歯の喪失が食事や栄養に与える影響はエビデンスがしっかりしていない
今までは無歯顎者の栄養についてでした
今回は歯の喪失が食事摂取と栄養状態にどのような影響を与えるのかについてのシステマティックレビューとなります。
Does tooth loss affect dietary intake and nutritional status? A systematic review of longitudinal studies
Piyada Gaewkhiew , Wael Sabbah , Eduardo Bernabé
J Dent. 2017 Dec;67:1-8.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29097121/
Abstract
Introduction/objective: A systematic review was conducted to explore whether tooth loss affects dietary intake and nutritional status among adults.
Data: Longitudinal studies of population-based or clinical samples of adults exploring the effect of tooth loss on food/dietary/nutrient intake and/or nutritional status were included for consideration. The risk of bias was assessed using the Newcastle-Ottawa Scale for cohort studies.
Sources: A search strategy was designed to find published studies on MEDLINE, EMBASE and LILACS up to March 2017.
Study selection: Eight longitudinal studies in 4 countries (United States, Japan, Australia and Brazil) were included. Five of the six studies investigating the association between tooth loss and dietary intake showed significant results. The only consistent association, as reported in 2 studies, was for greater (self-reported) tooth loss and smaller reductions in dietary cholesterol. Three of the 4 studies investigating the association between tooth loss and nutritional status showed significant results. However, most results were contradicting. The quality of the evidence was weak.
Conclusion: There is at present no strong evidence on the effect of tooth loss on diet and nutrition, with inconsistent results among the few studies identified. Additional high-quality longitudinal studies should address the limitations of previous studies identified in this review.
目的:成人の歯の喪失が食物摂取と栄養状態にどのような影響を与えるかを調査することがこのシステマティックレビューの目的です。
データ:成人における歯の欠損が食物摂取、栄養素摂取さらに栄養状態に与える影響に関しての縦断研究を検討しました。
ソース:2017年3月までのMEDLINE、EMBASE、LILACS内のパブリッシュされた論文を検索しました。
研究の選択:4カ国(アメリカ、日本、オーストラリア、ブラジル)から8つの縦断研究をピックアップしました。歯の喪失と食事摂取量を調査した6つの研究の内5つで有意差を認めました。唯一の一貫した関連性は、2つの研究で報告されていますが、(自己申告による)多数歯の喪失によりコレステロール摂取量が少し減少するということでした。歯の喪失と栄養状態に関して調査した4つの研究の内3つで有意差を認めました。しかし、殆どの結果が一致せず、この分野のエビデンスは弱いと言えます。
結論:歯の喪失が食事や栄養に与える効果に関しては、現在のエビデンスはそれほど強いものではありません。さらなる質の高い縦断研究が必要です。
ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言(かなり要約簡略化しています)
口腔は食物の通り道だけではなく歯の主たる機能は咀嚼です。歯の喪失により食べられる物が制限され食事や栄養状態に影響が出ると考えられます。そのため、歯の喪失と食事、栄養状態の関連性に関するレビューが存在する事は驚くことではありません。しかし、以前のレビューはシステマティックでなかったり横断研究だったり研究自体の質をアセスメントしていなかったりと色々問題がありました。
そこで本研究の目的は、歯の喪失が食事摂取と栄養状態に影響するかという縦断研究によるエビデンスからシステマティックレビューを行う事です。
実験方法
選択基準
研究選択の基準をPICOフォーマットに則って定義しました。縦断研究またはパネルスタディのみを選択し、横断研究、ケースレポートや専門家の意見などは全て除外しました。
被験者は18歳以上で、被験者を集めた場所や健康状態などについては特に問いませんでした。歯の喪失の計測を実験期間中に最低1度は行っている事が条件ですが、個人による申告か臨床的に診査したかは問いません。アウトカムは食事、食物、栄養素(トータルカロリー、特定の栄養素などを質問表や血液検査などから)の摂取量と栄養状態(体重減少、BMI、他の測定方法などから)です。
研究の検索
2017年3月までのMEDLINE、EMBASE、LILACS内のパブリッシュされた論文を検索しています。2人のレビュワーが独立して複製した画面でタイトルとアブストラクトを読んで基準にあてはまるか判断しました。最低でも1名がフルテキストで基準内と判断しています。最終的には2人でディスカッションして基準に適合するかどうかを決定しました。
バイアス評価
the Newcastle-Ottawa Quality Assessment Scale(NOS)を用いてバイアスリスクの検討をしています。以前も何かのシステマティックレビューでNOSを使っている物がありました。NOSは3つのドメインからなります。選択で4項目、比較で1項目、アウトカムで3項目を評価します。選択とアウトカムは1つ星、比較は2つ星をつけます。良い研究とは、選択で3~4つ星、比較で1~2つ星、アウトカムで2~3つ星が必要で、公正な研究とは選択で2つ星、比較で1~2つ星、アウトカムで2~3つ星が必要です。poorな研究とは選択が0~1つ星、比較が0、アウトカムが0~1つ星となります。
データの合成
不均一なデータの合成時にはメタアナリシスはできないので、今回はよりナラティブな合成をしています(行った内容を物語的に列記していくスタイルという事のようです)。
結果
図1に示すような過程を経て最終的に8つの論文がピックアップされています。
アメリカ4,日本2、オーストラリア1、ブラジル1となっています。
2つの日本の論文と、2つのアメリカの論文は新潟スタディからデータを取っているようです。つまり母集団が被っています。しかし解析が異なるので、違ったものとして扱うことにしました。
5つの論文は地域の住民をリクルートするpopulation-based cohortsで、残り3つは特定の人(健康な男性専門職、女性ナース、病院に承認された患者)をリクルートしています。フォローアップ期間は研究によって様々で数日から10年と開きがあります。被験者のサンプルサイズは134~59467、年齢は30歳から65歳以上までとこちらもかなり大きな開きがあります。
歯の欠損:歯数、機能歯数、咬合接触面、Eichner?、無歯顎かどうか、補綴物が必要か、欠損歯数、咀嚼能率などで評価
経時的な欠損歯数の変化を計測したのはわずか3つの論文のみ
アウトカム:栄養素と栄養状態両方(1論文)、栄養素摂取(4論文)、栄養状態のマーカー(3論文)。血液検査による栄養状態の調査は無し。BMI、MNAなどを用いてる
食事摂取のアセスメント:質問表、絵を描く、どういった物を食べたかアイテム数で表現
栄養素摂取、食物摂取に対する歯の維持効果
歯の喪失と栄養素摂取の関連性を報告した5つの論文のうち、4つは有意な関連性を報告しています。しかし、食事摂取と歯の欠損の計測方法を巡って結果は一貫性のないものになっています。2つの質問表を用いた論文では、歯の欠損(自己申告)はコレステロール摂取量の減少と関連すると報告しています。これらの論文は歯の欠損が多くなると食物繊維の摂取量が減少する事も報告しています。アメリカの専門職を4年間フォローアップした研究ではこの傾向は認められませんでしたが、8年では認められました。また一方では、機能歯数の減少は大幅な食物繊維摂取減少と関連するという報告があります。
機能歯数の減少によるカリウム摂取の減少が成人全体で認められた報告と、1-4歯欠損の女性にのみ認められた報告がありました。
歯の喪失はフルーツと野菜、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸の摂取量減少と関連するという報告があります。また、多価不飽和脂肪酸の摂取量が大幅に減少するとも報告されています。
歯と咬合支持体の数が多いことは、結果は未調整ででしたが、より多くの食品を食べることと関連しており、これは咀嚼能力の低下が食事の多様性の低下と関連していた別の研究と一致しています。
歯の残存と栄養状態
歯の残存と栄養状態を検討している4つの論文のなかで3つが有意な関連性を報告しています。しかしながら結果が矛盾しています。臨床的に口腔内を診査した2つの研究では無歯顎は体重減少と関連し、体重増加とは関連しませんでした。一方で自己申告だった研究では無歯顎は体重増加と関連し、体重減少と関連しませんでした。無歯顎は腹囲減少の高い可能性と関連が認められました。関連が認められなかった研究は、少なすぎるサンプル、フォローアップ時のみMBIとMNAを計測したものでした。
研究のクオリティ
8つの研究のうち7つがpoorと評価されてしまいました。つまりクオリティが高いと判断した研究は1つもなかった、ということです。全ての研究にある程度何かの問題があります。
考察
おそらく一番言いたい事はこれに集約されていると思います。
This systematic review identified 8 published relevant longitudinal studies in the US, Australia, Japan and Brazil. Four of the 5 studies investigating the association between tooth loss and nutrient intake showed some significant results while 3 of the 4 studies investigating the association between tooth loss and nutritional status showed significant results. However, most results were contradicting. The quality of the evidence on the effect of tooth loss on diet and nutritional status was weak.
食事や栄養状態に歯の喪失が与える影響に関するエビデンスの質は弱い。
まとめ
システマティックレビューはやはり論文の質がかなり問題になります。大規模で住民の質をコントロールした縦断研究とかはやはり難しいですから、私としてはpoorと今回判定された論文においても、ここに残っただけである程度凄い内容ではないかと思います。
今まで読んできた文献から、高齢者の正常有歯顎者(EichnerA群)と無歯顎者では栄養状態に有意差が認められています。今回の場合はその中間状態と考えられます。詳しく個々の論文を検討していませんが、かなり年齢層に幅がある論文もある事から、スタート地点の歯数は相当バラバラかと思います。そこから数年後に何本欠損したかで栄養状態に差があるかを判定していま。しかも自己申告の報告もありますから、そこらへんが難しいのかもしれません。ある程度年齢層や機能歯数を揃えてこちらで全部口腔内診査して縦断するしかないということでしょうか・・・?
歯の欠損以外に影響を与えた因子として
age,sex,baseline dietary intake, smoking status, physical activity, education, income
などなど色々な因子があり研究によって異なります。ここら辺は統一されたプロトコールでない以上仕方が無いところですね。
歯の喪失により食事摂取や栄養状態に影響が出るという報告が多いが、現時点ではエビデンスがまだ不足しているという、という結論になりそうです。
新潟スタディは読んでみないといけない思いました。
N. Sato, T. Ono, H. Kon, N. Sakurai, S. Kohno, A. Yoshihara, et al., Ten-year longitudinal study on the state of dentition and subjective masticatory ability in community-dwelling elderly people, J. Prosthodont. Res. 60 (2016) 177–184.
M. Iwasaki, A. Yoshihara, H. Ogawa, M. Sato, K. Muramatsu, R. Watanabe, et al., Longitudinal association of dentition status with dietary intake in Japanese adults aged 75 to 80 years, J. Oral Rehabil. 43 (2016) 737–744.