介護施設で常食摂取高齢者の体重減少と定期的な歯科介入の有無は関連する
どんどんと読みたい論文が増えていってしまう
色々と読もうと思っているうちにどんどん新しい論文がパブリッシュされてしまうんですよね。論文としてはやはり新しい方を読むべきだと思うので、そちらに目がいってしまうのは仕方が無い所・・・と自分を正当化しつつ読んでいきたいと思います。パブリッシュされたばかりの日本の研究で知り合いの先生の名前が多いです。
Relationship between weight loss and regular dental management of older adults residing in long-term care facilities: a 1-year multicenter longitudinal study
Yusuke Sunakawa, Hideki Tsugayasu, Yutaka Watanabe, Takae Matsushita, Yuki Ohara, Masanori Iwasaki, Maki Shirobe, Kayoko Ito, Junko Nakajima, Yasuyuki Iwasa, Masataka Itoda, Rikimaru Sasaki, Yasuhiro Nishi, Junichi Furuya, Yoshihiko Watanabe, Yukie Ishiguro, Hirohiko Hirano, Yuji Sato, Mitsuyoshi Yoshida & Yutaka Yamazaki
Eur Geriatr Med. 2021 Oct 28. doi: 10.1007/s41999-021-00576-3.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34709606/
PMID: 34709606
Abstract
Purpose: This study aimed to determine the association between home visits by a dentist and regular oral hygiene management by a dental hygienist (regular dental management: RDM) and weight loss among older adults in long-term care facilities.
Methods: A total of 468 older residents from 26 Japanese long-term care facilities participated in two surveys in 2018 and 2019. Participants were divided into two groups based on their diet during the baseline survey (regular diet, n = 256; dysphagia diet, n = 212). Participants with a regular diet were further divided into those who exhibited a weight loss ≥ 5% over 1 year (weight loss group: n = 77) and those with a weight loss < 5% (consistent weight group: n = 179). The explanatory variables were age, sex, baseline weight, Barthel index, and clinical dementia rating, as well as the patients’ medical history of pneumonia, stroke, diabetes, and depression (which is reportedly associated with weight). Additionally, a Poisson regression with robust standard error, was carried out to analyze the explanatory variables, namely the prevalence of RDM noted during the study and functional teeth (which seemed to affect weight loss).
Results: A multivariate analysis revealed that older residents’ lack of RDM, clinical dementia assessment, and their history of pneumonia (prevalence rate ratio: 0.35, 95% confidence interval 0.24-0.95) were all significantly associated with weight loss when on a regular diet.
Conclusion: Thus, weight loss and RDM were related to each other. Weight loss may be suppressed by incorporating RDMs during the early nursing care for older residents on regular diets.
目的:介護施設での歯科医に訪問診療と衛生士による口腔管理( regular dental management: RDM )と体重減少の関連性を決定する事です。
方法:26の介護施設から468名の高齢居住者が2018年と19年の2つの調査に参加しました。ベースラインの食事調査で被験者は2群(常食256名、嚥下食212名)に分けられました。常食群の被験者はさらに体重変化で2群に分けられました。1年で5%以上体重減少した群77名と体重減少しなかった群179名です。説明変数は性別、年齢、ベースライン体重、Barthel Index、CDR、肺炎、脳卒中、DM、うつの既往としました。さらに、説明変数である、調査中に指摘されたRDMの有病率と機能歯数(体重減少に影響すると思われる)を分析するために、ロバスト標準誤差を用いたポアソン回帰を実施しました。
結果:多変量解析の結果、高齢入所者に対するRDMの欠落、認知症の調査、肺炎の既往は全て有意に常食摂取している場合の体重減少と関連していました。
結論:体重減少とRDMは相互に関連していました。RDMを常食摂取の高齢入所者に対して早期の介護サービスとして組み込む事により体重減少を抑制できるかもしれません。
ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
日本は世界で最も高齢化が進行している国です。介護保険が必要な高齢者は増加する一方です。しかし、介護施設は慢性的に不足しています。
肺炎などの感染症を予防することは高齢者の良好な状態を維持するために必要で、口腔ケアは方法の1つです。しかし、看護師や介護士の不足により、適切な口腔ケアを行う事が多くの施設でできていません。さらに施設入所者の数は増えるばかりで、肺炎リスクも上昇傾向と考えられます。肺炎は死亡リスクになり得ますので問題です。高齢者の肺炎の殆どは唾液、食品中の口腔細菌の誤嚥による誤嚥性肺炎です(文献9,10)。Yoneyamaは週に1,2度の口腔ケアで施設入所者の誤嚥性肺炎を効率的に防止できる可能性を示しています。これらの研究は衛生士の口腔衛生管理の必要性を強調する物です。
そこで、介護を受ける高齢者の口腔内の健康を維持するために、口腔衛生管理に関する介護サービスが日本の介護保険制度に導入されました。この介護サービス、すなわち定期的な口腔管理(RDM)は、介護施設の入居者に対して、歯科医師による訪問診療と歯科衛生士による専門的な口腔ケア(月2回以上)、および看護師への具体的な技術的助言・指導を含む日常的な口腔ケアのサポートを行うものです。
訪問診療を行ったかどうかで高齢者の口腔内状態を比較した研究では、訪問診療を行った方が口腔の健康状態が有意に維持されていました。また、口腔ケアが口腔内の細菌吸入、嚥下反射低下を減少させることにより肺炎を予防できるという報告もあります。
肺炎で入院した低栄養患者の再入院を防止するために栄養介入が有効であるという報告があります。そのため、私達は歯科医による訪問診療と衛生士によるRDMが低栄養をを防止し肺炎の発症を減少させるのではないかという仮説を立てました。そのため体重減少とRDMの関連性について調べることとしました。本研究は1年間のマルチセンター、縦断研究で行われました。
方法
被験者
本人と家族の了承を得られた26施設、468名で、ベースライン調査を2018年10月、2019年2月に行いました。その年後に再調査を行っています。
基本情報
被験者の基本情報として、年齢、性別、体重、既往歴(肺炎、誤嚥性肺炎、脳卒中、糖尿病、うつ)、食形態、RDMの有無について収集しました。
被験者をRDMの有無で2群にわけています。RDM群は施設入所後に訪問歯科診療歴があり、月2回以上口腔衛生管理を行われているのが条件です。
食形態:摂食嚥下学会の調整食分類(2013)を用いコード0~4は嚥下食、それ以外を常食としました。
ADLはBarthel index、認知機能はCDRにて評価しています。
口腔内診査
歯の本数を計測:歯間崩壊、重度歯周病罹患歯(動揺度3)は除外
ブリッジのポンティックやインプラント、義歯による補綴などは機能歯数として採用
歯が無いというのは義歯による補綴などもない部位と定義
食事時に義歯を使用していない場合、機能歯としてカウントせず
統計解析
468名の被験者を常食群と嚥下食群に分割、さらに体重が1年で5%以上減った群と減っていない群に分割しました。
2群間の比較にはχ2検定とMann-Whitney U検定を用いました。
ロバスト標準を用いたポアソン回帰では,体重減少群と体重一定群を目的変数としました。説明変数には、年齢、性別、体重、BI、CDR、肺炎、脳卒中、糖尿病、うつ病などの病歴を設定しました。さらに、体重減少に影響を与えると思われるRDMと機能的歯の両方を説明変数として指定しました。機能的歯との共線性が高いため,現在の歯と義歯は説明変数として設定しませんでした。また、ロバスト標準を用いたポアソン回帰では、多施設共同研究のデータを用い、介護保険施設のランダム効果はマルチレベル分析で確認しました。95%信頼区間を得るために、ロバスト標準誤差計算を用いたポアソン回帰を行いました。
結果
ベースライン時の全体または食形態別による各項目の比較は以下のようになります。全体として71%の被験者が中等度から重度の認知機能低下(CDR2、3)でした。残存歯数の中央値は5.0本、無歯顎者は158名で34%でした。212名が嚥下食を摂取しており、256名が常食でした。
嚥下食摂取群と常食摂取群を比較した場合、嚥下食群の方が低体重、低BI、CDRの高重症度、口腔内状況の悪さ、無歯顎率の高さ、義歯使用率の低さが認められました。肺炎の既往に関しても有意差が認められました。
常食を摂取している256名中77名が体重減少、179名が体重変化なしでした。この2群を比較した所、体重減少群の方が CDRの重症者率が高い 、RDM率が低い、肺炎の既往率が高い結果となりました。しかし、うつに関しては体重減少群の方が少ない結果となりました。
ポアソン回帰分析の結果、常食摂取における体重減少群と体重減少なし群では、年齢、CDR2,CDR3、RDM、肺炎の既往に関して有意差が認められました。
212名の嚥下食摂取者中62名が体重減少、150名が体重変化無しでした。2群を比較した場合、体重減少群の方が低体重で、低BIでした。しかし、歯科的な項目は有意差が認められませんでした。
ポアソン回帰分析の結果、嚥下食摂取群において体重減少と維持群間ではベースライン時の体重とBIに有意な関連性が認められました。RDMの有無に関しては関連は認められませんでした。
考察の一部
本研究の結果から、要介護高齢者で通常の食事を摂取している場合、歯科医師による訪問診療と歯科衛生士による定期的な口腔衛生管理(RDM)が、体重減少を抑え栄養不足を予防する可能性が示唆されました。いくつかの研究では、栄養不足と口腔衛生の関連性が報告されています(文献23~25)。さらに、口腔ケアは、栄養不足や誤嚥性肺炎の予防に有効であるだけでなく、患者さんの寿命を延ばす効果があることも研究で主張されています(文献24~27)。
高齢者の栄養不足に関連したこれまでの研究では、口腔内の健康状態が悪いと、食事の選択や栄養摂取に影響し、栄養不良、虚弱体質、サルコペニアにつながることが明らかになっています(文献23)。さらに、栄養状態とADLとの間に関連性が認められています(文献31)。本研究では、嚥下調整食における体重減少とBIの低スコアとの間に関連が認められました。この結果は、通常の食事と比較して嚥下調整食では嚥下機能を含むBIが低下し、栄養不良や体重減少につながるという研究結果(文献23)と一致します。
本研究では、通常食群と嚥下調整食群のデータをまとめて分析したところ、RDMと体重減少の間に有意な関係は認められませんでした。この分析では、体重減少を従属変数とし、同様の独立変数に加えて、食事形態を独立変数に指定しました。日本の長期療養施設の入居者を対象とした研究では、口腔ケアの歯科治療の介入対象と食事形態との関連が報告されています。本研究では、常食群への介入は、主に咬合支持の回復と口腔機能の維持を目的としたものでした。逆に、嚥下調整食群への介入は、日常生活動作や認知機能の低下により口腔環境が悪化するため、歯周病治療や口腔衛生管理を行い、肺炎などの感染症を予防することが主な目的でした。歯科医師の介入目的の違いが結果に影響した可能性があります。
Limitation
1.通常食と嚥下調整食が本当にその人にマッチした食形態であったを専門家が判断したわけではありません
2.社会経済的状況、喫煙歴、アルコール摂取量など、口腔内や全身の健康に大きな影響を与える可能性のあるデータを収集していません。
3.調査した施設が老年歯科医学会会員で管理されていますので、施設選択バイアスがかかっている可能性があります。
4.高齢の入居者への歯科医師による訪問診療や歯科衛生士による口腔衛生管理は、その人が必要とするケアに依存し、歯科医師や歯科衛生士の個別性が高く、統一された口腔衛生管理・指導が行われていません。
まとめ
今回、常食摂取群の口腔管理は体重変化なし群で20%程度、体重減少群で10%程度しか行われていません。特に体重減少群では7名しか管理されていません。常食摂取群は嚥下食摂取群よりもADLが高いので、口腔ケアは自立という人が多いからかと思います。訪問診療で義歯を作ってその後は管理していないとかも考えられそうです。
嚥下食摂取群はかなり高い確率でRDMが行われています。体重変化無し群では90%を越え、体重減少群でも40%を越えています。2群でかなり差がありそうなんですが、これで関連性が認められないというのはどう解釈すべきなのかちょっと困ってしまいますね。認知機能かな?と思ったら関連が認められていません。ADLは関連があるので、やはり日常の運動量と考えるのがよいでしょうか?
歯科介入が必要かどうかを誰がどう判断したかがわかりませんが、常食摂取者へのRDMが体重減少に関連するとなれば、常食を食べていて口腔ケアが自立だから大丈夫、ではなく、やはり入居者全員に対して歯科介入の必要を歯科関係者が判断するべきではないかと思いました。
論文にも書かれていますが、この研究だけでは本当にRDMが栄養摂取状態に影響して体重減少を防いでるかは明言できません。今後の介入研究に期待したいところです。