは間違えないようにしないといけません。単純に1つの論文の結果だけで一般的な因果関係であるように解釈するのは危ないと思います。

自分のための文献memo

19,24,39,40,44,47,51,57,65,69,70,84,92,95,105,106,107,108,110,111,112,115,120,123,130,132,133,137,143,144,147

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