普通の歯科医師なのか違うのか

舌圧とフレイルの関連性

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回は最大咬合力

前回最大咬合力とフレイルの関連性についての縦断研究を読みました。最大咬合力がかなり低い群は最大咬合力が高い群と比較して残存歯が少なく、フレイルに移行しやすいということがわかりました。

今回は舌圧についてはどうなのか、ということを読んでみたいと思います。2019年の弘前大学からの論文で横断研究です。

Effects of oral environment on frailty: particular relevance of tongue pressure
Anna Satake , Wataru Kobayashi , Yoshihiro Tamura , Toshiaki Oyama , Haruka Fukuta , Akinari Inui , Kahori Sawada , Kazunari Ihara , Takao Noguchi , Koichi Murashita , Shigeyuki Nakaji
Clin Interv Aging. 2019 Sep 12;14:1643-1648. doi: 10.2147/CIA.S212980. eCollection 2019.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31564844/

Abstract

Purpose: Oral frailty or the loss of oral functionality can be a symptomatic precursor of overall frailty. Previous studies have suggested that decreased tongue pressure causes a decline in ingesting and swallowing function and poor nutrition. This study investigated what factor(s) contribute to tongue pressure, thereby leading to frailty.

Patients and methods: For the purposes of the present study, 467 residents of Hirosaki city in northern Japan aged≥60 years who completed a questionnaire about frailty and underwent an intraoral assessment, which included number of teeth, presence or absence of periodontitis, tongue pressure, and oral diadochokinesis (ODK) were recruited.

Results: Of the 467 participants with complete data sets, frailty was identified in 13 (7.5%) of 173 males and in 34 (11.6%) of 294 females. Significantly fewer teeth, lower tongue pressure, and a reduced diadochokinetic syllable rate were more prevalent among frail than among healthy residents. Multivariable logistic regression analysis revealed that age, body mass index, number of teeth, and tongue pressure significantly contributed to frailty, whereas ODK did not. Multiple regression analysis showed that tongue pressure was positively associated with muscle index and number of teeth.

Conclusion: The results of the present study suggest that fewer teeth and lower tongue pressure, but not ODK function, are risk factors for developing overall frailty among older residents.

目的:オーラルフレイルまたは口腔機能の喪失はフレイルの前段階である可能性があります。過去の研究で、舌圧の低下は食物摂取と嚥下機能低下から低栄養を招くと報告されています。今回の研究の目的は舌圧に寄与する因子とそれによってフレイルに至るかどうかについて調査することです。

実験方法:弘前市在住の60歳以上でフレイルに関する質問表に記載し、口腔内の調査に参加した被験者467名を対象としました。口腔内調査は残存歯数、歯周病の有無、舌圧、オーラルディアドコキネシスです。

結果:467名の被験者のうち、男性173名中13名(7.5%)、女性294名中34名(11.6%)がフレイルと診断されました。フレイルの人は健康な人と比較して有意に歯が少なく、舌圧が低く、オーラルディアドコキネシスのスピードが遅い結果となりました。多変量解析では、年齢、BMI、残存歯、舌圧が有意にフレイルと関連性がありましたが、オーラルディアドコキネシスは関連性を認めませんでした。舌圧はMI(muscle index)と残存歯数と正の相関を示しました。

結論:本研究の結果から、高齢者において残存歯数が少ない、舌圧が低い事はフレイルのリスクである、と言うことが示唆されました。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

実験方法

被験者

2016年に弘前市在住者を対象とした岩木健康増進プロジェクトに参加した人のうち、60歳以上を対象としました。データを欠損した場合や、癌や心疾患、パーキンソン病の既往がある参加者は除外しました。

質問項目

規格化されたインタビューを行い以下の項目を採取しました。
年齢
性別
喫煙歴
飲酒歴
運動習慣
BMI
muscle index (muscle mass/ height)

口腔診査

歯科医師による診査を行っています。
残存歯数
歯周ポケット検査:CPITN用のプローブで測定 3mm以内で正常、4mm以上で歯周病と判定

舌圧とオーラルディアドコキネシス

舌圧:JMSの舌圧測定器を用いて測定しています。
ディアドコ:健口くんを用いてパタカをそれぞれ5秒間計測して、どれか6回未満なら機能低下です。

フレイルの評価

5つの質問項目によって構成されています。
1)疲れやすいですか?
2)階段を1階分歩いて上がれますか?
3)1ブロック歩くことができますか?
4)5つ以上病気を持っていますか?
5)過去半年で5%以上体重が減少していますか?
3個以上該当でフレイル
1-2個でプレフレイル
0個で正常と判断しています。
つまり、今回フレイルは質問表のみで判定しており、握力や歩行速度等の定量的な計測は全く行っていません。

結果

467名の60歳以上の被験者データが収集されました。各因子の結果は以下の表1となります。

フレイルと判断されたのは467名中47名(10.1)%で、男性では13名、女性では34名で平均年齢は74.4±7.8歳でした。

単変量で有意差が認められたのは、年齢、BMI、残存歯数、舌圧、オーラルディアドコキネシスのパタ音でした。

多変量の結果では年齢、BMI、残存歯数、舌圧に有意差が認められました。

舌圧に影響を与える要素を多変量解析した結果、年齢、Muscle index、残存歯数において有意差が認められました。年齢は負の相関、残存歯数とMuscle indexは正の相関が認められました。

考察

Friedはアメリカの高齢者のフレイル率は6.9%と推定しています。65-70歳で3.2%から90歳以上で23.1%と加齢により増加していきます。
日本ではフレイル率は11.3%と報告されています。加齢によるオーラルフレイルは口腔状態の低下であり、歯や口の中への関心の低下、虫歯、歯周病、唾液量減少、窒息、咀嚼困難などが含まれます。プレフレイルはオーラルフレイルやサルコペニア、ロコモを進行させ、最終的に介護が必要で不可逆なフレイルに移行します。口腔機能と身体機能の低下を早期発見することはオーラルフレイルの予防に役に立つかもしれません。
しかし、口腔機能の評価は一般的に口腔衛生状態、口腔乾燥、咬合力、オーラルディアドコキネシス、舌圧、咀嚼機能、嚥下機能などを用いられており、標準的な基準は確立されていません。

多変量の解析で、フレイルと年齢、BMI、残存歯数、舌圧に有意な関連性が認められましたが、オーラルディアドコキネシスには認められませんでした。舌挙上と舌根部の機能は嚥下における口腔期と咽頭期で重要な役割を演じているためと考えられます。筋肉量の減少、摂食嚥下障害、舌圧の減少は密接な関係にあると考えられます。事実、YoshidaらやHirotaらは摂食嚥下障害と舌圧の関連性について報告しています。Maedaらは舌圧とサルコペニアの関連性について報告しています。これらの報告から舌圧はオーラルフレイルの不可欠な指標であると示唆されます。舌圧の低下は、食事の摂取と嚥下機能の低下を招き、栄養障害と栄養摂取低下に至ります。

歯の喪失は食事摂取困難の原因と考えられます。オーラルディアドコキネシスは今回の研究では有意差が認められませんでしたが、そこまで筋力が必要ではない可能性が考えられます。

今回の研究で舌圧に関連性がある項目として残存歯数とMuscle indexに有意差が認められました。咬合の安定が安全な嚥下に必要であるとためと考えられます。下顎の固定、舌骨の移動、舌の口蓋への挙上などの嚥下時の運動には舌圧、筋力、残存歯数などの要素が必要です。

まとめ

今回は質問表による回答の合計点でフレイルかどうかを決定しており、そこらへん定量的な評価とはまた判断基準が変わってくる可能性は否定できません。また横断研究であるため、経時的な変化がわかりません。フレイル群でも舌圧の平均値が24.1kPaあるので、20kPaを境界ラインと考えると結構高い数字です。

オッズ比ですが、どれもそれほど高いものではないです。BMIは高い方がフレイルになりやすいという事なので、脂肪分や炭水化物などの偏った食事による肥満がリスクになるという解釈になるのでしょうか。後は歯数が少ない、舌圧が低い、年齢が高い方がわずかにフレイルであるリスクが高いということになりそうです。オッズ比がそれほど大きな数字ではないというのもフレイル群の中にある程度健常レベルが高い人が含まれた可能性はあるかと思います。

フレイルとオーラルディアドコキネシスは今回は相関が出ませんでしたが、他の研究だとkaだけ有意差があるとかそういった論文があった気がします。そこら辺はもっと論文を読んでまとめてみないと分からない所です。

どちらにしても今回は横断研究ですし、他の研究も何本か読んでみる必要性を感じました。分類の仕方や人数でまた結果は変わってきそうです。

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【非常勤講師】
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