普通の歯科医師なのか違うのか

シリコーン系軟質リライン材へのブラシは慎重に

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

義歯の清掃方法について色々と論文を読んでいますが、今回は清掃、洗浄が軟質裏装材に与える影響に関する論文を読みたいと思います。東京歯科の上田先生の論文ですね。

JDRは論文がフリー化されましたので、JDRのサイトからダウンロードできます。

Surface morphology of silicone soft relining material after mechanical and chemical cleaning
Takayuki Ueda , Keitaro Kubo , Takeshi Saito, Tomokuni Obata , Takeshi Wada , Koichiro Yanagisawa, Kaoru Sakurai 
J Prosthodont Res. 2018 Oct;62(4):422-425. doi: 10.1016/j.jpor.2018.03.002. Epub 2018 Apr 7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29636243/

Abstract

Purpose: The objective was to investigate the influence of chemical and mechanical cleaning on the surface morphology of a silicone soft relining material.

Methods: Three plate-shaped specimens were prepared for each group (Control, Hard and Soft) by laminating a 1.5-mm-thick silicone soft relining material. The Control group specimens were stored in water, and the Hard and Soft group specimens were cleaned with hard and soft bristle denture brushes, respectively. Abrasion testing with a toothbrush and immersion testing with an enzyme-containing peroxide denture cleanser were performed, simulating a period of approximately 4 months. The arithmetic mean roughness (Sa) and maximum height of the cross-section (Sz) were measured before and after abrasion and immersion testing.

Results: Sa was 4.9±0.9, 22.1±4.2 and 44.2±4.0μm in the Control, Soft and Hard groups, respectively. Sz was 257.5±31.7, 392.0±23.8 and 452.2±41.9μm in the Control, Soft and Hard groups, respectively. After abrasion testing, Sa and Sz differed significantly between the Soft and Control groups and between the Hard and Control groups. Sa was 2.2±1.2μm before and after immersion, and Sz was 142.1±81.4μm before and after immersion. No significant difference was noted in either Sa or Sz in the Control specimens before or after immersion.

Conclusions: Surfaces cleaned using a soft bristle brush were less likely to roughen than those cleaned with a hard bristle brush under the conditions of this study. Additionally, chemical cleaning using the enzyme+neutral peroxide denture cleanser did not roughen the surface of the silicone soft relining material.

目的:本研究の目的は、化学的、機械的清掃が、シリコーン系軟質リライン材の表面性状に与える影響を検討する事です。

方法:1.5mm厚のシリコーン系軟質リライン材料をラミネートすることで、3つのプレート試料を各群(コントロール、hard、soft)に準備しました。コントロール群は水中浸漬、Hard群、Soft群は義歯用ブラシのHardまたはsoftで磨きました。ブラシを用いた摩耗試験と、酵素入り過酸化物への浸漬試験を、約4か月間分シミュレーションしました。算術平均粗さ(Sa)と断面の最大高さ(Sz)をテスト前後で計測しました。

結果:Saはコントロール群、Soft群、Hard群でそれぞれ、4.9±0.9、22.1±4.2、44.2±4.0μmでした。Szはそれぞれ、257.5±31.7、392.0±23.8、452.2±41.9μmでした。摩耗試験後にSaとSzは、Soft群とHard群、Hard群とコントロール群で有意差を認めました。浸漬前後のSaは2.2±1.2μm、Szは142.1±81.4μmでした。コントロール群では浸漬前後のSaとSzに有意差を認めませんでした。

結論:本研究の条件では、柔らかいブラシでの表面の清掃は、硬い義歯用ブラシより表面が粗くなりにくい結果でした。加えて、酵素入り中性過酸化物による化学的洗浄は、シリコーン系軟質リライン材の表面を荒くしませんでした。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

粘膜の菲薄化を伴う顎骨の著明な吸収や過剰な咬合力などにより、義歯床下粘膜の状態が悪くなってしまった場合、咀嚼時に疼痛が起こるかもしれません。このようなケースでは、顎堤に発生する機能圧を、粘弾性、弾性を有する軟質リライン材で緩衝する事ができます。レジン床義歯に軟質材料と硬質材料でリラインした場合、最大咬合力が増加すると報告されています。義歯の患者満足度は軟質リラインにより上昇する事も報告されています。さらに、軟質リライン材は、顎補綴の栓塞子だけではなく、アタッチメントのフィメール部、磁性アタッチメントの挿入材料として使用することができます。また、その適応は将来より拡大されるでしょう。

2つの種類の軟質リライン材が主に使用されています。シリコーン系とアクリル系です。アクリル系は、エチルアルコールの溶出により長期使用で材料表面の劣化、粘弾性、当初の柔らかさの喪失が起こるという欠点があります。シリコーン系は機械的な物性がアクリル系よりも安定しているので、臨床ではよく使用されています。

candidaのような口腔の微生物は、硬質リライン材よりも表面が粗いため、軟質材料にすぐに吸着します。candidaは義歯性口内炎の原因になるかもしれません。要介護高齢者の誤嚥性肺炎リスクも上昇します。
義歯の清掃方法に主に2つの種類があります。ブラシによる機械的清掃と洗浄剤による化学的清掃です。機械的清掃で軟質材料の表面が劣化するため、化学的洗浄のみを行う様に指導する歯科医がいます。しかし、義歯表面のバイオフィルムは化学的洗浄のみでは落とせず、清掃効果が不十分である可能性があります。そのため、機械的清掃は行った方が良いです。しかし、軟質材料の適切な清掃方法はいまだ明確ではありません。

硬いものから柔らかいものまで、色々な義歯ブラシが商品化されています。軟質材料を柔らかいブラシで磨く方法は可能ですが、はたして、それでダメージなくしっかり磨けているのかについてはよくわかっていません。本研究の目的は、機械的、化学的清掃がシリコーン系軟質リライン材の表面形状に与える影響を検討する事です。機械的、化学的清掃前後で義歯表面粗さは変わらない、が仮説です。

方法

摩耗試験:機械的清掃をシミュレート
浸漬試験:化学的清掃をシミュレート

試料:1.5mm厚のアクリルレジン(アーバン、松風)にプライマーを塗布後、1.5mm厚のシリコーン系軟質リライン材(ソフリライナータフミディアム)でリラインしプレート状試料を作製。各群で3個ずつ試料を作製。摩耗試験試料は、摩耗試験片は、試験機に石膏で圧接。浸漬試験用試料は、軟質リライン材料をガラス板でプレス。

摩耗試験

2つの種類のブラシ、硬い義歯ブラシ(Ciデンチャーブラシ)、柔らかい義歯ブラシ(CiデンチャーブラシS)を使用。ブラシの硬さ、柔らかさはISO22254:2005により座屈強度に基づいて分類。

3つの群
コントロール群:水中に試料を浸漬
hard群:硬い義歯ブラシで清掃
soft群:柔らかい義歯ブラシで清掃

歯ブラシ摩耗試験機を用いて2.9Nで150回/分で100000回ブラシをかけ、4か月分シミュレーション。

浸漬試験

酵素入り中性過酸化物の義歯洗浄剤(ポリデント)に1日6時間で4か月分をシミュレーションして744時間浸漬。

表面の観察

軟質裏装材の表面性状は、3次元解析スキャニング電子顕微鏡(3D-SEM ERA-8900FE)を用いて観察。算術平均荒さ(Sa)と断面の最大高さ(Sz)を2568×2568μmの範囲内で測定。摩耗試験後のSaとSzを3群で測定。同様に、浸漬試験前後のSaとSzを測定。

統計解析

Control群、Hard群、Soft群の摩耗試験後、SaとSzを一元配置分散分析後、Kruskal-Wallis検定。
浸漬前後のSaとSzについてはWilcoxonの符号順位検定。
有意水準は5%。

結果

摩耗試験

図1に摩耗試験後のSaとSzの平均値と標準偏差を示します。Saはコントロール群4.9±0.9μm、Soft群は22.1±4.2μm、Hard群は44.2±4.0μmで群間で有意差を認めました。Szはコントール群257.5±31.7μm、Soft群392.0±23.8μm、Hard群452.2±41.9μmで、群間で有意差を認めました。

浸漬試験

図2に浸漬試験の結果を示します。浸漬前後でSaは2.2±1.2μm、Szは142.1±81.4μmでした。SaとSzは浸漬前後で有意差は認めませんでした。

表面の観察

図3に摩耗試験後のラーザー顕微鏡での軟質裏装材料表面のイメージを示します。コントロール群の表面は均一ですが、Soft群とHard群はブラシによる形成された水平的な削れた溝が観察できます。溝の間隔はSoft群の方がHard群よりも狭くなっていました。

考察

2種類の義歯ブラシ、硬いものと柔らかいものを使用しました。両方ともナイロン製で、硬さの違いは毛の太さによります。硬いものは太く、ブラッシング中に歪むことはありません。そのため、硬い材料、例えば、義歯床用レジンや硬質リライン材などの機械的清掃に使われます。

摩耗試験は2.9N、毎分150回で10万回行いました。この条件は、Amanoらが報告した健康な被験者によるレジンブロックを磨く力とスピードから選択しました。以前の研究から、義歯を磨くの1日90秒ほど使っています。1日4回4か月間義歯清掃をシミュレーションするように反復回数を計算しました。

摩耗試験後にレジンとシリコーン系軟質裏装材との間に剥離があるか調査しましたが、コントロール群Soft群、Hard群のいずれにも認められませんでした。アクリル系と比較してシリコーン系の床用レジンへの接着力の弱さが報告されています。本研究から、機械的清掃はシリコーン系軟質リライン材の接着性には影響を与えないことが示唆されました。

Saはコントロール群、Soft群、Hard群でそれぞれ、4.9±0.9、22.1±4.2、44.2±4.0μmでした。各群間で有意差を認めました。Szはそれぞれ、257.5±31.7、392.0±23.8、452.2±41.9μmであり、有意差を認めました。

Hard群の溝はSoft群よりも太く、各溝の間隔も広くなっていました。この知見は、硬い義歯ブラシは毛が太く曲がりにくいため、深い傷ができたと事を示唆しています。機械的清掃についての仮説は否定されました。

浸漬前後でSaは2.2±1.2μm、Szは142.1±81.4μmでした。SaとSz両方とも有意差を認めませんでした。次亜塩素酸とアルカリ性過酸化物はシリコーン系表面を粗くすると言う報告があります(文献19)。高いpHの洗浄剤は軟質リライン材の架橋構造を破壊し、結果として表面が粗くなる可能性があります。本研究では中性の酵素入り過酸化物を使用したため、架橋構造は破壊されず、表面が粗くなることを防止できたのかもしれません。加えて酵素入りの過酸化物は、candidaを含む口腔微生物に対して高い除去効果を有しており、軟質リライン材の表面性状を劣化させないことが確認されました。化学的洗浄に関する仮説は支持されました。

超高齢社会に突入したため、高齢者の数は増加しています。その中には薄い粘膜と疼痛閾値が下がった人もおり、軟質リライン材の使用が効果的です。その結果、咬合力による衝撃が吸収される軟質リライン材でリラインされた義歯の増加が期待されます。

結論

柔らかい義歯ブラシは、硬い義歯ブラシよりも表面粗さの原因になりにくいです。加えて酵素入り中性過酸化物による化学的洗浄は、本研究で使用した軟質リライン材の表面粗さを変化させませんでした。そのため、化学的洗浄により義歯の表面は変化しなかったが、柔らかい義歯ブラシを衣装した機械的清掃後には変化しました。

まとめ

柔らかい材料を硬いものでゴシゴシすれば傷がつく、というのは軟質リライン材でも変わらないわけで、シリコーン系軟質リライン材でブラシで機械的な清掃を行うには注意が必要と考えられます。自分としては、軟質をリラインしている粘膜面にブラシを使わない、研磨面、咬合面は使うように指導していたのですが、それでは駄目なんでしょうか?

中性の酵素入りポリデントではシリコーン系軟質リライン材の表面には影響はない、と言うことがこの論文から分かったので、これは積極的に指導していきたいと思います。過酸化物は酸性、中性、アルカリ性、全てあるとおもうのですが、商品のパッケージに書いていたりするものなんでしょうか?

この論文には続きがあるので、次回はそれを読む予定です。

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